企業にとって、法人税は避けられないコストですが、適切に対策を講じることで節税効果を得られる場合があります。特に、賞与を利用した節税は、従業員への報酬を活用しつつ、税負担を軽減する方法のひとつです。本記事では、賞与を効果的に活用して法人税を抑える具体的な方法と経費計上における注意点をご紹介します。利益を守りつつ、従業員の満足度を高めるヒントをお届けしますので、最後までご覧ください。
目次
法人税と賞与について
「法人税」とは、企業が得た利益に対して課される税金で、企業が利益を上げると、その利益額に応じて法人税が発生します。
企業の収益が増えると、その分法人税の税額も大きくなりますが、反対に経費を計上することで課税所得を減らし、法人税の負担を軽減することができます。「賞与」は経費として計上されるため、従業員への成果報酬であると同時に、法人税の節税対策のひとつと言えるでしょう。
企業は、賞与を適切に支給することで、従業員のモチベーションを向上させるだけでなく、税負担を最適化することにも繋がります。一方、賞与の金額やタイミングは企業の税金計算に大きく影響するため、計画的な運用が必要となるでしょう。
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賞与による節税のメカニズム
従業員に賞与を支給すると、企業はその支給額を経費として計上できるため、課税対象となる利益が減ることで法人税の負担を軽減できます。賞与は従業員への報酬であり、経費として認められるため、企業は利益の調整が可能です。
特に、利益が大きくなる年度では賞与を活用することで、法人税の負担を抑えられる場合があるでしょう。
ただし、賞与を効果的に節税に活かすために留意すべき点がいくつかあります。賞与の節税効果を最大限に活用するために、企業はしっかりと計画を立てて運用しましょう。
賞与を利用した効果的な節税方法5つ
賞与を効果的に節税に活かすための5つの方法を紹介します。
- 決算賞与の活用
- 賞与の前倒し支給による税金対策
- 特別賞与の活用
- 賞与の分割支給
- 非現金報酬の活用
1. 決算賞与の活用
前述したように、従業員に賞与を支給することで、法人税の負担軽減が可能になりますが、 「決算賞与」を利用するのが効果的でしょう。
「決算賞与」とは、通常の賞与とは異なり、決算時期に支給される賞与を指します。
一般的な賞与は、決まった時期に定期的に支給されるものですが、決算賞与は年度末の利益状況に応じて調整されるものであるため、利益が予想以上に大きくなった際に、その利益(=課税所得)を効果的に抑える手段として活用できます。
企業が決算期に利益を見極めながら柔軟に対応できる点で、通常の賞与よりも節税効果が高いと言えるでしょう。
支給額を決算期までに確定し、適切に手続きすれば、余剰利益を削減し、次年度に利益を繰り越さず、企業の財務状況を健全に保ちながら、税金対策を図ることが可能です。
決算賞与の詳細な情報については、以下の関連記事をご確認ください。
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2. 賞与の前倒し支給による税金対策
賞与の前倒し支給は、翌年度に利益が大幅に増加する見込みがある場合に有効な節税対策でしょう。前倒しで賞与を支給することで、翌年度の課税所得を抑え、法人税の負担分散に繋がります。
特に業績が好調な企業では、売上や利益が増加するタイミングを見極めて、早期に賞与を支給することで、翌年度の税負担を平準化できます。
また、賞与の前倒し支給は、従業員に対する早期報酬としてのモチベーション向上効果も期待でき、税務対策と社員の士気向上を両立させる戦略的な手段と言えるでしょう。ただし就業規則に支給日などが記載されていることもあるため、事前に確認しておきましょう。
3. 特別賞与の活用
「特別賞与」は、通常の賞与や決算賞与に加えて、特別な業績やプロジェクトの成功に対して支給されるもので、随時支給できる柔軟性があり、従業員のモチベーション向上や業績達成を評価する手段として効果的な手段です。
特別賞与は、計画的な賞与ではなく、予期せぬ業績向上や特定の成果を評価して支給されるため、利益調整だけでなく従業員への即時的な評価としての役割も果たします。
