株式の売買による利益や赤字がある方は、確定申告が必要か不要か確認する必要があります。例えば、「源泉徴収ありの特定口座」なら確定申告は基本的に必要ありません。しかし、それをあえて申告することで節税になるケースもあります。この記事では、確定申告すべき譲渡所得の基準や、節税できる特例、さらに特例の落とし穴などを解説します。
目次
株式の譲渡所得とは株式の売買によって得た利益のこと
株式の譲渡所得とは、株式を売って得た利益のことです。株式の譲渡所得は基本的に以下の計算で求めます。
株式の譲渡所得 = 売却価格 – 必要経費(取得費 + 手数料など)
例えば、100万円で購入した株式を150万円で売却した場合、譲渡所得は50万円です。
株式の譲渡所得がある方は確定申告が必要か不要か見極めよう
以下の表の「必要」の条件に該当する方は、確定申告が必要になるケースがあります。
確定申告の要否 | 必要 | 不要 |
証券会社の口座の種類 |
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|
給与所得がある (サラリーマンなど) | 譲渡所得を含む「給与以外の所得」が20万円超 | 譲渡所得を含む「給与以外の所得」が20万円以下 |
給与所得が無い (自営業や専用主フなど) | 譲渡所得を含む総所得が48万円超 | 譲渡所得を含む総所得が48万円以下 |
節税の特例など | 適用する | 適用しない |
以下、1つずつ説明します。
口座が「源泉徴収ありの特定口座」やNISAなら確定申告しなくていい
特定口座とは、証券会社が取引を記録し「年間取引報告書」を発行してくれる口座です。特定口座を利用すると、税金の計算が簡単になるメリットがあります。
さらに「源泉徴収ありの特定口座」を利用している場合、基本的に確定申告しなくて構いません。その口座は、証券会社が取引ごとに税金を計算して納税してくれるからです。よって、自分で申告や納税をする必要はありません。
また、NISA口座で取引した譲渡益も確定申告しなくて構いません。ただしNISA口座での赤字は、損益通算などの節税の特例も適用できないため注意しましょう。
参考:特定口座制度|国税庁
参考:NISA及びつみたてNISAの手続に関するQ&A|国税庁
給与所得がある人は給与以外の所得が年20万円超なら確定申告する
「給与所得がある人」とは、会社員やアルバイターなど、勤務先から給料や賃金をもらっている人です。確定申告すべき口座で取引し、かつ「給与以外の所得」が年間20万円を超えるなら、確定申告しなければいけません。例えば以下のようなケースです。
- 株式の譲渡所得が20万円超ある
- 株式の譲渡所得は15万円だが、不動産所得も10万円ある(給与以外の所得が合計25万円)
「給与以外の所得」が20万円以下なら所得税の確定申告は要りませんが、住民税の申告は必要です。その場合、住んでいる自治体に申告書を提出しましょう。
給与所得がない人は譲渡所得などが48万円超なら確定申告する
給与所得が無い人とは、個人事業主や専業主フなど「勤務先から賃金をもらってない人」です。この場合、譲渡所得・事業所得・不動産所得・雑所得など各所得の合計額が48万円を超えたら確定申告しましょう。
所得が一定以下の場合、基礎控除として控除できるのは48万円です。よって所得税額の計算時に、基礎控除の額=48万円を合計額から差し引けます。
確定申告が不要でも、住民税の申告は必要ですので注意しましょう。
参考:基礎控除|国税庁
節税になる特例を使うなら譲渡所得の額に関係なく確定申告する
株式の譲渡所得で赤字になった場合、損益通算や繰越控除といった特例を使って節税できるケースがあります。特例の適用を受けたい場合は、口座の種類や所得額に関わらず確定申告が必要です。
次の章で、節税できる特例について詳しく見ていきましょう。
譲渡所得が赤字の際に活用できる特例などを確認しよう
ここでは、株式の譲渡所得が赤字の際に節税できる特例を2つ紹介します。これらは確定申告をすることで適用できるため、確定申告が不要でもあえて確定申告をすることで節税できる場合があります。
ただし状況によってはむしろ負担が増えてしまう場合もあるので、特例を使う前によく検討してください。
赤字を他の黒字と相殺する「損益通算」
損益通算とは、譲渡の赤字を、他の譲渡益や配当所得と相殺できる制度です。株式の損益通算には、以下2つの方法があります。
解説 | 条件 | |
複数の口座間での 損益通算 | 複数の証券口座で取引しており、A口座で黒字、B口座で赤字の場合、それらを通算して全体の所得額と税負担を減らせる。 | 上場株式の譲渡所得同士・一般株式の譲渡所得同士なら可能。 上場株式の譲渡所得の赤字を一般株式の譲渡所得の黒字から控除することや、その逆は不可。 |
配当所得との 損益通算 | 株式の譲渡所得の赤字を、同じ年の上場株式の配当所得と相殺できる。これにより、配当所得にかかる税金を減らせる。 | 上場株式等の配当であること、配当所得も申告分離課税で申告することが必要 |
参考:上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除|国税庁
