2024年秋より、労災保険の特別加入制度が拡大され「すべてのフリーランス」が対象となります。これにより、フリーランスも仕事中や通勤中の事故に対して、労働者と同様の保護を受けられるようになります。労災保険給付では、治療費や休業補償、障害が残った場合や遺族への給付など、その補償も幅広いのが特徴です。フリーランスの働き方を支え、安心して仕事に取り組める環境を整えることが期待されています。
目次
フリーランスや一人親方などが加入できる保険
労災保険は本来、労働者の保護を目的とした制度です。そのため、事業主や自営業者、家族従事者などの労働者ではない者は保護の対象とはなりません。
しかし、労災保険には「特別加入制度」が設けられており、労働者に当てはまらない人々も自己負担で労災保険へ加入できます。例えば、本来は加入対象外である個人事業主・フリーランスといった自営業者、一人親方などが特別加入者として認められています。「特別加入制度」の加入条件は以下の通りです。
- 事業主自身や一人親方など、従業員を雇用していない個人事業主
- 特定の業務に従事しているフリーランス など
特別加入制度の拡大により、より多くのフリーランスが業務中の事故や病気によるリスクから保護されます。特別加入を希望する場合は、自ら保険料を納付しなければなりませんが、万が一の時に備えて経済的な安心を得られるため、多くのフリーランスにとって重要な選択肢となるでしょう。
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令和6年11月から「すべてのフリーランス」が労災保険特別加入の対象に
令和6年11月から、労災保険の特別加入の対象者が拡大されます。従来の労災保険の特別加入は、一部の業種や条件を満たすフリーランスに限られていましたが、新たな法改正により、全業種に従事するフリーランスが加入できるようになります。
フリーランス新法により特別加入の対象者が拡大される
フリーランス新法により令和6年11月から対象範囲が拡大され、企業から業務を委託される全業種に認められます。
これまで、特別加入制度の対象となるフリーランスは、フードデリバリーサービスの配達員や歯科技工士、建設業の「一人親方」といった25業種に限られていました。しかし、コンサルティング業やデザイナー、研究者なども対象となる見通しです。
従来の業種や条件に縛られず、幅広い分野で活動するフリーランスが対象です。これまで、フリーランスは企業と「雇用関係」がないことから、業務に起因する傷病に対しての補償がありませんでした。上記のフリーランス新法によって、補償が受けられない問題が解消されると期待できます。多くのフリーランスの方が、自身の安全と安心を確保しながら、より柔軟な働き方を選択できるようになるでしょう。
仕事中のケガ・病気に対して補償を受けられる
労災保険の特別加入が可能になることで、フリーランスも仕事中の怪我や病気に対して、補償を受けられるようになります。従来の会社員と同様の保護をフリーランスにも提供するものであり、仕事による怪我や業務上の理由で発症した病気に対して、治療費や休業補償などが支給されます。
例えば、フリーランスの翻訳者や通訳者が、海外出張時の同行通訳中に怪我をした場合、労災保険から治療費や休業補償を受けることが可能です。また、フリーランスのデザイナーやプログラマーが、クライアントとの打ち合わせ場所に向かう途中で事故に巻き込まれた場合にも、労災保険による補償を受けられます。
また、万が一の際には遺族に対する補償もあり、安心して仕事に取り組むための支えとなるでしょう。自己責任でのリスク管理に加え、国の制度をバックアップとして活動の幅を広げることにつながります。
原則として業務委託を受けて行う事業のフリーランスが対象
特定の受託業務に従事するフリーランス(特定フリーランス事業)が新たに特別加入の対象となります。具体的には、以下の業務が該当します。
- 企業からの業務委託を受けているフリーランス
宣伝写真の撮影・翻訳・通訳・講師・インストラクター・デザイン・コンテンツ制作・調査・研究・コンサルティング・営業代行など - 企業からも消費者からも委託を受けて同種の事業を行うフリーランス
家庭教師・美容師・理容師・写真家・ホームクリーニングサービスなど、企業とも消費者とも直接契約を結び、収入を得る業種
なお、以下のケースは特定フリーランス事業に当たらないため、特別加入の対象となりません。
- 消費者のみから委託を受ける場合
- 企業からの業務委託を受けているが、その業務とは異なる事業について、消費者から委託を受ける場合
特定フリーランス事業以外の特別加入の事業や作業に従事する方は、該当する特別加入団体を通じて加入することが可能です。
参考:令和6年11月から「フリーランス」が労災保険の「特別加入」の対象となります|厚生労働省
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フリーランスが労災保険に特別加入するメリット
労災保険は、予期せぬ事故や病気が発生した際の経済的なリスクを軽減し、安定した働き方を支援してくれます。フリーランスとして活動する上で、特別加入は安心材料となるでしょう。
働けなくなった場合の不安を払拭できる
労災保険へ特別加入することで、業務中に怪我をしたり病気になったりした場合、仕事を一時的に休まなければならなくなったときの不安が軽減されます。
例えば、デザイナーやライターなどのクリエイティブ職で働くフリーランスが、業務上の理由で怪我をした場合、治療費の支給はもちろん、休業補償給付により収入の一部を補填してもらえるのです。治療に専念する間の生活費の心配を軽減し、療養に集中できるでしょう。
いざという時に手厚い補償が受けられる
労災保険に特別加入すると、業務中に負った傷病だけでなく、通勤途中の事故による怪我に対しても補償を受けられます。これは、通常の健康保険や生命保険ではカバーされない範囲です。
