バーチャルオフィスとは、物理的なオフィススペースを持たず、住所や電話番号のみを提供するサービスです。特に個人事業主やスタートアップ企業にとって、コスト削減やプレステージの向上といったメリットがありますが、その住所を事業の登記や納税地として使用することは可能なのでしょうか。この本記事ではバーチャルオフィスを納税地とする際の法的側面や実務上のポイント、さらには個人事業主と法人で異なるケースについて詳しく解説します。
目次
バーチャルオフィスは開業届の納税地として記載が可能
バーチャルオフィスを利用する際、その住所を開業届の納税地として記載することが可能です。個人事業主の場合、事業所の所在地としてバーチャルオフィスの住所を開業届出書に記入することにより、納税地として設定できます。
個人事業主は「住所地・居住地・事業所」の3つから選べる
個人事業主が開業届を提出する際、納税地の選択肢としては「住所地」「居住地」「事業所」の3つがあります。
まず「住所地」とは、住民票に記載されている住所で、日常生活の基盤となる場所です。多くの個人事業主は自宅を事業の拠点としているため、この住所地を納税地として選ぶことが一般的です。
次に「居住地」ですが、これは住所地とは異なり、生活の本拠ではないものの、一定期間継続して居住している場所を指します。例えば、セカンドハウスや別荘を業務の場として利用している場合、その居住地を納税地として選択することが可能です。
最後に「事業所」は、個人事業主が事業活動を行うための店舗やオフィスなど、住所地や居住地とは別の場所に設けられた施設を指します。事業所を持つ事業主は、事業所を納税地として指定することが可能です。
このように、個人事業主は事業運営に応じて、最も適切な納税地を自分で選べます。バーチャルオフィスを利用している場合でも、これらの選択肢の中から納税地を選定することが可能です。
ただし、開業届には「経費計上で使用する住所」を明記する点に注意が必要です。もしバーチャルオフィスのみを納税地として記載した場合、自宅で発生する家賃や通信費などの経費を計上できない可能性があるため注意が必要です。
法人は「本店・主たる事務所」の2つから選べる
個人事業主と同様、法人もバーチャルオフィスの住所で会社を登記することで、その住所が納税地と認められます。ただし、バーチャルオフィス以外の場所に実際の事務所がある場合は、そちらを事務所所在地として登記することで納税地を変更することが可能です。
法人が納税地を定める際、選択肢として「本店」と「主たる事務所」の2つがあります。
本店は登記上の住所であり、多くの場合、納税地として指定されることが一般的です。しかし、法人の活動の中心が別の場所にある場合、その場所を「主たる事務所」として納税地に設定することも可能です。
例えば、バーチャルオフィスを本店の住所とし、実際の業務は自宅で行っている場合、自宅を主たる事務所として納税地に指定できます。自宅での業務に関連する費用を経費として計上することが認められる場合がありますが、必ずしも全てのケースで認められるわけではないため、事業内容に応じて税理士などに相談するとよいでしょう。
ただし、納税地の変更を希望する場合は「異動届出書」の提出が必要となります。
参考:国税庁|A1-6 所得税・消費税の納税地の異動 又は変更に関する手続
バーチャルオフィスを納税地とするメリット
引っ越した場合でも住所変更を申請する必要がない
個人事業主として自宅でビジネスを行なっている場合、バーチャルオフィスを納税地としていれば、引越しのたびに手続きをする必要がありません。
通常、自宅住所を納税地としている場合、引っ越しをするとその都度、税務署への住所変更の届出が必要です。これは、単に面倒な手続きであるだけでなく、届出の提出の遅れや手続きのミスによって税務上のトラブルを引き起こすリスクを伴います。
しかし、バーチャルオフィスの住所を納税地とすることで、自宅の住所に変更があった場合でも、納税地の住所を変更する必要がなくなり、時間と労力を節約できます。
税金に関する書類がほかの郵便物と混ざらない
税金に関する書類が管理しやすくなる点もメリットとなります。
通常、税務署からの通知や確定申告に必要な書類など、税金に関わる重要な文書は、登録している納税地の住所宛に送付されます。これらの書類が日常の郵便物と混在すると、見落としたり、誤って廃棄してしまうリスクがあります。
しかし、バーチャルオフィスを納税地に設定することで、これらの書類が専用の住所に届くため、他の郵便物と混ざることなく、確実に管理することが可能です。
事業をする人にとって、税務上の書類は事業運営において欠かせないものですので、この点は大きなメリットと言えるでしょう。
関連記事:【税理士監修】税務署の管轄とは?地域別・状況別・ オンライン利用時などの確定申告書提出先の詳細ガイド
バーチャルオフィスを納税地とした場合に経費計上できる費用
バーチャルオフィスを納税地とする際、自宅に関する経費は計上できるのか、疑問に思う方もいることでしょう。それぞれのポイントを押さえれば、以下の費用を経費計上することが可能です。
バーチャルオフィス利用料
バーチャルオフィスを納税地とする際、その利用料は事業の必要経費として計上可能です。この際、重要なのは利用料の内訳や領収書などの証明書類を適切に保管することです。
