日本には多くの宗教法人が存在し、宗教活動の内容も多岐にわたります。一般的に「宗教法人は非課税」と言われていますが、宗教法人の活動にかかるものすべてが非課税なわけではありません。そこで本記事では、宗教法人がどのような場合に税金がかかるのか、その課税対象を詳しく解説します。宗教法人の活動にかかわる税務処理に不安がある方は、ぜひご覧ください。
目次
宗教法人の定義
宗教法人とは、教義の普及や信者の育成、儀式行事などを目的とする宗教団体が、法人の地位を取得したものです。宗教法人には、以下の2種類があります。
- 単位宗教法人:神社や寺院、教会などのように礼拝施設を備える宗教法人
- 包括宗教法人:宗派や教派、教団のように、単位宗教法人を傘下に持つ宗教法人
宗教法人は、所在地の都道府県知事が所轄庁になる場合が多いです。また他の都道府県に境内がある宗教法人や他の都道府県にある宗教法人を包括する宗教法人は、文部科学大臣が所轄庁となります。
宗教法人となる要件は以下の通りです。
- 教義をひろめる
- 儀式行事を行う
- 信者を教化育成する
- 礼拝の施設を備える
上記の要件は、宗教法人が存続するための条件でもあります。これらの要件のいずれかが欠けた場合は、要件を満たすようにするか、もしくは法人を解散しなくてはいけません。
参考:宗教法人とは|文化庁 宗教法人のための 運営ガイドブック|文化庁
宗教法人も源泉徴収義務者
源泉徴収の対象とされる所得の支払者は、会社や協同組合、学校、官公庁であってもすべて源泉徴収義務者となります。そして宗教法人においても、その代表役員(住職・宮司)や職員に給与や退職手当を支払う場合は源泉徴収義務者とみなされます。
なお、非居住者や外国人に支払う給与も、所得税や復興特別所得税を源泉徴収して納付しなくてはいけません。
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宗教法人は非課税になるって本当?
「宗教法人がお金を儲けても、税金がかからない」と思っている方も多いのではないでしょうか?しかし、たとえ宗教法人であっても収益事業で所得が発生すれば法人税などが課税されます。
宗教活動は一般企業と異なり営利目的に行われるものではないため、法人税の対象にはなりません。
例えば「お賽銭は寄付とみなされるため所得にはならない」といった具合です。しかし宗教法人が営利目的で駐車場の駐車料金を取った場合、宗教活動と関係がない事業とみなされて法人税が課税されます。
宗教法人の非課税対象
宗教法人の実施する宗教活動にかかわる収益は、ほとんどが非課税となります。非課税対象の一例を見てみましょう。
- 信者からの寄付金
- 施設運営
- 宗教儀式の実施
- 墳墓地の貸し付け
- 永代使用料や地代の継続的な徴収
これは宗教法人がもともと営利目的ではなく、公共性が高い宗教的なニーズに応える活動をしているためです。しかし、営利を目的とした事業収益に関しては課税対象となる場合があります。
宗教法人が課税対象になる収益事業
収益事業とは、宗教法人の活動の中でも営利目的である事業を指します。国税庁によると以下の34種類の事業で継続して事業場を設けて実施されるものに関しては、課税対象となります。
①物品販売業
②金銭貸付業
③不動産販売業
④不動産貸付業
⑤物品貸付業
⑥通信業、放送業
⑦運送業、運送取扱業
⑧製造業
⑨倉庫業
⑩請負業(事務処理の委託を受ける事業を含む)
⑪印刷業
⑫出版業
⑬写真業
⑭席貸業
⑮旅館業
⑯料理店業その他の飲食店業
⑰周旋業
⑱代理業
⑲中立業
⑳問屋業
㉑理容業
㉒鉱業
㉓土石採掘業
㉔興行業
㉕遊技所業
㉖遊覧所業
㉗浴場業
㉘美容業
㉙医療保健業
㉚技芸教授業
㉛駐車場業
㉜信用保証業
㉝無体財産権の提供業
㉞労働者派遣業
出典:宗教法人の税務|国税庁
収益事業になるかどうかの判断基準
以下では、宗教法人で行われているメインとなる収益事業がどのラインで課税・非課税になるのかについて具体的に解説します。
課税 | 非課税 | |
物品の頒布 | 数珠・集印帳・硯墨・文鎮・メダル・楯・キーホルダー・杯・杓子・写真帳・絵はがき・線香・ろうそく・供花 |
|
不動産の貸付け | 墳墓地を除く不動産(ただし国や地方自治体に直接貸し付ける場合は除く) | 墳墓地(永代使用料や継続的な徴収をする場合を含む) |
境内地の貸し出し | 境内地や本堂、講堂などを遊興や娯楽、慰安または会議研修目的での貸し出し | – |
宿泊施設の運営 | 宗教法人運営の宿泊施設に信者や参拝者が宿泊した際の宿泊料 |
|
所蔵品などの展示・公開 | – | 宗教法人が所蔵する物品、または保管を委託された物品を、常設の宝物館などで一般公開 |
茶道・生け花の教授 | 茶道、生け花、洋裁、和裁、着物着付け、編物、美容、手芸、料理、理容、演劇、演芸、舞踊、舞踏、音楽、絵画、書道、写真、工芸、デザインの技能教授 | – |
駐車場の運営 | 宗教法人が境内の一部を月極契約などで長期間にわたり特定の個人に駐車場を提供 | – |
結婚式場の運営 | 挙式後の披露宴における会場の貸し出し、飲食の提供、衣装などの貸し出し、記念写真撮影 | 神前結婚式や仏前結婚式などの挙式 |
このように、宗教法人で行われる収益事業の中でもある一定の要件では非課税となるものもあります。課税・非課税のラインが分からない場合は、税理士などの専門家に相談してみるのもおすすめです。
参考:宗教法人の税務|国税庁
宗教法人が負担するその他の税金
