会計処理の際に節税対策として導入できる税制措置は様々なものがありますが、少額減価償却資産の特例や一括償却資産なども、節税に役立てられる制度のひとつです。どちらの制度も固定資産を購入したときに複数年にわたり経費として計上するのではなく、一括または3年で経費として会計処理できる特徴があります。今回は、それぞれの制度の概要や違い、おすすめなケースや注意点について解説します。どちらを利用したらいいのか悩んでいる方は参考にしてください。
目次
そもそも減価償却資産とは
事業で使用する機械装置や設備、建物など時の経過で価値が減る(劣化する)資産を減価償却資産と呼びます。設備・備品ごとの耐用年数に応じて、かかった費用を1年ずつ経費として会計処理します。
資産を購入した年に一気に計上してしまうと、その資産が複数年にわたって実際に収益に与えた影響が会計に反映されず、経営状況を正しく把握できなくなってしまいます。そのため、耐用年数に合わせて少しずつ価値が減っていくように会計処理を行うよう決められています。
設備・備品の耐用年数は、税法によって一律に定められています。企業ごとで耐用年数にバラつきがあると、会計処理の際に課税の公平性がなくなってしまうためです。以下のリンクを参考にしてください。
参考:主な減価償却資産の耐用年数表、耐用年数表 – 確定申告書作成コーナー – 国税庁
少額減価償却資産とは?
備品・設備など10万円以上〜30万円未満で取得する資産は、少額減価償却資産を適用できます。本来であれば耐用年数に応じて減価償却する必要がある資産を、購入した事業年度に全額経費に計上できるという制度です。
新品を購入した場合だけでなく、中古品を購入して使用した場合にも適用されます。制度を利用する場合は、法人の場合は一般的には以下の要件を満たしている必要があります。
- 常時使用する従業員の数が500人以下である
- 平成18年4月1日から令和6年3月31日までの間に取得する
- 事業年度における本特例の取得価額の合計額が300万円を超えない
- 青色申告法人
参考:No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
特例を利用して処理できるのは、2025年度末(2026年3月31日)までに事業に必要な資産(備品・設備)として取得されたものです。
一括償却資産とは?
備品・設備など10万円以上〜20万円未満で取得した固定資産は、一括償却資産を適用できます。少額減価償却資産の特例とは違い、すべての企業が利用できます。
通常の減価償却であれば、固定資産を耐用年数に応じて会計処理します。ですが、一括償却資産の場合は、個別に減価償却をせず通常は使用を開始した年から3年間かけて合計額の3分の1ずつを必要経費として処理可能です。
新品だけでなく中古品も対象ですが、リースの場合は対象外のため注意しましょう。耐用年数が3年以上のものも短期間で減価償却できるため、すぐに節税効果が得られるのがメリットです。
少額減価償却資産の特例・一括償却資産の違い
それぞれの税制措置制度の違いについては以下の通りです。
少額減価償却資産の特例 | 一括償却資産 | |
対象となる資産の金額 | 10万円以上〜30万円未満 | 10万円以上〜20万円未満 |
対象者 | 中小企業 | 全企業 |
青色申告書 | 必要 | 不要 |
年度ごとの上限金額 | 300万円まで | なし |
固定資産税 | 課税 (※課税標準額が150万円未満の場合は対象外) | 非課税 |
大きく差があるのは対象者です。特例を利用できるのは青色申告をしている個人事業主やフリーランス・中小企業に限られています。
制度の種類を知り、状況に応じて使い分けましょう。
少額減価償却資産の特例がおすすめなケース
特例を利用するのがおすすめなケースは、購入した事業年度に全額経費計上する場合が考えられます。
20万円未満の資産を中小企業や個人事業主・フリーランスが購入した時には、特例と一括償却資産のどちらの制度も使用できます。大企業はそもそも特例の使用が認められていないため、特例を利用できません。
使用開始年から3年間かけて合計額の3分の1ずつを計上する一括償却資産よりも、その年度のうちに経費にして損金算入したい場合、より早く処理できる特例がおすすめです。
一括償却資産がおすすめなケース
制度を活用するのがおすすめなケースは、以下が考えられます。
- 10万円以上〜20万円未満の資産を大企業が購入する場合
- 中小企業や個人事業主・フリーランスが少額減価償却資産を1年間で300万円を超え、さらに10万円以上〜20万円未満の固定資産を追加で導入する場合
フリーランスや個人事業主・中小企業が節税目的で活用するのであれば、少額減価償却資産の特例がおすすめです。特例には1年間に適用できる固定資産の金額が300万円と上限額が設定されています。もし上限を超えてしまった時は一括償却資産を活用しましょう。
