会社の業績が悪化して資金繰りに困ってしまった際には、今後の会社の継続について検討することになるでしょう。会社の法人格を消滅させるにあたり、「解散」や「廃業」という言葉が使われることがあります。会社の解散や廃業はどのような意味があるのでしょうか?会社の解散と廃業の違いや、会社の解散・廃業の流れなどについて解説します。
目次
会社の解散と廃業の違いとは
個人や法人が会社の運営を継続せずに辞める場合、「解散」や「廃業」という言葉が使われることがあります。会社の「解散」と廃業の意味や、違いについて解説します。
廃業とは
廃業とは、個人事業主や法人が自主的に事業や会社を廃することを指します。業績悪化だけが原因ではなく、債務超過や後継者不足、事業者の高齢化によるリタイアなども廃業の原因になります。
個人事業主とは異なり、会社の場合は廃業によって資産や負債などは全て整理されます。法人格も消滅してしまい、元に戻すことは不可能です。そのため、法人の廃業はじっくり検討しなければなりません。
解散とは
会社の解散とは、事業を停止するための手続きです。個人事業主ならば廃業届・事業廃止の届出を提出することで、事業を辞めることができます。しかし、会社の法人格を消滅させるには、手順を踏んで手続きを進めなければなりません。会社の解散は、その手続きを始める最初の工程を指します。
解散をするには、合理的な理由が必要です。解散の事由は会社法で定められており、以下のいずれかの要件を満たさなければなりません。
- 定款で定めた存続期間の満了
- 定款で定めた解散事由の発生
- 株主総会の決議
- 合併により会社が消滅する場合
- 破産手続開始の決定
- 裁判所による解散命令
- 休眠会社のみなし解散の制度
上記の条件を満たしていて解散による事業を停止をしても、そのままでは法人格が消滅するわけではないので注意が必要です。
会社の廃業・解散と似た「倒産」「清算」とは?
会社の廃業や解散と似た言葉で、「倒産」や「清算」なども耳にすることが多いでしょう。倒産や清算は、廃業・解散とどのような違いがあるのでしょうか?倒産と清算の意味について解説します。
倒産とは
倒産は法的に定められた正式名称ではありませんが、一般的に会社の経営不振や債務超過によって経営を続けることが困難になった状態を指します。
廃業には後継者不足などさまざまな理由がありますが、倒産の場合は資金繰りが厳しくなって債務の返済ができなくなることが主な理由です。そのため、廃業のような自主的な会社の廃止ではなく、経営者の意思に関係なく廃止せざるを得ない状況といえます。
倒産は、法律上の倒産と私的な倒産の2種類に分けられます。
法律上の倒産は、裁判所の下で法的手続きに従って行われる倒産処理です。破産手続・民事再生手続・会社更生手続などが該当します。
一方で、私的な倒産は、自主的な協議によって倒産処理を行う方法です。私的整理とも呼ばれ、法律上の倒産処理よりも社会的な負のイメージを軽減できます。
清算とは
会社の廃業では複数の手続き工程を経る必要があり、清算もその内の手続きのひとつです。清算も廃業のための手続きのひとつですが、解散とは異なります。清算は、会社の資産や負債を整理するための手続きです。
会社の解散をして事業を停止しても、資産や負債が残るので法人格を消滅させることはできません。債券の回収や負債の弁済、財産の換価処分、残った財産の分配などを行う必要があります。
清算手続きは、清算人によって執り行われます。清算人は代表取締役や取締役が就任することが一般的ですが、弁護士などの専門家を選任することも可能です。
関連記事:個人事業主は廃業届をいつ出すべき?その書き方と廃業方法
会社の解散から廃業までの手続きの流れ
会社の解散から廃業までの手続きは、複数の手順を踏んで行います。ここからは、会社の解散から廃業までの手続きの順を追って解説します。一般的には、以下のような流れで進んでいきます。
株主総会で解散決議を行う
会社を廃業するには、まず株主総会で解散を決めるための決議を行います。株主総会には普通決議・特別決議・特殊決議の3種類があります。決議する内容の重要度によって決議の種類が変わり、解散を決める決議は特別決議です。
特別決議の場合、議決権の過半数を有する株主の出席が必要です。そして、出席した株主の議決権の3分の2以上が賛成しなければ解散の手続きは進められません。
清算人を選任する
株主総会では「解散」の決定をするだけではなく、清算人の選任も行います。清算人とは、解散後の会社の清算業務を執り行う人です。会社が解散すれば取締役は退任するため、清算人が代わりに業務を執行します。
解散および清算人選任の登記を行う
株主総会で解散決議と清算人の選任を終えた日から2週間以内に、解散登記・清算人選任登記を行います。登記申請場所は、本店の所在地の法務局です。申請の際には、定款と株主総会議事登録が必要になります。
