株式会社や合同会社など年間を通じて利益がある法人は、法人税を納める義務があります。所得に応じて納税額が変わるため、経営者の中には税負担をできるだけ減らしたいと考えている方も多いのではないでしょうか。法人税を減らすには、節税対策が必要不可欠です。効果的な節税をすると、事業に使えるお金を増やせる可能性があります。そこで今回は、法人税の節税に効果的な12の対策方法や注意点について紹介します。
目次
法人税とは
法人税とは、法人の企業活動により得た所得にかかる税金であり、所得金額に所定の税率をかけ、そこに税額控除を差し引いて税金の額を算出します。なお、個人事業主やフリーランスの場合は法人税ではなく、所得税の支払いが必要です。
法人税の節税におすすめの対策法12選
同じ売上でも、企業によって法人税の納税額が違う場合があります。その違いは、適切な節税対策をしているかどうかです。効果的な節税対策を行えば、税金を減らし事業に使えるお金をその分増やせる場合があります。
しかし、節税対策は国や税務署が親切に教えてくれるものではなく、自分自身で調べなければなりません。ここでは、法人税の節税におすすめの対策方法を解説します。
役員報酬を増やす
法人の場合、経営者は給料ではなく役員報酬を受け取りますが、役員報酬は賞与も含めて要件を満たすと、経費のように会社の利益から差し引ける「損金」として計上できます。
役員報酬を増やせば法人税は減額するものの、その分所得税や住民税、社会保険料の金額が増えるため、トータルの納税額はむしろ増えてしまう場合もあります。役員報酬の額は税理士などの専門家と相談し、適正な金額にしておきましょう。
さらに役員報酬の額は基本的には事業年度開始から3ヶ月以内にしか変更できず、1年間は固定されるため注意が必要です。所得の納税額を減らすために、年度末にいきなり役員報酬は増やせません。
設備・人材投資する
設備投資を行う場合「中小企業経営強化税制」を活用すると節税できます。「中小企業経営強化税制」とは、中小企業が設備を新しく取得・製作・建設した場合、一定の要件を満たすと特別償却または税額控除を利用できる制度です。
設備投資にかけた費用の税額の一部を最大で10%法人税から控除できます。この制度は元々2023年3月31日までの期限がありましたが、2年間の延長が決定し2025年3月31日まで利用可能です。
参考:No.5434 中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)|国税庁
自家用車を法人名義で社用車にする
個人所有の自家用車がある場合、法人の社用車として車の費用を経費に計上できます。経費にできる費用は、主に下記の通りです。
- ガソリン代
- 自動車税
- 自賠責保険料
- 駐車場代
- 高速料金
上記の維持費の他にも車の購入にかかった費用も、経費として計上できます。社用車をプライベートでも使用する場合は、社用車の利用規定を作成し利用料を会社に支払うなどのルールを決めておきましょう。
車を購入するのではなく、カーリースを利用する場合も経費に計上できます。法人向けのリースプランで契約し、3月決算の法人が3月にリース代を一括払いすれば「短期前払費用の特例」が適用されるため、支払った全額を経費として計上でき節税に繋がります。
参考:No.5380 短期前払費用として損金算入ができる場合|国税庁
役員や社員の自宅を社宅にする
役員や社員の自宅を個人名義で契約するのではなく、法人名義で賃貸契約をするだけで家賃の50%〜70%を経費にできる場合もあります。
一定の要件を満たすと役員や従業員に対して給与として課税されないため、法人・個人ともに税金の負担を抑える事が可能です。社宅扱いにするには、法人名義で賃貸物件を契約し、入居する役員や社員から一定の賃料を受け取る必要があります。
社宅制度は節税だけでなく、社員の福利厚生という面でもメリットがあるでしょう。ただし役員や社員の賃料設定が無料だったり、あまりにも低すぎたりする場合は、現物支給として課税される場合があるため注意が必要です。
取引先との飲食費や交際費を経費にする
取引先との会食や慶弔関係の支出、お中元やお歳暮などにかかった費用などを計上できます。内容によっては経費と認められない場合もあるため注意が必要です。
取引先への挨拶のために手土産を持参した場合も、それが業務上必要なものであれば経費として計上できる場合があります。
