2024年3月、日本政策金融公庫の新創業融資が廃止され、現在では新規開業資金の活用が進んでいます。このように、金融機関の融資制度はたびたび変更があり、また、分かりにくいと感じることも多いのではないでしょうか。中でも、会社の借金はいくらまで可能かを知るためには、常に新たな情報にふれていることが大切です。そこで、会社が融資を受けられる平均額、審査を通りやすくするポイントを最近の情報に基づき解説します。
目次
会社が借金できる融資の平均額
会社の借金はその内容もさまざまで、創業融資と運転資金では平均が異なります。そのため、それぞれの場合について、分けて説明します。
創業融資は平均800万円程度
創業融資の平均は、おおよそ800万円です。ただし、実際には300万円から1,000万円程度と、その会社の規模や従業員数などにより幅があります。
日本政策金融公庫が公開している新規開業実態調査によれば、過去10年間の創業融資の平均金額は次の通りです。
- 2013年度:833万円
- 2014年度:928万円
- 2015年度:866万円
- 2016年度:931万円
- 2017年度:891万円
- 2018年度:859万円
- 2019年度:847万円
- 2020年度:825万円
- 2021年度:803万円
- 2022年度:882万円
- 2023年度:768万円
ちなみに、日本政策金融公庫とは、中小企業や小規模事業者を対象に創業融資を行っている、財務省の管轄する金融機関です。
政府が支援していることもあり、民間の金融機関よりも創業融資の審査を通りやすい傾向が見られます。
運転資金は月商3ヵ月分が目安
運転資金を借金する場合、その目安はおおよそ月商3ヵ月分と言われています。運転資金は仕入れ費用や人件費などに必要なものであり、月商とはその名称の通り1ヵ月間の売上の総額です。
月商からは仕入れ費用や人件費といった経費が差し引かれていないため、事業におけるおおよその経営状態を表す際に用いられています。この月商に対し、1年間の売上総額を表す言葉に年商があります。
融資上限額と借入限度枠は異なる
借金には、それぞれの融資制度が定める融資上限額が設定されています。しかし、実際には誰もがその上限となる金額を借りられるわけではありません。
会社の規模や従業員数、経済状況や事業計画、さらには信用度などにより、それぞれの借入限度枠(融資可能額)は異なっています。
創業融資の融資上限額においては、例えば、日本政策金融公庫や東京都中小企業制度融資では次のように定められています。
金融機関 | 種類 | 融資上限額 |
日本政策金融公庫 | 新規開業資金 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) |
東京都中小企業制度融資 | 女性・若者・シニア創業サポート2.0 | 1,500万円以内(女性2,000万円以内) 運転資金のみ750万円以内(女性1,000万円以内) |
日本政策金融公庫の新創業融資は、2024年3月をもって廃止されています。
現在では、代わりとして新規開業資金が活用されることがおおく、こちらは新創業融資よりも融資上限額が高く設定されているのが特徴です。
また、女性・若者・シニアが創業する場合は、通常よりも有利な条件で利用可能です。
東京都中小企業制度融資を見ても分かる通り、現在は女性・若者・シニアの創業がより強く支援される傾向があります。
参考:東京都中小企業制度融資|中小企業支援|東京都産業労働局
関連記事:融資と借入の違いとは?メリット・デメリットや審査内容も解説
会社の借金可能額はいくらまでなのかが決まる要素
会社が借金できる額は、事業の規模や経営状況のほか、業種・自己資金・設立年数も影響します。業種・自己資金・設立年数の違いで、具体的にはどのように変わるのかを説明します。
業種
運転資金の借金可能額は、月商3ヵ月分が目安ではありますが、実際には業種で数ヵ月分の差があります。
その目安は借入金月商倍率と呼ばれ、平均値は業種ごと、次のような変動を示しています。
【借入金月商倍率(業種別)】
業種 | 借入金月商倍率(平均) |
卸売業 | 2.9 |
建設業 | 1.7 |
小売業 | 3.9 |
サービス業 | 5.3 |
食料品 | 2.7 |
