古物商ができる税金対策はいくつかあります。例えば、古物商許可の申請費用など、開業のために掛かった費用を経費として漏れなく計上すると節税に繋がります。また、消費税に関する古物商等特例の適用や、仕入れた中古品の在庫の価値を適切に評価することも重要です。この記事では、古物商におすすめの税金対策を8つご紹介します。
目次
中古品を売買するなら「古物商許可」が必須
古物商とは、中古品を売買する事業者のことです。ネットを経由する売買や、フリーマーケットでの販売も該当します。
中古品の売買には「古物商許可」が必要で、無許可で営業すると100万円以下の罰金などが科せられます。古物商許可を取っていない方は、税金対策をするよりも先に許可を取得しましょう。古物商許可の申請方法や開業届について、詳しくは下記の記事をご確認ください。
古物商におすすめの税金対策8つ
ここでは、古物商におすすめの税金対策を8つ紹介します。
- 開業のために掛かった費用を経費として計上する
- 事業運営のための経費を漏れなく計上する
- 倉庫を買うなど10万円以上の設備投資をする
- 青色申告の特典を利用する
- 使える控除がないか確認する
- 消費税の計算方法を見直す
- 過剰な在庫を処分する
- 棚卸資産の評価方法を変更する
以下、1つずつ見ていきましょう。
開業のために掛かった費用を経費として計上する
開業に必要な費用は、経費として計上できます。例えば、以下の費用が該当します。
- 古物商許可の申請費用
- 古物商許可申請を行政書士に依頼した場合の報酬
- 古物商を始めるために受講したセミナーの参加費
- 事業に関する保険料
- 広告費
- 法人設立費
開業にかかる費用は、開業した年に全額を経費計上しても、事業が軌道に乗ってきた2年目以降に計上しても構いません。なお、個人事業主は「開業費」ですが、法人だと開業費の他に「創立費」の勘定科目も使用します。
開業費や創立費の経費計上について、詳しくは下記の記事をご確認ください。
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事業運営のための経費を漏れなく計上する
課税所得を減らすには、事業運営に掛かった費用を漏れなく経費に計上する必要があります。例えば、以下の費用が該当します。
- 中古品の仕入に掛かった費用
- 運営に掛かった費用
- 事務所の維持に掛かった費用
- 従業員への給料
何が経費にできて何が経費にできないかについて、詳しくは下記の記事をご確認ください。
個人事業主の経費はいくらまで?経費にできる上限と割合について解説
個人事業主はなんでも経費にできる?注意すべき5つのポイントも解説
自宅で古物商を行っている場合は、家賃や光熱費の一部も経費にできます。ただし、事業とプライベートの両方で使っているものを経費にする際は、確定申告で「家事按分」が必要です。家事按分について詳しくは下記の記事をご確認ください。
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倉庫を買うなど10万円以上の設備投資をする
10万円以上の設備を買うと、減価償却費を経費に計上できます。減価償却とは、買った年に一度に経費にするのではなく、決められた耐用年数に基づいて毎年少しずつ経費にすることです。ただし土地代は減価償却できないので注意しましょう。
例えば倉庫を買うと、建物そのものの減価償却費に加え、土地・建物に対する固定資産税や修繕費も基本的に経費にできます。
減価償却について詳しくは下記の記事をご確認ください。
減価償却とは?会計や税務の基礎知識と節税のポイントを徹底解説!
青色申告の特典を利用する
白色申告の場合は、青色申告に切り替えると節税できます。青色申告をすると、主に以下の特典を適用できるからです。
- 最大65万円を控除できる(青色申告特別控除)
- 赤字の繰越しや繰戻しができる
- 同居する親族へ払った報酬を経費にできる
- 30万円未満の資産を買った年に全額経費にできる(少額償却資産)
- 棚卸資産の評価方法を「低価法」にできる
ただし青色申告するには事前手続きが必要です。詳しくは下記の記事をご確認ください。
個人事業主の青色申告とは?いくらから必要?メリット・デメリットや帳簿の書き方などについて解説!
