マイクロ法人とは、その名称の通り、小規模な経営形態の法人です。マイクロ法人に明確な定義は設けられていませんが、従業員はごく少ないか、雇わないことが一般的です。代表者が株主と役員を兼任し、会社唯一の従業員というケースもあります。そんなマイクロ法人を設立するとしたら、どのような業種が適しているのでしょう。メリットや注意点とともに、マイクロ法人について掘り下げます。
目次
マイクロ法人の業種におすすめな分野の特徴
マイクロ法人を立ち上げる際、どのようなビジネスを行うべきかの選択は重要です。
マイクロ法人におすすめな業種と、分野の特徴を紹介します。業種を選ぶ際の参考にしてみてください。
在庫数や仕入れコストが少ない
マイクロ法人は小さな経営形態であるため、役員や従業員を代表が兼ねている場合は特に、範囲内で扱える商品の種類や個数には限度があります。
しかし、これを活かした業種であれば、在庫を管理するスペースも小さくて済み、仕入れコストも抑えられ、資金を効果的に運用できます。
設備などの初期投資が少ない
事業を立ち上げるときには初期投資が必要であり、その資金は業種で異なります。
マイクロ法人の場合は経営形態が小さいことから、仮に初期投資が高額だった場合、回収までに時間がかかってしまいます。施設や設備などへの投資が少ない業種を選ぶことで、初期費用を抑えられます。
小さな規模で起業できる
マイクロ法人は、事業所や会社のオフィスそのものが省スペースで済みます。業種によっては自宅に事務所を置き、家賃やレンタル料といった施設の維持コストを削減できます。
マイクロ法人を設立する際は、小さな経営形態であることを活かし、事業の経費を抑えられる業種がおすすめです。
関連記事:マイクロ法人とは?マイクロ法人設立のメリットやデメリット、設立の流れを徹底解説
マイクロ法人のおすすめ業種
一口にマイクロ法人と言っても、その業種はさまざまで、適している業種と適していない業種があります。そこでここでは、マイクロ法人におすすめな業種の具体例を説明します。
資産運用・資産管理
不動産投資・株式投資・FX・仮想通貨など、個人の資産運用や資産管理を行う会社設立は、マイクロ法人に適しています。
そのような資産を個人で運営・管理していると、多くの利益を産んだときに高い納税額が発生します。
近年は資産運用や管理を目的としたアプリ・サービスも多く開発されているため、需要も高いと考えられるでしょう。
しかし、資産運用や資産管理を行うマイクロ法人を設立すれば、個人のときと比べて税制的に有利になり、節税へとつなげられるでしょう。
コンサルティング
自分が持っている専門知識やスキルを活かし、コンサルタントを行うこともマイクロ法人にはおすすめです。
扱う内容によりコンサルティングは、ITコンサルタント・経営コンサルタント・財務コンサルタント・人事コンサルタント・マーケティングコンサルタントなど多岐に渡っています。
それぞれ、企業・個人に対して、現状の課題や今後検討していくべき対策などについてアドバイスを提供します。
近年はスキルマーケットなどのサービスが展開されているため、自分の得意領域をコンサルティングサービスとして提供できる環境も整っています。ニーズがあれば収益化も実現しやすいでしょう。
ネット販売
ネット販売はインターネットショッピングとも呼ばれる通り、オンライン上で商品やサービスを提供する業種です。
専用のサイトをイチから作ることもできますが、一般的には既存のネット販売サービスを利用し、自分のオンラインショップを立ち上げます。
ネット販売は実店舗を持たないため、初期投資を抑えられることがメリットです。ただし、扱う商品によっては実店舗と同様に資格や許可が必要です。
アフィリエイト
アフィリエイトとは、成果報酬型広告とも呼ばれるインターネット広告の一種です。商品やサービスのバナー・リンクを自身のブログやSNSに設置し、アクセス数やクリック数で報酬を得ます。
アフィリエイトを成功させるためには、広告を掲載するブログ・SNSのコンテンツを充実させ、多くのアクセス数とクリック数を増やす必要があります。
特定の趣味を持っている場合、ブログやSNSで自分の好きなことについて発信しながらアフィリエイトを行えます。
動画配信
