法人・個人事業主ともに一定の条件を満たした場合、雇用保険に加入する必要があります。従業員の雇用形態に関係なく、加入する必要があることは特に知っておきたいポイントです。本記事では雇用保険の特徴や加入条件、注意点、手続きの流れなどを解説します。最後まで読めば、従業員を雇うときに必要な雇用保険に関する疑問点を解消できるでしょう。
目次
雇用保険とは
まず、雇用保険の基本情報としてあげられるものは以下の2点です。
- 社会保険の1つである
- 給付金が5種類ある
ここから社会保険や給付金の種類の詳細について解説していきます。
雇用保険は社会保険の1つ
雇用保険とは、雇用する従業員の生活や安定などを目的とする社会保険の1つです。雇用保険には従業員を雇う個人事業主も加入対象になります。後述しますが、一定の条件を満たす場合、従業員の雇用形態に関係なく雇用保険へと加入する必要があります。
雇用保険の被保険者としては以下の4つの種類があげられます。
被保険者の種類 | 加入条件 |
一般被保険者 | 高年齢被保険者、短期雇用特例被保険者、日雇労働被保険者に該当しない方 |
高年齢被保険者 | 65歳以上の方 |
短期雇用特例被保険者 | 4ヵ月以上季節的に雇用され、週の所定労働時間が30時間以上の方 |
日雇労働被保険者 | 30日以内の期間、適用事業所で日々雇われる方 |
雇用保険に加入すると、雇用保険料を納める必要があるものの多くのメリットが得られます。
<雇用保険加入によるメリット>
- 人材育成や雇用機会の増大などが目的の助成金をもらえる
- 社会的な信用アップにつながり、新たな人材を確保しやすくなる
- 雇用している従業員を安心させられる
手続きを面倒に感じる事業者もいるかも知れませんが、義務でありかつメリットを享受できる点を知っておくとよいでしょう。
参考:「雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!」厚生労働省
雇用保険の給付金には5種類ある
雇用保険には失業等給付という制度があり、その制度には大きく分けて5種類の給付金が存在します。
給付金の種類 | 概要 |
求職者給付 | 被保険者が離職したとき、求職活動に専念できるよう生活費のサポートを目的とする制度です。 <給付条件> 退職日までの2年間で、12ヵ月以上雇用保険に加入している <給付期間>
※妊娠や出産などやむを得ないと認められる場合は、3年間まで(合計4年)受給期間を延長できる |
就職促進給付 | 失業者の再就職促進を目的とする給付制度で、以下の8つの手当があります。 ◆就業手当 ◆再就職手当 ◆就業促進定着手当 ◆常用就職支度手当 ◆移転費 ◆広域求職活動費 ◆短期訓練受講費 ◆求職活動関係役務利用費 |
教育訓練給付 | 労働者の能力開発をサポートし、雇用の安定化と再就職促進を目的とする制度です。レベルなどに応じて、3つの訓練(専門実践教育訓練、特定一般教育訓練、一般教育訓練)に分けられます。 <給付条件> 条件を満たす方が厚生労働大臣の指定する教育訓練を修了すると、受講費用の一部をもらえる |
雇用継続給付 | ◆高年齢雇用継続給付 ◆介護休業給付 |
育児休業給付 | 1歳未満の子どもの養育目的で、育児休業を取得するともらえる手当です。 <給付条件> 育児休業開始までの2年間で11日以上働いた月が12ヵ月以上あること <給付期間> 原則として、養育している子どもが1歳になる日の前日まで |
雇用保険の加入条件
以下の条件をすべて満たす場合、事業者は雇用保険に加入する義務があります。
- 従業員が1ヵ月以上働く見込みがある
- 20時間/週以上の労働時間が見込まれる
- 学生ではない
それぞれの条件の詳細について詳しく見ていきましょう。
従業員が1ヵ月以上働く見込みがある
雇用保険の加入条件の1つは、従業員との雇用契約が1ヵ月以上に渡ることです。
一方で1ヵ月未満の雇用契約でも、以下に該当する場合は雇用保険に加入する必要があります。
- 契約更新についての規定が、雇用契約書に明記されている
- 契約更新の規定がないものの、今までに契約更新した実績がある
契約更新についての規定を明記している事業者でも、ノルマ達成などの条件を設けている場合は対象外です。
参考:「雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!」厚生労働省
20時間/週以上の労働時間が見込まれる
雇用契約書において、1週間に20時間以上の労働時間があると定めている場合、雇用保険に加入する必要があります。あくまでも契約上となるのが特徴で、仮に遅刻や欠勤などで、従業員の労働時間が週に20時間未満になっても影響を受けません。
参考:「雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!」厚生労働省
学生ではない
基本的に学生以外の従業員は雇用保険に加入する必要があります。逆を言えば、学生の場合は雇用保険に加入する必要がありません。しかし、以下の条件に当てはまる学生は雇用保険への加入が求められる場合があります。
雇用保険に |
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雇用保険に |
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従業員を雇い入れた際には、必ず雇用保険の加入手続きを行う
前述の通り、法人・個人事業主を問わず、従業員を雇うと雇用保険に加入するケースが発生します。加入条件をチェックするうえで特に注意したいのは、従業員の「実績」ではなくあくまでも「契約上」である点です。
