会社の設立時、資本の金額は始めに決めることの1つですが、実は設立後に金額の変更が可能なのはご存じでしょうか。増やすことも減らすこともできますが、この記事では減らす場合の減資について詳しく解説します。また、手続きの方法や種類、メリット・デメリットについても併せて紹介しますので、会社設立をお考えの方は参考にしてください。
目次
減資とは資本金を減少させること
始めに設定した会社の資金を減らすことで”資本減少”を略して減資と呼んでいます。企業の資金が減るというとあまり良いイメージがないかもしれませんが、企業の財務状況を改善させたり、出資者に配当したりといった良い点があります。
逆に増資は会社の資金を増加させることです。もちろんどちらにもいい点・悪い点があるため、資本の増減を行う場合はそれぞれ慎重に検討する必要があるでしょう。
増資は事業の運転資金を確保する場合や、新しく株式を発行する際に行われるケースが多いです。取引先からの信用が向上したり、企業の新規開拓の場合に有利になる場合があります。
資金の設定額に迷っている場合は、以下の記事も参考にしてください。
減資は有償・無償の2種類
減資は大きく分けて有償減資・無償減資の2種類あり、それぞれ目的別に行う必要があります。概要を説明します。
有償減資
会社の財産の一部を出資者に払い戻して、会社の資本金を減らすことです。”実質的減資”とも呼ばれており、経営するうえで資本金の額が大きすぎる場合や、将来の配当金を軽減する場合にも利用されます。
資本を増やす・減らす場合どちらも株主総会での特別決議が必要ですが、一定条件を満たせば普通決議でも手続き可能です。
無償減資
会社の資金(財産)が減少しない減資のことです。”形式的減資”とも呼ばれており、出資者に払い戻しを行わず、資本を減らすことで発生した余剰金をマイナスに充てることをいいます。
無償減資によって赤字の穴埋めをすることで、経営状態を立て直すことが目的です。資金が減少しないため、銀行などの金融機関から資金調達を行いやすくなります。
減資に必要な手続きは3ステップ
資本を減らすことは今後の取引や事業の展開などにも影響を及ぼす可能性があるため、経営者の独断で変えられません。会社の元本を減らす手続きは以下のステップを踏んで行われるのが一般的です。
- 株主総会の特別決議を行う
- 債権者保護手続きの申請を行う
- 変更登記申請を行う
全ての手続きを終えるには、スムーズに進んでも1ヵ月以上かかるため、余裕を持って2ヵ月前には取り掛かることが望ましいでしょう。それぞれの手続きについて解説します。
株主総会の特別決議を行う
まずは株主総会の特別決議を開き、資金の額や効力発生日などの内容を決め、出資者からの承認を受ける必要があります。普通決議との違いは、決議にかかる賛成数の多さです。
定足数 (最小限必要な出席者数) | 決議 | |
普通決議 | 総株主の 議決権の過半数 | 出席株主の 議決権の過半数 |
特別決議 | 総株主の 議決権の過半数 | 出席株主の 議決権の3分の2以上 |
議事に対して、出席した株主の3分の2以上が賛同しなければ案は通りません。普通決議よりも承認を得るのが難しいのが分かります。
ただし、定時株主総会内で決議を行い、かつ減資の金額が欠損額を超えない場合は普通決議でもよいとされています。
債権者保護手続きの申請を行う
会社の資本金の変更には、今後の取引や事業展開に影響が起きる可能性が高く、条件が急に変わることで債権者が不利益だと感じる場合もあります。そのために行うのが”債権者保護手続き”です。会社の債権(貸したお金を返してもらう権利)者の利益を保護する制度です。
債権者保護手続きを行うと、債権者から会社に対し異議を申し出せるため、会社の根幹である元本の変更時には必須の手続きでしょう。
債権者に異議申し立ての機会を与えるために、まずは資本金が増減することについて詳しい内容を知らせなければなりません。さらに申し立ての期間として、1か月以上の猶予を設ける必要があります。
期間中に異議を申し出る債権者がいなかった場合にのみ、元本の変更ができるようになります。
変更登記申請を行う