現在ではさまざまな動画配信サービスが存在します。そのサービスを利用し、動画配信を行うことで、広告料や投げ銭などの収入を得ることできます。
動画配信というとカメラや機材が必要というイメージを持たれがちですが、実際はスマホ1つあれば撮影や編集を行えるため、手軽に仕事を始められます。
スマホがあれば初期費用がほぼかからないうえに、近年は動画配信者をマネジメントする会社も増えている状況です。人気配信者を目指すために、プロのサポートを受けながら活動できるのも魅力でしょう。
ただし、人気の動画配信者となるためには内容を充実させ、配信頻度を保つ必要があります。不定期更新は、ファンが集まりにくくなるため注意が必要です。
不動産業
小規模な経営を行うのであれば、不動産の売買仲介・賃貸仲介、建物や設備の管理・賃料の集金や管理を行う会社もマイクロ法人には適しています。
特に、家賃収入を目的とする収益物件の集金・管理は不動産業の需要が高いためおすすめです。
また、最近では海外に目を向けた不動産業も注目を集めています。成長傾向が見られる国で不動産を扱う事業が増えているため、グローバルな会社を展開したい方にも向いているでしょう。
IT・ソフトウェア開発
コンサルティングもおすすめですが、ITの専門知識がある場合は、その技術をフルに活かしてみてはいかがでしょう。ソフトウェアやアプリ、Webサイトの開発を行うことで、より高い収入を得られる可能性があります。
また、IT・ソフトウェア開発は誰もができる業務ではないため、ほかの法人との差別化を図れます。この分野は現在、国内外問わず需要を見込まれている点も魅力です。
社会人向けのオンラインスクールも充実しており、学ぶ環境も整っています。未経験からチャレンジしやすい領域といえるでしょう。
フードデリバリー
フードデリバリーはユーザーにとって利便性が高く、近年注目の業種です。また、経営側からすれば、高い回転率や商圏の広さもフードデリバリーの魅力と言えるでしょう。
フードデリバリーサービスに出店登録するためには、手数料が必要ですが、実店舗を持つより初期費用を安く抑えられます。
もともと飲食店を経営している場合は、フードデリバリーを出店するにあたって、新たな資格や許可を取得する必要はありません。
しかし、完全に新規のフードデリバリー専門店を出店する場合は、実店舗と同様に、扱うメニューやサービスに合わせた資格や許可を取得しなくてはなりません。
マッサージ・整体
マッサージや整体は、基本的に1対1でサービスが提供されることから、規模の小さなマイクロ法人にも適した業種と言えます。マッサージや整体の技術を活かしてリピーターを獲得できれば、安定した収益を期待できます。
ただし、マッサージ・整体にも種類があり、治療を目的としたあん摩マッサージ・指圧・鍼・灸などで起業する場合には、あん摩マッサージ指圧師の国家資格が必要です。
その一方で、筋肉の緊張を解き、体の状態や姿勢を整えるカイロプラクティックやもみほぐしのような整体は、資格がなくても起業可能です。
フランチャイズ
マイクロ法人を設立したいものの、その事業への経験が浅い場合、フランチャイズを利用するという方法もあります。
フランチャイズに加盟すると、その本部へとロイヤリティを支払う代わりに、ブランド力を持つ企業や会社の商標・ノウハウを利用できます。
業種にもよりますが、ハウスクリーニングや学習塾などのフランチャイズであれば、比較的に初期費用も安く抑えられます。
関連記事:マイクロ法人で節約できるのは収入いくらから?社会保険料最安を狙おう
マイクロ法人を設立するメリット
企業や会社は大きいほうが利益も多くなるものですが、あえて小規模な経営形態のマイクロ法人を選ぶことには明確な理由があります。
マイクロ法人を設立することで受けられるメリットを説明します。
所得税の負担軽減
個人の所得税は、所得が多いほど高い税金が発生する累進課税制度が採用されています。最低税率は5%ですが、所得の増加に従って税率も上昇し、最高税率は45%です。
個人の所得に課せられる所得税は、900万円から33%以上に税率が上がります。これに対して、法人税の税率は基本的に23.2%です。
こうしたことからも、マイクロ法人を立ち上げるタイミングは、個人の所得が900万円を超える前が適していると言えます。
