連結納税を適用することで、企業グループ全体での税負担を軽減できます。しかし、損益通算が可能となる一方で、計算の複雑化や特例の適用除外などのデメリットも存在します。この記事では、連結納税の基本的な仕組みから具体的なメリット・デメリットまでを詳しく解説します。ポイントを踏まえ、連結納税の導入を検討する際にお役立てください。
目次
連結納税制度とは
連結納税制度は、企業グループ全体の税務戦略を最適化するための重要な手段です。活用することで、税務処理の効率化が図られ、経営の安定性を向上させることが期待されます。
グループ内の各企業の税務処理を一括して納税する制度
連結納税とは、企業グループ全体の所得を合算して納税する制度です。通常、企業は一社ごとに納税します。しかし、連結納税制度を利用することで親会社とその子会社が一体となって納税を行うことが可能となるのです。税務処理を統一し、効率化を図ることが主な目的とされます。
連結納税制度では、親会社が中心となってグループ全体の所得を合算して税額を計算します。そのため、各企業の所得や損失を一括して処理することが可能です。ただし、連結納税を行うためには、親会社が一定の条件を満たし、税務署に申請を行う必要があります。
日本では、2002年に連結納税制度が導入されました。この制度により、多くの企業が連結納税を選択し、グループ全体の税務処理を一元化しています。
親会社が子会社の株式を100%保有する場合に適用
連結納税制度の対象となる企業は、日本国内の親会社とその親会社が100%の株式を保有する日本国内の子会社で、外国子会社は対象外です。また、連結納税制度は法人税にのみ適用されるもので、住民税や事業税には適用されません。
連結納税制度により税務処理を一括できる法人は、実質的に一つの企業であるかのように、経営が統一されたグループ企業です。株式保有が100%である孫会社も対象ですが、100%に満たない子会社等は対象となりません。
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連結納税におけるメリット
親子関係にある各社を個別に課税する単体申告(グループ法人税制を含む)と、企業グループ全体を一つの課税単位とする連結納税では、適用される制度が異なるため、所得金額や納税額に違いが生じます。ここでは、連結納税制度を適用することで得られるのメリットについて解説します。
黒字と赤字を相殺(損益通算)できる
連結納税のメリットの一つに、グループ内の黒字と赤字を相殺(損益通算)できる点があります。例えば、親会社Aが1,000万円の黒字、子会社Bが500万円の赤字を出したと仮定して、損益通算ができない場合とできる場合の納税額の違いを具体的に見てみましょう。
損益通算ができない場合、A社(黒字1,000万円)は、1,000万円に対する法人税を支払います。B社(赤字500万円)は、赤字を繰り越しますが、当期の法人税は発生しません。法人税率を30%とすると、A社の納税額は「1,000万円 × 30% = 300万円」です。B社は納税額が0円であるため、A社とB社の納税額は合計で300万円となります。
損益通算ができる場合、A社の黒字1,000万円とB社の赤字500万円を相殺し、A社とB社を合わせた課税所得は500万円となります。この500万円に対して法人税を計算すると「500万円 × 30% = 150万円」です。
このケースでは、損益通算を行うことで、グループ全体の納税額は300万円から150万円に減少します。連結納税により、法人税の対象となる所得が減少し、結果として支払う税金も少なくなる可能性があるのです。
単体申告では、親会社Aは1,000万円に対する税金を支払い、子会社Bは赤字を繰り越さなければなりませんが、連結納税ではグループ全体での節税効果が得られます。特に、複数の企業が利益と損失を出している場合に有効で、グループ全体のキャッシュフローの改善にもつながります。
親会社の繰越欠損金をグループ全体で控除できる
繰越欠損金とは、企業が過去に発生した損失を将来の利益と相殺するために繰り越せる金額のことです。通常、個別の企業が繰越欠損金を利用する場合、その企業の将来の利益と相殺します。
しかし、連結納税制度を利用すると、親会社の繰越欠損金を連結する子会社間で共有することができます。具体的には、親会社が過去に発生させた損失を、連結納税グループ内の他の企業の利益と相殺することが可能です。これにより、企業全体の税負担を軽減できます。
例えば、親会社Aが過去に1,000万円の欠損金を繰り越しているとします。現在、子会社Bが2,000万円の黒字を出している場合、連結納税を適用すると、親会社Aの繰越欠損金1,000万円を子会社Bの黒字から控除できます。グループ全体の課税所得は「2,000万円 – 1,000万円 = 1,000万円」であるため、結果として支払う法人税が減少するのです。
単体申告では、親会社Aの欠損金はそのまま繰り越され、子会社Bは2,000万円に対する税金を支払います。しかし、連結納税ではグループ全体での節税効果が得られます。この仕組みは、特に親会社が過去に多額の欠損金を抱えている場合に有効です。