宗教法人は他にも固定資産税や自動車に関連する税金などが課される場合があります。以下では、これらの「その他の税金」についての課税条件や注意点を詳しく解説します。
土地・建物を所有しているなら「固定資産税」
固定資産税とは、土地や建物といった固定資産に対して課される税金です。宗教活動に使用される土地や建物は非課税になることが多いですが、収益事業に利用される部分は固定資産税の対象となります。
例えば宗教法人が所有する不動産を他の法人や個人に賃貸している場合、その土地や建物部分には固定資産税が課されます。具体的には、商業施設としての貸し出しや駐車場としての利用が納税対象です。
車両を所有しているなら「自動車税・自動車取得税」
宗教法人が所有する車両にも税金が課される場合があります。これは、自動車税や自動車取得税などが該当します。
例えば宗教行事や信者の送迎などに使用する車両であっても、その購入や保有には税金がかかります。また車両の使用用途や走行距離によって税額が異なる場合もあるので、正確な申告ができるように準備しましょう。
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宗教法人の運営に必要な書類・帳簿一覧
続いて、宗教法人の運営に必要な書類や帳簿をご紹介します。
- 規則・認定書
- 役員名簿
- 財産目録
- 収支計算書
- 貸借対照表
- 境内建物に関する書類
- 責任役員会等の議事録
- 事務処理簿
- 事業に関する書類(収益事業を実施している場合)
- その他の書類・帳簿(規則の施行細則、法人の登記事項証明書、信者名簿など)
役員名簿や財産目録等の作成、備付けを怠ったり虚偽の記載をしたりした場合は代表役員などに10万円以下の過料が処せられます。運営に必要な書類の保管や内容の更新などは徹底しておけば、閲覧請求があった場合もスムーズに対応できるでしょう。
宗教法人の運営で注意すべきポイント
宗教法人を適正に運営していくためには、税務対象を理解して正しく対応することが求められます。以下では、宗教法人が支払う税金で注意すべきポイントについて解説します。
消費税も適用されることがある
消費税は通常、商品やサービスを提供する際にかかる税金です。そして宗教法人にも、消費税や地方消費税が適用されるケースがあります。
具体的には、前々事業年度の課税売上高が1000万円を超えると消費税の課税事業者となります。これには、不動産の貸付けなどの課税取引が対象です。
宗教法人も印紙税の納税義務がある
印紙税は、経済的な取引などで作成される契約書や領収書などの文書に課税される税金です。
お金の貸し借りに関する契約書や仕事の依頼に関する契約書、領収書といった印紙税法で定められた20種類の文書に課税されます。これらの文書の中でも、法律で非課税とされているもの以外(課税文書)が対象となります。
参考:宗教法人の税務|国税庁
個人と宗教法人の会計とはそれぞれ明確に区分しておく
宗教法人の会計処理を正しく行うために、日頃から宗教法人と住職個人の収支はそれぞれ明確に区分しておきましょう。この区分が曖昧になると、役員や信者からの信頼を失うだけでなく、税務上の問題や法的なトラブルに発展する可能性もあります。
例えば、お布施、奉納金、会費、献金、賽銭、寄付金など、宗教活動に伴う収入は全て宗教法人の収入として計上します。そして住職や役員の個人的な収入は、宗教法人の会計とは別に管理するといった具合に、明確に分けて管理しましょう。
宗教法人の税金に関するよくある質問
最後に宗教法人の税金に関するよくある質問にまとめて回答したので、ぜひ参考にしてください。
住職などの個人が確定申告をしなければならない場合は?
以下に当てはまる人は、その年度の所得を合計して翌年の2月16日から3月15日までの間に確定申告をしなくてはいけません。
- 本年中の給与の収入合計が2,000万円超
- 給与を1ヵ所から受け取っており、なおかつその給与のすべてが源泉徴収になる場合:給与所得及び退職所得を除く各種の所得(地代、家賃、原稿料などの所得)の合計額が20万円超
- 給与を2ヵ所から受け取っており、なおかつその給与のすべてが源泉徴収になる場合:年末調整されなかった給与の金額と給与所得および退職所得を除く各種の所得との合計が20万円超
参考:宗教法人の税務|国税庁
僧侶・住職は給与扱い?
僧侶や住職も個人として所得税法の適用を受けるため、彼らが受け取るお金は給与として課税されるのが一般的です。そして宗教法人も、僧侶や住職に給与を支払うと「源泉徴収義務者」として、源泉徴収して納付しなくてはいけません。
また宗教法人は給与を金銭以外に食事や住居の無償提供などで支給している場合があります。こういった現物給与の際は、源泉徴収の対象に含める必要があります。
「不活動宗教法人」になってしまった場合は?
さまざまな努力にもかかわらず不活動宗教法人になってしまった場合、活動再開に向けた施策を練るのか、任意解散や吸収合併するのか検討が必要です。もし法人でなくなっても任意で宗教団体として活動はできます。
時間が経てば経つほど対策を進めるのが難しくなるため、早めに所轄庁などに相談しましょう。
まとめ
宗教法人が行う宗教活動にかかわる収益のほとんどは非課税です。しかし、営利目的の事業収益を実施した場合は課税対象となる場合があります。
さらに固定資産税や消費税、自動車に関連する税金など、その他の税金についても注意しなくてはいけません。適切な財務処理ができるように、常に宗教法人の非課税範囲と課税の対象を正しく理解しておきましょう。
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