事業において税務の負担が増えていると感じたら、それは税理士に相談や依頼をするタイミングかもしれません。その際は税理士と契約を結ぶ必要がありますが、契約形態にはさまざまな種類があり、事業や会社に適したものを選ぶことが重要です。この記事では、顧問契約やスポット契約など、税理士との契約形態について詳しく解説します。
目次
税理士との契約形態2種類の違いと特徴
税理士に業務を依頼する際は、顧問契約とスポット契約、2種類の契約形態のうちどちらか1つを選ぶ必要があります。
ここでは、それぞれの契約形態について説明します。
顧問契約(月次決算型・年1決算型)の特徴
顧問契約とは、税理士が継続を前提として会社の顧問税理士として契約し、税務を代行することを指します。
顧問契約は、「月次決算型」と「年1決算型」の2種類に分かれています。会社の決算は、毎月行われる月次決算と、年に1回必ず行わなければならない年次決算とがあるのです。
顧問契約の種類 | 特徴 |
月次決算型 | ・会計、税務、月次決算報告等を毎月行う |
年1決算型 | ・年に1回の頻度で決算の申告を行う |
月次決算は年次決算のように義務付けられていませんが、年次決算の負担軽減のために多くの会社が取り入れています。
月次決算型では、毎月の会計や税務の処理、月次決算報告を行います。対して年1決算型は、毎月ではなく、年1回の年次決算の申告業務を目的とする契約です。
また、顧問契約では、月次決算型や年1決算型のどちらの場合でも、経理や財務に関する幅広い相談やアドバイスが業務範囲に含まれます。
スポット契約(単発契約)の特徴
税理士のスポット契約とは、単発契約の意味で、依頼があったその都度のみの業務形態を指します。
例えば、記帳の代行だけであったり、決算書や申告書の作成であったりと、会社にとって必要な税務だけを依頼可能です。
特定の業務を不定期で依頼したいときには、スポット契約が便利でしょう。
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契約形態別|税理士の料金相場
税理士の契約形態に種類があることを説明しましたが、それぞれの料金もどのように違うのか気になるのではないでしょうか。
そこで、顧問契約とスポット契約、各契約を交わした際の相場を紹介します。
顧問契約の料金相場
顧問契約の月次決算型の料金相場は、主に依頼する会社の年商(年間売上高)に応じています。
税理士事務所によっては、ここに訪問回数や業務範囲なども加わり、顧問料が決定されます。
年商による月次決算型・顧問契約の料金相場は、おおよそ次の通りです。
会社の年商 | 月次決算型・顧問契約の月額報酬 |
1,000万円以下 | 15,000円~25,000円 |
3,000万円~5,000万円 | 35,000円~45,000円 |
1億円以上 | 60,000円~10万円以上 |
一方、年1決算型の場合、年次決算の申告業務のみを依頼すると、15万円から25万円が相場です。
年1決算型の場合、税理士への報酬額は年商に加えて会社の規模や従業員数も影響します。
多人数の従業員を抱えるほど会社の規模が大きければ、それだけ取引数も多いため仕訳の負担が増加します。決算申告も複雑化することから、その分、税理士への報酬は上がります。
スポット契約の料金相場
スポット契約の場合は、税理士への相談時間を料金相場の目安にできます。
例えば、経理や財務についてアドバイスをしてもらったり、会計処理を行ってもらったりと、必要に応じて利用可能です。
時間 | 相談の報酬額 |
30分以内 | 5,000円程度 |
~1時間 | 10,000円程度 |
以降30分ごとの追加料金 | 3,000円〜5,000円程度 |
また、税理士事務所によっては時間ではなく、業務内容で報酬額を設定している場合もあります。
例えば、決算申告業務であれば15万円から25万円程度、確定申告であれば10万円から15万円程度が相場です。
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税理士との契約形態①顧問契約のメリット・デメリット
ここでは、税理士との契約形態の1つ、顧問契約のメリット・デメリットについて確認しましょう。月次決算型と年1決算型それぞれのを分けて紹介します。
顧問契約・月次決算型のメリット
月次決算型の顧問契約には、次のようなメリットがあります。
- 税理士とスムーズなコミュニケーションを取れる
- 節税や資金調達、さらにはM&Aなど、さまざまなアドバイスに対応してもらいやすい
- 税務全般に始まり、記帳・経理・決算申告を税理士が代行してくれる
税理士と月次決算型の顧問契約を交わすと、コミュニケーションが取りやすくなり、相談もしやすくなります。税務を一任できるという利便性も得られるでしょう。
