事業で安定的に利益が出るようになると、次の段階として個人事業主からの法人成り(法人化)を視野に入れている方も多いのではないでしょうか。そこで、今回の記事では法人成りに必要な手続き5つを時系列で解説します。また、個人事業主を廃業する手続きも併せて紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
法人成りとは
法人成り(法人化)とは、会社を経営する事業主を個人から法人にすることです。一般的に個人事業主が法人成りするタイミングは、以下が挙げられます。
- 所得が年900万円を超えたとき
- 課税売上高が年1,000万円を超えたとき
- 事業拡大したいとき
- 従業員を雇用したいとき
個人事業主には超過累進課税が適用されるため、所得に応じて所得税が上がります。
所得が900万円を超えたタイミングで、法人税のほうが納税額を抑えやすくなります。そのため、このタイミングで法人成りを行う方が多いのです。
それ以外にも、売上高や事業拡大など、法人成りを行うタイミングはあります。
タイミングを逃すと納税額にも大きな影響が出るため、税理士とよく相談したうえで判断しましょう。
参考:超過累進税率とは|総務省
参考:No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例|国税庁
法人成りの手続き5つとは?
法人成りに必要な手続きは主に5つです。内容は下記の通りです。
- 会社の基本事項を決める
- 会社用の印鑑を準備する
- 定款を作成して認証を受ける
- 資本金を払い込む
- 法務局で登記申請する
この5ステップで法人成りが完了します。本記事では、各ステップに必要書類や注意点などについて詳しく解説します。
また、法人成りだけではなく現在の個人事業を廃業する必要もあります。それについては記事後半で解説します。
そのほかにも、法人設立後に必要となる手続きは数多くあります。ぜひ以下のコラムを参考にしてください。
関連記事:会社設立の流れとは?法人化・株式会社起業をお考えの方へ基礎知識をご紹介
関連記事:【税理士監修】会社設立前後のやることリスト一覧!一人で会社を作る場合や手順
参考:株式会社の設立手続き | 起業マニュアル|J-Net21
会社の基本事項を決める
会社の発起人は、最初に会社の基本事項を決めます。最低限決めておきたい事項は下記の通りです。
- 商号(会社名)
- 事業目的
- 本店所在地
- 資本金
- 役員構成、株主
- 事業年度、決算日
基本事項は創業後に修正できますが費用も労力もかかります。
また、法人成り以降もこの基本事項を土台にして経営するため、よく検討したうえで決めましょう。
会社用の印鑑を準備する
次に会社用の印鑑を準備します。主な内容は下記の通りです。
- 代表者印
- 銀行印
- 角印
特に代表社印は登記申請や法人口座の作成などの際に必要になるため、必ず作成しておくようにしましょう。
定款を作成して認証を受ける
次に定款を作成します。定款とは、会社の基本事項や規則などが書かれた重要書類のことです。記載する項目は3種類に分けられます。
【絶対的記載事項】
絶対的記載事項とは、定款に必ず記載する必要がある内容のことです。
- 商号(会社名)
- 事業目的
- 本店所在地
- 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
- 発起人の氏名または名称および住所
- 発行可能な株式数(株式会社の場合)
絶対的記載事項は、1つでも欠けていると定款の認証を受けられません。必ず漏れなく記載しましょう。
【相対的記載事項】
相対的記載事項は、絶対的記載事項とは異なり、記載がないと定款そのものの効力がなくなるわけではありません。しかし、定款に記載がないといくら定めてあってもその効力を発揮しない事項です。必ず記載するようにしましょう。
相対的記載事項には様々な項目があります。作成の際には専門家に依頼することをおすすめします。行政書士だけではなく、行政書士の登録を行っている税理士にも定款の作成は可能です。
【任意的記載事項】
任意的記載事項とは、定款への記載や決定が義務ではない事項のことです。ですが、定款に記載することで明確にできます。できるだけ決めておくことをおすすめします。
