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改正された中小企業向けの賃上げ促進税制の適用要件をしっかりチェック

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改正された中小企業向けの賃上げ促進税制の適用要件をしっかりチェック

賃上げ促進税制とは、増額された給与所得の一部を法人税や所得税から控除できる制度です。賃上げ促進税制を活用することで、従業員満足度や競争力の向上が期待できます。さらに2024年の改正では控除率が引き上げられ、優遇条件も追加されました。しかし「うちの企業はこの制度の対象になる?」と疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。そんな疑問を解決すべく、今回は中小企業向けの賃上げ促進税制の適用要件や活用のポイントについて解説します。

日本で賃上げがされるようになった背景

今までの日本国内の企業は基本給の底上げには消極的な姿勢を見せていました。というのも、給与を一度上げてしまうとそう簡単に下げられないのが理由です。労働契約法に基づき、給与の減額は労働者の同意なしで行えません。

そのため、業績が悪化しているときに給与を上げると資金繰りが難しくなるのではと考える企業が増えてしまったのです。そして日本の企業は賞与やインセンティブの増額を実施することで、なるべく給与の増額をしない状態が続きました。

しかし近年では、2023年以降の物価高や少子高齢化による人手不足といった問題も顕著になってきました。そこで優秀な人材を確保するために大手企業を中心に続々と賃上げが行われるようになったのです。

旧制度「所得拡大促進税制」と改正の背景

賃上げ

以下では、旧制度である所得拡大促進税制の概要と、現在の制度までの改正に至る背景について解説します。

旧制度の「所得拡大促進税制」とは?

所得拡大促進税制は、従業員の賃金アップや人材開発に意欲的な中小企業を対象とした税制優遇制度です。企業が前年度よりも給与を増額すると、その増額された給与の一部を法人税から控除できます。

従業員のモチベーションアップや企業側の税負担軽減、さらには事業の成長や競争力の向上にもつながる制度です。

適用を受けるためには、前年度比で従業員への給与が増加していることなどが条件です。所得拡大促進税制は、2018年4月から2024年3月までに開始する事業年度が対象でした。

法人税の節税対策とは?税金を減らすには何をすればいい?注意点とは

2024年から「賃上げ促進税制」に改正

2024年、所得拡大促進税制は大幅な改正を受けて「賃上げ促進税制」として改正されました。賃上げ促進税制は所得拡大促進税制をより多くの企業に適用できるように改正された制度です。

改正によって全従業員の給与を一定割合以上引き上げた場合、最大45%という大幅な税額控除を受けられるようになりました。この控除率の大幅な引き上げは、特に中小企業の成長と従業員の待遇改善にも役立つとされています。

さらに2024年の改正では、従業員の教育訓練への投資や多様な働き方の推進が重視されるようになりました。積極的に教育訓練費を投入したり女性の活躍促進に力を入れたりした企業には、税額控除率がさらに上乗せされる制度となったのです。

改正の背景

改正前の税制では、赤字で厳しい状況に置かれている中でも賃上げを行った中小企業は適用対象外でした。そのため利用しづらいと感じている中小企業も多く、かねてより改正を求める声が上がっていました。

このような背景のもと、物価高にも負けない持続的な賃上げの動きをさらに活発にするために旧制度が強化されるに至ったのです。

参考:賃上げ促進税制|経済産業省

所得拡大税制と賃上げ促進税制の変更点

以下では、新旧の税制優遇制度の違い・変更点について2つの観点から解説していきます。

控除額水準の違い

違いのひとつとして、税額控除の水準が引き上げられたことが挙げられます。賃上げ促進税制では中小企業に最大45%の控除率が設けられ、旧制度よりも大幅に高い水準となりました。

旧制度では要件を満たしていても25%が上限でしたが、新制度では控除額が大幅に引き上げられていることが分かります。

控除要件の追加

新制度では、控除を受けるための追加要件が設けられています。例えば「くるみん」や「えるぼし」などの認定を受けていることが要件のひとつです。また、積極的に教育訓練費を投入した企業も上乗せ控除要件の対象となっています。

これは単なる賃上げだけでなく、人材育成や次世代育成支援への取り組みも企業に求める内容となっています。

参考:くるみんマーク・プラチナくるみんマーク・トライくるみんマークについて|厚生労働省

参考:女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)|厚生労働省

繰越控除制度の創設

賃上げ促進税制によって中小企業は、賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額を5年間繰越しが可能となりました。具体的には令和6年4月1日以降に開始する事業年度からです。