新年会や忘年会・送別会などの社員を対象とした食事会や、社内での従業員の食事の提供にかかった費用も、一定の要件を満たせば福利厚生費として計上可能です。経費として計上できる限度額は、大企業と中小企業で分けられています。
大企業 (資本金1億円超) | 中小企業 (資本金1億円以下) | |
接待交際費 限度額 | 接待飲食費の50%まで | 接待飲食費の50%もしくは 年間800万円以下の接待交際費 |
飲食費や交際費を経費として計上する場合は、取引先や事業との関連性を明確にし、日頃から将来の税務調査へ備えておきましょう。
参考:No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算|国税庁
中小企業向けの共済に加入する
中小企業向けの共済制度は、主に「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」と「中小企業退職金共済」の2つが挙げられます。
経営セーフティー共済(中小企業倒産防止共済)とは、取引先が倒産した際の連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。掛金を損金計上できるため、加入するだけで節税ができます。
そして、中小企業退職金共済とは、退職金の準備が難しい中小企業向けの制度です。毎月掛金を支払って従業員の退職金を積み立て、従業員が退職した場合退職金が中小企業退職金共済から直接支払われるシステムです。
共済に加入するには、業種ごとに常用従業員数または資本金・出資金のどちらかの基準を満たす必要があります。
業種 | 常用従業員数 | 資本金・出資金 |
一般業種 (製造業、建設業等) | 300人以下 | 3億円以下 |
卸売業 | 100人以下 | 1億円以下 |
サービス業 | 100人以下 | 5,000万円以下 |
小売業 | 50人以下 | 5,000万円以下 |
※常用従業員数または資本金・出資金のどちらかの基準を満たせば適用
福利厚生を充実させる
福利厚生を充実させ、かかった費用を経費として計上すれば節税できます。福利厚生の具体例では、主に「社員旅行(慰安旅行)」と「健康診断」などが挙げられます。例えば、社員旅行であれば下記の要件を満たせば費用を福利厚生費として計上できるでしょう。
- 会社負担金額がひとり10万円以内である
- 旅行日数が4泊5日以内である
- 従業員の50%以上が旅行に参加する
他にも、従業員の健康診断や人間ドック費用も下記の要件を満たせば経費として計上可能です。
- 全従業員が対象である
- 会社が医療機関に直接支払う
- 常識の範囲内の金額である(高額すぎない)
社員の健康を推進すると同時に、働くモチベーション向上にも繋がりますので、福利厚生として積極的に導入しましょう。
貸倒引当金を損金として計上する
貸倒引当金とは、取引先が倒産に陥り、貸し出したお金が回収できなくなるリスクに備えて事前に利益から計上しておく積立金です。
回収ができないお金や不良債権がある場合は、節税できる可能性があります。ただし、必要以上に貸倒引当金を計上すると利益操作と見られる可能性があるため注意しましょう。
貸倒引当金の計上には細かい要件があり、独自で判断するのが難しく税務調査で指摘される場合もあります。まずは税理士などの専門家への相談がおすすめです。
別会社の設立を検討する
子会社やグループ会社などの別会社を設立して、利益を分散すると節税できます。法人設立に必要な資本金の最低額が無くなったため、法人設立のハードルが下がり、子会社を設立する企業も増えています。
課税売上が1,000万円以下の場合は消費税が免除になったり、資本金1億円以下の会社には軽減税率が適用されたり、交際費の限度額が2社で倍になったりとメリットも多いです。新しく事業を始めてみたい場合などは検討してみましょう。
ただし、別会社の設立が必要でないと判断された場合や、親会社の関わり方が不自然と判断された場合などには、税務調査で指摘される場合もあります。節税のためだけの会社設立はおすすめしません。
固定資産の見直しをする
社内で使わなくなった古い在庫や固定資産を処分すると、かかった費用を損金として計上できます。使用していない、これからも使い道がない固定資産はないか確認してみてください。
さらに、不要な資産を処分すると固定資産税を減らせます。廃棄処分の費用を損金計上するには「廃棄証明書」などの証明書が効果があるため、覚えておきましょう。
使用していない資産にも固定資産税は発生するため、定期的に資産を整理しておくと節税対策に繋がります。