特に重大な怪我や長期にわたる治療が必要な場合には、治療費や休業補償、障害給付など、幅広い補償が提供されます。そのため、フリーランスは自己負担を大幅に減らすことにつながり、経済的な負担が軽減されます。
フリーランスの労災保険料
労災保険に特別加入する場合、保険料は「給付基礎日額」をもとに算出されます。保険料率は業種ごとに定められており、フリーランスは原則0.3%が適用されます。
給付基礎日額をもとに算出される
「給付基礎日額」とは、労災保険の保険料や給付額を算定する基礎となる金額のことです。自己申告する年間収入をもとに計算され、労働局長が決定します。
通常は、平均賃金に相当する額を日割りで算出したものがベースとなり、毎年支払う保険料の額を決める際の計算基準とされる指標です。年間の保険料は、給付基礎日額に365日を乗じた金額に、事業の種類に応じた保険料率を掛けて算出されます。
給付基礎日額は、労働者が業務上の事由や通勤途中の事故で怪我をした場合や、職業病にかかった際に支払われる給付金の額を決定する際にも用いられます。
したがって、給付基礎日額が低いと、保険料は安くなりますが、それに伴い休業補償などの給付額も少なくなるため、実際の収入に見合った適正な額を申請することが重要です。
フリーランスの保険料率は原則0.3%
労災保険料は、給付基礎日額に365日を乗じ、さらに保険料率を掛けて算出されます。保険料率は将来的な見直しの可能性もありますが、フリーランスの場合は原則として1,000分の3とされています。計算式は以下の通りです。
労災保険料 = 給付基礎日額 × 365 × 保険料率(フリーランスは0.3%)
例えば、給付基礎日額が2万円の場合、年間の保険料は「2万円 × 365日 × 0.3%」で、2万1,900円です。
この計算方法は、新たな制度においても継続される予定です。ただし、保険料の徴収を代行する「特別加入団体」を通じて加入する場合には、事務手数料などが発生する場合があるため、その点も考慮して加入手続きを行う必要があります。
参考:令和6年度の労災保険率について(令和6年度から変更されます)|厚生労働省
関連記事:フリーランスの税金がやばい?課せられる税金の種類や節税方法を解説
労災保険特別加入の手続き方法
労災保険に特別加入するには、労働保険事務組合に委託しなければなりません。個人での申し込みはできず、団体を選ぶ時間や、実際に依頼する手間がかかります。そのため、労災保険の特別加入を検討する際には、これらの点を理解したうえで手続きの準備が必要です。
既存の特別加入団体を通して申請する方法
既存の特別加入団体を通して申請する場合、まずは自身の業種や職種に関連する特別加入団体が既に存在しているかを確認しましょう。存在していれば、その団体への加入申請を行います。
加入後、団体を通じて所轄の労働基準監督署長に「特別加入申請書」を提出します。申請書には、個人の業務内容や業務歴、希望する給付基礎日額などを記載し、団体が代行して申請手続きを行います。
厚生労働省のウェブサイトでは「特別加入団体一覧表」を確認でき、自身に合った団体を選ぶことが可能です。
特別加入団体を立ち上げて申請する方法
特別加入団体を新たに立ち上げて労災保険に特別加入するには、まずは同業種の自営業者やフリーランスなどが集まり、団体を組織する必要があります。団体を構成するには、相当数の加入希望者が必要です。
団体が構成されたら、所轄の労働基準監督署に「労災保険特別加入団体設立届」を提出します。申請には、団体の規約や加入者名簿、事業内容を示す書類などが必要です。
提出後、審査を経て認可されれば、団体を通じて特別加入の手続きが完了します。既存の団体に加入する方法に比べ、自分たちで団体を運営する自由があり、加入条件などを柔軟に設定できるメリットがあります。
フリーランスが労災保険特別加入の対象に追加された背景
日本では、フリーランスとして働く人口が増加しており、内閣官房の調査によると、その数は約462万人にのぼると試算されています。このうち、企業から業務や作業の委託を受ける割合は59%を占めているものの、ほとんどのフリーランスが従来の労災保険の枠組みの中では十分な保護を受けられていませんでした。特に、ITフリーランスなどでは、長時間労働による身体的・精神的な疾患が増加していることが背景にあり、これらのリスクに対する保障が求められていました。
このような状況を受けて、労働政策審議会では、社会経済情勢の変化を踏まえ、特別加入の対象範囲や運用方法等の見直しが必要であるとの建議が出されました。また、フリーランス新法の成立に伴い、特別加入の対象拡大に向けた取り組みが求められ、令和6年11月からフリーランスも労災保険の特別加入の対象となることが決定されたのです。
これにより、フリーランスは業務中の事故や病気に対して、労災保険から補償を受けられるようになり、安心して仕事に取り組めます。労災保険制度の拡大は、多くのフリーランスの働き方に良い影響を与えるでしょう。
参考:フリーランス実態調査結果|内閣官房日本経済再生総合事務局
参考:労働政策審議会 (労働条件分科会労災保険部会)|厚生労働省
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労災保険の特別加入を検討しよう
労災保険の特別加入は、多くのフリーランスにとってメリットをもたらします。業務中の事故や病気によるリスクから保護され、安心して仕事に専念できるようになるでしょう。
制度の改正によって、これまでのギャップが埋められ、フリーランスの社会的地位が高まりつつありますが、依然として雇用されている労働者に比べて弱い立場にあります。より安定した経営基盤を築きたい方は、税理士などの専門家の知識を活用することが有効です。
税理士のサポートが必要なフリーランスの方や、労災保険以外の備えについても詳しく知りたい方は、私たち「小谷野税理士法人」が全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。