社会保険料の負担軽減
個人事業を行っていた場合、事業主が加入できるのは国民年金と国民健康保険です。
一方、法人の場合は、社長や役員、従業員を含め、加入するのは厚生年金・健康保険などの社会保険です。
企業・会社の社会保険は、国民年金や国民健康保険に比べ保険料が低いため、マイクロ法人を立ち上げることにより社会保険料の負担が軽減されます。
さらに、企業・会社の社会保険は、国民年金や国民健康保険より保障が手厚いのも特徴です。
経費の範囲の拡大
経費の範囲の拡大も、マイクロ法人を立ち上げるメリットです。
例えば、個人事業主の支出は事業用とプライベート用を明確に分離させる必要があるため、その内容次第では経費計上できないケースもあります。
これに対して法人の場合は、経費にできる範囲がより拡大されます。
法人化することで経費計上が可能になるのは、主に次のような項目です。
- 住居費
- 車両関連費
- 生命保険料
- 退職手当
- 出張手当
車両関連費は、業務で使⽤する自動車や法⼈名義の車であれば、その⾞両代を経費として計上可能です。ただし、完全なプライベートで使用している自家用車は、もちろん経費として扱われません。
資金調達の手段が増える
法人は、個人事業よりも資金調達の幅が広がります。
まず、起業や事業拡大のため融資を受けるにしても、金融機関からの信用が厚い法人のほうが、審査を通りやすい傾向にあります。
また、マイクロ法人として株式会社を設立することで、株式の発行による資金調達が可能です。
関連記事:【マイクロ法人】後悔例と対策を解説!失敗したらすぐやめられる?
マイクロ法人の設立で気をつけたい点
マイクロ法人は、経営形態を小さくすることで複数のメリットを得られますが、その一方で注意点も存在します。
マイクロ法人を立ち上げる際、気をつけるべきことを把握しておきましょう。
ペーパーカンパニーと誤解されないこと
個人事業よりも法人化したほうが、所得税や社会保険の負担は軽減される可能性があります。しかし、それを目的とし、事業をまったく行っていない場合には、ペーパーカンパニーの疑いをかけられてしまいます。
ペーパーカンパニーとは、会社として登記されているものの、事業の活動実態がない会社を指します。そのためにダミー会社やゴースト会社とも呼ばれています。
節税は大切ですが、マイクロ法人を立ち上げる際にはペーパーカンパニーと誤解されないよう、税理士に相談することをおすすめします。
役員報酬は低額にする
マイクロ法人の役員報酬は、低額であるほうが、所得税・住民税・社会保険料の負担を抑えられます。
ただし、だからと言って低く設定しすぎないように、役員報酬の金額は税率や保険料を考慮した上で決めるのが賢明です。
役員報酬は、一旦決定すると、基本的に1年間は変更できません。
また、所得額や税金の計算は専門的知識が必要なことから、適切な役員報酬の金額を知りたい場合は、税のプロである税理士の力を借りましょう。
関連記事:社長給与の決め方とは?中小企業の役員報酬の相場と節税のコツ
無理なく続けられる業種を選ぶ
マイクロ法人は、ほかの経営形態に比べれば、失敗した際のリスクが小さくて済みます。
しかし、もちろん失敗しないに越したことはありません。
マイクロ法人を設立する際は、小規模な経営形態であることを活かし、決して背伸びをせず、まずは無理なく続けられる業種からスタートしましょう。
また、小規模に始めることで、将来的に経営を拡大するのか、今のままの形をキープし続けるのか、柔軟な事業展開が可能です。
関連記事:【税理士監修】一人で会社を作る際の費用と維持費について
マイクロ法人の設立と業種選びの相談は税理士まで
働き方改革の影響に伴い、新しいビジネスモデルの誕生も増えています。中でも、小規模ながら独自の価値を提供するマイクロ法人は、特に注目すべき経営形態と言えます。
ただし、マイクロ法人の設立を成功させるためには、その特徴やメリットをフルに活かす必要があります。
そのためにも、節税・経費・資金調達などさまざまな面において、まずは税理士へと相談をしてみてください。
私たち小谷野税理士法人では、会社設立・融資・補助金・助成金と、複数のサポートを行っています。
マイクロ法人を立ち上げたあとの経営相談を含め、お気軽に問い合わせください。