個人事業主が受けた健康診断や人間ドックの費用は、基本的に経費で落とせませんが、会社役員の健康診断は経費計上が可能です。また、従業員が受けた健康診断や人間ドックの費用は経費で落とせます。しかし、経費で落とすには「全従業員が健康診断を受信できること」といった複数の条件を満たさなければいけません。この記事では、健康診断の経費について解説します。
目次
個人事業主本人の健康診断代は経費にできない
事業主や専従者が受けた健診費用は、経費計上できません。確定申告や帳簿付けの際の勘定科目は「事業主貸」です。
なお、専従者の正式名称は「専業従事者」です。専従者は「事業主と生計を一にする親族」「1年のうち半年以上事業に従事する」などの条件に該当する人を指します。事業主が青色申告者の場合は青色事業専従者とも呼ばれます。
参考:青色事業専従者給与と事業専従者控除|国税庁
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また、健診費用は医療費控除の対象にもなりません。確定申告の際はご注意ください。
医療費控除が適用されるのは、疾病の「治療」を目的とした費用のみです。よって、疾病の「予防」を目的とした健診費用は対象外となります。
ただし例外があります。それは、健診で重大な疾病が判明したケースです。その後疾病を治療した場合は、判明のきっかけとなった健診費用が医療費控除の対象となります。
法人は役員の健康診断代は経費にできないが従業員は可
続いて、法人の解説です。役員人間ドックの費用は基本的に経費計上できません。ですが例外もあります。一方で、従業員が受けた健診費用は経費計上できます。
役員の健康診断は経費計上できますが、役員の人間ドックは、基本的に経費計上できません。
ただし例外もあります。それは、役員だけでなく全社員を対象に行われることです。このような場合には、福利厚生費として計上できるでしょう。
以上の条件を満たせば、役員の人間ドックも経費になる可能性があります。
従業員の健康診断代は経費にできる
個人事業主および法人に雇われている従業員が受けた健診費用は、経費計上できます。事業主は従業員に対して1年以内に1回の健診を行う義務があるからです(労働安全衛生法第66条)。
従業員の健診は、義務を果たすために必要です。よって、事業に関係する出費として認められます。
確定申告や帳簿付けの際の勘定科目は、「福利厚生費」で、さらに詳しく分けると「法定外福利厚生」です。
しかし、経費で落とす条件を全部満たさなければいけません。その条件は、記事後半の章「健康診断代を経費で落とすための3つの条件」をご確認ください。
従業員に対して健診を行わないと、事業主に50万円以下の罰金が科せられる可能性があります(労働安全衛生法第120条)。
健康診断代を経費計上するための3つの条件
健康診断や人間ドックの費用を経費計上するには、下記のための3つの条件を全部満たさなければいけません。
- 全従業員が同じ検査内容で受けること
- 一般的な検査内容であること
- 事業者が健診実施機関に費用を直接支払うこと
以下、1点ずつ解説します。
①全従業員が同じ検査内容で受けること
健診費用を経費で落とすには、全従業員が対象で、全員が同じ検査内容であることが必要です。対象が一部の従業員だけである場合や、一部の従業員だけ別の内容である場合は、経費として計上できない可能性があります。
ただし、従業員の年齢によって検査対象を区切ることは認められています。
また、対象は正社員だけではなく、以下の条件を2つとも満たしたパートやアルバイトも含みます。
- 雇用期間の定めがない、または1年以上働いている、もしくは1年以上働く予定の人
- 1週間の労働時間が、正社員の4分の3以上である人
なお派遣社員は、派遣元の会社が健診の義務を負います。しかし有害な業務に従事する派遣社員は、派遣先の会社が健診をします。
参考:Q.パート労働者の取り扱いはどのようになりますか?|厚生労働省
②一般的な検査内容であること
健診費用を経費で落とすには、一般的な検査内容であることが必要です。過度に高額な検査内容や特別なオプション検査は、経費として計上できない恐れがあります。
「一般的な検査内容」の詳細は一概には言えないので、確実に知りたい場合は所轄の税務署に確認してください。
なお、労働安全衛生規則第44条では、定期健診で以下の項目を行うことを義務付けています。この検査項目に添った内容であれば、経費として認められます。
第四十四条 事業者は、常時使用する労働者(第四十五条第一項に規定する労働者を除く。)に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。
一 既往歴及び業務歴の調査
二 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
三 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
四 胸部エックス線検査及び喀痰かくたん検査
五 血圧の測定
六 貧血検査
七 肝機能検査
八 血中脂質検査
九 血糖検査
十 尿検査
十一 心電図検査
ただし、危険な業務に従事する場合は追加の検査が必要な場合があります。
なお、経費として認められる条件の①と②は、国税庁の法令解釈を根拠にしています。詳しくは下記サイトの36-29をご確認ください。
③事業者や法人が健診実施機関に費用を直接支払うこと
健診費用を経費で落とすには、事業主や法人が健診を実施する機関に費用を直接支払うことが必要です。従業員が支払った費用を立て替えるなど、現金を支給する形だと経費として認められない可能性があります。
「健診費用は事業者が負担すべき」という解釈は厚生労働省が明示しています。しかし「事業者が健診実施機関に直接費用を支払う」という明示はありません。とは言え従業員の手間や負担を減らす観点から、社会通念上、事業者が直接支払うことが求められています。
一方、従業員自身が希望したオプション検査や再検査の費用は、従業員個人の負担となります。
参考:健康診断の費用は労働者と使用者のどちらが負担するものなのでしょうか?|厚生労働省
健康診断や人間ドック代を経費計上する際のよくある質問
ここでは、健康診断や人間ドックの費用の税務処理についてよくある質問を2点解説します。
経費にできない健康診断代は、確定申告でどう扱う?
先ほど解説した「健康診断代を経費で落とすための3つの条件」を1つでも満たさない場合は経費計上できないでしょう。
この場合、事業主が払った役員や従業員の健診費用は、給与や報酬として見なされて課税されます。経費にできない健診費用は、事業主が従業員に提供した経済的利益と見なされるからです。
例として、基本給30万円の従業員が1万円の健診を受けたケースをシミュレーションします。
給与手当(基本給) | 30万円 |
給与手当(健診費用) | 10,000円 |
総支給額 | 31万円 |
よって、総支給額310,000円に対して、所得税や社会保険料などが計算されます。給与として見なされることを知らないと、源泉所得税の徴収漏れや、従業員の所得税・住民税の支払い漏れにつながります。従業員個人の税金にも影響が出るので注意してください。
健康診断代だけではなく人間ドック代も経費になる?
人間ドック代も経費計上可能です。国税庁の質疑応答事例では、2日間程度の人間ドックについて「給与等として課税する必要はない」と明示しています。ただし、特定の人だけ人間ドックを受ける際は注意しましょう。この場合も、先ほど解説した「健康診断代を経費で落とすための3つの条件」を全部満たすことが必要です。
健康診断や人間ドック代の税務処理は税理士に相談を
健康診断や人間ドックの費用は諸刃の剣です。正しく利用すれば経費にでき税金を減らせますが、利用の仕方を誤ると課税額が増え税金が増えてしまいます。健診費用の税務処理を正しく行いたい方は、ぜひ税理士にご相談ください。