さらに、税理士がその会社や企業の経理や財務情報に詳しくなることで、より正確な決算が期待できます。
ただし、これらは一例であり、すべての税理士事務所がこのメリットに対応しているとは限りません。
契約を交わす前に、税理士事務所のホームページを確認したり、直接問い合わせたりして確かめることをおすすめします。
顧問契約・月次決算型のデメリット
月次決算型の顧問契約は、税務をすべて代行してもらえるため便利ですが、その反面デメリットも存在します。
デメリットとして挙げられるのは、主に次のような報酬や契約内容に関する事柄です。
- 年1決算型の顧問契約やスポット契約と比較すると、報酬額が高い
- 契約期間や解約条件への縛りが厳しい
月次決算型の顧問契約は継続的で、ほかの契約形態に比べて報酬額も高いだけに、税理士にとっても重要な仕事です。そのため、契約期間や解約条件が厳しく設定されている可能性があります。
トラブルにつながらないよう、月次決算型の顧問契約を交わす際は、期間や条件についてもしっかりと確認しましょう。
顧問契約・年1決算型のメリット
税理士との顧問契約には月次決算型と年1決算型があるため、ここでは2つの契約形態の違いに着目しています。
年1決算型の顧問契約について、まずはメリットを紹介します。
- 月次決算型に比べて税理士への報酬額が抑えられる
- 契約期間や解約条件は柔軟な傾向
年1決算型の顧問契約は年に1度の決算に対応していることから、月次決算型と比較すると、契約を結ぶ際にも解約する際にも敷居の低い印象を受けます。
そのため、最初は年1決算型の契約を結び、会社の成長に合わせて月次決算型の契約に移行するという方法もおすすめです。
同じ税理士事務所であれば、スムーズに契約の更新を行えるでしょう。
顧問契約・年1決算型のデメリット
年1決算型の顧問契約のデメリットは次の通りです。
- 税理士とのコミュニケーションを密に取りづらい
- 月次決算を会社の従業員が行わなければならない
- 税理士からのアドバイスを年に1回しか受けられない
年1決算型の顧問契約は、税理士と話し合うタイミングが月次決算型に比べて限られています。
経理や財務の情報共有や相談のしやすさにも影響するため、年1決算型の場合はより積極的に税理士とコミュニケーションを取る必要があります。
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税理士との契約形態②スポット契約のメリット・デメリット
税理士の業務形態の中から、ここではスポット契約のメリットとデメリットを紹介します。
ほかと同様に契約の一種ではあっても、顧問契約とはまた異なるメリットとデメリットがあるので確認しておきましょう。
スポット契約のメリット
税理士とスポット契約を交わすことで、提供される税務サービスにより、会社や企業はさまざまなメリットを得られます。
例えば、スポット契約のメリットには次のようなものがあります。
- 必要な業務だけを選んで依頼できる
- 契約期間や業務内容に柔軟に対応してもらえる
スポット契約は、選択性や柔軟性の高い契約形態です。
会社や企業は、報酬額の予算や、従業員の負担が大きい業務、専門知識が求められる税務など、必要に応じて税理士と契約する内容やタイミングを選べます。
スポット契約のデメリット
税理士とスポット契約を交わす際には、メリットだけでなくデメリットも確認しておくことで、より適切に税務を依頼できます。
スポット契約のデメリットとしては、次のような点が挙げられます。
- 税理士とコミュニケーションが限られるために信頼関係を築きにくい
- 税理士の予約を取りづらい場合がある
顧問契約とは異なり、スポット契約の場合、常に同じ税理士に依頼できるとは限りません。
そのため、じかにコミュニケーションを取る機会が少なく、なかなか信頼関係を築けない傾向が見られます。
また、その税理士に別の予定があれば、スポット契約を断られたり、予約が取りづらかったりする可能性があります。
顧問契約とスポット契約それぞれが適しているケース
会社の税務を税理士に依頼したいとき、顧問契約が良いかスポット契約が良いか迷うこともあるでしょう。
その際には、自社に適している契約形態を、次のようなケースに該当するかどうかで確認可能です。
顧問契約が適しているケース
顧問契約が適しているのは、これから法人化するケース、起業して1年から2年が経過したケース、そして、年間売上高が1,000万円を超えたケースです。
なぜ、それぞれのケースで顧問契約が適しているのか、理由は次の通りです。
- 法人化するケース