★上場株式と一般株式の違い
上場株式 |
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一般株式 |
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参考:上場株式等とは|国税庁
赤字を3年間繰越して控除できる「繰越控除」
繰越控除とは、その年の赤字を最大3年間繰り越せる制度です。翌年以降の利益と相殺できるため、翌年以降の所得額と税負担を減らせます。損益通算してもカバーできない赤字が対象です。
ただし、扶養控除や配偶者控除を受けている方は注意が必要です。
扶養の判定には、繰越控除する前の「合計所得金額」が使われます。控除前の譲渡所得を合わせた合計所得金額が48万円を超えると、扶養から外れて扶養者の税負担が増える可能性があります。
つまり、繰越控除で個人の税金を少なくしようとした結果、世帯としてはかえって多くの税金を払うことになるケースもあるのです。赤字を繰り越しても「必ずしも繰越控除しなくていい」という選択肢があることを念頭に置いておきましょう。
特例のために確定申告するとむしろ損になるケースもあるため注意
損益通算や繰越控除のために本来申告不要な所得を確定申告すると、申告しない時よりも合計所得や総所得等が増えます。その結果、控除や社会保険料に影響が出て、戻ってくる税金よりも負担が上回ってしまう場合があるためご注意ください。
例えば、合計所得(繰越控除前の所得)が増えると、扶養の判定に影響します。また、総所得等(繰越控除後の所得)が増えると、国民健康保険料や保育料の算定などに影響します。
どちらが得なのか、確定申告前にシミュレーションしましょう。個別の状況によって異なるので、税務署や自治体は答えてくれません。不安な場合は税理士に相談しましょう。
参考:【令和6年度から】特定配当等及び特定株式等譲渡所得等金額に係る課税方式の統一および繰越控除について | 課税・申告 | 渋谷区ポータル
株式の譲渡所得を確定申告する流れを解説!必要書類は何?
ここでは、株式の譲渡所得をe-taxで確定申告する流れを以下の3ステップで解説します。
- 必要書類を集めて、株式の譲渡所得や全体の所得額を把握する
- 譲渡所得が赤字の際は、特例を使うか検討する
- 必要書類を参考に、譲渡した株式の情報をe-taxで入力して提出する
以下、1つずつ見ていきましょう。
①必要書類を集めて株式の譲渡所得や全体の所得額を把握する
株式の譲渡所得は基本的に以下の計算で求めます。
株式の譲渡所得 = 売却価格 – 必要経費(取得費 + 手数料など)
譲渡所得を求めるには、売却価格と必要経費を明らかにしましょう。以下は、それらが分かる書類の例です。
- 特定口座年間取引報告書(特定口座の場合)
- 取引明細(一般口座の場合)
- その他、取引を証明する書類
これらの書類は、証券会社から交付されます。必要経費について、詳しくは下記の記事をご確認ください。
投資の確定申告で認められる経費とは?税金対策や申告書の書き方
譲渡所得以外の所得もあれば、その所得を証明する書類も必要です。例えば以下のような書類が挙げられます。
- 源泉徴収票(給与所得者の場合)
- 帳簿(自営業の場合)
譲渡所得やその他の所得を証明する書類は、確定申告書に添付して提出するわけではありません。ただし、確定申告書を作成する上で書類の数字が必要になるため準備します。
参考:e-Taxを利用して所得税の確定申告書を提出する場合の「生命保険料控除の証明書」などの第三者作成書類の添付省略の制度について教えてください。|国税庁
②譲渡所得が赤字の際は特例を使うか検討する
確定申告する前に、損益通算や繰越控除といった特例を使うかどうか検討しましょう。特例の内容は、直前の章「譲渡所得が赤字の際に活用できる特例などを確認しよう」をご確認ください。
また、特例を使う場合は、それぞれ個別の手続きや添付書類が必要です。詳しくは下記の国税庁のサイトをご確認ください。
参考:上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除|国税庁
また、赤字の確定申告の仕方について、詳しくは下記の記事をご確認ください。
投資でのマイナス分は確定申告で節税できる?申告義務ややり方を解説
株式投資で損をしたときの節税法!確定申告での損益通算のやり方を解説
③必要書類を参考に譲渡した株式の情報をe-taxで入力して提出する
パソコンやスマホなどを使い、e-taxで「所得税の確定申告書」を作成します。画面の指示に従いながら、必要書類を参考に譲渡所得などの数字を入力しましょう。
他の所得や控除なども入力したら、e-taxで確定申告書を提出できます。
株式の譲渡所得についての不明点は税理士にご相談を
この記事では、株式の譲渡所得や確定申告について解説しました。
株式の譲渡所得に関する不明点は、ぜひ税理士にご相談ください。特に、損益通算や繰越控除の利用は、個々の状況によって扶養や控除などへの影響が異なります。その上、特例を利用すべきか否かについては、行政による具体的なアドバイスは行われません。