事業や会社を始める際には、事務所や店舗にするための物件を準備する必要があります。物件の賃貸契約では、敷金や礼金が発生しますが、どのように仕訳すればいいのでしょうか?事業主は確定申告に向けて適切に会計処理しなければなりません。ここでは、敷金・礼金の勘定科目や仕訳方法について解説します。
目次
敷金・礼金とは?
物件を賃貸する際には、家賃だけではなく敷金・礼金が発生します。事業で使用する事務所や店舗用の費用であれば、会計処理が必要です。まずは、敷金・礼金の概要について解説します。
敷金とは
敷金とは、賃貸借契約の際に借主が貸主へ担保のようなものとして預ける金銭です。民法上では、以下のように定義されています。
出典:e-Gov「法令検索」 |
貸主は不動産を貸すことで、家賃滞納や住居の破損などのリスクを負います。敷金を入居時に借主が支払うことで、こうしたリスクが軽減されます。家賃滞納が発生した際には賃貸人は敷金から家賃が充てられますし、退去時の原状回復の修繕費に充てられることになります。
敷金は一時的に預かっている金銭になるため、トラブルや問題等がなければ退去時に返還されます。
礼金とは
礼金とは、借主から貸主への御礼金のような金銭です。礼金は法律上、支払いの義務はなく金額についても明確な定めはありません。
敷金と同様に契約時に一度支払うものですが、礼金の有無は貸主ごとに異なります。近年では礼金が不要の物件も増えています。礼金は御礼として支払うため、敷金のように退去時に返還されません。
保証金との違い
賃貸借契約で最初に支払う金銭では、敷金・礼金・保証金の3種類の名前を目にすることが多いでしょう。敷金と保証金は同等の意味を持ちます。契約書によっては敷金ではなく保証金として記載されることもありますが、同じ敷金のことを指すことが多いです。
ただし、不動産会社によっては敷金と保証金の両方を設定しているケースもあるため、両方の名前が記載されている場合には詳細の確認が必要です。
敷金の勘定科目と仕訳方法
確定申告や決算書類の作成のために取引内容を仕訳処理する必要があります。事業に関する不動産を賃借契約する場合の敷金・礼金も仕訳作業が必要な取引です。そこで、敷金の勘定科目と、具体的な仕訳方法について解説します。
敷金の勘定科目
敷金の勘定科目は、そのまま「敷金」の名前を使用することも可能ですし、「差入保証金」という名前を使うこともあります。
勘定科目は法的な規定がないため、その他の科目を使用しても問題ありません。ただし、原則的に一度決めると変更できないため、名称を統一しましょう。賃借対照表においては、「資産の部」「投資その他の資産」に記載します。
敷金の仕訳方法
敷金の性質上、退却時には一部が返還される場合もあれば、返還されない場合もあります。そのため、敷金を支払った場合・敷金が償却される場合・敷金が返還された場合でそれぞれ仕訳方法が異なります。それぞれ、以下のように仕訳を行います。
- 敷金を支払った場合
敷金は契約時に、あらかじめ償却される金額が決まっている場合と決まっていない場合があります。
償却される金額が決まっていない場合、退去時の原状回復の費用としてどれくらい差し引かれるか分からないため、全額を資産として会計処理します。
敷金を現金で120万円支払った場合の会計処理は以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
差入保証金(敷金) | 1,200,000円 | 現金 | 1,200,000円 |
- 敷金が償却される場合
敷金から返還されない金額が決まっている場合もあります。返還される金額を償却額とし、金額や契約期間によって仕訳方法が異なります。
【償却額が20万円未満の場合】
償却額が20万円未満の場合は、勘定科目を支払手数料とします。実際の敷金が60万円で償却額が15万円、敷金を50万円現金で支払った場合、以下のように仕訳をします。
借方 | 貸方 | ||
差入保証金(敷金) | 450,000円 | 現金 | 600,000円 |
支払手数料 | 150,000円 |
【償却額が20万円以上、契約期間が5年未満の場合】
償却額が20万円以上で契約期間があらかじめ5年未満と決まっている場合には、勘定科目を長期前払費用とします。期末には契約年数で均等割りにし、該当する事業年度内の契約期間の月数に応じて支払手数料として償却していきます。
契約期間が3年で敷金120万円を現金で支払い、償却額が60万円の場合、以下のように仕訳をします。
(契約時)
借方 | 貸方 | ||
差入保証金(敷金) | 600,000円 | 現金 | 1,200,000円 |
長期前払費用 | 600,000円 |
(期末時)
借方 | 貸方 | ||
支払手数料 | 200,000円 | 長期前払費用 | 200,000円 |
償却額が60万円なので、毎年度の期末には60万円÷償却期間3年の20万円を計上することになります。