個人事業主やフリーランスが法人化を目指す際には、税理士との顧問契約を交わすことで、会社設立に必要な資金調達についての相談・アドバイスへとこまめに応じてもらえます。
また、個人事業主やフリーランスが法人化すると、税金は所得税から法人税へと変わります。このような税への対応も、税理士と顧問契約をしていれば安心して任せられます。
- 起業して1年から2年が経過したケース
起業後1年から2年ほどが経過し、経営が安定してきた時期は、税務調査の対象になりやすい傾向があります。
特に、売上高が急激に伸びていた場合は、税務調査が入りやすいと言われています。
仮に税務調査が入ったとしても、税理士と顧問契約をしていれば、適切に対応し、立ち会いもしてもらえます。
- 年間売上高が1,000万円を超えたケース
年間売上高が1,000万円を超えた場合も、税理士と顧問契約を結ぶタイミングの1つです。
年間の課税売上高が1,000万円以上になると、その翌々期には免税事業者から課税事業者へと変わります。
例えば、2024年に年間の課税売上高が1,000万円以上になった場合、2026年からは課税事業者として扱われます。
課税事業者は消費税の申告が必要なため、税務がより複雑化します。こうした複雑な消費税申告においても、税理士と顧問契約を交わしていれば、会社の税務をすべて任せることができます。
スポット契約が適しているケース
事業の規模が小さいケースでは、税理士とのスポット契約が適しています。
個人事業主の場合や、会社がまだ成長段階にある場合であれば、税務もそこまで複雑ではありません。また、売上高が少ないと、節税を行ってもその効果は薄い可能性があります。
従業員だけで、毎月の社内の経理・税務に対応できているのなら、税理士とは決算申告のみのスポット契約で十分と言えるでしょう。
関連記事:【税理士監修】法人が税理士に依頼する費用の相場はいくら?依頼内容別の相場と費用を抑えるポイントをご紹介!
どちらの契約形態でも使える税理士の契約料を抑える方法
税理士との契約を検討しているものの、あまり高い報酬を支払えないときには、工夫して契約料を抑えましょう。
顧問契約においてもスポット契約においても活用できる、税理士費用の抑え方を紹介します。
複数の税理士から見積もりをもらう
税理士を探す際には、複数のところに見積もりを作ってもらいましょう。
ホームページに報酬額を明記している税理士事務所もありますが、実際の業務ではそのほかにも料金のかかる可能性があります。それも見積もりで確認しましょう。
また、複数のところから見積もりを出してもうらうことにより、依頼したい業務の相場が分かります。
ただし、単純に、顧問料が安いだけで税理士を選ぶことはおすすめできません。依頼された業務をしっかりと責任を持ち行ってくれるかどうかが重要です。
そのためには税理士事務所のホームページで実績を確認したり、口コミサイトで評判を確かめるという方法もあります。
依頼する業務範囲を絞る
税理士に依頼する業務範囲を絞り、特に専門知識が必要なところだけを任せることで、報酬額を抑えられます。
会社にとって必要な税務だけを依頼できる年1決算型や、スポット契約がこれに該当します。
これらは、税務による会社への負担が少ない場合や、毎月の決算だけなら従業員だけで十分に事足りている場合におすすめです。
対面する回数と方法を工夫する
月次決算型の顧問契約を結んだ場合、税理士は業務のために会社を何度も訪問します。訪問の回数を減らすことで、税理士の交通費や宿泊費が抑えられます。
税理士が遠方に事務所を構えている場合は、特に有効な報酬額を抑える方法です。
また、税理士への相談や打ち合わせのうち、全体の何割かをオンライン面談に切り替えることで、交通費や宿泊費の削減につなげられます。
税理士との直接交渉
税理士の紹介サービスを使わず、直接交渉することで、仲介料を削減できます。
また、前述した、訪問回数を減らして顧問料を抑えたいことについても、税理士とじかに話し合うことで融通してくれる可能性があります。
関連記事:税理士に丸投げするとデメリットが多い?税理士に丸投げする際のポイントを解説
顧問契約かスポット契約かを含め、まずは税理士に相談を!
顧問契約とスポット契約の違いについて、ご理解いただけたでしょうか。これらの知識や情報は、税理士と契約を交わす際に役立つものばかりです。
しかし、実際に業務を依頼する前には、まず税理士に相談し、どの契約形態が自社に適しているかを確認する必要があります。
事業や会社ごとに経営方針や財務状況、規模や従業員数が異なるためです。まず、税理士に相談することで、どの契約形態がふさわしいか提案してくれることでしょう。
私ども小谷野税理士法人でも、いつでもお気軽に相談いただけます。毎月の月次決算書の作成や資金繰り表の作成、税務申告までこまやかな対応が強みです。