【税理士監修】会社設立後も青色申告できる?法人が青色申告するメリットや方法
使える控除がないか確認する
確定申告や決算の際は、適用できる控除がないか確認しましょう。控除とは、課税される額から差し引ける金額のことです。例えば扶養家族がいる場合は「扶養控除」が適用できる場合があります。
控除の種類や適用条件について、詳しくは下記の記事をご確認ください。
税金の控除とは?節税のために知っておきたい種類や目的を詳しく解説!
個人事業主に適用される所得控除はいくつある?控除の種類や注意点を解説
消費税の計算方法を見直す
一般的な消費税の計算方法は「一般課税制度」か「簡易課税制度」です。どちらが有利かは、売上や仕入方法などによって異なります。
仕入額が売上の80%未満なら、簡易課税を選択した方が有利な場合があります。例えば、750円で仕入れた商品を1,000円で売る場合などです。
簡易課税は、売上に対して一律の「みなし仕入率」を使い控除額を計算します。多くの古物商は「小売業」に該当し、みなし仕入率は80%が適用されます。よって、実際の仕入額よりも「みなし仕入率」の80%を適用した方が控除が多い場合、節税に繋がります。
簡易課税が適用できる要件や注意点など、詳しくは下記の記事をご確認ください。
【税理士監修】簡易課税とは?メリット・注意点や計算方法を解説
一方、一般課税を選択している方は、仕入時に「古物商等特例」を適用できているか確認しましょう。古物商等特例とは、古物商許可取得者が中古品を仕入れる際、仕入先からインボイスを受け取れない場合でも仕入税額控除を適用できるものです。
ただし、古物・質物が適格請求書発行事業者以外からの仕入れであること、販売目的の仕入であること、帳簿を保存するなど条件があります。古物商等特例について詳しくは下記の国税庁のサイトを確認してください。
参考:古物商等の古物の買取り等|国税庁
参考:フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除|国税庁
消費税の計算は複雑で、自分ですべて行うのは大変です。一般課税制度か簡易課税制度かを決める際は、税理士などの専門家と事前にシミュレーションすることをおすすめします。
過剰な在庫を処分する
在庫を処分すると、節税になる場合があります。棚卸資産として計上される在庫の価値が減り、利益が圧縮されるためです。在庫処分について詳しくは下記の記事をご確認ください。
棚卸資産の評価方法を変更する
棚卸資産とは、販売目的で保有している商品の在庫を指します。棚卸資産の評価方法を変更すると、節税になる場合があります。評価方法の変更によって従前より在庫の価値が低くなると、課税所得も低くなるためです。
棚卸資産の評価方法について、詳しくは次の章で解説します。
在庫の価値が低いと税金を減らせる
年末や期末には、期末在庫として残っている商品を正確に把握し、それらを棚卸資産として評価することが重要です。その際、期末在庫の価値が低いと税金を減らせます。
課税される利益は売上から売上原価を差し引いた額であるため、売上原価額が大きいほど課税所得が減ります。その売上原価は、期末在庫の価値が低いほど額が大きくなる仕組みです。
売上原価と利益の計算方法は以下の通りです。
- 利益(課税所得の基準)= 売上 – 売上原価 – 経費
- 売上原価 = 期首在庫 + 仕入 – 期末在庫
数字を入れた具体例を見てみましょう。
前提 | 売上:1,000万円 期首在庫:100万円 仕入:500万円 | |
期末在庫 | 200万円 | 100万円 |
売上原価 | 期首在庫100万円 + 仕入500万円 – 期末在庫200万円 | 期首在庫100万円 + 仕入500万円 – 期末在庫100万円 |
利益 | 売上1,000万円 – 売上原価400万円 | 売上1,000万円 – 売上原価500万円 |
このように、期末在庫の価値が低いと売上原価が高くなって利益が圧縮でき、節税に繋がります。
自分に合った棚卸資産の評価方法を把握する
棚卸資産の評価方法を現在とは違う方法にすると、期末在庫の価値を現在よりも低くできる場合があります。棚卸資産の評価方法はいくつかありますが、その中でも古物商におすすめな方法を4つピックアップして解説します。
参考:所得税法施行令第九十九条(棚卸資産の評価の方法)| | e-Gov 法令検索
