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二重課税の排除を目指す移転価格税制の概要と実務

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二重課税の排除を目指す移転価格税制の概要と実務

移転価格税制は、企業と海外の子会社との取引において適正な価格設定を求めるために設けられた制度です。しかし本制度は、各国の税務当局がそれぞれ異なる独立企業間価格を算定すると二重課税となってしまうケースもあります。どちらの企業にしても二重課税で多く税金を払う事態は避けたいはずです。そこで本記事では、移転価格税制の概要と二重課税が起こる理由、そして二重課税を回避するための制度について紹介します。

移転価格税制の概要

減価償却のイメージ

移転価格税制とは、企業と国外関連会社間の取引において、企業の所得が適切に配分されるように設けられた制度です。取引価格が独立企業間価格、つまり独立した第三者同士が取引する場合に通常成立するであろう価格に基づき評価されます。

取引価格が企業と関連会社間で乖離している場合、税務局はその取引を再評価して課税所得を調整します。

独立企業間価格の算出方法はOECD(経済協力開発機構)の移転価格ガイドラインに則り、各国の税制に反映されています。

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独立企業間価格の算出方法

独立企業間価格とは、独立した企業同士が取引した場合と同じ価格で売買したとして課税する、いわゆる「みなし価格」です。日本における独立企業間価格の算出方法は、主に以下の基本三法に基づいて行われます。

独立価格比準法

海外子会社と第三者企業間で行われた類似の取引価格を比較し、関連会社間取引の妥当性を検証

再販売価格基準法

海外子会社から仕入れた商品を第三者に販売する際の粗利益率を分析し、その妥当性を検証

原価基準法

海外子会社と第三者企業間との取引における売上原価に対する粗利益率を比較することで、取引価格の適正性を判断

ただし、適切な比較対象となる第三者企業を見つけるのは難しいとされています。そのため実務においては取引単位営業利益法が用いられることが多いです。

取引単位営業利益法では、海外子会社と独立した第三者の営業利益率を比較し、独立企業間価格を算定します。この方法以外にも利益分割法やディスカウント・キャッシュ・フロー法といった手法が適用されることもあります。

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移転価格税制が適用されるケース

ケースと書かれたブロック

移転価格税制は、特に以下のようなケースでの取引で適用されることがあります。

多国籍企業におけるグループ内取引

多国籍企業の親会社と海外子会社、またはグループ内の関連会社間では、以下のようなさまざまな取引が行われます。

  • 物品の売買
  • サービスの提供
  • 知的財産(特許・商標など)の使用許諾
  • 資金の貸借

これらの取引価格が適正かどうかを検証するために、移転価格税制が適用されるのが一般的です。この制度によって税務当局が作為的な価格設定による課税逃れを防止し、公正な課税を実現できます。

市場原理が機能しにくい特殊な取引

市場原理が十分に働かない状況における取引も、移転価格税制の対象となります。例えば特許や商標などの無形資産の取引や非居住者との取引では、市場価格との乖離が起こりやすいです。

このような場面では移転価格税制によって適正な価格設定をすることで、課税の透明性を確保しやすくなります。

大規模なグループ内での取引

関連会社間で大量の原材料や製品がやり取りされる場合も、本制度が適用されるケースのひとつです。特に、取引量が多く価格設定の影響が非常に大きいケースでは、税務当局からの監査リスクが高まりやすいです。

そのため、客観的な価格基準を用いた移転価格税制を用いることで、透明性のある算出ができるようになります。

移転価格税制が二重課税を招く理由

移転価格税制で二重課税が起こるのは、各国の税務当局がそれぞれ異なる独立企業間価格を算定し、課税を行う可能性があるからです。

日本の親会社がアメリカの子会社に製品を販売するケースを考えてみましょう。日本の税務当局が取引価格を独立企業間価格よりも低いと判断した場合、日本側で課税所得が調整されます。

同時にアメリカの税務当局も、取引価格が独立企業間価格よりも高いと判断してアメリカの子会社に課税してしまうのです。結果として、同じ取引に対して日本とアメリカの両方で課税が行われることになり、二重課税が発生します。

二重課税を回避するための事前確認制度

注意点

移転価格税制によって思わぬ課税を受けるリスクがあることを説明しました。このリスクを回避するために利用されているのが「事前確認制度(APA)」です。以下では、二重課税を回避するための事前確認制度について詳しく解説します。

事前確認制度とは?

事前確認制度とは、国内企業と国外の関連会社間における取引の際、税務当局と移転価格の算定方法を決定するための制度です。

企業が税務当局に3~5年間における国外関連取引の独立企業間価格の算定方法などを提案します。そして税務当局がその提案内容を審査して合意に至れば、その合意に基づいて申告を行う限り、移転価格課税は行われません。

事前確認制度を導入するメリット・デメリット

事前確認制度のメリット・デメリットをそれぞれ列挙してみました。

メリット

デメリット

  • 二重課税を回避できる
  • 移転価格に関する認識のすり合わせができる
  • 移転価格税制に関する社内体制ができる
  • 時間とコストがかかる
  • 必ずしも合意に至るとは限らない
  • 経済状況の変化などで内容を見直す必要がある

事前確認制度によって二重課税を回避できるというのは一番先に挙げるべきメリットでしょう。また事前に税務当局と合意しておけば、将来の税務調査で移転価格に関する認識のズレをなくせます。さらに経営の安定性向上にもつながり、大規模な多国籍企業や複雑な取引を行っている企業にとってありがたい制度です。

