中小企業は高齢者雇用で助成金を活用でき、税制優遇を受けられる場合があります。少子高齢化社会により、企業の人手不足が深刻化する中、高齢者を雇用すれば労働力不足解消につながります。一方で、雇用の際には健康状態や待遇などに注意が必要です。本記事では、高齢者雇用のメリットや具体的な助成金制度、税制優遇の詳細、雇用時の注意点を紹介します。
目次
高齢者雇用が中小企業にもたらすメリットとは
高齢者雇用は豊富な経験を持つ労働力の確保や業務品質の向上、労働力不足への対応など、中小企業にとってさまざまなメリットがあります。
特に少子高齢化社会の日本では、高齢者雇用が円滑な事業運営に役立ちます。具体例を交えながら、高齢者雇用のメリットを詳しく確認しましょう。
労働力不足を解消し円滑な事業運営に
高齢者の雇用により、労働力不足の解消につながります。特に忙しい時期や業務が集中する際には、高齢者の知識やスキルの活用により、業務を円滑に進められますし、生産性向上や業務の効率化にもなるでしょう。
しっかりとした教育や訓練を行うことで、若手社員と同様に迅速かつ正確な業務を期待できます。
社会的責任を果たし企業イメージの向上に
高齢者雇用は企業としての社会的責任を果たしつつ、企業イメージの向上にもつながります。現在、多くの企業がCSR活動を重要視しており、高齢者を積極的に雇用する姿勢が社会的な評価に結びつきます。
特に、中小企業が高齢者を雇用すると地域社会で信頼を築くことができ、地域に対するイメージ向上にもなるでしょう。
また、高齢者を雇用することで、企業における人材多様性の推進にもつながります。異なるバックグラウンドや価値観を持つ人と一緒に働けば、他の従業員にも新たな視点を与えられるかもしれません。企業文化が豊かになり、社員のモチベーション向上も期待できます。
高齢者雇用を促進する助成金制度
企業の負担軽減や雇用の安定化を支えるため、高齢者雇用の促進を目的とした助成金制度があります。助成金の活用により、高齢者のスキルを組織の強みに変えられる可能性が高まります。継続雇用と新規雇用に分けて、助成金制度を確認しましょう。
継続雇用で受けられる助成金
高齢者を継続して雇用する場合、企業はさまざまな助成金を活用できます。助成金の目的は企業への経済的支援だけでなく、高齢者の雇用促進にもあります。
助成金の条件や支給額は制度によって異なるため、企業に合った助成金を理解して活用することが重要です。具体的な助成金制度の概要を紹介します。
1. 65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)
65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)は、高齢者が安心して就業し続けられる環境や制度を導入した事業主に対して助成するコースです。高齢者の就労機会の確保や希望者全員が安心して働ける雇用基盤の整備を目的としています。
支給の対象となる取り組みは以下の通りです。
- 65歳以上への定年引上げ
- 定年の定めの廃止
- 希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入
- 他社による継続雇用制度の導入
支給条件などの詳細は、以下の公式ページをご確認ください。
参考:65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)|独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
2. 65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース)
65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース)は、高齢者の雇用管理制度の整備などに関する措置を実施した場合に支給される助成金です。
雇用管理制度の具体例としては、以下があります。
- 能力開発
- 能力評価
- 賃金体系
- 労働時間
- 医師または歯科医師による健康診断の実施
上記に関する制度を見直したり、導入したりする場合に助成金を受給できます。申請する際は雇用管理整備計画を作成し、認定を受けなければなりません。
参考:65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース)|独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
3. 65歳超雇用推進助成金(高年齢者無期雇用転換コース)
65歳超雇用推進助成金(高年齢者無期雇用転換コース)は、50歳以上、定年年齢未満の有期労働者を無期雇用労働者に転換させた事業主に助成金を支給する制度です。
申請の際は無期雇用転換計画を作成し、認定を受ける必要があります。対象の労働者1人あたり30万円(中小企業事業主以外は23万円)が支給されます。
参考:65歳超雇用推進助成金(高年齢者無期雇用転換コース)|独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
4. 高年齢労働者処遇改善促進助成金
高年齢労働者処遇改善促進助成金は、60歳から64歳までの労働者の処遇改善に取り組む事業者に対して助成金を支給する制度です。雇用形態にかかわらず、公正な待遇の確保を目的としています。
受給するためには、60歳到達時点で1時間あたりの毎月決まって支払われる賃金と増額改定後の1時間あたりの毎月決まって支払われる賃金を比較して、75%以上に増額する必要があります。
新規雇用で適用される助成金
新規雇用で適用される助成金には、60歳以上の高齢者を雇い入れる際に支給される特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)があります。支給要件や支給金額を確認しましょう。
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)は、高齢者や障がい者といった就職困難者を、継続して雇用する労働者として雇い入れた場合に支給される助成金です。受給するには、ハローワークや民間の職業紹介事業者などの紹介を通じて雇用する必要があります。
