民泊を個人事業主として始めるメリットは、法人よりも初期費用が少なく、開業も廃業も簡単にできる点です。また、事業が軌道に乗ったら法人化も可能です。ただし、すでに年間の利益が800万円以上見込める場合は、いきなり法人として始める方が節税になるケースもあります。この記事では、民泊を始める際の事業形態選びについて解説します。
目次
民泊を始めるなら事業形態は個人事業主か法人のどちらか
民泊事業を始める際は、まず事業形態を選びます。事業形態は、個人事業主と法人の2種類があります。
まず個人事業主として始めるのが向いているか、いきなり法人として始めるのが向いているか、下記の表でチェックしましょう。
まずは個人事業主として始めるのが向いているケース | いきなり法人として始めるのが向いているケース |
|
|
参考:所得税の税率|国税庁
参考:法人税の税率|国税庁
この記事では、個人事業主として始めるメリットを解説します。
法人ではなく個人事業主で民泊事業を始めるメリット
見込まれる利益が少額であったり不安定であったりする場合は、まずは個人事業主として民泊事業を始めるのがおすすめです。
個人事業主として始めるメリットは、主に以下の3点です。
- 法人よりも初期費用が少なく開業手続きも簡単
- 法人よりも廃業が簡単
- 軌道に乗ったら法人化を検討できる
一つずつ見ていきましょう。
メリット①:法人よりも初期費用が少なく開業手続きも簡単
個人事業主の開業は、法人の設立と比べて初期費用が少なく、手続きが簡単なのがメリットです。下記の表は、開業に関する費用や手続きを大まかに比較したものです。
個人事業主 | 法人(株式会社の場合) | |
設立登記 | 不要 | 必要 |
登記の登録免許税 | 不要 | 15万円〜 |
定款の認証費用 | 不要 | 30,000円〜 |
定款用の印紙 | 不要 | 40,000円(書面定款の場合) |
司法書士への報酬 | 不要 | 約10万円(登記を依頼した場合) |
社会保険への加入 | 任意 | 必須 |
開業の手間 | 税務署に「開業届」を提出するだけ(無料) | 登記申請や定款作成など(有料) |
開業までの所要時間 | 開業届を提出したら即開業 | 登記完了まで2週間~1ヵ月 |
※必要に応じて上記以外の費用が掛かります
個人事業主は税務処理も法人より簡単ですので、税理士費用を掛けずに済む場合があります。
一方、法人の税務処理は複雑で専門知識がないと難しいので、税理士費用が掛かる場合が大半です。また、赤字でも最低70,000円の均等割が必要です。ただ、法人は手間が掛かる分、社会的信用が高いのがメリットです。
個人事業主の開業方法と、法人の設立方法について、詳しくは下記の記事をご確認ください。
【税理士監修】開業届とは?書き方や必要書類、提出方法までの完全ガイド
開業届はオンラインで申請できる?税務署に行かずに提出する手順を解説!
会社設立の費用はどれくらい?かかる主な費用や株式会社・合同会社との違いなどを解説
メリット②:法人よりも廃業が簡単
残念ながら民泊事業がうまくいかなかった場合でも、個人事業主であれば法人よりも簡単に廃業手続きができます。
下記の表は、廃業に関する費用や手続きを大まかに比較したものです。
個人事業主 | 法人(株式会社の場合) | |
廃業届の提出 | 税務署に「廃業届」を提出(無料) | 税務署に「法人解散届」「清算届」を提出(無料) |
登記手続き | 不要 | 法務局で解散・清算結了の登記が必要(有料) |
登記の登録免許税 | 不要 | 解散登記:30,000円 清算結了登記:20,000円 |
専門家への報酬 | 基本的に不要(自分で手続き可能) | 司法書士や税理士への依頼で10~30万円程度 |
社会保険の手続き | 任意加入の場合は簡単に手続き終了 | 社会保険・労働保険の脱退手続きが必要 |
所要時間 | 数日~1週間程度 | 解散~清算完了で3ヵ月~1年程度 |
手続きの複雑さ | 法人より簡単 | 複雑(登記・税務・債務整理など) |
※必要に応じて上記以外の費用が掛かります
個人事業主と法人のそれぞれの廃業方法について詳しくは、下記の記事をご確認ください。
個人事業主は廃業届をいつ出すべき?その書き方と廃業方法
廃業の手続きと費用、廃業後の確定申告について
会社の解散手順は?手続きや清算期間、流れについて紹介
メリット③:軌道に乗ったら法人化を検討できる
後から法人化できることも、個人事業主のメリットです。民泊事業が軌道に乗るかどうか不確実なうちは、個人事業主として運営しリスクを抑えましょう。必要に応じて徐々に拡大し、軌道に乗ったら法人化を検討するのも一つの手です。
例えば年間の所得が800万円以上で所得税率が法人税率を上回った場合、法人化を検討するタイミングと言えるでしょう。法人化するタイミングは他にもあります。詳しくは下記の記事をご確認ください。
民泊事業で個人事業主が経費にできるもの
所得とは基本的に「年収から経費を差し引いた金額」ですので、経費を漏れなく計上できると所得が減り、結果として節税に繋がります。
民泊で経費にできるものの例として、運営上必要なアメニティや日用品といった消耗品費のほか、ゲスト用の通信費などが挙げられます。経費にできるものについて詳しくは、下記の記事をご確認ください。
また、民泊事業に限らず個人事業主が経費にできるものについては、以下の記事でも解説しています。
個人事業主はなんでも経費にできる?注意すべき5つのポイントも解説
個人事業主の経費はいくらまで?経費にできる上限と割合について解説
個人事業主が経費計上できる項目と事例、経費の落とし方を徹底解説!