赤字などで控除しきれない控除額があっても翌年度以降に利用できるため、本制度を導入できる企業も増えるでしょう。

ただし未控除額を翌年度以降に繰り越す場合は、未控除額が発生した年度の申告で明細書などの提出が必要です。

【税理士監修】特別償却と税額控除とは?節税のポイントや中小企業向けの控除について解説 

導入前に知っておきたい!賃上げ促進税制に関する用語解説

ここからは、賃上げ促進税制を導入する前に知っておきたい本制度と関わりのある用語を解説していきます。

給与支給額

法人または個人事業主が国内の事業所で雇用し、賃金台帳に記載している従業員に支払う給与。パート・アルバイト・日雇い労働者も含まれる。

教育訓練費

企業が国内に雇用する従業員が業務を遂行するために必要な技術や知識を習得・向上させる目的で使う費用。eラーニングなどの教育プログラム導入費用などが含まれる。

くるみん認定・プラチナくるみん認定

一定の基準を満たし、子育てサポートに取り組む企業に与えられる認定。プラチナくるみん認定は、くるみん認定を受けた企業の中でさらに高い水準の取り組みを行っている企業に与えられる。

えるぼし認定・プラチナえるぼし認定

女性活躍推進法に基づき一定の基準を満たし、女性の活躍促進に関する状況などが優良な企業に与えられる認定。プラチナえるぼし認定 は、えるぼし認定を受けた企業の中で、さらに高い水準の取り組みを行っている、特に優良な企業に与えられる。

これらの用語の意味を知っておけば、賃上げ促進税制の導入に際してどのような要件を満たす必要があるのかを把握できます。

参考:賃上げ促進税制を強化!|経済産業省

【中小企業向け】賃上げ促進税制の適用要件

中小企業向けの賃上げ促進税制は青色申告書を提出した中小企業者、ないしは農業協同組合等が対象です。中小企業者にあたる企業は以下のように定められています。

  1. 資本金または出資金の額が1億円以下の法人
  2. 常時使用する従業員の数が1,000名以下の個人事業主

中小企業が本制度を導入する場合、従業員の給与支給額が前年度より1.5%または2.5%以上増加していることが適用要件です。この場合、給与の15%または30%が法人税または所得税から控除されます。

また、新制度で追加された2種類の要件についても紹介します。

要件概要

上乗せ控除率

上乗せ要件①

  • 教育訓練費額が前年度より5%以上増加

  • 教育訓練費額が適用される年度の給与等支給額の0.05%以上

10%

上乗せ要件②

  • 適用年度内にくるみん認定、くるみんプラス認定もしくはえるぼし認定(2段階目以上)を取得

5%

参考:No.5927-2 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(中小企業者等における賃上げ促進税制)|国税庁

参考:中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック|経済産業省

賃上げ促進税制を最大限に活かすためのポイント

ストックオプションの税金のイメージ

以下では、賃上げ促進税制の控除を最大限に活かすためにどのように制度を活用すべきかについて解説します。

賃上げ計画を明確にする

最初に「どれくらいの賃上げを目指すか」などの具体的な目標を立てておくことが重要です。先ほど、無理な賃上げは資金繰りの悪化を招く可能性があると解説しました。こういった事態を防ぐためにも、まずは実現可能な賃上げ計画を立てましょう。

まずは賃上げによる経営への影響を事前にシミュレーションしておきましょう。賃上げ計画が決まったらその目的や効果について従業員に丁寧に説明することで、従業員のモチベーション向上にもつながります。

上乗せ要件の達成を目指す

できるだけ上乗せ要件の達成を目指すのも税制を活かすためのポイントです。教育訓練では従業員のスキルアップに繋がる研修や資格取得支援などを積極的に導入し、教育訓練費の増加を目指しましょう。

また子育てと仕事の両立を支援する制度を整備し、上乗せ要件控除の適用達成を目指すのもひとつの手段です。育児休業や産休の制度を拡充し、女性が活躍しやすい職場環境を整備すれば、上乗せ要件の達成につながります。

