株取引で不運にも損失が生じた際、確定申告することで税金面で優遇を受けることが可能です。株で損をした際には落胆も大きいかもしれません。しかし、少しでもその損失を回復できるよう適切な手続きを行うことで、一定の損失分をカバーできます。この記事では、上場株で損失が生じた際に利用できる特例や、申告の具体的な方法について、わかりやすく解説します。
目次
株で損失が出たら確定申告をした方がいい?
株取引で損失が発生した場合、原則として確定申告を行う義務はありません。しかし、申告することで税金の節約が可能になることがあるため、検討の余地はあると言えます。
株の損失による確定申告は原則不要
株取引を行う際、損失のみであれば原則として確定申告は不要です。ただし、株を売却して利益が20万円を超える場合は申告が必要な可能性があります。
確定申告が必要なケース・不要なケースの詳しい判断基準は、以下の通りです。
【株式投資で確定申告が必要であるケース】
- 譲渡益が発生した:
株を売却して利益が出た場合、その儲け分に対しては20.315%の税率が適用されます。そのため、納税のためにも確定申告が必要です。
- 給与所得者で年間の利益が20万円を超える:
給与所得がある人で、株式投資からの年間の利益が20万円を超える場合は、確定申告が必要です。ただし、年間の給与所得が2,000万円を超えている場合は、勤務先での年末調整をしないため、年間の利益に関わらず申告をしなければなりません。
- 源泉徴収なしの特定口座を使用している:
源泉徴収なしの特定口座で取引を行い、年間の譲渡損益が生じた場合、証券会社から税額分の徴収がされないため、確定申告が必要です。
【株式投資で確定申告が不要であるケース】
- 譲渡益と配当金の合計が年間20万円以下:
譲渡益と配当金の合計が年間で20万円以下の場合、確定申告は不要です。
- 給与所得がなく、株式投資の利益が48万円以下:
基礎控除(48万円)を差し引くと所得が0円になるため、申告する必要はありません。
- 損失が出た:
株で損失が出た場合は納税の不要であるため、確定申告は不要です。しかし、マイナス分を利益から差し引くことで税金を減らせるため、申告することで節税できます。
- 特定口座(源泉徴収あり)で取引を行っている:
証券会社が源泉徴収して納税をしているため、申告は不要です。
住民税に関しても、源泉徴収ありの特定口座で取引を行っている場合、特に住民税の申告を行う必要はありません。これは、株式投資の利益が申告分離課税の対象であるためです。しかし、一般口座などで取引している場合は、申告が必要になる可能性があるため注意しましょう。
義務ではないものの節税につながる
株取引で損失が出た場合でも、確定申告をすることでマイナス分を他の株式譲渡等の利益から差し引けるため、結果的に支払う税金を減らすことが可能です。
節税に繋がる理由として、「損益通算」の存在があります。損益通算の制度を活用することで、同じ年度内に生じた利益と損失を相殺し、課税される利益額を減少できます。例えば、A証券会社で60万円の配当所得が出て、B証券会社で20万円の損失が出た際、60万円の利益から譲渡損失額20万円を差し引いた40万円に対して税金が計算されます。結果的に、税金が安くなるのです。
しかし、損失額が大きい場合、その年の利益と損益通算してもまだマイナス分が残ってしまうこともあります。このような場合に「繰越控除」という制度を利用すれば、その後3年間に渡って損失を繰り越して損益通算ができ、高い節税効果を得られます。
株式を譲渡して生じた損失のうち、その年で控除しきれない金額については、翌年以降の3年間に渡り、上場株式等の譲渡益や配当金から控除できるのです。繰越控除を活用することにより、将来の税金が軽減される可能性があります。
株で損失を出しても確定申告が原則不要なのは、税金を納める必要がないからです。しかし、税制上のメリットを活用するためには確定申告をしなければなりません。個々の状況に応じて、申告を検討しましょう。
関連記事:株式投資で損をしたときの節税法!確定申告での損益通算のやり方を解説
上場株式を売却して損した場合の特例
上場株式の売却で損失が生じた場合、税制上、以下の2つの特例を利用することで節税につながります。ここでは、それぞれの概要について解説します。
