個人事業主やフリーランスとしてビジネスを行っていると、開業時に申請した業種から別の業種に変更することもあるでしょう。開業届に記載した業種に変更があると、変更の手続きは必要なのでしょうか?結論からいうと、業種変更の場合は、開業届の内容変更は不要です。ただし、業種変更に伴い屋号に変更がある場合などは注意が必要です。この記事では、個人事業主やフリーランスが業種変更した際に必要な手続きや知っておきたいポイントをご紹介します。
目次
業種を変更した場合、開業届の内容変更は不要
個人事業主が事業内容を変更することは珍しくありません。新たな分野に挑戦したり、事業の方向性を転換したりする場合、業種の変更が生じることもあるでしょう。
しかし、このような業種の変更があったとしても、基本的には開業届の内容を変更する必要はないのです。重要なのは、確定申告の際に変更後の職業を確定申告書に記載すること。
もちろん「個人事業の開業・廃業等届出書」に新しい事業内容を追記し、再提出することも可能です。以前の業種とは異なり、まったく新しい業種を開始する際などは、変更を申請し、税務署に対して事業内容の変更を明確に伝える方が望ましいでしょう。
開業届で変更手続きをしなくてもよい事項
個人事業主として事業をスタートするとき、「個人事業の開業・廃業等届出書」には以下の事項を記載します。
【開業届の提出時に記載する事項】
- 納税地
- 氏名・生年月日・個人番号
- 職業・屋号
- 届出の区分
- 所得の種類
- 開業・廃業等日
- 開業に伴う届出書の提出の有無
- 事業の概要
- 給与等の支払の状況
記載事項のうち、氏名・屋号・業種のいずれかに変更があった場合でも、特別な手続きを行う必要はないとされています。
もし、届出書に変更を加えたい場合は、新しい情報を記載して税務署に提出できますが、これは義務ではなく、あくまで個人事業主の判断に委ねられています。
関連記事:【税理士監修】開業届とは?書き方や必要書類、提出方法までの完全ガイド
納税地に変更がある場合のみ手続きが必要
開業届を提出した後、納税地に変更が生じた場合は、その旨を申告するための手続きが必要です。例えば、引っ越しやオフィスの設置などで住所が変わった場合などが該当します。ただし、開業時にオフィスを納税地として登録している場合、自宅の住所が変わっても納税地に影響がなければ届出は不要です。
振替納税を利用している場合、管轄の税務署が変わる際も手続きが必要です。新しい税務署に「振替依頼書」を提出しましょう。また、従業員を雇用している場合は、労働保険や社会保険の関連機関への届出が必要です。
バーチャルオフィスを利用している個人事業主の場合、納税地として「住所地」または「事業所等」を選択できます。バーチャルオフィスを事業所として利用している場合でも、実際に住んでいる住所を納税地として記載することが可能です。そのため、バーチャルオフィスの利用が納税地に影響を与えない限り、開業届の変更は不要です。
参考:国税庁|所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する手続
個人事業主が業種を変更した場合に必要な手続き
個人事業主が業種を変更する際には、開業届の変更手続きを行う必要はありませんが、確定申告時の職業欄の記載は必要です。
確定申告の職業欄に追記する
業種変更後の確定申告では、新しい業種に合わせて確定申告書の職業欄を更新する必要があります。個人事業税の業種別税率の適用にも影響を及ぼすため、具体的かつ正確に行いましょう。
職業の記載方法としては、日本標準職業分類を参考にするとよいでしょう。A〜Lまでの大分類に分けられ、それぞれの大分類の中に中分類、小分類が設けられています。
確定申告書においては、業務内容が明確にわかるように記載することが重要ですので、大分類や中分類ではなく、より詳細な小分類を参照して記入することをおすすめします。
▽日本標準職業分類の小分類の例
デザイナー 写真家 システムコンサルタント システム設計者 医師 社会保険労務士 記者、編集者 写真家、映像撮影者 小売店主・店長 飲食店主・店長 配達員 美容師 機械技術者 科学技術者 マンション・アパート・下宿管理人 農耕従事者
参考:総務省|日本標準職業分類
また、個人事業主やフリーランスという働き方をしている場合でも、職業欄に「個人事業主」や「フリーランス」と記入するのは避けるべきです。これらは職業名ではなく、働き方の形態を指すため、税務署からの確認連絡を受ける可能性があります。そのため、日本標準職業分類を参考にしながら、仕事内容が具体的にイメージできるような職業名を記入することが望ましいです。
関連記事:開業届の提出タイミングはいつがベスト?期限や出さないデメリットを解説!