30万円未満の少額減価償却資産を計上する
青色申告をしている中小企業は、30万円未満の消耗品を購入した場合、かかった金額を一括で経費として計上できます。この制度は「少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」と呼ばれていて、一定の要件を満たす必要があります。
- 常時使用する従業員の数が500人以下である
- 平成18年4月1日から令和6年3月31日までの間に取得する
- 事業年度における少額減価償却資産の取得価額の合計額が300万円を超えない
参考:No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例|国税庁
機械・装置などの備品だけでなくソフトウェア、特許権、商標権等の無形減価償却資産も対象ですが、購入金額が10万円未満のものには、この特例は適用されないため注意してください。
赤字分を繰り越す
赤字の繰り越しも法人税の節税に有効で、繰り戻し制度を利用すると、過去の黒字所得を赤字所得で相殺できます。黒字のプラス分を赤字のマイナスで減らせるため、会社の利益が減り法人税の節税が可能です。
赤字分の繰り越しは、資本金が1億円以下の中小企業は赤字を全額控除でき、法人の場合には10年まで繰り越しが可能です。法人税が膨らみそうな年度に備えて残しておくのも良いでしょう。個人事業主の場合は赤字を3年間繰り越せます。
一定の要件を満たせば「欠損金の繰り戻しによる還付」も利用できます。欠損金の繰り戻しによる還付とは、黒字の翌年が赤字になった場合に、前年の黒字にさかのぼって赤字と相殺し、法人税の還付が受けられるという制度です。
ただし、赤字でも法人住民税の均等割は課税されるため注意しましょう。
法人税を節税するときの注意点
節税対策は事業の運営において大切です。ですが、節税にも様々な方法があり、過度な節税は脱税と見なされ違法になる可能性もあります。節税対策で気をつけたいポイントを事前に確認し、対策を立てておきましょう。
不必要な出費をなくす
必要な出費であれば節税対策にもなり一石二鳥ですが、節税のためにと無駄に経費を増やし、結果的に手元にお金が残らなくなると意味がありません。
節税対策ばかりに気を取られていると、法人の経営自体にまで支障が出てくる場合もあります。不必要な出費を減らし、意味のある節税をしましょう。
税金を少なくする税制優遇制度も一定の条件が設けられているため、経営状態などに合わせて自社に合った制度を選びましょう。
分かりやすい会計状況に努める
様々な節税対策をしていると、本来必要な経費が分かりづらくなってしまいます。そのままの状態にしていると、税務調査で帳簿などを確認されたときに指摘されかねません。誰が見ても分かるような会計状況を日頃から心がけましょう。
会計状況が分かりやすいと節税もしやすく、新たな節税対策が見つかる可能性もあります。いつどのタイミングに税務調査が入るかはわかりません。「事業が忙しい」「適切な節税方法がわからない」などの場合は、税理士などの専門家への相談もおすすめです。
ペーパーカンパニーは危険
ペーパーカンパニーとは、法人として登録されているものの、実際には事業を行っていない企業を指します。ペーパーカンパニーを利用した節税は法的にグレーゾーンと言われ、場合によっては脱税と見なされる可能性もあります。基本的に節税対策としてはおすすめしません。
例えば本社で発生した利益をペーパーカンパニーに分散させると、法人税や消費税などを節税できる場合があります。必ずしもすべてが違法であるとは限りませんが、仮に脱税と判断されれば違法行為です。
自社がペーパーカンパニーを設立していなくても、取引先がペーパーカンパニーである可能性もあります。ペーパーカンパニーと取引してしまうと、その企業が税務調査を受けた際に、適切な証明ができずに追徴税を課されるというリスクがあります。自社が巻き込まれないためにも、取引先の会社がどのような会社なのか、営業実態があるのかを確認してから取引するようにしましょう。
法人税の節税は専門家に相談も
中小企業の場合、資金繰りも厳しいうえに税負担も大きいため、効果的な節税対策が大切です。法人税の節税に関して不安を感じる方は、一度専門家に相談するのもおすすめです。
「毎年の税金が高い」「節税の対策方法をもっと知りたい」などのお悩みにも、専門家のサポートを受ければ安心して事業に専念して頂けます。
小谷野税理士法人は、日頃の会計業務のサポートや税務申告業務、適切な節税対策もご提案させていただきます。