不動産業 | 13.0 |
一部変動が大きいのは、それぞれの業種ごとに利益率が異なっているためです。
利益率とは売上に対する利益部分を意味します。一般的に、利益率の高い業種ほど多くの融資を受けられる傾向です。
参考:創業手帳
自己資金
創業融資の場合、実際に借金が可能な金額は自己資金の3倍程度と言われています。
ただし、誰もが3倍ぐらいの金額を借りられるというわけではなく、事業予算や状況で受けられる融資額は変動します。
また、自己資金に余裕がある場合は、あえて融資額を抑えて借りても良いでしょう。ここでは3つのケースから、どの程度の創業融資が適切かを紹介します。
【ケース①40代・男性・自己資金500万円】
事業予算800万円に対し、自己資金500万円の起業を考えている男性のケースです。
自己資金は十分に確保されていますが、事業が始めから軌道に乗るとは限らないため、さらに余裕を持たせたいところです。
この場合、融資額は自己資金と同じ500万円ほどなら、当初の想定よりも多い事業予算1,000万円で起業を行えます。
【ケース②30代・女性・自己資金300万円】
自己資金は少ないものの、融資はその2倍の600万円をおすすめします。
前述したように、新たに設置された新規開業資金では、女性・若者・シニアへの創業サポートが強化されています。
さらに、自己資金の要件が定められていないため、申請しやすいのも利点です。通常よりも金利が低く抑えられていることから、返済の負担も軽減されます。
【ケース③30代・男性・自己資金200万円】
自己資金が少ない場合、審査を通りにくい傾向がありますが、協調融資を利用することで600万円近くの借金も可能です。協調融資とは日本政策金融公庫と民間の金融機関とが連携し、融資を行うものです。
1つの金融機関から目標とする金額の融資を受けられない場合でも、複数から借金することで十分な事業予算を確保できます。
設立年数
設立年数が長いほど、実績があるとみなされるため、融資の審査には有利です。信用保証協会を例に取ると、次のように融資枠が変化していきます。
なお、モデルケースは、創業2年以上の月商が3,000万円の会社であり、融資枠は無担保、代表者保証だけの運転資金を想定しています。
- 設立前:信用保証協会(創業制度融資)/融資枠300万円
- 設立1年:信用保証協会(創業制度融資)/融資枠800万円
- 設立2年以上:信用保証協会(一般保証・制度融資)/融資枠3,000万円
- 設立3年以上:信用保証協会(一般保証・特別枠)/融資枠5,000万円
また、設立年数を経るごとに信用が増し、複数の金融機関から融資を受けられる可能性が高まります。
それらの金融機関からの融資を合計すると、場合によっては高額の借金も可能となり、さらなる事業拡大を目指せます。
関連記事:【税理士監修】個人事業主の借入はいくらまで?借入先やタイミングなども解説
会社の借金をいくらまで受けられるか知る方法
上記のように、会社がいくらまで借金できるかは、業種・自己資金・設立年数に加えて、融資制度によっても異なります。
そのため、借金の可能額を知りたい場合には、次のような方法で確かめると良いでしょう。
金融機関に相談する
最も簡単な方法は、金融機関を実際に訪問し、借り入れられる金額を問い合わせることです。金融機関では、顧客データや過去の取引履歴に基づき、借りられる金額を正確に算出してもらえます。
ただし、多くの金融機関は、特定の顧客にのみ情報を開示するため、初めて融資を受ける場合は問い合わせに応じてもらえるとは限りません。
算定式で計算する
会社がいくらまで融資を受けられるかは、算定式でも導き出せます。
これまで説明してきた通り、創業融資であれば自己資金の3倍、運転資金の場合は月商3ヵ月分が、その会社が借金できるおおよその目安でした。
しかし、算定式を用いると、さらにさまざまな要素から妥当な融資金額を計算できます。
【償還年数による算定式】
- 融資上限額=(税引後利益+減価償却費)×10
償還年数(債務償還年数)とは借金の返済期間のことです。
算定式に「10」と記載されているのは、一般的に、融資上限額を計算する際は10年以内を基準に考えるためです。
【経常利益による算定式】
- 融資上限額=経常利益×50%×7
経常利益を用いた算定式は、融資上限額への評価が厳しいことが特徴です。
