企業が利益を上げた際、その一部を配当として株主に還元せずに蓄積する資金を「内部留保」と呼びます。内部留保は、企業の成長や安定を支える重要な資金源です。しかし、その使い道や影響については賛否両論があります。この記事では、内部留保の具体的な用途や国内企業の内部留保事情についても詳しく説明します。内部留保を効果的に活用し、企業の成長や安定性を高めましょう。
目次
内部留保とは企業が一定期間溜めておく資金
内部留保とは、企業が得た利益の一部を配当として株主に還元せずに、企業内部に留め置く資金のことを指します。企業は内部留保により、将来の投資や不測の事態に備えるための資金を蓄えることが可能です。一般的には利益剰余金を指します。
企業は内部留保を活用して、設備投資や研究開発(R&D)、人材育成、リスクマネジメントなど、さまざまな用途に資金を投入します。企業の財務基盤を強化し、経済の変動や不測の事態に対する耐性を高める役割を果たすのです。
例えば、新規事業の立ち上げや設備投資、研究開発などに充てることや、経済的な不況や市場の変動に対するリスクヘッジとしても機能します。内部留保を管理・運用することで、企業は持続的な成長を目指せるでしょう。
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内部留保を高めることのメリット
内部留保を高めることには多くのメリットがあります。ここでは、主なメリットとして以下の3つのポイントについて解説します。
財務の安定化が図れる
内部留保を高めることで、企業の財務基盤が強化されます。経済の変動や不測の事態に対する耐性が高まり、企業は安定した経営を続けられるのです。
例えば、景気後退や自然災害などのリスクに対して、内部留保があることで迅速に対応し、事業の継続性を確保することが可能です。
競争力を強化できる
内部留保を活用することで、企業は設備投資や研究開発(R&D)に資金を割くことが可能です。企業の競争力を強化し、持続的な成長を目指せます。
例えば、新しい技術の開発や生産設備の更新など、将来的な成長を見据えた投資が可能です。
株主への還元に充てられる
内部留保は株主還元の一環としても利用されます。将来的に配当金の増額や自社株買いなどを通じて、株主に還元することが可能です。
株主の信頼を得ることにもつながり、企業の株価の安定を目指せます。安定した配当金の支払いを続けることで、株主の満足度を高められるでしょう。
内部留保を高めることのデメリット
内部留保を高めることで、企業の成長意欲が低下したり、株主の満足度が低下したりする可能性があります。以下に、具体的なデメリットを解説します。
企業の成長意欲を低下させる
過剰な内部留保は、企業の成長意欲を低下させる可能性があります。内部留保が多いと、企業はリスクを取ることを避け、安全志向に走りがちであるからです。
新たな投資や挑戦を控えることになり、企業の成長が停滞する恐れがあります。例えば、内部留保が多い企業は、新規事業への投資や市場拡大のためのリスクを避ける傾向が強くなります。
株主からの批判を招く
株主は企業の利益を享受する権利があるため、内部留保が多いと「株主還元が不十分である」との批判を招くことがあります。配当金の増額や自社株買いが行われず、株主の満足度が低下する可能性もあるでしょう。
企業が内部留保を優先するあまり、株主への配当金が少なくなると、株主の信頼を失うリスクがあるのです。
資金効率が低下する
内部留保の増加は、企業の資金効率の低下を招くとも考えられます。資金が有効に活用されず、企業の資本効率が悪化することで、全体の経営効率が低下するリスクがあるのです。
内部留保が多い企業は、資金を有効に活用できず、結果として経営資源の無駄遣いにつながる可能性があります。
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一部の企業には内部留保に税金がかかる
特定の条件下では内部留保に税金がかかることがあります。特に「特定同族会社」と呼ばれる企業に対しては、内部留保に対して「留保金課税」という税金が課されます。具体的には、以下の条件を満たす会社が対象です。
- 株主のうち、上位1位グループの持株割合が50%超であること
- 資本金が1億円を超える会社、または資本金5億円以上の会社の100%子会社であること
留保金課税は、特定の同族会社が内部留保した利益に対して追加で課税される制度です。企業が過度に利益を内部に留保することで、株主への配当を避け、税負担を軽減しようとする行為を抑制する目的で導入されました。