60歳以上の高齢者を雇い入れた場合、1人あたり60万円(中小企業事業主以外は50万円)が支給されます。ただし、受給額は1週間の所定労働時間によって異なるため、詳細は厚生労働省の通知を確認してください。
参考:特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース) |厚生労働省
助成金活用のポイント
助成金を活用するには、まず企業が対象となる制度の条件をしっかり把握し、必要な書類や手続きを正確に行う必要があります。助成金は高齢者の安定した雇用を維持するだけでなく、労働力の確保や企業の社会的責任を果たす上でも役立ちます。
さらに、高齢者の持つ豊富な経験や知識を労働力として取り入れられると、業務効率の向上や問題解決にもつながるでしょう。適切に制度を活用することで、企業の経済的負担を軽減でき、従業員満足度の向上や労働環境の改善も期待できます。
正確な受給条件や申請方法については、関連機関の公式サイトや窓口を通じて確認してください。
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再雇用制度で活用できる節税対策
再雇用制度を活用することで、高齢者の労働力を確保しつつ、税制優遇制度を利用した節税が可能です。以下では、具体的な優遇措置の内容や活用方法について詳しく解説します。
退職一時金を活用した節税
高齢者を再雇用する際、退職一時金を活用することで従業員の所得税負担を軽減できます。退職一時金を受け取る際には、以下の退職所得控除が適用されます。
<退職所得控除>
- 勤続年数が20年以下の場合:40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
- 勤続年数が20年超の場合:800万円+70万円×(勤続年数-20年)
仮に、勤続40年の人が2,500万円の退職一時金を受け取る場合、課税対象となる退職所得の額は以下になります。
退職所得控除額=800万円+70万円×(40年-20年)=2,200万円
課税対象となる退職所得の額=(2,500万円-2,200万円)×1/2=150万円
退職一時金の場合は上記で求めた150万円に対して税金がかかるため、従業員の手取り金額を増やせます。
さらに、定年後の再雇用期間に対しても、再雇用を終了する段階で退職一時金の支給が可能です。
例えば、60歳から65歳までの再雇用期間を経て退職一時金を受け取る場合、退職所得控除額は200万円(40万円×5年)です。報酬の一部を給与や賞与ではなく、退職一時金として受け取ることで節税メリットを受けられます。
ただし、退職所得控除を受けるには前回の退職所得を受け取ってから5年超(確定拠出年金の場合は19年超)経過している必要があるため、過去に退職一時金を受け取った場合は経過年数に注意してください。
制度を理解し、退職一時金を上手に活用すれば、従業員にとって働きやすい環境を整備できます。労働力を確保して企業全体の生産性も高め、長期的な成長につなげていきましょう。
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雇用促進税制の活用による控除
雇用促進税制を活用すると、中小企業は法人税の税額控除を受けられます。雇用促進税制とは、同意雇用開発区域内に所在する事業所が無期雇用かつフルタイム雇用者を増やした場合に、1人あたり最大90万円の税額控除が受けられる制度です。
雇用促進税制が受けられるのは中小企業や個人事業主で、資本金、従業員数など一定の条件を満たす必要があります。また同意雇用開発区域とは、地域雇用開発促進法に定められている地域のことです。
雇用促進税制の控除は企業の経済的負担を減らし、浮いたお金を社内の人材育成や事業投資に回せるため、企業競争力の強化につながります。
高齢者雇用は社会全体のニーズにも沿った流れであり、企業としても優遇税制を積極的に活用し、効果的な事業運営を行うのが大切です。
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高齢者雇用における企業の注意点
高齢者雇用を進めるためには、健康状態や身体能力に配慮し、経験やスキルを活かした業務設定が重要です。ここからは、高齢者が安心して働き続けられる環境を整える上での注意点を解説します。
健康状態や身体能力に配慮する
高齢者を雇用する際には、健康状態や身体能力に気を配る必要があります。仕事内容によっては健康に影響を及ぼす可能性があるため、徐々に業務量を増やしたり、内容を調整したりなど柔軟な対応が大切です。
例えば、肉体労働が中心の業務においては、過度な負担を避け、軽作業を割り振るといった配慮が必要でしょう。
また、定期的に健康診断を行い、体調の変化に早期に気づくことも大切です。企業が従業員の健康維持に積極的な姿勢を見せることで、高齢の従業員に安心感を与えられます。
業務の選択肢が増えれば従業員のモチベーションも上がり、職場全体の活気維持にもつながります。
賃金や待遇を適切に設定する
高齢者を雇用する際、賃金や待遇についても慎重に検討する必要があります。生活水準を維持するためには、適切な賃金を設定しなければなりません。特に、他の年齢層の従業員と同等の働きを期待する場合には、働きに見合った報酬設定が重要です。
昇給や賞与についても同様の配慮が必要です。高齢者が持つ経験を尊重し、公平な評価制度の設定が、職場でのモチベーション向上につながります。賃金や待遇面の見直しにより、高齢者が安心して働ける環境を整え、優秀な人材を安定して確保しましょう。
まとめ
高齢者雇用は企業成長や職場の活性化を支え、労働力不足の解消にもつながります。高齢者の経験やスキルを伝え、教育によって若手社員の成長を促せば、企業価値も向上させられます。
高齢者を雇用する際は健康状態に応じた業務内容の見直しや、公平な待遇や評価制度の整備が必要です。助成金や税制優遇制度などを活用しながら高齢者雇用を進め、幅広い世代が共に活躍できる環境を整えましょう。
さまざまな制度を活用し、節税や助成金の恩恵を受けるには、専門家である税理士への相談がおすすめです。