サーチファンドとは、起業家が中小企業を発掘し、資金提供などの支援をしながら経営に直接関わる投資戦略を指します。起業家が中小企業のポテンシャルを最大化するため、投資戦略として実施することがあり、主にM&Aを通じて行われます。本記事ではサーチファンドの仕組みや、起業家側、投資家側それぞれにとってのメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。
目次
サーチファンドとは
サーチファンドとは、起業家が経営をしたい中小企業を見つけ出し、投資家の支援を受けながら買収および経営への関与を行う戦略的投資スキームのひとつです。投資家から提供された資金は、企業の経営効率を高めるために使い、そののち投資家に資本を還元をします。この仕組みは、1980年代にスタンフォード大学のビジネススクール出身者を中心に普及し、売却企業側の課題の大幅な軽減も可能になります。
サーチファンドは、起業家と投資家における企業のM&A戦略の1つです。起業家は投資家の資金援助のもと、買収企業の発掘から買収後の事業運営を行います。起業家にとっては自身で起業をするより少ない資金で企業経営が可能になります。一方で投資家にとっては、少ない投資で大きなリターンを得られる可能性が高まります。
現在、サーチファンドは企業の利益を最大化するための戦略として高く評価されています。特に手つかずの中小企業はサーチファンドに適しており、起業家、投資家双方に魅力的な選択肢のひとつです。また、今後より大きな企業経営にチャレンジしたいと考える起業家にとっても理想的なプラットフォームと言えるでしょう。
関連記事:合併と買収の違いとは?種類やそれぞれのメリット・デメリットについて解説 – 【会社設立】小谷野税理士法人
サーチファンドにおける起業家と投資家の役割
サーチファンドを活用したM&Aは、企業の成長を促す重要な戦略です。以下より、起業家、投資家それぞれにおいての役割とプロセスについて解説します。
起業家側の役割
起業家は投資家への出資依頼と買収の対象となる企業の選定を行い、買収後は自らが経営者となって事業運営を行います。この立場はサーチャー(経営者候補)とも呼ばれます。
投資家に対しては、買収の対象となる企業を発掘するための支援依頼と、実際に対象企業を見つけたあとの買収資金の出資依頼を行います。支援依頼と出資依頼、それぞれで自らの経験を活かしながらプレゼンを行い、投資家を納得させる必要があります。そして買収後に利益が出た際は、投資家に資本の還元を行います。
投資家側の役割
投資家は、起業家が買収企業を発掘するための資金や、買収に伴う資金の支援を行う役割を担います。そして、買収した企業が利益を得た際には資本の回収を行います。
起業家が対象企業を発掘する際のプレゼンでは、起業家の人材や力量を見極め、支援にあたる人物かを判断します。また、実際に起業家が対象企業を発掘した際は、企業の成長戦略や条件面等を確認して投資の是非を決定します。場合によっては経営者選びから資金支援、小中規模企業の発掘から買収まで一連の流れをサポートすることもあります。
買収プロセスにおける注意点
M&Aを成功させるために大切なのが、適切な企業の選定です。投資すべきなのは、安定した収益性や成長のポテンシャルを持った企業です。買収後には、経営の迅速な統合と、効率的な運営が求められます。
なお、企業選定においてはデューデリジェンスの実施が重要です。デューデリジェンスとは、買収する側が買収先企業について事前に調査を行うことをいいます。リスクを最小限に抑えつつ企業成長を進めるには、市場の動向や競合分析、財務状況など多岐にわたる情報を精査すべきであるからです。
買収の対象となる企業の選定から買収のプロセス、買収後の経営は起業家が行ないますが、実際は経営ノウハウを持っている投資家が関与する事例が多いとされています。そのため、起業家と投資家は一蓮托生の連携のもと、互いに経営方針のすり合わせを行い、信頼関係を築く必要があります。
上記をふまえてM&Aを成功させることができれば、起業家と投資家にとっては大きな利益を期待できます。
サーチファンドのメリット
ここでは、サーチファンドのメリットについて解説します。起業家と投資家、どちらのメリットについても触れているので、サーチファンドを実施する後押しにもなるでしょう。
自身に合った企業を選定できる
仲介会社やマッチングによるM&Aでは、買収までの期間や判断材料が少ないのがデメリットです。しかしサーチファンドでは、企業の調査や交渉などに時間をかけることができるため、起業家、投資家は自身に合った企業を選定することが可能です。
また、サーチファンドを実施すると、起業家や投資家は隠れたポテンシャルを持つ中小企業と接点を持つことができます。一般の市場チャネルでは接触しづらい企業を発掘すれば、有利な条件での投資機会を得られるでしょう。