民泊事業をする個人事業主は所得がいくらから確定申告する?
民泊事業を行う個人事業主は、本業か副業かで所得税の確定申告が必要な所得額が異なります。また、所得税の確定申告が不要でも、住民税の申告が必要な場合があります。
民泊事業が本業なら所得が年48万円を超えたら確定申告が必要
本業として民泊を行っている場合、民泊の所得が年48万円を超えたら確定申告が必要です。民泊以外の所得(事業所得や不動産所得など)がある場合、それらの合計額が年48万円を超えたら確定申告する必要があります。
これは、2022年以降の基礎控除額(48万円)に基づいています。
参考:基礎控除|国税庁
自営業におすすめの副業は?確定申告や社会保険・雇用保険も解説
民泊事業が副業なら所得が年20万円を超えたら確定申告が必要
サラリーマンやパートが本業で給与所得がある場合、民泊の所得が年20万円を超えたら確定申告が必要です。給与と民泊以外にも所得(不動産所得など)がある場合、給与以外の所得の合計額が年20万円を超えたら確定申告する必要があります。
節税になる制度や控除を使うなら所得に関係なく確定申告が必要
節税になる制度や控除を使いたい場合は、所得額に関係なく確定申告が必要です。例として、青色申告特別控除、損益通算、医療費控除、住宅ローン控除などの適用が挙げられます。
損益や控除を適用するには収入や控除額の詳細を税務署に届け出る必要があるため、確定申告が義務付けられているのです。青色申告や損益通算、控除について、詳しくは下記の記事をご確認ください。
個人事業主の青色申告とは?いくらから必要?メリット・デメリットや帳簿の書き方などについて解説!
個人事業主に適用される所得控除はいくつある?控除の種類や注意点を解説
税金の控除とは?節税のために知っておきたい種類や目的を詳しく解説!
所得税の確定申告が不要でも住民税の申告が必要
所得税の確定申告が必要ない所得額でも、年末調整や確定申告でカバーされない所得がある場合は住民税の申告が必要です。
住民税の申告方法は下記の記事で解説しています。記事内の「所得税の確定申告をしない際に住民税を申告する方法」の章をご確認ください。
民泊事業をする個人事業主が確定申告する方法
確定申告とは、1年間の所得と税額を計算し、税務署に報告する手続きです。確定申告が必要なのに確定申告をしないと、ペナルティを科せられますのでご注意ください。
まずは所得区分を把握!「事業所得」だと節税効果が高い
民泊事業の所得は基本的に「事業所得」か「雑所得」に分類されます。どちらの所得区分に該当するかは事業の形態や規模によって異なりますが、事業所得に分類されると節税効果が高まります。
よって、所得区分は節税面で重要です。まずは下記の表を見て、自分がどちらかの所得区分かを把握しましょう。見ても分からない場合は、確定申告前に税務署に相談すると不要なトラブルを防げます。
事業所得 | 雑所得 |
|
|
事業所得の方が節税効果が高い理由は、青色申告が可能で、損失が出た場合は他の所得との損益通算もできるからです。一方、雑所得は青色申告も損益通算もできません。
まれに、不動産所得がすでにある場合、不動産所得に分類されるケースもあります。不動産所得も事業所得と同様に青色申告や損益通算が可能です。不動産所得か迷う方は、確定申告前に税務署か税理士にご相談ください。
収入や利益が記録された帳簿をもとに確定申告する
自分の所得区分が分かったら、いよいよ確定申告の手続きに進みます。その際、手元に収入や利益が記録された帳簿をご用意ください。確定申告で必要です。民泊事業に関する確定申告の詳しい手順は下記の記事で解説しています。ご確認ください。
民泊事業における収入について|かかる税金や確定申告の必要性を解説
個人事業主として民泊を始める際は税理士にご相談ください
まず個人事業主として開業すべきか、いきなり法人を設立すべきか悩んだら、民泊事業を始める前に税理士にご相談ください。個別の状況に即したシミュレーションを実施し、節税に関する具体的なアドバイスを提供できます。
また、運営上の税務や確定申告に関するサポートも行っています。税金面での心配事を税理士に任せれば、ゲストのおもてなしに集中できますよ。