青色申告には簡易簿記と複式簿記という2つの方法があり、それぞれ異なる特徴やメリットがあります。本記事では、簡易簿記と複式簿記の違いや選び方、さらに具体的な活用方法について詳しく解説します。初心者でも簡単に理解できるように解説していますので、ぜひ最後までお読みください。
目次
青色申告における簡易簿記と複式簿記の違いとは
青色申告で選べる簡易簿記と複式簿記は、記録すべきことの詳細さや税制上のメリットが異なります。端的に違いを表すと、簡易簿記は基本的な記録、複式簿記は詳細で正確な経営状況を把握できるような記録です。
以下より簡易簿記と複式簿記の違いについて詳しく解説します。
青色申告の簡易簿記とは?
簡易簿記は簿記の知識がない初心者に適した帳簿の付け方で、収入と支出を一つの勘定科目で記録します。簡単な家計簿やお小遣い帳のような感覚で管理が可能です。基本的には現金の入出金を中心に記録するため、比較的手間がかかりません。
簡易簿記では、全体の収支を把握するのが主な目的です。そのため具体的な取引内容を記載することはありません。例えば、売上の合計や支出の月別集計を行うことで、収益性を簡単に確認することができます。初心者でも取り入れやすいですが、経営状況の把握には向いていません。
青色申告の複式簿記とは?
複式簿記は、ひとつの取引を借方と貸方で記帳する方法で、各取引の詳細を管理可能です。具体的には、資産の変動や収益、費用をそれぞれの勘定科目に分けて記録します。複式簿記は、経営の透明性を高め、将来的な意思決定や課題の把握に向けた重要なツールです。
複式簿記によって、月次や年次の損益計算書や貸借対照表の作成が可能となり、経営状況を詳細に分析できます。また税務調査があった際にも迅速に対応できるため、事業の継続性を支える基盤となるでしょう。ただし、記帳には専門的な知識と手間と時間が必要になります。そのため、複式簿記を行うにはあらかじめの知識と準備が必要です。
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簡易簿記・複式簿記の付け方を解説
簿記は、個人事業主や中小企業が経営状況を正確に把握するために必要なスキルです。以下より簡易簿記と複式簿記それぞれの帳簿の付け方について詳しく解説をします。
簡易簿記の付け方
簡易簿記を採用する際には、主に収入と支出の記録が中心となります。現金出納帳、経費帳、売掛帳、買掛帳などがあると良いでしょう。各種帳簿は日々の取引を簡潔に記録するために利用されます。
まずは現金出納帳を使用して入金や出金を日付順に整理しましょう。現金出納帳は、キャッシュフローを把握するうえで重要です。次に経費帳では日々の経費をまとめておき、カテゴリ別に整理して事業運営にかかるコストを把握します。
基本的なルールとして、記帳は取引が発生した時点で行うことが重要です。後でまとめて記入する方法は避けましょう。
複式簿記の付け方
複式簿記では、取引の記録に借方と貸方を用います。基本的なフォーマットは日付、借方勘定、借方金額、貸方勘定、貸方金額、摘要を含む形式にします。
取引が発生した際には、増加したものと減少したものを両方記載する「ダブルエントリー方式」により、必ず借方と貸方の金額を一致させる必要があります。複式簿記によって、バランスの取れた帳簿の維持が可能となるでしょう。
記入方法としては、最初に日付を記載して次に取引の内容に応じた勘定科目を選ぶ、といった流れです。たとえば売上が発生した場合、“売掛金”を借方に、“売上”を貸方に記入します。
簡易簿記と複式簿記それぞれのメリット
簡易簿記と複式簿記は、記帳方法において大きな違いがあります。2つの記載方法の特徴やメリット・デメリットを詳しく解説し、状況に応じて最適な記帳方法の選択ができるようにしておきましょう。
【簡易簿記のメリット】作業の容易さと利便性
簡易簿記は、これから事業を始める方にとって便利な記帳法です。収入と支出を簡単に記入できるため、簿記の知識がない方でも取り組みやすいという特徴があります。
帳簿の入力項目は少ないため、毎日の取引の計上にかかる時間も短くてすみます。開業したての事業者や個人事業主にとって、初期投資を抑えつつ、業務に集中しやすい環境づくりが可能でしょう。しかし、簡易的な記録方法であるため、経営状況の詳細な把握が難しくなる点には注意が必要です。
【複式簿記のメリット】精密な経営管理
複式簿記の最大の魅力は、事業の正確な経営状況を把握できる点です。すべての取引が借方と貸方の両面で記録されるため、資産や負債、収益の動きが明確になります。
また複式簿記の記録を基に損益計算書や貸借対照表の作成も容易になり、財務分析もしやすくなります。リスク管理にも役立つ点がメリットです。
複式簿記は手間がかかりますが、正確な記録が未来の経営戦略に大きな影響を与えるため、長期的な展望を持つ事業には適していると言えます。
青色申告特別控除を受けられる帳簿の条件
青色申告特別控除を受けるためには複式簿記の方式を採用することです。これにより最大65万円の控除を受けることができるようになります。詳しくは以下の記事をご覧ください。
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簡易簿記と複式簿記どちらを選ぶべき?