対象となるのは、資本金が1億円を超える特定同族会社に限られますが、一定の留保控除額を超える内部留保に対して課税されます。このため、企業は内部留保を増やすことで税負担が増加するリスクがあり、資金の効率的な運用が求められます。
内部留保の使い道
企業が利益を上げた際、その一部を配当として株主に還元し、残りを内部留保として蓄えることがあります。ここでは、内部留保の具体的な使い道について説明します。
設備投資
内部留保は、企業の成長と競争力を維持するための資金源として、その多くは設備投資に使われます。例えば、新しい工場や生産ラインの建設、最新の機械や技術の導入など、企業の生産能力を向上させるための投資が該当します。
設備投資により、製品やサービスの品質向上や生産効率の向上が期待でき、市場での競争力の強化にもつながるでしょう。設備投資は長期的な視点で企業の成長を支えるものであり、持続可能な発展を目指す上で欠かせない要素と言えます。
さらに、環境に配慮した設備の導入やエネルギー効率の向上を図ることで、企業の社会的責任(CSR)を果たすことも可能です。
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研究開発(R&D)への投資
内部留保は、企業のイノベーションを推進するための研究開発(R&D)への投資にも使われます。新製品の開発や既存製品の改良、新技術の研究など、企業が市場のニーズに応え、競争力を維持するための活動に資金を投入するのです。
特に、技術革新が急速に進む現代において、R&Dへの投資は企業の将来を左右する要素です。内部留保を活用することで、企業はリスクを抑えつつ新しい挑戦を続けられ、持続的な成長を目指せます。
また、R&Dへの投資は、特許取得や技術ライセンスの収益化を通じて、企業の収益基盤を強化することにもつながります。
人材育成
企業の成長と成功には、優秀な人材の確保と育成が不可欠です。そのため、内部留保は社員のスキルアップや教育研修、福利厚生の充実など、人材育成にも使われます。
具体的には、専門的な知識や技術の習得支援を目的とした研修の実施や、リーダーシップ開発プログラムの導入などが考えられます。社員のモチベーションを高め、企業全体の生産性を向上させることにもつながるでしょう。
また、福利厚生の充実は、社員の働きやすい環境を整えることで、離職率の低下や優秀な人材の確保も期待できます。
内部留保を活用した人材育成は、企業の長期的な競争力を支える重要な戦略です。
リスクマネジメント
内部留保は、企業が直面するリスクに対する備えとしての役割も果たします。経済の変動や不測の事態に備えて資金を蓄えておくことで、企業は財務の安定化を図ることが可能です。
例えば、景気後退や自然災害、サプライチェーンの混乱などのリスクに対して、内部留保があることで迅速に対応し、事業の継続性を確保することが可能です。
また、税務リスクへの対応や税務戦略の実行に必要な資金を確保することで、企業は法的リスクを最小限に抑え、健全な経営を維持できます。
リスクマネジメントにおける内部留保の活用は、企業の持続可能な発展を支える上でも有効です。
株主への還元
内部留保は、株主還元の一環として利用されることがあります。企業が安定した利益を上げ続けることで、将来的に配当金の増額や自社株買いなどを通じて株主に還元することが可能です。
配当金の増額は、株主に対する直接的な利益還元となり、株主の満足度を高める効果があります。また、自社株買いは市場に流通する株式数を減少させることで、株価の上昇を促し、株主価値の向上につながります。その結果、企業は株主の信頼を得て、長期的な投資が期待できるでしょう。
株主への還元は、企業の財務戦略の一環として位置づけられ、内部留保を株主還元に活用することで、企業の成長と株主価値の最大化を図れます。
新市場への進出
企業が国内外の新しい市場に進出するためには、初期投資や市場調査、現地法人の設立など、多額の資金が必要です。内部留保を活用することで、新市場への進出にかかる費用を賄い、リスクを抑えた事業拡大が実現しやすくなります。
新市場への進出は、企業の成長戦略の一環としても重要で、新たな収益源の確保によって企業の収益基盤を強化できます。また、新市場での成功は、企業のブランド価値を高め、グローバルな競争力を向上させることにもつながるでしょう。
内部留保を活用した新市場への進出は、企業の持続的な成長を支える要ともなる戦略です。
