業種にもよりけりですが、開業のためにはさまざまな費用が必要です。その資金調達には、自己資金や融資といった方法に加え、援助という選択肢もあります。ただ、その際に気になってくるのが税金ではないでしょうか。なるべく多くの開業資金を集めるにしても、課税の負担は軽減したいところです。そこで、ここでは特に、開業資金における援助に着目し、どんな税金がかかるのかを詳しく説明します。
目次
そもそも開業資金における援助とは?
開業とは、起業と同じような意味を持つ以外にも、一般的には開業届を提出し、個人事業主となることを指します。新たに事業を始めることから資金が必要ですが、その際に受ける援助とはどのようなものなのでしょうか?
開業資金の調達方法は複数
開業資金には、融資、補助金・助成金、そして資産の現金化など、複数の調達方法が存在します。
融資は、金融機関から資金を借入することであり、その後は長期にわたり、金利を含む金額を返済します。補助金や助成金は、国や自治体から受けられる開業のための支援です。
ただし、補助金や助成金には多くの場合、それぞれ異なる条件が設けられています。
助成金は条件さえ満たしていれば必ず支給を受けられますが、補助金は条件に合致していたとしても支援されない可能性があるため注意しましょう。
最後に、資産の現金化は、不動産・設備・在庫などを売却し、それを開業資金とすることを指します。いずれの方法においても、計画的に行うことで、無理なくスムーズな資金調達が実現します。
返済を伴う融資と返済不要な出資
資金調達の方法において、返済を伴う融資と返済不要な出資には明確な違いがあります。
融資は金融機関などからの借入であり、返済と利子の支払いが必要な資金調達方法です。一方の出資は、株式会社を立ち上げる際、株の発行により募る投資です。
株式による出資の場合、配当金を支払わなくてはなりませんが、融資よりも多額の資金を調達できる可能性があり、返済や利息も発生しません。
ただし、株式の売却で、会社経営に対し出資者の影響力が強まる懸念があります。
親からの借入と贈与の違い
親や親族から援助を受ける際には、借入か贈与かを明確にしておく必要があります。贈与は、援助する側と援助を受ける側の間で、返済や利子の支払い義務を伴うことなく、無償にて金銭が支援されることを指します。
ただし、どちらか一方だけが無償だと受け取り、もう一方は借金だと思っていると、贈与とは認められません。借入と贈与の混同は、親や親族とのトラブルにつながる可能性もあります。
借入と贈与を明確に区別する意味でも、借入をする場合にはきちんと借用書や金銭消費貸借契約書を作成し、返済期日を設ける必要があります。
その際に作成する借用書とは、借りる側が作成して貸す側に渡します。対して、金銭消費貸借契約書は、借りる側と貸す側が共同で作成する書類です。
開業資金の目安
日本政策金融公庫の2023年度新規開業実態調査によると、開業資金の平均は1,027万円です。また、全体に対しては、500万円から1,000万円未満を開業資金としている割合が最も多く見られます。
こうしたことからも、開業する際は、500万円から1,000万円を目安に資金を用意すると良いでしょう。ただし、開業資金は業種によって金額に幅があります。
例えば、実店舗が必要な事業の場合、施設・設備の費用に加え、改装費なども必要なため、開業資金は高額になる傾向が見られます。
その一方で、自宅と仕事場を兼用する場合は、初期費用を抑えた開業が可能です。
開業資金の援助を受けると税金が発生するケース
開業資金を調達する際、援助を受ける場合に税金のかかるケースもあります。どのようなケースに何の税金が発生するかを説明します。
開業資金の援助を親から贈与される
親や親族から開業資金の援助を受ける場合には、贈与税に注意しましょう。贈与税とは財産を譲られた際にかかる税金であり、年間110万円超を受け取ると発生します。
贈与税で気をつけたいのが、合計額に対して課税される点です。例えば、1年間に父親から100万円、母親から50万円の贈与を受けたとします。この場合、一人あたりでは110万円に届きません。
しかし、両親からの贈与を合計すると150万円であるため、贈与税の対象とされます。
開業資金の援助を親から借入する
開業資金の目的で親から金銭を借りた場合は、基本的に贈与税は課せられません。ただし、親子だからと言って定期的な返済が行われていない場合には、借入と認められず、贈与とみなされてしまうことも考えられます。
その場合には贈与税が発生するため注意が必要です。また、借入を無利息としてしまうと、本来発生するべき利子は親からの贈与とみなされます。
さらには、その利子が年間110万円超の場合、利息であっても贈与税が発生します。ただ、こちらは現実的に年間110万円超の利子がかかること少ないため、特に心配はないでしょう。
クラウドファンディングを開業資金にする
クラウドファンディングでは不特定多数からの資金を開業にあてられますが、種類によっては税金が発生します。クラウドファンディングは、リターンの種類により、購入型・寄付型・投資型の3つに大別されています。
【購入型】
購入型は、開業後に提供する商品やサービスなどを支援者が事前購入し、それをリターンとするクラウドファンディングの方法です。購入型のクラウドファンディングで開業資金を集めた場合は、事業主に所得税・住民税・法人税が課せられます。
ただし、開業前であるために、支援金が支払われた時点では、まだ商品やサービスは提供されません。
そのため、会計上では支援金を前受金(負債)として処理を行います。開業をし、実際に商品やサービスが提供されて初めて前受金が売上へと変わります。
【寄付型】
寄付型のクラウドファンディングでは、基本的に購入型のようなリターンが発生しません。