損益通算
「損益通算」とは、同じ年度内に生じた利益と損失を相殺できる制度で、株取引で損失が出た場合に確定申告を通じて税金を減らすことが可能です。上場株式を売却して損失が生じた場合、その年の利子・配当所得による利益と相殺できます。
例えば、ある年に以下の取引があったとします。
- 株式A:購入時の価格が100万円、売却時の価格が150万円で、利益は50万円
- 株式B:購入時の価格が200万円、売却時の価格が150万円で、損失は50万円
上記のケースでは、株式Aの利益50万円と株式Bの損失50万円を相殺することが可能です。その結果、その年の株取引による課税対象の利益は0円となります。
損益通算を行うには、所得税の確定申告にて手続きを行う必要があります。特に、特定口座(源泉徴収なし)や一般口座を利用している場合は、申告しなければ損益通算が適用されません。
なお、特定口座(源泉徴収あり)で取引している場合は、証券会社が自動的に利益と損失を相殺するため、確定申告は不要です。しかし、この場合でも年間の損益合計がマイナスであれば申告して、利益がでている証券会社と損失がでている証券会社の損益通算を行えます。
ただし、非課税口座(NISA・つみたてNISA)や未成年者口座(ジュニアNISA)内の取引による損失や、いわゆる相対取引などにより生じた譲渡損失の場合は、損益通算できません。
繰越控除
上場株式を売却して損失が発生した際、同年の配当所得や利子所得と損益通算しても、まだ控除できるマイナス分が残ることもあります。この場合、残った損失を翌年以降3年間にわたって繰り越し控除することが可能です。
例えば、2023年の1年間に株取引で200万円の損失を出したとします。この損失は、以下のように繰り越すことが可能です。
- 2023年の株取引損失:譲渡損失 = −200万円
- 2023年の利子・配当所得:利子・配当所得 = +10万円
上記の場合、2023年の損益は次のように計算されます。
年間損益 = 譲渡損失 + 利子・配当所得 = −200万円 + 10万円 = −190万円
特定口座(源泉徴収あり)で取引している場合、利子・配当所得に対しては源泉徴収が行われているため、10万円に対する税金が還付されます。そして、残りの190万円の損失は翌年以降の3年間にわたって繰り越され、その期間内に発生する利益と相殺できます。
翌年以降の利益との相殺例は以下の通りです。
【繰越控除での相殺例】
- 2024年に50万円の利益が出た:
相殺後の課税対象利益 = 50万円 − 190万円 = −140万円(損失繰越)
- 2025年にさらに100万円の利益が出た:
相殺後の課税対象利益 = 100万円 − 140万円 = −40万円(損失繰越)
- 2026年にもう100万円の利益が出た:
相殺後の課税対象利益 = 100万円 − 40万円 = 60万円(この年から課税)
繰越控除を受けるためには、申告が必要です。また、取引がない年でも、その損失を繰り越す期間中は毎年確定申告を行う必要があります。また、繰り越されたマイナス分は、一般株式等に係る譲渡所得等の金額からは控除できません。
繰越控除は、上場株式等を金融商品取引業者を通じて譲渡したことにより生じた損失に限ります。損益通算と同様に、相対取引など特定の取引や非課税口座(NISA・つみたてNISA)、未成年者口座(ジュニアNISA)内の取引による損失は対象外です。
関連記事:投資の確定申告で認められる経費とは?税金対策や申告書の書き方
株式投資でかかる税金
株式投資では、譲渡益と配当金にそれぞれ税金がかかります。投資家は以下の税率を理解し、年間の取引を通じて発生した利益や配当に対して、正しく申告・納税しなければなりません。
譲渡益にかかる税金
株式を売却して利益が出た場合、その利益に対しては「20.315%」の税率が適用されます。税率の内訳は、15.315%の所得税(復興特別所得税を含む)、5%の住民税です。
譲渡益は「申告分離課税」の対象となり、他の所得とは別に計算されます。総合課税とは異なり、申告分離課税では所得が一定の税率で課税されるため、株式の譲渡に関しては所得の金額によって税率が変動することはありません。