なお、親会社以外の子会社が持つ繰越欠損金については、連結納税グループに持ち込めても、他の会社の利益と相殺することはできません。連結納税を開始する時点で、5年以上の完全支配関係がある子会社の繰越欠損金は持ち込めますが、その欠損金はその子会社の所得の範囲内でしか控除できないのです。
したがって、子会社間での納税額については、個別納税の場合と比べて特にメリットは得られないと言えます。
繰延税金資産の回収可能性が高まる
繰延税金資産とは、将来の税金の支払いを減少させる効果がある資産のことです。
例えば、子会社Bが今期に多額の損失を出し、将来の利益見込みが低い場合、個別の財務諸表ではその損失を繰延税金資産として計上することが難しいかもしれません。しかし、連結財務諸表では、親会社Aが利益を出している場合、その利益と子会社Bの損失を相殺することで、繰延税金資産の回収可能性が高まります。
連結納税を行うことで、グループ全体の利益と損失を相殺できるため、繰延税金資産を回収しやすくなります。特に、複数の企業が異なる収益状況にある場合に有効で、企業全体の税務戦略を最適化することが可能です。
税額の控除額が増える
税額控除とは、企業が支払うべき税金から直接差し引ける金額のことです。研究開発費や設備投資に対する税額控除などが該当します。
連結納税制度を利用することで、グループ全体での税額控除の適用が可能です。具体的には、親会社や子会社が個別に取得した税額控除を共有し、相互に利用できます。これにより、全体の税負担をさらに軽減できるのです。
例えば、ある子会社が大規模な研究開発を行い、その結果として多額の税額控除を取得したとします。この税額控除は通常、その子会社の税金から差し引かれますが、連結納税制度を利用することで、他の利益を出している子会社や親会社の税金からも差し引くことが可能です。これにより、グループ全体での税額控除の適用額が増え、全体の税負担が減少します。
具体例として、A社の法人税額が200万円、B社の法人税額が100万円のケースを考えてみましょう。このとき、A社が30万円の税額控除を保有していて、B社には税額控除がなく、税額控除の適用上限が法人税額の10%だとします。
単体申告では、A社は法人税額の10%である20万円しか控除できず、残りの10万円は控除できません。しかし、連結納税を適用すると、A社とB社の法人税額を合計した300万円の10%である30万円が控除でき、全額を活用することが可能です。
上記のように、連結納税によりグループ全体で税額控除を最大限に活用できるため、結果的に税負担が軽減されます。
組織再編の前後で法人税の負担が変わらない
組織再編とは、企業グループ内での合併や分割、株式交換などの再編成を指します。組織再編を行うと、再編前後で各企業の利益や損失の状況が変わり、それに伴って法人税の負担も変動することが一般的です。
しかし、連結納税制度を利用することで、グループ全体での税務が一元管理されるため、組織再編前後での法人税の負担が変わらないように調整されます。具体的には、再編前の利益や損失が連結納税グループ全体で引き継がれるため、再編後も同じように利益と損失を相殺できます。
例えば、ある子会社が他の子会社と合併する場合、合併前の利益や損失は連結納税グループ全体で計算されているため、合併後もその利益や損失がグループ全体で引き継がれます。これにより、合併前後で法人税の負担が変わらず、グループ全体の税務が安定して管理されるのです。
連結納税制度を活用することで、組織再編を行った際にも資産や欠損金をそのまま引き継ぎ、再編前後での法人税の負担が変わりません。これにより、税務上の複雑な手続きを避け、スムーズに組織再編を実施できます。
関連記事:受取配当等の益金不算入の改正
連結納税における6つのデメリット
連結納税を適用する際、税制上のメリットだけでなく、デメリットを受けることもあります。ここでは、連結納税を導入する前に考慮すべき6つの点について解説します。
子会社の繰越欠損金が切り捨てられる
連結納税におけるデメリットの一つとして、子会社の繰越欠損金が切り捨てられ、十分に活用されない可能性があります。
例えば、子会社が単独で申告を行い、ある年度に1,000万円の欠損金を計上したとします。この欠損金は通常、翌年度以降の黒字と相殺して法人税を軽減するために利用できます。しかし、連結納税グループに加入すると、繰越欠損金はグループ全体の所得と相殺できず、子会社自身の黒字としか相殺できません。
仮に、翌年度に連結納税グループに加わり、グループ全体の所得が2,000万円であったとしても、子会社の所得が100万円であれば、1,000万円の繰越欠損金のうち100万円しか相殺できません。結果として、残り900万円の欠損金は活用されず、税負担が増える可能性があります。
中小企業向けの特例が適用されない
連結納税では、中小企業向けの特例が適用されなくなることがあります。連結納税グループに中小企業が属している場合は、単独で申告する場合に比べて税制上の優遇措置を受けられず、税負担が増加する可能性があるのです。
例えば、中小企業者等の法人税率の特例では、資本金1億円以下の法人は所得800万円以下の部分が軽減税率の適用対象です。しかし、連結納税制度では親会社の資本金が基準となるため、親会社の資本金が1億円を超える場合、子会社が資本金1億円以下でもこの特例は適用されません。