また、寄付型は、災害や福祉など社会貢献度が高いプロジェクトで用いられることが多く、一般的な開業資金を募る場合にはあまり利用されていません。
さらには、個人から個人へ1年間に110万円超の寄付があった場合、贈与税の課税対象となるため注意しましょう。
【投資型】
投資型のクラウドファンディングは、利息や配当金などをリターンとしています。出資者が投資を行い、その額に見合ったリターンがあります。
投資型はそのリターンの種類により、さらに融資型・株式投資型・ファンド型などに分類されています。
この投資型によるクラウドファンディングで開業資金を集めた場合は、融資型・株式投資型・ファンド型のいずれにおいても税金は発生しません。
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開業資金の援助を受けるときにすべきこと
開業資金の援助を受ける際には、必ず書類を作成しておきましょう。万一にも、のちのちトラブルが起こったときには、援助の証明としてその書類を使えます。
贈与を受ける場合
贈与を受ける場合は、支援者に贈与契約書を作成してもらいましょう。贈与契約書は、贈与の事実と、贈与する側と贈与を受ける側との合意を証明するものです。
贈与は民法上、口頭による契約が有効とされていますが、書類として残すことで、万一トラブルが起こった際の証拠にできます。
例えば、贈与が複数回に分けて行われた場合、高額の財産を分割して移しているのではないかと税務署から疑念を持たれても、贈与契約書があれば疑いを晴らせる可能性が高いです。
借入をする場合
親や親族からの援助を借入として受ける場合であっても、必ず借用書を作成しましょう。借用書を作成することで、贈与との違いを明確にできます。
また、借入を証明する書類には、借用書以外に金銭消費貸借契約書もあります。借用書は、貸す側が保管する決まりです。一方の金銭消費貸借契約書は、貸す側と借りる側の両方が保管する書類です。
親や親族からの援助ということであれば、書類は借用書で十分です。借用書や金銭消費貸借契約書では、銀行振り込みか手渡しか、一括返済か分割返済かなど、返済方法を明確に記しておきましょう。
これも、贈与を疑われないための証拠になるためです。
借用書に沿った借入金の返済
借用書、または金銭消費貸借契約書を作成したら、返済はそこに記載されている通りに行いましょう。贈与税を逃れるため、疑似的に借入しているという疑いをかけられないようにするためです。
親族間のやり取りであったとしても、周囲からの信用を落とさないため、期日と返済額を守って返していく必要があります。
また、返済の事実を証拠として残すためにも、借金を返す際は通帳に記録の残る銀行振込がおすすめです。手渡しの場合は、返済ごとに領収書を作成してもらうと良いでしょう。
公正証書の保存
作成した借用書や金銭消費貸借契約書などの書類は、公証役場で公正証書にしてもらうと、法的効力が加わり信用度が高まります。
また、もしも手元にあった書類を万一紛失しても、原本が公証役場で20年間にわたり保管されるため、安心です。ただし、公正証書として書類を保管してもらうためには、数千円から数万円の手数料がかかります。
もっと簡易的に書類の証明を行いたい場合には、公証役場で確定日付をもらうと良いでしょう。確定日付は、その時点における書類の存在を証明するものです。
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補助金や助成金を活用すると税金はかかる?
開業資金の援助として、条件を満たすことで、国や自治体から補助金や助成金の給付を受け取れます。ここでは、その補助金や助成金にかかる税金について説明します。
所得税と法人税の場合
一般的に、事業に関する補助金と助成金は、所得税や法人税の課税対象として扱われています。会計上でも収益として扱われ、区分としては事業所得に該当します。
ただし、助成金や補助金は複数あるため、活用する際は課税対象であるかどうか、まず国や自治体の各ホームページにて確認することをおすすめします。
消費税の場合
補助金や助成金の支援では、基本的に商品やサービスの提供はないため、消費税もかかりません。ただし、経費の補填を目的とする補助金や助成金に限っては、消費税の分を変換する義務があるため気をつけましょう。
例えば、税込110万円の備品のうち、その半分、55万円を補助金・助成金を使って購入したとします。その際は、55万円のうち5万円が消費税です。
しかし、このとき、インボイス制度による仕入控除が適用されるため、課税事業者は仕入の消費税額を、売上にかかる消費税額から差し引けます。
そのため、助成金を利用して控除した5万円には返還義務が発生します。
開業資金と税金のことは税理士にすべてお任せ!
個人事業主として開業するためには、税務署に開業届を提出するだけで手続き完了します。しかし、そのための開業資金となると、なかなか簡単には集まらないこともあります。
そこで、親や親族からの援助という選択肢があるのですが、その際の贈与には贈与税がかかり、借入するにしても計画的な返済が必要です。さらには、金融機関からの融資には審査があります。
このように、開業資金の悩みは尽きないものですが、負担が大きいと感じるのであれば、税理士を頼ってみてはいかがでしょうか。
税理士は言わずと知れた税の専門家です。融資にも精通した税理士がいることもあり、開業時には心強い味方となってくれるでしょう。
私ども小谷野税理士法人でも、開業に対し、税金対策を始めとしたさまざまな相談に応じています。
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