リスクを最小限に押さえられる
起業家にとっては、新たに会社を立ち上げるより倒産リスクが低い点がメリットです。また投資家にとっても、起業間もない会社に投資を行うより、すでに地盤のある企業の方が投資リスクも低いでしょう。
また、サーチファンドでは買収プロセス全体のリスクが低減されるのもメリットです。仲介会社などを利用したM&Aでは、企業を見極める機会が乏しい傾向にあります。その点サーチファンドでは、自分の価値観に合う企業をじっくりと選定することが可能です。
また、専門家を通じて事業の持続可能性や成長潜在力を評価できるため、失敗のリスクを最小限に抑えられます。
参考:サーチファンドとは?メリット・デメリットや仕組み、歴史を解説【実績あり】
経営未経験でもチャレンジできる
起業家にとっては、投資家や企業側のサポートを受けられる点がメリットです。
会社経営の経験がない起業家の場合、新たに会社を設立するにはハードルが高いのが実情です。また、自身の力だけでM&Aを行うのは資金面でも難しいでしょう。
しかし、サーチファンドを通じて中小企業を買収する際は、起業家はさまざまなサポートを受けることができます。投資家からは資金面や買収におけるプロセスのサポートを受けられます。また、買収後の経営も専門家のアドバイスや経験豊かなマネージメントチームの支援を得ることが可能です。
サーチファンドは、起業家の発掘と成長を促進するスキームといえます。また起業家や投資家にとっても、新たなビジネスチャンスをつかむ優れた手段といえるでしょう。
サーチファンド利用のデメリット
次に、サーチファンド利用のデメリットについて解説します。メリットだけではなくデメリットもきちんと把握したうえで、サーチファンドの実施を検討することをおすすめします。
多額の資金を用意しなければならない
サーチファンドにより企業を買収するには、多額の資金を用意する必要があります。起業家にとっては投資家の支援があるため、個人で会社を設立したり買収する場合に比べれば負担は少ないでしょう。しかし、ある程度まとまった資金が必要であることに変わりはありません。
資金調達のプロセスや対象企業の情報収集にかかるコストも高いため、初期段階で大きな出費が必要な点は理解しておく必要があります。
適切な企業を見つけるための時間と手間がかかる
サーチファンドにおける最初の課題は、適切な対象企業を見つけることです。市場にはさまざまな企業が存在しますが、投資家の条件に合う企業を見つけるのは容易ではありません。
とはいえ、スピードを重視して適当に選定してしまうと、効果的な利益に結びつかない恐れがあります。したがって、企業選定にはある程度時間がかかります。
起業家が実際に事業経営ができるようになるまでは、自身で起業をしたりM&Aを行うより時間がかかる点を理解しておきましょう。また、企業利益がでるまでの時間もかかるため、資金的体力も必要です。
上記の点から、投資家も投資リターンが遅延する可能性もあることは頭に入れておきましょう。
買収後も戦略に沿った運営をする必要がある
サーチファンドを通じて企業を買収した後、その企業を成長させるためには運営に長期間関与しなければなりません。これは他の投資機会を失うことにもつながるため、柔軟な取引をしたい起業家や投資家にとってはデメリットです。
また買収した企業の運営には、市場変動や経営戦略のミスが直接的な財務リスクにつながるなど、さまざまな困難が伴います。経営が傾けばせっかく買収した企業の成長も見込めなくなります。起業家のみならず投資家も、投資リターンを得るためには買収後も市場動向に注力をする必要があります。
サーチファンドを理解して自身に合った選択を
サーチファンドは、日本においてはまだ認知が低い投資スキームです。まだその存在やプロセスを知らない投資家や企業も多く存在します。そのため、起業家がサーチファンドを実施するには、投資家への理解や企業への説明をするプロセスも必要になるでしょう。
現在、さまざまな投資やM&A戦略があるなか、起業家や投資家はサーチファンドとはどういったものか理解をし、自身にはどの手法が合っているのか慎重に判断する必要があります。
起業家は会社設立とM&Aどちらが向いているのか、それぞれのメリット、デメリットを理解しましょう。投資家もベンチャーキャピタルやエンジェル投資などとの違いを知ったうえで、どの投資方法が最適か見極めましょう。
起業家においては、会社設立、M&Aどちらにしても自身でも資本を用意する必要があります。小谷野税理士法人では、個人事業主や起業家の会社設立における資金調達のサポートも行っています。創業融資や補助金・助成金といった方法もあり、いずれも高い成功率を誇っています。