初めて会社を設立するとき、資本金を使ってしまったと焦るケースがあるかもしれません。結論、会社設立後には、資本金を運転資金などとして使ってもよいとされています。一方で、具体的な内容を知っていないとトラブル発生の原因にもなるでしょう。今回は、資本金の特徴や違法となるケース、注意点、金額設定でのポイントなどを解説します。
【税理士監修】会社設立時の資本金とは?その意義や設定方法と法的な注意点を解説
目次
会社設立後は資本金を使ってしまったとしてもOK
会社設立後には、資本金を使ってしまったとしても問題ありません。一方で、図らずも違法行為として扱われるケースがあるため注意しなければなりません。押さえておきたいポイントは以下の通りです。
- 会社設立時の見せ金は違法
- 借入金は資本金ではなく負債
ここから具体的に解説します。
会社設立時の見せ金は違法
見せ金とは、会社設立時に資金を借りて資本金として扱い、会社設立したあとですぐに返済するものを示し、見せかけの行為だと言えます。実際には、会社に資本金がない状態で設立する流れで、以下の通り違法行為として定められています。
- 会社法:別途払込金額の全額を払わされる可能性がある
- 刑法:5年以下の懲役or500万円以下の罰金
見せ金を行うと、決算書に資本金として計上される一方、返済時には「出資者への貸付金」として計上します。
借入金は資本金ではなく負債
借入金は資本でなく負債として扱わないと、違法行為としてペナルティを課される可能性があります。資本金は返済不要である一方、借入金は返済する必要があるためです。
以下の通り、借入先に関係なく、借入金は負債として計上するのがポイントです。
- 家族
- 親戚
- 友人
- 金融機関など
また、役員借入金(役員からの借入金)に関しても負債に含められるのが特徴で、以下のメリットがあります。
- 利息を任意で決められる
- 返済時期を定めなくてもよい
社長から受けた資金に関しては、出資に該当しない場合は役員借入金となるでしょう。
資本金とは
資本金の基本的なポイントとしてあげられるのは、以下の2点です。
- 出資を受けた金額
- 0円でも会社設立可能
それぞれについて、詳細に見ていきましょう。
出資を受けた金額
資本金とは、あくまでも出資を受けたことを表す金額で、損益には影響を与えないのが特徴です。事業者が高い利益をあげたとしても、資本金の金額は変わりません。
資本金の金額が大きいと、一般的には取引先や金融機関などから信頼してもらいやすく、事業を展開するうえで有利に働くでしょう。会社設立後、資本金は運転資金などとして活用でき、金融機関の融資を利用する場合に比べると、利息なしの点でメリットがあります。
以下の通り、資本金を設定するときは上限を1,000万円未満にするのがポイントの1つです。
- 初年度と2期目の消費税の納税を免れられる可能性がある
- 法人住民税の均等割(利益に関係なく毎年発生)を押さえられる:資本金1,000万円以下・70,000円、資本金1,000万円超え・18万円
一方で、資本金を下げすぎると事業者に対する信用性を持ってもらいにくく、融資や取引などにおいて不利に働く可能性が高いです。
0円でも会社設立可能
資本金の基本情報としてあげられるのは、たとえ0円でも会社を設立できる点です。2006年5月に会社法が施行され、最低資本金制度がなくなったためです。
合同会社などの場合、資本剰余金などを出資額に適用できるのが特徴で、資本金0円でも会社設立できます。事業形式によって、必要な資本金は以下の通りです。
法人 | 0円から可能 |
個人事業主 | 不要:登記の必要性がなく、資本金の概念がないため |
医療法人 | 不要:出資持分なしの医療法人しか設立できないため |
一般社団法人 | 0円から可能:資本金の制度がないため |
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資本金を使うときの注意点
会社設立後に資本金を使うのは問題ないものの、以下の点を押さえる必要があります。
- 正しく仕訳する
- 信用度を下げるケースがある
- プライベートな出費に使わない
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
正しく仕訳する
資本金を減資する場合、以下の通り仕訳の方法を押さえておくのがポイントです。
