最近では個人で株式投資を行っている方も多いと思いますが、証券会社に法人口座を作り、法人として株式投資を行うことも可能です。株式投資を個人で行う場合と法人で行う場合、どのような違いとメリットがあるのでしょうか。今回は法人が証券口座で株式投資を行うメリット・デメリットや、注意点について解説します。
目次
法人の証券口座とは
証券口座とは、証券会社で投資信託や株式売買などの投資商品を買うために必要な口座です。
「証券総合口座」や「総合取引口座」とも呼び、口座開設費や管理費は無料です。銀行口座は主に現金資産の保有を目的として開設する口座で、証券口座ではできない振込や引き落としができます。
「証券口座」と「銀行口座」は機能や役割に違いがあるため、投資を始める場合は基本的に証券口座と銀行口座のどちらも開設しておきましょう。同じグループの証券口座と銀行口座を開設すれば、お得に資産運用できる可能性もあります。
法人が証券口座で株式投資を行うメリット
法人が証券口座を使って株式投資を行うと、節税対策になるなどさまざまなメリットがあります。ここでは、証券口座を使って株式投資を行うことで期待できるメリットについて詳しく紹介します。
経費で利益を圧縮し節税できる
法人口座で株式投資を行えば、投資に関する費用を必要経費として計上して法人税を節税できます。書籍やPC代、投資セミナーなどへの参加費などは経費として計上可能です。
個人での株式投資の場合、通信費や交通費に関するコストは一般的に経費として認められません。一方で、法人の場合は株式投資に関するコストを経費として計上できるため、結果的に利益を圧縮して節税効果を得られます。
赤字を最長10年繰り越せる
法人は投資で損失が出て赤字になった場合でも、最長で10年間の繰り越しが可能です。繰り越ししている10年間で利益が出れば損失を利益と相殺し、長期的に税金の負担が軽減できます。
個人での投資の場合は繰越期間が最長3年間と法人よりも短く設定されています。したがって、長期的に投資で利益を出すなら、10年間とより損失の繰り越し期間が長い法人のほうがメリットが大きいでしょう。
投資を損益通算できる
損益通算とは、同一年分の利益と損失を合算(相殺)し、課税対象となる利益を減らすことです。法人の場合、所得種類に区分が設けられていないため、利益と株式投資で生じた損失を相殺できます。
一方、個人での株式投資の場合だと、所得種類に区分が設けられているため、決まった所得でしか損益通算ができません。他の所得がマイナスであっても、投資で利益が出た場合には課税されてしまいます。
法人が証券口座で株式投資を行うデメリット
法人が証券口座を使って株式投資を行えば、様々なメリットを得られる反面、デメリットもあります。ここでは、法人が証券口座を使って株式投資を行うデメリットについて詳しく紹介します。
個人よりも税負担が大きい
法人の株式投資の中でも代表的なデメリットは、投資で得た利益にかかる税率の高さです。個人の場合税率は20.315%で、利益の金額に関係なく一律なのに対して、法人に課される税率はおよそ22~35%です。
個人の方が税率が安いため、法人は手元に残せる資金が少なくなります。所得がプラスの場合は、利益に対しての税率が個人の場合よりも高くなるため注意しましょう。
また個人の場合は、国の少額投資非課税制度「NISA」を活用でき、NISA口座での取引は利益が非課税です。NISAは個人投資家の資産形成を目的とした制度のため、法人ではNISA口座を開設できません。
特定口座を開設できない
法人の場合、特定口座を開設できないデメリットがあります。特定口座とは、個人の事務負担を軽減するために金融機関が株式などの譲渡損益などを計算し、簡単な手続きで納税申告できる口座です。特定口座は、個人の株式投資の場合に開設できます。
法人は特定口座を開設できないため、すべての収益を自分で集計・計算し、確定申告を行わなければなりません。法人に投資の管理を行う人がいないと、取引状況の判断ができなくなる可能性があるため注意してください。
法人口座での投資には、個人ではできないメリットがあるものの、もちろんデメリットもあります。デメリットを踏まえたうえで投資を行いましょう。
法人の証券口座の開設方法
それぞれ証券会社によって多少の違いはありますが、一般的には以下の流れで法人の証券口座の開設が可能です。
- 口座開設の申し込みを入力フォームに入力する
- 届いた「口座開設申込書」に記入し本人確認書類と合わせて返送する
- 審査を受ける
- 口座開設完了通知が届く
証券口座を作る条件として「日本国内に本店登録している法人」が条件の証券会社もあるため、事前に確認してから申し込みましょう。証券口座の開設にあたって、以下のものを先に準備しておくとスムーズに手続きできます。
- 代表印鑑(実印)
- 取引使用印鑑(届出印鑑)
- 金融機関口座(法人名義口座)
- 本人確認書類
金融機関口座は、証券口座に入金するための法人口座を用意しておきましょう。法人の本人確認書類は、履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)のみです。発行から半年経っている場合は、書類の取り直しが必要のため注意してください。
代表者個人の本人確認書類は、マイナンバーカードや運転免許証、住民票の写し・各種保険証などを準備していれば問題ありません。いずれかを提出しましょう。
法人が証券口座で株式投資を行う際の注意点
法人で株式投資を行うか検討中の方に向けて、実際に運用する際の注意点を詳しく紹介します。メリット・デメリット以外にも気をつける点があります。
含み益に課税される恐れがある
含み益とは、保有する有価証券が購入時よりも値上がりしていて、もし売却すれば利益が生じる状態のことです。逆に、購入時よりも値下がりしている場合は、含み損といいます。
個人での投資の場合は、含み益が大きくなっても売却しなければ所得税が課税されません。
ですが、法人の場合は「売買目的有価証券」とみなされた場合、含み益に対して課税される可能性があるため注意が必要です。
株式などの有価証券は「売買目的有価証券」と「売買目的外有価証券」などに分類されます。その中でも「売買目的有価証券」に該当したものは、期末に保有している有価証券の含み損益を実際の損益として加算されます。
そのため、まだ売却していないものの、将来的に利益が生じる可能性のある「売買目的有価証券」と見なされると、税金を支払わなければなりません。投資は証券を保有しているだけでも課税対象となる可能性があるので注意しましょう。
本業が赤字の場合は慎重に
投資以外にも事業を行っている法人の場合、資金をすべて投資に回してしまうと、事業に損失が出た場合の支払い準備が間に合わないといった事態になりかねません。そもそも、事業が赤字の状態で投資をするべきなのか、まずは慎重に検討するのがおすすめです。
もし事業の赤字が続いている場合は、無理して投資を始めようとせず、節税対策の選択肢の1つ程度と留めておきましょう。株式投資は資金を事業の余剰金で確保したうえで、余裕を持った運用が大切です。
法人で株式投資するなら専門家に相談がおすすめ
法人が証券口座で株式投資を行う場合のメリットやデメリットについて紹介してきました。株式投資にはまず専門知識がないと正しい判断が難しく、とりわけ税制面は手続きなども複雑です。まずは専門家である税理士への相談がおすすめです。
小谷野税理士法人は、法人での株式投資に関してのご相談を承っております。お客様の要望や目的、資金繰り状況など、さまざまな要素を加味して最適な投資提案をさせていただきます。