デジタルトランスフォーメーション(DX)への投資
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、デジタル技術を活用して業務プロセスを改善し、効率化を図る取り組みです。内部留保を活用することで、クラウドサービスの導入やAI技術の活用、データ分析基盤の整備など、DXに必要な投資を行えます。業務の効率化やコスト削減を実現し、競争力を強化できるでしょう。
また、DXは新しいビジネスモデルの創出や顧客体験の向上にもつながり、企業の成長を加速させる要素となります。内部留保を活用したDXへの投資は、企業の未来を切り拓く手段の一つとも言えます。
環境・社会・ガバナンス(ESG)への対応
企業が持続可能な成長を目指すためには、環境保護や社会貢献、ガバナンスの強化が不可欠です。内部留保を活用することで、再生可能エネルギーの導入や省エネルギー対策、地域社会への貢献活動など、ESGに関連する取り組みを推進できます。これにより、企業は社会的責任を果たし、ステークホルダーからの信頼を得ることが可能です。
また、ESGへの対応は、企業のブランド価値を高め、長期的な競争力を維持するためのきっかけともなります。内部留保を活用したESGへの対応は、企業の持続可能な発展を支える基盤となるでしょう。
M&A(企業の買収・合併)の原資
企業が他社を買収・合併することで、事業の多角化や市場シェアの拡大を図れます。内部留保を活用することで、M&A(企業の買収・合併)に必要な資金を確保し、迅速かつ効果的に取引を進めることが可能です。
M&Aは、企業の成長戦略の一環として位置づけられ、新たな技術やノウハウの獲得、シナジー効果の創出など、多くのメリットがあります。また、M&Aを通じて企業の競争力を強化し、市場での地位を向上させることも可能です。
関連記事:事業承継とM&Aの違いは?メリット・デメリットや流れを解説
国内企業における内部留保の現状
日本の企業における内部留保の使い道は、近年ますます注目を集めています。特に、日本の大企業では、内部留保の額が増加傾向にあり、その使い道や意義について議論が活発化しています。
内部留保増加の背景には経済の不確実性がある
リーマンショックや新型コロナウイルスのパンデミックなど、予測不能な経済ショックが企業経営に大きな影響を与えました。これにより、多くの企業が財務の安定化を図るために内部留保を積み増す傾向が強まっています。
内部留保を蓄えることで、企業は経済の変動に対する耐性を高め、事業の継続性を確保できるのです。
一方で、内部留保の増加に対する批判も存在します。特に中小企業や株主からは、内部留保の過剰な蓄積が企業の成長を阻害し、株主還元が不十分であるとの指摘があります。内部留保を活用し、株主やステークホルダーに対する説明責任を果たすことが求められているのです。
さらに、政府や経済団体も内部留保の活用を促進するための政策を打ち出しています。例えば、「研究開発税制」や「中小企業投資促進税制」など、税制優遇措置や補助金制度を通じて、企業が内部留保を積極的に投資に回すよう奨励しています。企業の成長を支援し、経済全体の活性化を図ることが期待されているのです。
今後も内部留保は増加する見通し
内部留保が多いと、企業の成長意欲が低下するとの批判もあります。しかし、2020年のコロナ禍では、内部留保が企業の倒産を防ぎ、資金繰りの問題を解決する助けとなりました。経済成長の見通しが立つまで、日本企業は防衛策として内部留保を増やす傾向が続くと考えられます。
ただし、国内企業における内部留保は、企業の成長と安定を支える重要な資金源であることには変わりません。経済の不確実性が高まる中で、内部留保を戦略的に活用することで、持続可能な発展を遂げられるでしょう。
内部留保を戦略的に活用しよう
この記事では、内部留保の有効な活用方法として、設備投資や研究開発、人材育成、株主還元など9つの具体的な用途を紹介しました。これらの用途を自社の状況に合わせて選択し、バランスよく運用することで、企業は持続的な成長を実現できるでしょう。
内部留保は企業の成長と安定を支える重要な資金源です。コロナ禍を経て、日本では今後も内部留保を増やす動きが予想されますが、内部留保を戦略的に活用することで、事業のさらなる発展が期待できます。
内部留保の運用に関する詳細なアドバイスや具体的な戦略については、私たち「小谷野税理士法人」が全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。