なお、令和19年までの間、復興財源確保法により譲渡益に対する所得税額に2.1%の復興特別所得税が加算されます。例えば、上場株式等の譲渡益に対する所得税が15%の場合、復興特別所得税率は0.315%(15%×2.1%)です。特別税は、所得税額に基づいて計算され、確定申告時に申告・納付しなければなりません。
参考:東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法に係る所得税の取扱い(復興特別所得税の取扱いについて)|国税庁
配当金にかかる税金
配当金に対しても、譲渡益と同様に「20.315%」の税率が適用されます。これには、15.315%の所得税(復興特別所得税を含む)と5%の住民税が含まれます。
利用している特定口座が源泉徴収ありの場合、配当金は支払時に証券会社が源泉徴収するため、原則として申告不要です。しかし、源泉徴収なしの特定口座や一般口座を使用している場合は、確定申告を行う必要があります。
参考:No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)|国税庁
令和6年度からは「住民税の課税方式」に注意
令和6年度(令和5年分)の申告から、住民税の課税方式に関して変更がありました。以前は、所得税で総合課税や分離課税を選択した場合でも、住民税では申告不要制度を選択することが可能でした。しかし、令和5年分からは、所得税と住民税で異なる課税方式を選択できなくなります。
具体的には、以下の3つの課税方式があります。
- 申告不要制度:
配当金や分配金が支払われる際に源泉徴収され、別途確定申告をする必要がない方式 - 総合課税:
各種所得金額を合計して所得税額を計算する方式で、所得税は累進税率、住民税は10%の税率で算出する方式 - 申告分離課税:
他の所得金額とは分離して税額を計算し、確定申告によって納税する方式
令和5年分からは、例えば所得税で総合課税を選択した場合、住民税でも総合課税として申告しなければなりません。また、所得税で申告不要制度を選択すれば、住民税にも申告不要制度が適用されます。
この変更は、所得税と住民税の課税方式を一致させることで、税制の公平性を高めることを目的としています。異なる課税方式の選択が廃止されたことによる影響を理解し、適切な申告を行うことが重要です。もし不明な点があれば、お住まいの自治体や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考:お知らせ|国税庁
株で生じた損失の確定申告で必要な書類
株の損失を確定申告する際、その年の1月1日から12月31日までの間に売却して損失が出た株式に限られます。損失の金額は、売却した株式の取得費と売却価格の差額として計算されます。
確定申告を記入する前に準備する書類
確定申告を行う際には、以下の書類を揃えておく必要があります。
- 源泉徴収票(給与所得者の場合)
- 取引報告書(証券会社から提供される)
- 売買記録(自分で管理している場合)
- マイナンバーカードなどの本人確認書類
確定申告では、株の取引が明確にわかるよう、取引報告書や源泉徴収票などを参照しながら正確に記入する必要があります。また、扶養家族がいる場合は家族分のマイナンバーがわかる書類の準備も必要です。
確定申告で提出が必要な書類
株で損失が出た場合の確定申告に必要な書類は以下の通りです。
- 確定申告書第一表・第二表
- 株式等に係る譲渡所得者の金額の計算明細書
- 申告書第三表(分離課税用)
- 確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)
確定申告は複雑に感じるかもしれませんが、必要な書類を一つずつ丁寧に取り組むことで、スムーズに申告が進みます。
確定申告書類の書き方
まず必要であるのが、「確定申告書第一表」と「第二表」です。どちらも確定申告の際に提出する必須の書類であり、所得や控除に関する情報を記入します。特に、第二表には所得の内訳を記載するため、株式等の譲渡損失に関する情報もここに入力します。