ただし、利用料にはさまざまなサービスやオプションが含まれることがあり、全てが経費計上できるわけではありません。特に、会議室利用やコワーキングスペースのように実際の使用量に応じて費用が発生するサービスについては、その使用回数や時間を正確に記録し、経費計上の根拠として残しておく必要があります。
自宅の光熱費の一部
納税地を自宅以外に設定する場合でも、自宅での業務に伴う光熱費は経費として認められるケースがあります。この場合、自宅の全体ではなく、実際に業務に使用している部屋やスペースの面積を基に、適切な割合で光熱費を計算することが重要です。
経費計上を行うには、光熱費に関する領収書や検針票など、支出を証明する書類の管理が必須となります。
通信費
通信費も事業運営に不可欠な経費として認識されます。インターネット利用料や電話代など、事業活動に直接関連する通信費は経費として計上可能です。
ただし、経費として認められるには、通信費の明細や領収書などの証明書類を適切に管理し、保管しておく必要があります。また、プライベートでの使用分は経費に含められません。
事業用と私用の区分けを明確にし、経費計上の際にはその区別を正確に行いましょう。
関連記事:個人事業主が住所変更のときに税務署で行う手続きを解説
バーチャルオフィスを納税地とする場合の注意点
バーチャルオフィスを納税地とする際、注意すべき点も存在します。ここでは、個人事業主と法人それぞれの注意点をご紹介します。
自宅の家賃や光熱費を経費計上する場合は「納税地以外の住所地・事業所の記載」が必要
個人事業主も法人も、バーチャルオフィスを納税地として利用する際、自宅の家賃や光熱費を経費として計上することは可能ですが、その場合には注意が必要です。
自宅とバーチャルオフィスの両方を経費にするには、開業届において「納税地」として自宅の住所を記載し、「納税地以外の住所地・事業所」としてバーチャルオフィスの住所を明記する必要があります。
バーチャルオフィスを「納税地」とする場合も同様で、自宅の住所を「納税地以外の住所地・事業所」として記入することで、両方の費用を適切に経費計上できます。
この手続きを怠ると、税務上の問題が生じる可能性があるため、申請漏れがないように注意しましょう。
税率の違いにより、地方税の支払額が増える可能性がある
個人の場合、地方税の税率の違いにも注意が必要です。特に市町村民税は、自治体によって税率が自由に設定されているため、バーチャルオフィスとして選んだ納税地によっては、自宅を納税地とした場合よりも税負担が増えることがあります。
納税地を決定する前には、検討している各市町村の税率を比較し、支払額の増加分を事前に確認することが望ましいでしょう。
バーチャルオフィス事業者との契約内容によっては、納税地にできない場合も
個人事業主の場合、すべてのバーチャルオフィスが納税地として認められるわけではなく、契約によってはその資格を満たさない場合があります。
納税地として申請する際は、事業者との契約内容を事前に確認しましょう。
また、特定の業種では、実際の事業所や適切な設備が必要とされ、バーチャルオフィスの住所を納税地として使用することが許されていません。例えば、職業紹介業や建設業、古物商などがこれに該当します。
これらの業種は、法律により物理的な事業所の設置が義務付けられているため、バーチャルオフィスを納税地とすることはできないのです。
そのため、すべての個人事業主がバーチャルオフィスを納税地として利用できるわけではありません。契約内容、および自身の業種が条件を満たしているか確認しましょう。
郵便物が届くまでにタイムラグが存在する
個人・法人を問わず、税務署からの重要な書類は、直接自宅に届くのではなく、バーチャルオフィスの運営企業を経由して転送されるため、タイムラグが生じる可能性があります。そのため、緊急の対応が必要な場合には不利となることが考えられます。
多くのバーチャルオフィスでは、郵便物を迅速に転送するサービスを提供しており、これを利用することでタイムラグを最小限に抑えることが可能です。自宅との距離も選定の際の重要な要素ですので、慎重に選ぶことが望ましいでしょう。
法人の場合、2箇所分の法人住民税が課税される可能性がある
法人設立時に「法人設立届出書」に記載する本店または主たる事務所の所在地が納税地となりますが、バーチャルオフィスと自宅の両方を使用している場合、法人住民税が2箇所分課税されるリスクがあります。
特に、バーチャルオフィスが住所利用のみで、実質的な業務は自宅で行っている場合に注意が必要です。法人税を1箇所分に抑えるためには、実態を証明する必要があります。
このような複雑な税務処理には、税理士や管轄の税務署へ相談することをおすすめします。適切なアドバイスを受けることで、不必要な税金の支払いを避けられるでしょう。
関連記事:レンタルオフィスで法人登記は可能?メリットや注意点について解説
バーチャルオフィスを納税地にする場合の税務について正しく理解しよう
個人事業主や法人は、バーチャルオフィスを納税地とすることが可能です。住所地での納税が基本ですが、事業所として認められるケースも増えています。
納税地の選択に関する不明点や具体的な手続きの方法については、専門家である税理士に相談することをおすすめします。納税地によって納税額が増減する可能性もあるため、詳しく知りたい方は、私たち「小谷野税理士法人」が全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。