特別決議で決めた減資の効力発生日以降に、管轄の法務局で変更登記申請を行います。変更登記は効力の発生日から2週間以内に行いましょう。申請手続きに必要な書類は以下です。
- 株主総会議事録
- 株主の氏名又は名称、住所及び議決権数等を証する書面(出資者リスト)
- 一定の欠損の額が存在することを証する書面
変更登記は申請書を提出してから、約1〜2週間ほどで完了します。書類が不足していると申請できず手続きに時間がかかってしまうため、あらかじめ専門家に確認しておくとスムーズです。
減資のメリット
名前からもマイナスなイメージが強い減資ですが、ここでは資金を減らすことによって得られるメリットについて紹介します。
①節税できる
資本金の金額によっては、法人税や法人住民税などの税負担を軽減できる可能性があります。例えば、1億円だった資本金を減らした場合、様々な特例や軽減税率などの優遇措置を利用できるため、節税につながるといった良い点があるでしょう。
②利益剰余金のマイナスを解消できる
利益剰余金とは、事業で発生した利益のうち社内で積み立てておくお金のことです。業績が悪化した場合、利益剰余金を取り崩していく形で事業を続けることになります。減少させた資本金を利益剰余金として振り返れば、マイナスの解消が可能です。
③株主へ配当できる
会社の資金額を減少させれば、その分株主へ分配できる金額が増えます。配当は利益が出なければ行えませんが、金額を減らして余剰金ができた場合に配当します。今後とも出資者と良好な関係を築くために行われるケースが多いです。
減資のデメリット
メリットとは反対に、デメリットについても解説します。
①資本金が減る
名前の通り、資本金を減らすため当たり前ですが会社の資本金が減ります。将来的な投資が難しくなることはもちろん、資金繰りが苦しくなる可能性もあります。起こりうるリスクも踏まえた上で、慎重に判断しましょう。
資本金を使ってしまったあなたへ!会社設立後の資本金の必要性を解説!
②会社の信用度が下がる
資本金を減らすことによって伴う際の最大の懸念点は、会社の信用度が下がることです。取引先の新規開拓の際などに不利になる可能性もあるだけでなく、出資者や投資家からの信用が低下する場合もあるでしょう。その結果、資金調達が困難になったり業績が悪化したりする可能性もあります。
③数十万円程度の費用がかかる
会社の資本金の額を変更するとなれば、登記変更の手続きが必要になります。そのため、数十万ほどの費用がかかるでしょう。自分で行うことも可能ですが、難しい手続きのため司法書士などに依頼するのがおすすめです。手続きには、登録免許税と官報掲載料に加えて、司法書士への報酬費用がかかります。
メリットを受けつつリスクを減らす方法はある?
資本金を減らすことによって信用が失われる可能性があると解説しました。そのため、最近ではなるべくリスクを減らしつつを資本金を減らすために、資本金の表記を変更している企業が増加傾向にあります。
企業ホームページや会社案内等で金額を記載する場合(資本準備金を含む)といった表記にすれば、資本金の明記を避けられます。
資本金を1億円以下まで無償減資し、減らした分を資本準備金に振り替えれば信用の低下リスクを低く抑えつつ、節税や軽減税率などのメリットも受けられるため参考にしてください。
資本金の減資・増資は慎重に
減資は税務面、株主への配当面などでメリットがある反面、減資の費用や会社の信用についてデメリットがあることを解説しました。
株式会社の最低資金の制度が廃止されたため、金額はいくら減らしてもよく、0円にするといったことも可能です。ですが、既存の取引先などからの信用を失うといったマイナス面もあるため、変更する場合は現在の経営状況などを踏まえて慎重に検討しましょう。
金額の増減だけでなく、事業を行う中で規模の拡大や縮小、会社の合併など様々な変化が起こる可能性があります。その度に変更登記が必要です。
司法書士と連携している税理士であれば、変更登記を任せることができるだけではなく、節税のアドバイスや確定申告などのサポートも受けられます。
小谷野税理士法人では、豊富な知識と経験を持つ税理士が在籍し、サポートを行っています。そのほか、融資や補助金の申請に関するアドバイスもいたします。