次に、「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」を準備します。この書類は、株式等の売却による損益を計算し、その結果を明確に示すためのものです。売却した株式の取得費や売却費用など、損益計算に必要な詳細な情報を記入します。これにより、損失がどのように発生したかを税務署に示すことが可能です。
さらに、「申告書第三表(分離課税用)」を用意する必要があります。株式等の譲渡所得は分離課税の対象となるため、第三表で分離課税に関する所得の計算を行います。株式の譲渡損失がある場合には、第三表に記入することで、そのマイナス分を他の所得と通算することが可能です。
最後に、確定申告で損益通算や繰越控除を行う際には「申告書付表」が必要です。この付表は、上場株式等の譲渡損失を他の所得と通算する場合や、損失を翌年以降に繰り越して控除する際に使用します。損失を繰り越すことで、将来の税金の負担を軽減できるため、損失が大きいケースでは特に重要な書類です。
確定申告書類の書き方については、以下でも詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてみてください。
関連記事:【税理士監修】確定申告のやり方ガイド!いつからいつまでの収入?郵送のケースや必要書類・マイナンバーカードについて
株の損失を確定申告する際によくある質問
株式取引における確定申告は多くの方にとって複雑で、分からないことも出てくるかもしれません。ここからは、株で生じた損失を確定申告をする際に、よくある質問とその回答についてご紹介します。
株の損失を確定申告すると会社にバレる?
株の損失を確定申告するにあたって、通常は勤め先の会社に知られることはないでしょう。株式投資による損益は「申告分離課税」の対象であり、給与所得とは別に扱われるため、年末調整の対象外です。そのため、会社に「私は株でこれだけの損失がありました」と申告する必要はありません。
ただし、住民税の納付方法には注意が必要です。住民税は勤め先の会社が従業員に代わって毎月の給与から差し引いて納める「特別徴収」が一般的です。これにより経理担当者が損失の存在に気づく可能性があります。しかし、住民税の納付方法を「普通徴収」に選択することで、自分で直接納税でき、会社に知られることなく納税することも可能です。
また、特定口座(源泉徴収あり)を利用している場合は、証券会社が税金を源泉徴収して納めるため、株の取引に関する情報は会社に伝わらないため、会社に知られる可能性は低いと考えられます。
複数の特定口座を利用している場合、自動で損益通算される?
特定口座(源泉徴収あり)を利用している場合、通常は証券会社が配当金や譲渡損益の所得計算と税金の支払いを自動的に行うため、確定申告の必要はありません。しかし、複数の証券会社で特定口座を利用している場合、それぞれの証券会社は独立して管理されており、損益通算は自動で行われません。
したがって、複数の特定口座間で損益通算を行いたい場合は、確定申告が必要です。例えば、ある証券会社で利益が出ているが、別の証券会社で損失が出ている場合、確定申告をすることで損益を通算し、過剰に支払った税金の還付を受けることが可能です。
株とFXの損益通算は可能?
株とFXの損益は通算できません。なぜなら、それぞれ異なる所得区分に分類されるためです。しかし、株の譲渡損失と配当所得、特定公社債の売買・償還で生じた損益や利子等は、株の売買で生じた損益と通算可能です。また、FXの損益は「先物取引にかかる雑所得」に分類され、CFDやバイナリーオプション、商品先物、日経平均先物、TOPIX先物等と通算可能です。
関連記事:株式投資にはどのような税金がかかる?節税方法や税制優遇措置についても解説
株による損失は確定申告で節税につなげよう
この記事では、株の損失が生じた場合の確定申告の必要性について解説しました。原則として、株で損をした際は申告不要ですが「損益通算」や「繰越控除」の特例を利用することで節税が可能なケースも存在します。
しかし、確定申告の必要性は個々の状況によっても異なります。自身の状況を正しく理解し、必要であれば専門家の意見を求めることが重要です。確定申告に不安がある方や、株取引における節税対策についてさらに知りたい方は、私たち「小谷野税理士法人」が全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。