ただしこの制度は大幅なコストと時間がかかること、お互いが納得のいく合意になるとは限らないことは注意しなくてはいけません。

参考:事前確認の法的効力と紛争回避の視点|国税庁

仕入税額控除ってなに?インボイスとの関係についても解説

事前確認制度の種類

事前確認制度には大きく分けて以下の2種類があり、それぞれの特徴は下記の通りです。

バイラテラルAPA

ユニラテラルAPA

特徴

国内と関連会社のある国の税務当局が協議をして、合意による独立企業間価格を事前に確認する

国内企業か関連会社、いずれか一方の国の税務当局のみに事前確認をする

メリット

対象となる企業が二重課税を回避できる

合意までの時間が短くコストも削減できる

デメリット

協議や手続きに時間がかかる

二重課税のリスクが残る

事前確認制度の手続きの流れ

事前確認制度の手続きは、一般的に以下の流れで進みます。

①国税庁への事前相談

まずは国税庁に事前確認制度の事前相談を行います。窓口は各国の税局に設けられているため、手続きに必要な資料作成もしやすくなります。また、事前相談によって審査がスピーディに進みやすくなるのもメリットのひとつです。

②事前確認の申請

国や地域ごとに、独立企業間価格の算定方法に関する申出書や必要書類を提出します。

③国税局による審査

審査の担当者が書類の確認を行い、事前確認制度の審査が終了すると申請者宛てに審査結果が伝えられます。場合によっては追加で資料の提出を求められるケースもあります。

④相互協議

相手の税務局と協議のスケジュールを立て、相互協議を開始します。両国の税務当局による合意が合った場合は、二国間での事前確認が成立します。

⑤合意(事前確認の成立)

申請者の申出と合意案が異なる場合、修正申出書の作成が必要です。国税局の担当者から確認通知を受け取り、事前確認が成立します。

移転価格税制で追徴課税となった場合の対応

時には、取引価格の相場である独立企業間価格との差額が追徴課税となって課される場合があります。その場合は相互協議手続きか国内救済措置のどちらかの対応を行うのが一般的です。以下では、その相互協議手続きと国内救済措置の2種類の対応について解説します。

相互協議手続き

相互協議手続きとは、日本国内と海外の子会社の2ヶ国以上の税務当局が協議を行い、二重課税を解消するための手続きです。各国の合意に基づいて二重課税の解決案を出せるため、効果的な手段と言えるでしょう。

ただし、国際合意が必要なため、解決までに時間がかかってしまうことがあります。相互協議手続きの流れは以下の通りです。

  1. 申立て:納税者(通常は親会社)が、自国の税務当局に相互協議の申立てを行う。申立ての際には二重課税が生じた状況を説明するための資料を添付する。
  2. 協議:申立てを受けた税務当局は、相手国の税務当局と協議を開始する。意見や情報の交換をして、独立企業間価格の算定方法や課税額の調整に向けて合意を目指す。
  3. 合意または不合意:協議の結果、両国の税務当局が合意に至れば、その合意内容に基づいて課税額が調整される。もし不合意となった場合、相互協議は終了となる。
  4. 納税者への通知:協議結果は、各国の税務当局から納税者に通知される。

参考:相互協議の手続|国税庁

国内救済措置

国内救済措置は、自国の法律に基づき課税処分に対する不服を申し立てる手続きです。相手国との協議を必要としないため、比較的スムーズに手続きが進むメリットがあります。

しかし自国内の法律に基づいて判断されるため、相手国で同様の課税が維持された場合、二重課税が解消されない可能性があります。

国内救済措置の流れを日本を例にして見てみましょう。

  1. 更正の請求:課税処分を知った日の翌日から5年以内に、税務署長に対して更正の請求を行う。
  2. 再調査の請求:請求に対して税務署長が行った処分に不服がある場合、処分を知った日の翌日から3ヵ月以内に所轄国税局長に再調査の請求をする。
  3. 審査請求:再調査に対する国税局長の処分に不服がある場合、その処分を知った日の翌日から3ヵ月以内に国税不服審判所長に審査請求をする。
  4. 訴訟:審査請求の裁決に不服がある場合、裁決があったことを知った日の翌日から6ヵ月以内に、裁判所に訴訟を提起する。

移転価格課税による二重課税の場合、上記の対応のうち相互協議手続きを優先的に検討すべきです。相互協議手続きの方が二重課税を解決できる可能性が高いことが理由として挙げられます。

まとめ

移転価格税制は国際取引の場で二重課税を回避し、税務リスクを軽減するための制度です。各国の税法への対応、内部ポリシーに基づいた評価と定期的な見直しにより、企業の財務安定性を確保することが求められます。

また相互協議や国内救済手続きを理解し、リスク発生時に迅速に対応できる準備を整えなくてはいけません。

移転価格問題は今後も継続的な課題となるため、経営を安定させるためには計画的・戦略的な取り組みが必要でしょう。なお、二重課税を回避するための移転価格税制の活用や確定申告については、専門の税理士に相談することをおすすめします。

小谷野税理士法人では移転価格税制に関するお悩みの相談やご依頼が可能のため、まずは一度気軽にご相談してみてください。

この記事の監修者
池田 大吾小谷野税理士法人
カルフォルニア大学アーバイン校卒業、大手生命保険会社勤務を経て2007年小谷野税理士法人に入社。
会計、税務、経理実務の支援業務から各種補助金の相談・申請業務、企業及び個人のリスクマネジメントのコンサルタント業務を行う。
銀行はじめ多くの金融機関、会計・税務・財務業界に多くの人脈を持ち、企業財務のマルチアドバイザーとして活躍。
税理士「今野 靖丈」

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