もう1つのケースは、大企業などが節税目的で使用するケースです。大企業や特例の要件に当てはまらない企業は、通常の減価償却をするか一括償却資産を利用するか、2つの選択肢から選びましょう。
少額減価償却資産の特例・一括償却資産の注意点
会計処理を行う前に、2つの税制措置を利用する場合の注意すべき点についていくつか解説します。
節税対策になるが利益も減る
本記事で紹介した制度を活用すれば、節税効果がある一方で利益も減ります。帳簿上の利益が低いと、金融機関から融資を受ける際マイナス評価になる場合もあるためご注意ください。自社にとって最適な会計処理方法を選べるように、制度の概要をよく理解した上で活用しましょう。
税込・税抜きで経理の扱いが変わる
新しく資産を購入する際に税込・税抜どちらかの計上方法によって扱いが大きく変わります。消費税の計算は企業によって異なるため、事前に会計処理の方法を確認しておきましょう。
税抜では30万円を超えていない場合でも、税込で10%の消費税を入れると超えてしまう場合があります。その場合特例は適用されないためご注意ください。
限度額300万円の考え方に注意
少額減価償却資産の特例には限度額が設けられています。1年間で上限金額の300万円を超えた場合、それ以上の固定資産に関しては特例の適用外です。上限いっぱいまで計上できるわけではないため注意しましょう。
固定資産を除却する際には除却損を計上できない
一括償却資産の償却中に資産の除却を行った場合は、除却損を計上できなくなります。一般的な固定資産では、償却期間中に資産を廃棄すると残りの金額は除却損としてその年の損金として計上しても良いと認められています。
一括償却資産を導入した場合、2年目以降に資産を廃棄しても償却期間までは会計処理を行う必要があるためご注意ください。
一括償却資産の減価償却費は月割りしない
一般的な減価償却費では、取得から期末までの月数を計算し、月割りして減価償却費を計上します。これが一括償却資産の場合だと年度途中に限らず、1年間で取得した資産の合計金額を3年間で割って均等に減価償却します。月割りで計算しないよう注意しましょう。
ただし、事業年度が12ヵ月に満たない場合は1/3にはなりません。
よくある質問
最後に、固定資産購入時の会計処理や特例についてよくある質問を回答と共に紹介します。
一括償却資産のメリットとは?
一括償却資産を使用するメリットとしては、会計処理を簡素化できる点や短期間で減価償却できる点があげられます。例えば、節税対策をしたいときや新規事業を立ち上げるときは、一括償却資産を活用しても良いでしょう。
一括償却資産のデメリットとは?
一括償却資産のデメリットとは、複数年に分けて減価償却や経費計上を行うときと比較して利益が少なくなってしまう点です。金融機関で融資を受ける場合などで不利に働く恐れがあるのでご注意ください。
20万円以上の固定資産を取得した際の減価償却の取り扱いは?
大企業が取得した場合であれば、一般的な減価償却と同じく耐用年数に応じて減価償却費を計上しましょう。青色申告をするフリーランスや個人事業主・中小企業であれば、30万円未満の資産を購入した場合に少額減価償却資産の特例が使用可能です。
一括償却資産の償却期間は?
償却期間は3年間です。一般的な減価償却の場合は月割りですが、一括償却資産は1年間のうちに取得した資産の合計金額を3年間で割って均等になるように償却します。通常の減価償却と比べて短期間で節税効果を得られます。
一括償却資産は売却できる?
一括償却資産は売却可能です。売却後も、あくまで仕訳上は例外なく3年間で均等償却しましょう。
少額減価償却資産はフリーランス・個人事業主でも使える?
特例はフリーランスや個人事業主でも利用可能です。フリーランスの場合でも、従業員数が1,000人以下の場合に限ります。青色申告している一般的な個人事業主やフリーランスなどが対象となるでしょう。
節税や確定申告は税理士に相談もおすすめ
固定資産を取得する際、減価償却を行うのが一般的です。本記事で紹介した制度を活用すれば、費用として処理できる金額も多く、節税や業務の負担軽減にもなるでしょう。
特例などを使用する場合、税込・税抜きの会計方法は企業によって異なるため、事前に確認しておきましょう。どの会計処理方法を行うかによって、経費にできる金額も変動します。
必ずしも税制措置を利用しなければならないというわけではありません。融資を受けたいなどの理由で企業の利益を減らしたくない時には、一般的に行われる減価償却の方が経費を抑えられる場合もあります。
節税目的か利益を優先するか、自社にとって最適な処理方法を選べるように、制度の概要をよく理解した上で有効活用しましょう。判断に悩む場合は、税理士などの専門家に相談するのもおすすめです。