経常利益とは、会社の通常業務で得た利益を指し、この経常利益に臨時収入や一時的な支出を合わせたものが純利益と呼ばれています。また、「7」は返済期間7年を意味します。
つまり、この経常利益による算定式では、通常業務の半分の利益を使って7年間で返済できる金額が融資上限とされます。
融資に精通した税理士に相談する
金融機関に直接問い合わせをしても応じてもらえなかった場合や、算定式による融資上限額の計算に不安がある場合は、税理士に相談してみるのも1つの手段です。
税理士は、税金以外に融資の相談も受け付けています。中でも融資に精通した税理士ならば、実際の事例をもとに、適切な融資額のアドバイスをしてくれます。
また、金融機関と税理士の間に信用があれば、顧問とした場合に融資の審査も通りやすくなる可能性があります。
創業計画書を作成してみる
まず創業計画書を作成してみるのも、会社の借金をいくらまで借りられるかの算出に役立ちます。創業融資を行っている日本政策金融公庫で融資を受けるためには、そもそもこの創業計画書が必要です。
創業計画書には、創業資金の総額と、自己資金や借入金の記入欄があります。そこには、創業計画所の提出先である日本政策金融公庫からの借入金も記載します。
創業計画書をしっかりと作成し、記入された借入金が適切だと判断されれば、融資審査も通りやすくなる可能性があります。
関連記事:銀行融資の担保のありなしでは何が違う?特徴や種類を徹底解説!
融資の審査が通りやすくなるポイント
融資の審査に一旦落ちると、問題点の改善を行ったり、半年以上の期間を開ける必要があったりと、すぐには再申請できません。できる限り融資の審査を通りやすくするためにも、あらかじめポイントを押さえておきましょう。
なるべく多くの自己資金を確保する
借金の上限は自己資金の3倍と言われているため、自己資金をなるべく多く用意することで創業融資の限度額も引き上げられます。
しかし、だからと言って、一時的な借金で、実際の自己資金よりも多くの資本金があるように見せかけてはいけません。
これは「見せ金」と言って、違法行為に該当します。
納得のいく事業計画書を作成する
前述している通り、事業計画書(創業計画書)を丁寧に作成し、質を高めることで、金融機関に対する融資へのアピールが可能です。
事業計画書では、十分な返済能力のある利益を生み出せると証明することが大切です。金融機関も納得のいく内容であれば、融資の審査を通る可能性が高まるでしょう。
業績の良いときに申し込みする
会社の業績が好調なときのほうが、融資はスムーズに受けられます。その逆に、業績が低迷している場合は、融資額も増加しにくく、希望額に届かない可能性があります。
そのため、資金を借り入れする際には、できる限り業績が好調な時期を選ぶことをおすすめします。
残債の少ない状態で申し込みする
借金に残額があった場合は、借入金依存度が高いとみなされ、新たな融資を受けにくくなったり、借りられる金額が下がったりします。
もしも、会社に返済し終わっていない借金がある場合は、その残額をできる限り減らしてから融資を申し込みましょう。
借入金依存度とは、総資産に占める借入金の割合を指します。これを抑えることで、安定した会社であるという金融機関からの評価を得られます。
関連記事:法人・個人事業主が借入を受ける方法は?銀行融資の種類や借入上限額などを比較
会社の借金のことは税理士にお任せください!
ここまで読んでいただけたならおかわりのように、融資制度にはさまざまな種類があり、また、金融機関も複数存在しています。
会社が借金をするためには、その中から適した借入先を探し、さらには融資審査に通りやすくするため、事業計画書を始めとした多くの手続きや対策が必要です。
また、融資は多ければ多いほどいいというわけではなく、無理のない返済を考えて希望金額を決めなければなりません。
融資や算定式に詳しい場合は別ですが、そうでないときは返済計画に自信が持てないということもあるでしょう。
そこで、会社の借金のことでお困りの場合や、いくらまで借りられるかお悩みの際には、税理士に相談してみることをおすすめします。
私たち小谷野税理士法人では、会計や財務に対する一貫したフォロー体制を整えています。融資の相談についても、お気軽にお問い合わせください。