社宅を経費にすることで、法人企業は大幅な節税効果が期待できます。従業員の福利厚生を充実させながら、法人税の負担も軽減できるため、多くの企業が節税対策としている方法です。しかし、社宅を経費に計上するにはいくつかの要件を満たす必要があります。本記事では、法人企業が社宅を経費に計上するための条件やメリット、注意点について見ていきましょう。
目次
社宅を経費にするための基本要件
社宅を経費にして節税対策をするには、いくつかの基本要件を守る必要があります。以下よりその要件について詳しく解説をします。
会社の名義で賃貸契約を結ぶ
社宅を経費にするためには、まず会社の名義で賃貸契約を結ばなければなりません。社員などの個人名義での契約は、法人として経費扱いが認められないため注意が必要です。
会社が法人名義で賃貸契約を結ぶことで、社宅の賃借料が経費として正式に計上できるようになります。法人税の算出基準から社宅の賃貸料が除外されるため、税負担の軽減が可能です。
不動産会社と賃貸契約を結ぶ際は、あらかじめ社宅として使用する旨を申告しておくと、後々のトラブル回避に繋がるでしょう。
従業員からは賃貸料相当額の50%以上を徴収
借り上げ社宅として経費計上をするためには、従業員から賃貸料相当額の50%以上を徴収する必要があります。税務上、社宅の提供が適正であり、あからさまな節税目的ではないことを示すための要件です。
したがって従業員が社宅に住む場合、その賃貸料の半分以上を個人で負担する形になります。50%を下回ってしまうと、従業員の給与として課税される可能性があるため注意してください。
徴収する賃貸料の額は賃貸契約書に基づき算出され、その計算方法や徴収方法をきちんと社内規定として整備する必要があります。
社宅の無償の提供は不可
先述では、賃貸料の50%以上は従業員側が負担する必要があるとお伝えしました。したがって、社宅を経費にする際、無償での提供は認められていないということです。
仮に無償提供した場合、税務上では提供された社宅が従業員への給与として見なされます。社員個人に対して所得税が課税される可能性が高くなります。
つまり、無償提供は従業員側に課税リスクが高まり、会社側には負担が増えるため、双方にとってデメリットとなってしまいます。
ただし、例外として看護師や守衛といった職種は「仕事に従事させる都合上やむを得ない」として、無償で社宅を提供しても課税されないケースがあります。
社宅を経費にするメリット
社宅を経費にすることで企業側には多くの財務上のメリットをもたらします。また、福利厚生の面においてもメリットがあります。
以下より具体的なメリットの内容を確認していきます。
社宅は福利厚生費として計上できる
社宅の賃貸料が福利厚生費として計上されると、税務上、課税所得から控除されるため法人税の軽減に繋がります。
また、福利厚生の充実は従業員の満足度を向上させ、企業のイメージアップにもなるでしょう。優秀な人材確保にも効果をもたらし企業の競争力を強化できます。
節税対策だけでなく、企業全体の成長戦略の一環としても効果的と言えるでしょう。
従業員の家賃負担を軽減
社宅を提供することで、従業員にとっては家賃負担が軽減されます。企業が賃貸料の一部を負担することで従業員の生活が安定すれば、離職率の低下にもつながるでしょう。
企業による家賃の負担は、特に生活費を軽減させたい若手社員や新入社員にとってメリットになります。福利厚生の充実が従業員のモチベーションを向上させることで、業績や生産性の向上が期待できるでしょう。
社宅は会社の損金扱いにできる
社宅の賃貸料を会社の損金扱いにすることで、法人税の負担を減少させられます。損金扱いとは、企業の収益から経費として差し引かれる額のことです。
具体的には、賃貸料や管理費、修繕費などを損金として計上することで、企業の課税所得を減少させることができます。
光熱費や駐車場費用の扱い
社宅を利用する際は、通常は光熱費や駐車場費用を従業員が個別に負担するケースが多いでしょう。しかし、光熱費や駐車場費用も一部経費として計上できる場合があります。
例えば、業務で必要な部分に関しては企業が負担することが可能です。その際には適切な証拠を残すことが求められるため、具体的な使用用途を明記した書類を提出しましょう。領収書や利用明細などがあると心強いです。
関連記事:【税理士監修】法人の税金対策を徹底解説!節税方法から法人化まで
役員に社宅を貸与する特別ルール
役員に社宅を貸与するには、一般従業員向けの社宅とは異なる特別なルールがあります。
役員用社宅の要件
役員に社宅を提供する場合、要件を満たすためにはいくつかの特別な要件が必要です。
まず、役員が実際にその社宅に住むことが前提となります。その上で、社宅としての適正価格に基づいた家賃を設定してください。
家賃の適正価格は、所在地や広さ、築年数などを考慮して計算されます。
- 法定耐用年数が30年以下の建物 = 床面積が132㎡以下
- 法定耐用年数が30年を超える建物 = 床面積が99㎡以下
以上の条件を持つ住宅は「小規模住宅」と見なされ、従業員の社宅と同じ計算方法で賃料相当額を計算することになります。
条件に当てはまらない場合は「小規模な住宅ではない」と見なされ、あらためて賃料相当額を計算しなおすことになります。
また、社宅の提供契約が明確に文書化されている必要もあります。賃貸料の一部が役員本人から負担される旨をはっきりと記載しましょう。
役員用社宅における家賃設定のポイント
役員用社宅の家賃を設定する際は、公正な価格を設定することがポイントです。役員用社宅の場合、近隣の市場相場を参考にすると、家賃が適正であると認められやすいでしょう。
高すぎる家賃設定や、明らかに市場相場より低い家賃設定は、税務当局に否認される可能性があります。税理士や専門家のアドバイスを参考にし、適正家賃を算出すると無難です。
また、役員自身が負担する家賃の割合も明らかにし、その負担額が適正であることを証明する「固定資産評価証明書」などの書類を整備しておきましょう。
社宅制度の実施にあたっての注意点
社宅制度を導入する際には、いくつかの注意点があります。法律や税務上のトラブルを引き起こす可能性があるため慎重に準備・対処しましょう。
社内規定の策定が必要
まずは明確な社内規定の策定が必要です。
- 社宅の利用条件
- 賃貸料の設定方法
- 費用負担の内訳
上記において具体的な内容を含んだ規定があれば、従業員に対しても透明性が維持され、トラブルの未然な防止に繋がるでしょう。
また、規定を設けることで、税務上のリスクを軽減し、法的にも問題ない運用が可能となります。規定の作成には、法務部門や税理士など専門家の意見を反映させると無難です。
賃貸契約は法人名義で行う
社宅の賃貸契約が個人契約になっていないことを必ず確認してください。前述の通り、個人契約では社宅の賃貸料が企業の経費として認められません。社宅の賃貸契約は、必ず法人名義で行うようにしましょう。賃貸契約書も必ず企業側の管理下において保管するようにしてください。
社宅を経費にして賢く節税しよう
社宅を経費にすることは、法人企業にとって効果的な節税対策です。従業員だけではなく役員にも社宅を提供すれば、その賃貸料を経費として計上でき節税効果が期待できます。
節税効果だけではなく、従業員の生活負担を軽減して企業の福利厚生を充実させる働きかけにもなるでしょう。
一方で、確定申告の際には賃貸料や管理費の明細管理や計算には細心の注意が必要です。安心して社宅制度を利用するためには、現行の税法や規制に精通した専門家や税理士に相談することがおすすめです。