【償却額が20万円以上、契約期間が5年以上の場合】
償却額が20万円以上で契約期間が5年以上と決まっている場合には、あらかじめ決められている償却額を長期前払費用とします。そして、契約期間が5年以上は全て5年で均等割りにし、該当する事業年度内の契約期間の月数に応じて支払手数料として償却していきます。
契約期間7年で敷金120万円を現金で支払い、償却額が60万円の場合、以下のように仕訳をします。
(契約時)
借方 | 貸方 | ||
差入保証金(敷金) | 600,000円 | 現金 | 1,200,000円 |
長期前払費用 | 600,000円 |
(期末時)
借方 | 貸方 | ||
支払手数料 | 120,000円 | 長期前払費用 | 120,000円 |
償却額が60万円なので、毎年度の期末には60万円÷償却期間5年の12万円を計上することになります。
- 敷金が返還された場合
退去時に敷金が返還される場合、金額によって仕訳方法が異なります。
【全額返還された場合】
まずは、敷金が全額返還された場合の仕訳方法についてみていきましょう。現金120万円で支払った敷金が全額返還された場合は、以下のように仕訳をします。
借方 | 貸方 | ||
現金 | 1,200,000円 | 差入保証金(敷金) | 1,200,000円 |
【一部返還された場合】
敷金が原状回復費用などとして使用された後、残った金額が返還される場合があります。原状回復費用は勘定科目を修繕費とします。
現金で支払った敷金120万円のうち50万円を原状回復費用として使用し、70万円返還された場合は以下のように仕訳をします。
借方 | 貸方 | ||
現金 | 700,000円 | 差入保証金(敷金) | 1,200,000円 |
修繕費 | 500,000円 |
関連記事:個人事業主が確定申告で経費にできる勘定科目について
礼金の勘定科目と仕訳方法
礼金は敷金と性質の異なる性質を持つ金銭です。そのため、敷金の勘定科目や仕訳方法とは異なります。ここからは、礼金の勘定科目と、具体的な仕訳方法について解説します。
礼金の勘定科目
礼金の勘定科目は、金額によって異なるものを使用します。
20万円未満の場合の勘定科目は、「地代家賃」を使用することが一般的ですが、「支払手数料」を使用することもあります。地代家賃とは、家賃や駐車場使用料などでも用いる勘定科目です。
一方で、20万円以上の場合の勘定科目は、「長期前払費用」になります。20万円以上の礼金は繰延資産に該当するため、支払時に長期前払費用として計上し、償却していきます。
礼金の仕訳方法
礼金を支払った場合の仕訳方法を、金額別で解説します。
- 20万円未満だった場合
礼金を現金で10万円支払った場合、以下のように仕訳を行います。
借方 | 貸方 | ||
地代家賃 | 100,000円 | 現金 | 100,000円 |
- 20万円以上だった場合
礼金が20万円以上だった場合は、契約期間によって仕訳方法が異なります。
【契約期間が5年未満の場合】
礼金の償却期間は5年です。契約が5年未満の場合、期末時に契約年数で均等割りにし該当する事業年度内の契約期間の月数に応じて償却します。
礼金が30万円で契約期間が3年だった場合、以下のように仕訳を行います。
(契約時)
借方 | 貸方 | ||
長期前払費用 | 300,000円 | 現金 | 300,000円 |
(期末時)
借方 | 貸方 | ||
地代家賃 | 100,000円 | 長期前払費用 | 100,000円 |
償却額が30万円なので、毎年度の期末には30万円÷償却期間3年の10万円を計上することになります。
【契約期間が5年以上の場合】
礼金の償却期間は5年なので、契約期間が5年以上になる場合は5年の償却期間として仕訳を行います。契約期間6年で礼金30万円を現金で支払っている場合、以下のように仕訳をします。
(契約時)
借方 | 貸方 | ||
長期前払費用 | 300,000円 | 現金 | 300,000円 |
(期末時)
借方 | 貸方 | ||
地代家賃 | 60,000円 | 長期前払費用 | 60,000円 |
償却額が30万円なので、毎年度の期末には30万円÷償却期間5年の6万円を計上することになります。
会計業務は税理士へご相談ください
事業を始めるための事務所や店舗を借りるには、敷金・礼金が最初に必要になるでしょう。敷金・礼金は金額や契約年数などによって経理の処理方法が変わります。そのため、正しい知識を身につけて適切な勘定科目で仕訳しなければなりません。
敷金・礼金だけではなく、日々の取引などの仕訳も大切な業務の一環ですが、知識がなければ大変だと考える方も多いでしょう。
こうした経理業務は税理士へ依頼して任せることが可能です。税理士に依頼すれば、経理業務に煩わされることなく、他の業務に専念することができます。
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