複式簿記は簡易簿記に比べメリットが大きいため、できれば簡易簿記から複式簿記に変更したいと思われる方もいらっしゃるでしょう。
しかし複式簿記は手間も時間もかかるため、すべての事業者におすすめできるわけではありません。収入や事業計画によっては簡易簿記の方がメリットを感じる方もいるでしょう。
次からは簡易簿記と複式簿記、どちらを選んだらよいのかの判断に役立つポイントについて解説します。
事業規模や将来的な事業計画で判断
簿記を始める際、初心者にとって最適な選択肢は個々の状況によります。簡易簿記は、簿記の知識がない方に適しており、日常の収入と支出を簡単に管理可能です。短期間で労力を抑えつつ、事業の初期段階を乗り切りたい場合に適しているでしょう。
一方、複式簿記を選択した方がよいケースもあります。例えば、成長を見込んで事業を拡大する意向がある場合は、初めから複式簿記を導入することがおすすめです。複式簿記なら将来の経営判断や融資申請に必要な詳細なデータを早期に蓄積することができ、経理の透明性も高まります。
事業規模や将来的な事業計画に応じて、最適な簿記方法を選びましょう。
控除額や記帳作業の負担を考慮する
青色申告特別控除では、簡易簿記と複式簿記で受けられる控除額に大きな違いがあります。簡易簿記の場合、控除額は最大10万円に制限されていますが、複式簿記を選ぶと最大65万円の控除が可能です。控除額を考慮すると、長期的な税負担を軽減できる選択肢として、複式簿記の魅力が際立ちます。
ただし、記帳作業の負担となる側面にも注意が必要です。複式簿記は、その記帳形式が複雑なため、記録や整理には時間や労力が求められます。対して簡易簿記は記帳がシンプルで手軽に行えるため、日々の経理業務を軽減可能です。受けられる控除額と記帳作業の負担を天秤にかけた上で、最適な方法を検討しましょう。
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税務調査への対応も視野に入れる
税務調査が発生する可能性も考慮しましょう。複式簿記は詳細な記帳方法であるため、税務当局からの調査に対しても信頼性を持って対応できる点がメリットです。複式簿記で正確な帳簿が整備されていれば、正確な情報を迅速に提供することができ、不備を指摘されるリスクを減らせるでしょう。
一方で簡易簿記の場合、記録内容が限定的であるため、税務調査時に不明瞭な点が発生する可能性もあります。簡易的な記帳では、収支の流れを把握することは容易ですが、詳細なデータが不足することで、調査が長引く原因となるでしょう。
税務調査への対応も視野に入れた上で、自身の事業の性質や今後の成長を考えて適切な簿記方法を選択してください。
簡易簿記と複式簿記をラクに管理する方法
ここでは便利なツールを活用した管理方法や、簿記作業を楽に行うためのポイントを紹介します。簡易簿記、複式簿記それぞれで適した方法を取り入れて、日々の記帳作業を効率化しましょう。
会計ソフトを活用した効率的な記帳
会計ソフトは簡易簿記や複式簿記を管理する際に便利なツールです。自動で数値を計算し、適切な勘定科目に振り分ける機能があります。また、任意の期間で収支を集計できるため、経営状況を即座に把握することが可能です。
ソフトを利用することで、手動で帳簿を記入する手間が省け、時間を大幅に短縮できます。複式簿記は取引が借方と貸方に分かれるため、初心者が間違いやすい部分を自動で補正してくれる点も大きな魅力です。
データのバックアップ機能が搭載されたものであれば、さらに安心して記帳作業を進められます。記録はデジタルで保存できるため、物理的な紛失のリスクも軽減されます。慣れれば記帳にかける時間は大幅に短縮できるでしょう。
帳簿作成の時間を短縮する自動化ツール
さらに帳簿作成を自動化するツールを利用すれば、時間の節約や業務の効率化が可能になります。
例えばクラウド型の帳簿管理ツールでは、取引のデータを一度入力するだけで、必要な帳簿が自動的に生成されます。毎日の記帳が劇的に簡素化されるでしょう。また、レシートや請求書のスマホ撮影から自動でデータを取り込むアプリも増えており、紙の書類を手入力する手間を省けます。
税理士への相談を活用して確定申告をスムーズに
確定申告の際、税理士への相談が最も有効な手段です。専門的な知識を持つ税理士は、最新の税法や控除の適用条件に詳しく、最適なアドバイスを得られます。複雑な申告作業もスムーズに進めやすくなるでしょう。
また、記帳作業や決算書の作成においても、税理士の指導を受けることで、記載漏れや計算ミスを防ぎやすくなります。青色申告特別控除を最大限に活用するためのポイントも押さえてもらえるため、節税対策にも有効です。仮に税務調査が入った際にも、アドバイスを仰いだり立ち合いを依頼することができる点もメリットです。
さらに、税理士とのコミュニケーションを通じて、自分の事業に最適な税務対策についても相談できるため、今後の経営戦略を検討する上でも重要になるでしょう。
簡易簿記と複式簿記の違いはツールや専門家に頼って
簡易簿記と複式簿記は、それぞれの特性に応じて適切に選ぶことが重要であり、選択次第で記帳作業や税務上のメリットが大きく変わります。
簡易簿記は初心者に向いており、基本的な収支管理をシンプルに行える点が魅力になります。どちらを選ぶ場合でも、会計ツールや専門家の力を活用することで、記帳作業の効率化が可能になります。一方で、複式簿記は詳細な財務管理と青色申告特別控除の取得に有利です。また、複式簿記から損益計算書や貸借対照表を作成することで、事業分析や長期的な事業の成長につながる点がメリットです。
なお、確定申告時の帳簿作成で迷った際は、一度税理士へ相談することをおすすめします。自身の事業にあった帳簿の作成方法についてアドバイスをもらえるでしょう。