この柔軟な報酬制度により、企業は利益状況に応じて従業員に適切な報酬を提供し、業績をさらに引き上げる動機づけにも繋がるでしょう。
4. 賞与の分割支給
賞与を一度に支給せず、数回に分けて支給することで、税負担を複数年度に分散できる節税方法もあるでしょう。分割支給により、企業は短期的なキャッシュフローの圧迫を回避し、現金流動性を高められます。
また、従業員に対しても定期的な報酬の提供が可能となり、長期的なモチベーションの維持にも貢献するでしょう。特に成長企業においては、利益やキャッシュフローの変動に合わせて賞与を調整し、計画的に税負担を管理するための有効な手段と言えます。
ただし賞与を年4回支給すると、社会保険料が増える可能性があるため注意が必要です。
5. 非現金報酬の活用
非現金報酬とは、現金の代わりに株式やストックオプションなどを従業員に提供する報酬形態で、キャッシュフローを守りながら節税対策もできる手法と言えるでしょう。
株式報酬やストックオプションは従業員に付与された時点では経費として認められず、従業員が実際に権利を行使した時や株式を取得した時に初めて課税対象となるため、企業としては経費計上のタイミングを調整できる点が大きな利点です。
また、企業の成長に伴う株価上昇により、従業員が将来的に大きな利益を得る可能性がある一方、企業側は現金支出を抑えられるため、キャッシュフローの健全性を保ちながら税負担を分散できます。
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賞与の支給と経費計上における3つの注意点
賞与の支給と経費計上において、以下の3点に注意してください。
- 支給タイミングの重要性
- 賞与支給額の適切な設定
- 社員への通知手続き
1. 支給タイミングの重要性
賞与を経費として計上するためには、支給するタイミングが重要です。
具体的には、賞与を未来金として計上するには期末までに賞与額を確定させ、従業員に通知し、翌月1ヶ月以内に支給しなければなりません。期末を過ぎてから賞与を確定すると、その年度の経費として認められず、節税効果が失われる可能性があります。
このため、企業は決算期前に賞与額を計算し、従業員に対して適切な形で通知する手続きを迅速に行う必要があります。また、タイミングを誤ると税務調査のリスクが増加するだけでなく、企業のキャッシュフローにも悪影響を及ぼす可能性があるため、計画的な支給を行いましょう。
2. 賞与支給額の適切な設定
賞与の支給額が過剰であると、企業の資金繰りに大きな負担を与え、長期的な経営の安定に影響を及ぼすリスクがあるでしょう。また、過度な賞与支給は、税務当局に「節税目的の操作」とみなされ、税務調査の対象となる可能性も高まります。
税務当局は、従業員の業績や役職に見合った賞与であるかを厳しく監視しているため、企業は利益や資金繰りをしっかり把握し、合理的かつ適切な賞与額を設定する必要があります。税務リスクを回避しながら、節税効果を持続的に得るために適正な金額設定を行ってください。
3. 社員への通知手続き
賞与を未払金として計上するためには、従業員への事前通知が必須となります。この通知手続きを怠ると、税務上の経費計上が無効となり、節税効果を失うリスクがあります。
賞与額の通知は、書面や電子メールなどの正式な形で行い、その記録を確実に保存してください。特に、税務調査が行われた際には、通知手続きの証拠が必要となるため注意が必要です。また、通知が遅れると従業員の期待が損なわれ、モチベーションの低下を招く可能性もあるでしょう。
企業と従業員の信頼関係を維持するためにも、賞与は迅速かつ正確に通知してください。
賞与を活用した法人税の節税にお悩みの方は専門家に相談
賞与を活用した法人税の節税は、タイミングや金額設定、手続きなど多くの要素を考慮する必要があり、適切に対応しないと、節税効果を十分に得られない場合や税務リスクが高まる可能性もあるでしょう。
こうした複雑な問題に対処するためには、税務の専門家に相談することをおすすめします。小谷野税理士法人は、法人税や賞与に関する豊富な知識と経験を持ち、企業のニーズに応じた最適な節税対策を提供しています。