手間が掛からない「最終仕入原価法」(評価方法を届け出ていない場合に適用)
評価方法を変更する手続きをしない場合、自動的に適用されるのが「最終仕入原価法」です。最後に仕入れた商品単価をもとに在庫の評価額を決定する方法で、手続きや記帳の手間が掛からないのがメリットです。
メリット | デメリット |
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仕入価格に大きな変動がない商品を扱う場合に向いています。
希少価値が高い商品を扱うなら「個別法」
アンティークや美術品など、希少価値が高い商品を取り扱う方におすすめなのが「個別法」です。商品の仕入価格をそのまま在庫評価として使用する方法で、複雑な計算をせずに済むのがメリットです。
メリット | デメリット |
| すべての商品を個別に管理するので、商品数が多いと事務作業や管理が煩雑になる |
ただし同じ商品を大量に仕入れる場合など、適用できないケースもあるため注意しましょう。
価格変動が大きい商品を扱うなら「移動平均法」
中古家電など、仕入価格が変動する商品を取り扱う方におすすめなのが「移動平均法」です。仕入れるたびに在庫の平均単価を再計算して管理する方法で、仕入価格に急激な変動があっても利益が極端に上下しにくいのがメリットです。
メリット | デメリット |
| 仕入のたびに平均単価を計算するため記帳が複雑 |
継続的に仕入を行い、かつ仕入価格にばらつきがある商品を扱う場合に適しています。
価値が下がりやすい商品を扱うなら「低価法」(青色申告のみ)
期末在庫の価値を現在よりも低くできる可能性が最も高いのが「低価法」です。期末に評価する際、「仕入価格」と「現在の市場価値」のうち、より低い方の価格で評価できるからです。劣化や需要低下などで市場価値が下がった在庫を低く評価できるのがメリットです。
メリット | デメリット |
市場価値が下がった在庫の評価額を低くできる | 時価の下落を証明する根拠や記録が必要 |
価値が下がりやすい商品や季節商品を扱う場合に向いています。
ただし低価法を適用するには、税務署が確認しやすい資料を用意する必要があります。例えば値下がりの理由や市場価格の証拠などです。また、低価法は青色申告者しか使えないため注意しましょう。
棚卸資産の評価方法は他にもあります。しかし棚卸資産の計算は難しいため、自分に合った評価方法が分からない場合は税理士などの専門家に相談しましょう。
自分に合った評価方法に変更する
棚卸資産の評価方法を変えたい場合、税務署に届出を提出する必要があります。開業した年なら翌年の3月15日までに、すでに開業している場合はその年の3月15日までに届出を提出しましょう。
なお、評価方法の変更後は原則3年間その評価方法を継続する必要があるのでご注意ください。また、合理性がないと変更が承認されないこともあります。不安な方は、税理士などの専門家と事前にシミュレーションしましょう。
参考:所得税の棚卸資産の評価方法の届出手続(開業した人)|国税庁
参考:所得税の棚卸資産の評価方法の変更承認申請手続(すでに開業している人)|国税庁
評価方法を裏付ける記録や証拠を保管する
税務調査に備えるため、評価方法を裏付ける記録や証拠は必ず保管しましょう。特に低価法を選んだ場合は、市場価格のデータや商品劣化の証拠写真などを残しておく必要があります。
古物商の税金対策は税務調査に注意しよう
古物商は現金取引が多い業種です。現金取引は電子決済と比べて匿名性が高く不正が発生しやすいため、税務署からのチェックが厳しくなっています。取引を正確に記録し、税務調査に備えましょう。
税務調査を避ける方法について、詳しくは下記の記事をご確認ください。
税務調査が10年以上来ない企業、個人事業主とは?業種も関係ある?
古物商の税金対策は税理士にご相談ください
この記事では、古物商におすすめの税金対策について解説しました。個人事業主や法人全般に共通する税金対策については下記の記事で解説していますので、併せてご確認ください。
法人税の節税対策とは?税金を減らすには何をすればいい?注意点とは
【税理士監修】法人の税金対策を徹底解説!節税方法から法人化まで
消費税や棚卸資産の評価方法の見直しは、専門知識や経験が必要です。税理士なら、事業の規模や状況によって最適な方法をアドバイスできます。