- 有償減資:株主に財産の一部を戻し、資本金を減額する
- 無償減資:株主に財産の供与などをせずに資本金を減額する
例えば、資本金を80万円減額し、その他資本余剰金への適用を決定した場合は有償減資で、仕訳方法は以下の通りです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
資本金 | 80万円 | その他資本剰余金 | 80万円 |
一方で、資本金を80万円減額し、欠損補填(利益剰余金のマイナスを補填)とする場合は無償減資に該当します。具体的な仕訳方法は、以下が考えられます。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
資本金 | 80万円 | 繰越利益剰余金 | 80万円 |
プライベートな出費に使わない
プライベートな出費に対して役員が資本金を使うと、役員貸付金となり、扱われ方がかわる点を押さえておくとよいでしょう。
もし貸付金を戻すまでに期間を要すると、給与扱いとなり、源泉所得税の納税を求められる可能性があります。決算書に役員貸付金と書かれてあると、融資の審査で不利になる可能性が高い点にも注意が必要です。
融資審査においては、返済能力と資金使途などがチェックされます。役員貸付金は確実に返済される保証がなく、返済されないと会社の純資産を下げます。融資審査ではネガティブな材料となるでしょう。
実際に、役員貸付金の計上が多すぎる事業者の場合、財務状況の管理が甘く、倒産確率が高くなる傾向にあります。
資本金の金額を決めるときのポイント
資本金の金額を決めるとき、以下の点を考慮するのがポイントです。
- 運転資金と初期費用で決める
- 取引相手から決める
- 許認可を得る場合は条件を満たす金額の資本金にする
ここから詳しく解説します。
運転資金と初期費用で決める
資本金の金額を決めるうえでは、以下の通り運転資金と初期費用を算出するのがポイントです。
- 登記申請などの手続き費
- 事業所の契約費
- 人件費
- 仕入れ費
- 設備投資費など
創業時は特に、安定した売上達成までに数ヵ月以上かかりやすく、資本金を使い事業を継続する事業者が多い傾向にあるためです。事業者の考え方などによるものの、最低でも3ヵ月分の運転資金と初期費用を資本金として設定するのが無難です。
令和3年の場合、資本金を500万円未満にする企業は、約44%に達することがわかっています。
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取引相手から決める
資本金の金額は、取引先の規模によって決定するのがポイントの1つです。規模の大きい取引先の場合は特に、資本金の額によって信用性をチェックされる可能性が高いためです。
資本金を0円など少額で設定していると、信用性を疑われる可能性があり、結果として契約に繋がりにくいでしょう。
一方で、個人事業主が取引先の場合、資本金の額による取引への影響は、比較的少ないといえます。資本金の金額を決めるときは、なるべく長期的な視点に立つのが望ましいです。
許認可を得る場合は条件を満たす金額の資本金にする
業種によっては、許認可を得たうえで事業を展開する必要があり、以下の通り最低資本金が定められているケースがあります。
- 貨物利用運送業:300万円以上
- 一般建設業:500万円以上
- 特定建設業:2,000万円以上
- 有料職業紹介業:500万円以上(事業所ごと)
- 労働者派遣業:2,000万円以上(事業所ごと)
- 第1種旅行業:3,000万円
- 第2種旅行業:700万円
- 第3種旅行業:300万円
- 地域限定旅行業:100万円
会社を設立したあとでも、許認可を得られないと事業を始められない点には注意が必要です。
資本金に関する相談は税理士へ
今回は、資本金の特徴や違法となるケース、注意点、金額設定でのポイントなどを解説しました。会社設立後には「資本金を使ってしまった」と焦る必要がなく、運転資金などとして活用できます。
一方で、初めて会社を設立するときは資本金の金額や手続きなどを始め、さまざまな税務の面で不安に感じやすいものです。事業活動に集中するうえでも、税務の専門家である税理士を頼るのは賢明な判断でしょう。
小谷野税理士法人では、資本金に関する相談を始め、実績のある税理士が税務を全面的にサポートします。まずはお気軽にご相談ください。