- 事業年度
- 株主総会について
- 取締役や監査役の員数
- 株主総会の議長 など
定款が完成したら、公証役場で公証人の認証を受ける必要があります。会社の本店所在地を管轄する法務局か、地方法務局所属の公証人が認証を行います。
認証手続きには、下記の費用が必要です。
- 定款認証手数料 30,000~50,000円
- 謄本の発行手数料 約2,000円(250円/1通)
- 収入印紙代 40,000円
合計で10万円近い費用がかかるので、あらかじめ準備しておきましょう。
参考:会社法27条|e-GOV
資本金を払い込む
定款の認証を受けられたら、発起人の個人口座に資本金を払い込みます。その際、預金ではなく振込みで送金してください。氏名と金額が正確かどうかを確認するためです。
無事に払い込みが完了したら、通帳にある下記の3ページをコピーします。
- 表紙
- 氏名・口座番号・銀行員が押印されているページ
- 資本金の振込が記載されているページ
通帳のコピーは発起人が資本金を払い込んだ証拠になります。しっかり保管しておきましょう。
法務局で登記申請する
最後に法務局で登記申請を行います。必要となる書類は以下が挙げられます。
- 設立登記申請書
- 定款(謄本)
- 登録免許税納付用台紙
- 発起人決定書
- 代表取締役の就任承諾書 ※取締役が1人で、代表取締役を兼務している場合は不要。
- 取締役の就任承諾書
- 取締役の印鑑証明書
- 監査役の就任承諾書 ※設置しない場合は不要
- 印鑑届書
- 印鑑証明書
- 出資金の払込証明書
- 登記すべき事項を記録・保存した別紙、記録媒体
法人登記を申請する方法は、法務局の窓口で直接する・郵送・オンラインの3つがあります。内容に不備がなければ、1週間~10日間程度で完了することが一般的です。
参考:添付書面の記載例|法務局
法人成りにかかる費用と時間
法人成りには、定款や登記にかかる費用が発生し、株式会社の場合は最低でも24万円以上かかるでしょう。個人事業主が開業にかかる手数料0円のため、それに比べると高額に感じるかもしれません。
各手続きに必要な費用は下記の通りです。
定款費用 | 認証手数料 | 30,000~50,000円 |
---|---|---|
謄本の発行手数料 | 2,000円 | |
収入印紙代 | 40,000円(電子定款の場合は不要) | |
印鑑証明書 | 300円~ | |
登記費用 | 登録免許税 | 15万円もしくは資本金×0.7%のどちらか高い額 |
会社実印登録費用 | 20,000円~ | |
資本金 | 資本金 | 1円~ |
合計 | 最低242,301円~ |
電子定款の場合は収入印紙代を削れますが、そのためには電子印鑑証明書やICカードリーダライターなどが必要です。
具体的な金額は、資本金や都道府県などによって異なります。そのため、税理士とよく確認しておくことをおすすめします。
参考:株式会社の設立手続き | 起業マニュアル|J-Net21
個人事業廃業の手続き
法人成りの手続きが終わったら、個人事業の廃業手続きも必要です。この手続きを行わないと、法人と個人事業を並行することになるためです。
個人事業の廃業に必要な手続きは下記の通りです。
- 個人事業の開業・廃業等届出書
- 所得税の青色申告の取りやめ届出書
- 給与支払事務所等の廃止届出書
- 消費税の事業廃止届
なお、個人事業で取得した許認可の大半は、法人へは引き継がれません。法人として再度取得し直す必要があります。
法人成りはぜひ税理士へのご相談や手続き代行も
法人成りの手続きには様々な書類や費用が必要です。大半の方は人生で一度しか行わないにもかかわらず、煩雑な手続きを踏まなければなりません。
事業を行いつつこれらの書類を準備するのは手間がかかるものです。そのため、法人成りの際はぜひ税理士への相談や手続きの代行を検討してみてください。法人成りのタイミングだけではなく、法人成り以降も確定申告や節税対策、事業承継などについて相談できます。法人成りや税務についてはプロに依頼し、ぜひ事業に専念されてはいかがでしょうか。
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