複数の事業を掛け持ちしている場合はすべて記載
複数の事業を掛け持ちしている個人事業主の場合、開業届にはメインの職業を1つ記入するだけで問題ありませんが、確定申告書ではすべての職業を記載する必要があります。複数の仕事を行っている場合は、それぞれの職業を洗い出し、一つも漏れがないように記入しましょう。
例として、ある個人事業主がウェブデザインの仕事をメインに行いつつ、週末にはカメラマンとしても活動しているとします。この場合、開業届には「ウェブデザイナー」と記載していたとしても、確定申告書では「ウェブデザイン業、写真撮影業」と両方の職業を記入しましょう。
しかし、確定申告書の職業欄のスペースは限られているため、職業名は簡潔にまとめなければなりません。例えば、「ウェブデザイン業」は「ウェブデザイン」とし、「写真撮影業」は「写真撮影」と省略しても、業種が明確に伝わる範囲であれば問題ありません。また、プログラミング教室を運営している場合は「プログラミング教育」といった形で簡略化するとよいでしょう。
重要なのは、業種変更を行う際には、これまでの事業内容と新たに始める事業内容を正確に把握し、それぞれの事業がどのような業務を含むのかを明確にすることです。そして、それらを適切に確定申告書に反映させることで、税務上のトラブルを避けることにつながります。
業種変更に伴い、屋号変更する場合は注意が必要
業種変更をする場合、元の事業で使用していた屋号を新しく変更することもあるかもしれません。前述の通り、屋号の変更における開業届の変更手続きは必要ありませんが、いくつか注意したい点があります。
屋号を変更した場合でも基本的には手続き不要
屋号を変更する際も、業種の変更と同様に開業届の手続きは不要です。また、一度決めた屋号は、後から変更することが可能で、その際に変更回数に制限はありません。屋号の変更や抹消も自由に行えるため、特定のタイミングを選んで変更することも可能です。
屋号を開業届でのみ申請している場合、屋号を変更する際に特別な手続きをする必要はありません。屋号変更の証拠として残したい場合は、新しい開業届の手続きを行っても問題ありませんが、確定申告書に新しい屋号を記載するだけで対応可能です。
商号登記している場合は法務局で登記が必要
前の業種で使用していた屋号を商号として登記していた場合、法務局にて商号変更登記の手続きが必要です。
手続きを行う際には、自ら商号登記申請書を作成し、登記料を準備して法務局に提出します。旧屋号で印鑑登録をしている場合には、新しい印鑑に関する届出書の提出も必要です。
商標登録している場合は再申請が必要
元の屋号を商標登録していた場合は、注意が必要です。商標は一度登録するとその内容を変更することはできません。したがって、屋号を変更したい場合は、新たに特許庁への申請が必要となります。
例えば、「◯◯事業所」から「◯◯事務所」へのような細かい変更であっても、新しい屋号に対する商標登録が必要です。既存の商標権は、その存続期間が満了するまで有効で、その後に消滅します。
また、似たような屋号については、原則として新たな商標登録は認められませんが、同一の商標権者であれば、類似の名称に関しては特例として認められることがあります。屋号の変更をお考えの際は、これらの点を十分に留意し、適切な手続きを行うことが大切です。
関連記事:個人事業主が住所変更のときに税務署で行う手続きを解説
個人事業主が業種変更する際に注意すべき点
個人事業主やフリーランスの方が業種を変える際、税務上、注意が必要なケースがあります。
例えば、売上の規模が変わったり、海外投資やフードデリバリーなどの売上があったりする場合などは、税務調査が入りやすくなると言われています。また、前の業種から税率が変わって納税額が増えることも。
ここでは、業種変更の際に注意すべき点について、詳しくご紹介します。
売上が急激に増えた
個人事業主が業種変更を行う際、売上が急激に増加することもあるかもしれません。しかし、このようなケースでは注意が必要です。なぜなら、売上の増加は申告すべき項目が増えることを意味し、それが税務調査のリスクを高めるからです。
税務当局は限られたリソースの中で、申告漏れや脱税を効率的に発見する必要があります。そのため、急激な売上の増加は申告漏れの可能性が高いとみなされ、調査の対象となりやすいと言われているのです。
業種変更に伴い売上が急増した場合は、申告内容を慎重にチェックし、必要に応じて税理士など専門家のアドバイスを活用しましょう。正確な申告を心がけることで、税務調査のリスクを最小限に抑えられます。
関連記事:ウーバー配達員は個人事業主?開業届を出すと何がある?
海外投資・シェアリングエコノミー関連の売上がある
税務調査のリスクが高まるもう一つの要因として、海外投資やシェアリングエコノミー関連の売上がある場合にも注意が必要です。これらの分野も税務調査の対象となりやすく、申告漏れが発見された際の追徴課税額が大きい傾向にあります。
国税庁の調査によると、海外資産の保有や海外投資を行っている個人に対する調査が積極的に実施されており、申告漏れが見つかった場合の1件あたりの平均漏れ所得金額は3,690万円、追徴課税額は1,119万円にも及ぶとされています。これは過去最高の数値であり、調査対象となった約2万4千件のうち、約2万1件で申告漏れが確認されていることから、今後も海外投資を行っている個人事業主に対する税務調査は増加すると予想されます。
また、シェアリングエコノミーに関する業種に変更した場合も注意しましょう。シェアリングエコノミーの代表例としては、フードデリバリーや家事代行などのサービスがあります。しかし、これらの業態は近年売上を伸ばしており、その急激な増加によって申告漏れが生じやすい状況にあります。したがって、シェアリングエコノミーを取り入れた業種に変更する際には、正確な売上の申告が求められます。
業種変更を考える際には、これらの点を念頭に置き、税務申告に関しては特に慎重に行動することが重要です。税務知識のアップデートや専門家のアドバイスを取り入れることで、リスクを最小限に抑えられるでしょう。
関連記事:古物商許可の申請に開業届は必要?古物商開始時の注意点を解説
開業届の変更が必要な項目を理解し、新しい事業をスタートさせよう
個人事業主が業種を変更する際には、開業届の変更手続きは不要ですが、納税地の変更がある場合は変更届の提出が必要です。
また、業種の変更に伴い屋号を変更する際や、売上が急増する場合、個人事業税の税率が変わる場合などは、必要な手続きを確認し、申告漏れなどがないか注意しましょう。
最後に、個人事業主として新しい事業をスタートさせる場合、税理士のサポートを活用することがおすすめです。税理士は税務申告の専門家であり、経営上のアドバイスも行います。本業に集中し、経営の効率化を図りたいとお考えの方は、私たち「小谷野税理士法人」が全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。