また、交際費等の損金不算入制度の特例も同様です。通常、資本金1億円以下の法人は年間800万円までの交際費を損金に算入できますが、連結納税グループに入ると親会社の資本金が1億円を超える場合、この特例は適用されなくなります。
このように、連結納税により中小企業向けの特例が適用されなくなることで、税負担が増加する可能性があります。
計算構造が複雑で手間がかかる
連結納税では、親会社と各子会社間で利益や損失の情報を取りまとめ、統合された税務計算を行う必要があります。
例えば、ある子会社が利益を計上し、別の子会社が損失を計上した場合、それらを合算してグループ全体の所得を算出します。この過程で一つの子会社でミスが発生すると、連結全体の計算が狂い、大幅な手戻りが生じる可能性もあるのです。
さらに、通常の単体納税よりも高度な管理が求められるため、経理部門の負担が増加します。正確な税務処理には、ITツールの導入や税理士など専門家のサポートが有効です。
事業税・住民税・消費税には連結納税制度がない
連結納税を適用した場合、法人税は一括して申告・納付できますが、事業税・住民税・消費税は各法人が個別に申告・納付しなければなりません。親会社と複数の子会社がある場合、それぞれが個別に事業税や住民税、消費税の申告を行う必要があるのです。
グループ全体の税務戦略を立てる際には、法人税以外の税負担も考慮する必要があります。
連結納税グループからの離脱が難しい
連結納税制度を一度適用すると、原則として継続して適用しなければなりません。グループ内の関係が悪化した場合や、連結納税のデメリットが明らかになった場合でも、やむを得ない理由がない限り、簡単に離脱することはできません。
離脱するためには、連結完全支配関係の解消などの特定の条件を満たす必要があります。例えば、連結子法人が親法人との間で完全支配関係を有しなくなった場合や、連結子法人が消滅した場合などです。いずれの場合でも、株式の売買など煩雑な手続きが伴い、時間と労力がかかります。
さらに、離脱後の税務手続きも複雑です。子会社が連結納税グループから離脱した場合、会計期間の始めから離脱前日までの期間(みなし事業年度)について申告を行う必要があります。申告には、貸倒引当金の計算や受取配当金の益金不算入の計算など、特別な留意点が多く含まれます。また、離脱した法人が青色申告の承認を受ける場合、特定の期限内に申請書の提出が必要です。
離脱に条件があることや手続きが煩雑である点、離脱後の手続きを考慮すると、連結納税グループからの離脱は難しいと言えるでしょう。
実務的な決算日を統一する必要がある
連結納税では、グループ全体で同時に税務申告を行うため、子会社は親会社の決算日に合わせて決算を行わなければなりません。もし決算日が異なる場合、子会社は親会社に合わせてみなし決算を行う必要があります。そのため、実務的には決算日の統一が求められます。
特に連結納税制度の導入初期において、決算日を統一することで各社の経理部門に負担がかかる場合があり、特に上場企業ではタイトなスケジュールでの対応が求められます。
連結納税制度とグループ通算制度との違い
連結納税制度と似たような納税制度に「グループ通算制度」があります。両者は企業グループ全体の税務を一元管理するための制度ですが、その仕組みや適用範囲には違いがあります。
以下の表に、連結納税制度とグループ通算制度の違いをまとめました。
項目 | 連結納税制度 | グループ通算制度 |
適用範囲 | 親会社とその100%子会社 | 親会社とその100%子会社 |
税務申告 | 親会社が一括して申告 | 各企業が個別に申告 |
利益と損失の相殺 | 可能 | 可能 |
管理の一元化 | 可能 | 不可(柔軟性が高い) |
連結納税制度は、親会社とその100%子会社が連結して納税を行う制度で、グループ内の利益と損失を相殺し、全体としての税負担を軽減することが可能です。各子会社の個別の税務申告は不要で、親会社が一括して申告を行います。
グループ通算制度は、基本的には連結納税制度と同様に、親会社とその100%子会社が対象となります。各企業が個別に税務申告を行い、その後、グループ全体での通算計算を行います。グループ通算により、グループ内の利益と損失を相殺できますが、連結納税制度とは異なり、親会社が一括して申告を行うわけではありません。
両制度の共通点として、グループ内の利益と損失を相殺できる点が挙げられますが、連結納税制度は親会社が一括して申告を行うのに対し、グループ通算制度では各企業が個別に申告を行う点が大きな違いです。連結納税制度は一元的な管理が可能である一方、グループ通算制度は柔軟性が高いと言えます。
関連記事:子会社を作るメリットは?設立における注意点や手続きの内容について
連結納税のメリット・デメリットを考慮して導入を検討しよう
連結納税制度には、税負担の軽減やグループ全体の損益通算といったメリットがある一方で、計算の複雑化や特例の適用除外などのデメリットも存在します。企業ごとに状況が異なるため、導入前に自社の経営環境や税務戦略を十分に検討することが重要です。
連結納税のメリット・デメリットについてさらに詳しく知りたい方や、導入後の影響について不安がある方は、私たち「小谷野税理士法人」が全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。