各機関へ解散を届け出る
解散したことを各種機関へ解散・廃業を届け出ます。届出が必要な機関は、税務署や都道府県の県税事務所などです。廃業に伴い従業員を解雇する場合には、年金保険事務所や労働基準監督署などにも届出が必要になります。
主な届け先と必要書類は、以下の通りです。
届け先 | 必要書類 |
税務署 | ・異動届出書 ・事業廃止届出書 ・給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 |
都道府県の税事務所 | 解散に関する届出書(東京都は異動届出書) |
市区町村役場 | 異動届出書 |
日本年金機構 | 健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届(解散登記から5日以内) |
ハローワーク | ・雇用保険適用事業所廃止届 ・雇用保険被保険者資格喪失届 ・雇用保険被保険者離職証明書 (全て事業を廃止した日や退職日から10日以内) |
労働基準監督署 | ・労働保険確定保険料申告書 ・労働保険料・一般拠出金還付請求書 (全て事業を廃止した日から50日以内) |
決算書類の作成
決算書類とは、財産目録と賃貸対照表です。解散に伴い、清算人は会社の財産を調査して、財産目録を作成します。この財産目録を基に賃貸対照表も作成します。財産目録と賃貸対照表は、株主総会を開催して承認を得なければなりません。
また、決算書類は会社にて保管する必要があります。
債権者保護手続きをする
会社の廃業によって債権者に損害が出ないように、債権者保護手続きを清算人が行います。債権者に対し、個別に会社の解散を通知します。
債権者保護手続きにより、債権者は債権を回収する機会を得られます。
官報による解散公告の通知
廃業する際には、官報で解散の公告が必要です。官報の解散公告にはより広く解散の事実を知ってもらい、債権者に債権の申し出を催促する目的があります。
この申し出には、2カ月以上という申し出期間を設定されます。この期間に申し出が行われなかった債券は、清算の対象から外されます。
解散確定申告を行う
株主総会で承認を得た決算書類を基に、解散確定申告を行います。解散確定申告の提出期限は、解散日の翌日から2カ月以内です。
解散確定申告の対象期間は、事業年度の開始日から解散した日までです。通常の確定申告とは異なるため、税理士など専門家のサポートの下で進めることを推奨します。
資産と負債の清算をする
会社の資産と負債を残したまま廃業することはできないため、資産と負債を清算します。この清算手続きは、清算人によって行われます。
貸付金などの債権は回収し、現金以外の資産は全て売却して現金化します。そして、買掛金や借入金など全ての債務の弁済も行います。
負債を全て弁済して残った財産がある場合、株主へ分配されます。一方で、債務超過している場合には、破産手続きが必要です。
清算確定申告を行う
資産と負債の清算によって残余財産が確定すれば、清算確定申告を行う必要があります。
清算確定申告は、会社の解散後の清算手続きを税務署へ申告するための手続きです。残余財産確定の確定日の翌日から1ヵ月以内に申請が必要です。
また、残余財産の分配によって株主に所得が生じた場合には、株主はそれぞれ確定申告が必要になります。
決算報告書の作成と承認をする
清算業務の完了後に、清算人によって決算報告書が作成されます。決算報告書は株主総会での承認が必要です。承認が得られれば、会社の法人格が消滅します。
清算結了の登記をする
清算が結了すれば、税務署や都道府県税事務所、市区町村役場に清算結了を届け出ます。清算結了登記では、登記申請書と併せて株主総会の議事録や決算報告書が必要です。
会社の廃業では2カ月以上の官報公告が必要になるため、清算人の選任日から2カ月以上が経たなければ清算結了登記はできないので注意しましょう。
関連記事:会社の解散手順は?手続きや精算期間、流れについて紹介
会社の解散と廃業は税理士に相談しましょう
会社の廃業では、解散によって事業を停止し、資産や負債を清算するなど複数の手続きが必要になります。
決算書の作成や確定申告など、通常時とは異なるものになるため、書類作成は複雑になるといえます。書類に誤りや漏れがあれば再度作成しなければならず、手間と時間がかかるでしょう。
適切かつ円滑に会社の解散から廃業まで進めるためには、専門家である税理士に相談することをおすすめします。廃業を検討する段階から相談すれば、廃業の準備から清算結了までワンステップで任せることができます。
小谷野税理士法人では、会社の設立だけではなく廃業の手続きサポートも行っています。まずは問合せフォームよりご相談ください。