そのため、従業員の雇用形態や出向先が変わるたびに手続きをするケースもあり、その点において注意が必要です。
緊急ではないものの、雇用保険の手続きは事業者にとって重要なものの1つです。加入条件を満たす事業者は、なるべく早く手続きをしておくと安心できるでしょう。
雇用保険料の算出方法
従業員が支払う雇用保険料の計算方法は、具体的に以下の通りです。
【給与(賞与)額×従業員が支払う雇用保険料率】
雇用保険料率は定期的に見直されているのが特徴で、以下の表の通り事業によって区分が分かれます。
一般 | 農林水産・清酒製造 | 建設 | ||
負担者 | 労働者負担 (失業等給付・育児休業給付の保険料率のみ) | 6/1,000 | 7/1,000 | 7/1,000 |
事業主負担 | 9.5/1,000 | 10.5/1,000 | 11.5/1,000 | |
事業主負担 (失業等給付・育児休業給付の保険料率) | 6/1,000 | 7/1,000 | 7/1,000 | |
事業主負担 (雇用保険二事業の保険料率) | 3.5/1,000 | 3.5/1,000 | 4.5/1,000 | |
雇用保険料率 | 15.5/1,000 | 17.5/1,000 | 18.5/1,000 |
※令和6年4月1日から令和7年3月31日までの保険料率は令和5年度と同じです。
雇用保険加入における注意点
雇用保険の加入や継続にあたっては、以下の点に注意点する必要があります。
ペナルティや損害賠償請求などが発生する
対象の事業者が雇用保険に加入しないと、ペナルティや損害賠償請求などが発生する可能性があります。
- 繰り返し是正勧告を受けると、6ヵ月以下の懲役か、30万円以下の罰金が科せられる可能性がある
- 雇用保険料の追徴金や延滞金が発生するケースがある
- ペナルティを受けた結果、社会的な信用を失う
- 従業員が生活に支障をきたした場合、損害賠償請求される可能性がある
特定法人は電子申請が義務
行政手続きコスト削減を目的に、以下に該当する法人は一部手続きの電子申請が義務づけられています。
- 資本金・出資金か銀行など保有株式取得機構に1億円以上納付する法人
- 相互会社
- 投資法人
- 特定目的会社
<手続き内容の一例>
- 被保険者資格取得届
- 被保険者資格喪失届
- 被保険者転勤届 など
雇用形態が変わったら手続きを行う必要がある
採用後に従業員の雇用形態が変わった際は、速やかに変更手続きを行う必要があります。変更後の雇用形態が条件を満たしている場合も、条件を満たした日より改めて加入手続きをします。条件から外れた場合は、前日に退職したものとして資格喪失手続きが必要です。
事業所ごとに加入の必要性をチェックする
雇用保険の加入は会社単位ではなく事業所単位であるため、同じ会社でも雇用保険の加入対象となる場合とならない場合があります。そのため、転勤や転属などがあった従業員については、その都度条件を満たしているかチェックをする必要があります。
参考:「2020年4月から特定の法人について 電子申請が義務化されます。」厚生労働省
関連記事:脱税とは?種類・法的なリスク・そして正しい税務対策について解説
雇用保険の手続きの流れ
雇用保険の手続きは従業員が入社するときと退職するときで異なります。それぞれの状況に応じた手続き方法や手順について、以下より解説をしますのでしっかり理解しておきましょう。
従業員の入社時
従業員が入社するときの雇用保険の手続きは、その従業員を初めて雇い入れる場合と2回目以降の入社では変わってきます。以下にそれぞれの手続きの流れについて解説をします。
初めて入社する場合
- 保険関係成立の手続きをする
- 住所を管轄するハローワークに事業所設置届と、雇用保険被保険者資格取得届を提出する
(賃金台帳、労働者名簿、出勤簿を添付) - 交付された雇用保険被保険者証を従業員に渡す
2回目以降の入社の場合
- その都度、住所を管轄するハローワークに雇用保険被保険者資格取得届を提出する
(賃金台帳、労働者名簿、出勤簿を添付) - 交付された雇用保険被保険者証を従業員に渡す
従業員の退職時
従業員が退職する場合、退職日の翌日から10日以内にハローワークに以下の書類を提出する必要があります。
- 雇用保険被保険者資格喪失届
- 離職証明書
離職証明書に記載する退職理由によって、従業員がもらう失業保険の受給期間や給付までの期間などが決まります。退社した従業員の主張と異なる場合は、ハローワークから調査を受ける可能性があります。
手続きを終えると、ハローワークから離職票が発行されます。
労働者を雇うときの税務に関する相談は税理士へ
雇用保険の基本情報や加入条件、保険料の算出方法、注意点、手続きの流れを解説しました。従業員を雇うときに一定の条件を満たすと、法人・個人事業主問わず雇用保険に加入するのが義務です。
雇用保険に加入しないと、罰則や会社としての信用の失墜などのデメリットがあります。また、速やかに手付きを行うことも求められます。ただ、日々の業務で忙しい事業者にとって、雇用保険に関する情報を入手したり加入手続きをしたりするのは負担になるかと思います。そのような場合は、費用がかかるものの専門家に依頼するのもよいでしょう。
また、雇用保険の支払いや帳簿づけは従業員が増えれば増えるほど、経理や事務作業は煩雑かつ手間がかかります。そのような状況には、税務の専門家である税理士に依頼するのが最適です。税理士であれば、日々の帳簿付けから税務処理に限らず、雇用保険料の負担額を軽減する方法などのアドバイスをもらうこともできます。