給与管理と申告準備をしておく

賃上げ促進税制の導入にあたり、給与管理と申告に必要な書類の準備も忘れないようにしましょう。給与支給額の増額が明確に分かるように、給与台帳を適切に管理しておいてください。もし教育訓練に要した費用がある場合は、その明細書も保管しておきましょう。

賃上げ促進税制の適用要件や申告手続きについて不明な点があれば、税理士に相談することをおすすめします。

中小企業の税制優遇とは?令和5年度の改正内容と活用方法のポイント

賃上げ促進税制を活用する際の注意点

ここからは、本制度を活用する際に気を付けたい適用要件や申請手続きの注意点について解説します。

資金繰りが難しくなることがある

本制度は従業員の給与増加を伴うため、要件を満たすために無理に給与やボーナスを上げると資金繰りが悪化する可能性があります。一度引き上げた給与を後から引き下げることは難しいため、導入は慎重にならなくてはいけません。

賃上げを検討する際は、従業員数や受けている補助金など社内や経営の状況を正確に把握しておいてください。

教育訓練費の増額は対象者と範囲が決まっている

教育や訓練のために当てられた費用を増額すると受けられる控除は、教育訓練の対象となる人物と費用の範囲が定められています。教育訓練を目的とした支出であっても、対象外の費用は教育訓練費として認められません。

また教育訓練の対象となるのは、法人か個人事業主が国内で雇用している従業員に限られます。

国税庁が指定する注意事項をこまめにチェックする

本制度を利用するにあたって、国税庁が公式サイトで指針や情報をこまめにチェックしましょう。特に必要書類の記載内容や提出方法については、細部に至るまでルールを遵守しないと控除を受けられない場合があります。

また本制度に関連する法令や条項は今後また改定されるケースも十分あります。そのため、導入を検討している企業は国税庁の公式サイトや関連資料を定期的に見直すと良いでしょう。

中小企業の賃上げ促進税制に関するよくある質問

最後に、中小企業に向けた賃上げ促進税制に関するよくある質問をまとめました。以下の内容も参考にして、賃上げ促進税制を導入するかどうか検討しましょう。

賃上げ促進税制を導入するメリットは?

賃上げ促進税制を導入することで、従業員の給料・賞与の増額が期待できます。毎月の給料が増えるので、従業員にとっては大きなモチベーションとなるでしょう。

また賃上げによって企業の負担を軽減できるのもメリットのひとつ。賃上げ促進税制を活用すれば給与アップしても控除を受けられるため、企業の税務負担が軽減されます。

前事業年度がない場合は?

前事業年度がない場合は本制度の適用対象外です。賃上げ促進税制は適用年度と前年度の給料がどれだけ上がったかどうかを比較する必要があります。そのため、比較対象となる前事業年度がない場合は本制度が適用されません。

税額控除額の計算方法は?

給与等支給で増加した金額の最大20%を法人税額又は所得税額から控除できます。

計算式は以下の通りです。

税額控除額=控除対象雇用者給与等支給増加額×15%

控除対象雇用者給与等支給増加額とは、控除適用したい年度の給与等支給額から前事業年度の支給額を控除した金額を指します。

参考:「賃上げ促進税制」 御利用ガイドブック|経済産業省

中小企業の賃上げ促進税制における税金対策は専門家に相談

中小企業の賃上げ促進税制を導入すると、中小企業に対しては最大45%の控除を受けられます。財務の負担軽減や長期的な成長を見据えた施策を実現したいと考えている財務担当の方は、本制度の活用をおすすめします。

しかし中小企業の賃上げ促進税制は手続きや書類の作成が複雑なため、もしお悩みの方は税理士に相談してみることも検討しましょう。「小谷野税理士法人」では、豊富な知識と経験を持つ税理士が在籍し、賃上げ促進税制申請のためのサポートを行っています。

申請の手続きでお困りやご相談があれば「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。

この記事の監修者
池田 大吾小谷野税理士法人
カルフォルニア大学アーバイン校卒業、大手生命保険会社勤務を経て2007年小谷野税理士法人に入社。
会計、税務、経理実務の支援業務から各種補助金の相談・申請業務、企業及び個人のリスクマネジメントのコンサルタント業務を行う。
銀行はじめ多くの金融機関、会計・税務・財務業界に多くの人脈を持ち、企業財務のマルチアドバイザーとして活躍。
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