多くの事業主にとって、取り組みを検討しているものの十分に実施できているとは言い切れないのが「節税」ではないでしょうか。間違った方法で申告すれば追加納税のリスクもあり、確実に行いたいものです。節税方法は多岐にわたりますが、飲食店ならではの節税方法もあるためしっかり理解しておきましょう。飲食店を営む際にかかる税金、具体的な節税対策、注意点などをご説明します。
目次
飲食店の経営者が知っておくべき税金の種類
事業を営んでいる以上、納めなければいけないのが、税金です。個人経営の場合と法人経営の場合では、納める税金の種類や計算方法等も異なり、大きく「利益にかかる税金」と「取引にかかる税金」に分けられます。飲食店の経営者が知っておくべき税金の種類について、詳しく解説します。
個人経営の場合
個人経営の飲食店の場合、利益に関係する税金は「所得税」「事業税」「住民税」、取引にかかる税金には「消費税」「印紙税」「固定資産税」があります。
- 所得税
事業の収益から算出される所得にかかる税金で、国税の一種です。一般的な確定申告は所得税の確定申告を指します。 - 個人事業税
課税所得金額が290万円以上の場合に納める税金で、地方税の一種です。全ての事業者に納税義務があるわけではない点に気を付けましょう。 - 住民税
地域社会の維持・管理にかかる費用を住民が負担する地方税の一種で、「都道府県民税」と「区市町村民税」を合わせて住民税と呼ばれています。 - 消費税
国税の一種で、売上高1,000万円以上の課税事業者およびインボイス制度に対応するために課税事業者となった場合など、消費税を納める義務が発生します。所得税の確定申告とは別に消費税の確定申告を行うことで、本来納めるべき正しい消費税を計算して納税します。
- 印紙税(課税文書を作成した場合)
5万円以上の領収書など課税文書を発行した場合に発生する税金で、領収書の金額によって税額は変わります。印紙の貼り忘れなどを指摘されると、本来の3倍の額となる過怠税が課せられますので注意しましょう。 - 固定資産税
所有する土地や家屋、固定資産にかかる税金で、地方税のひとつです。自宅を事務所としている場合など、所有する固定資産を事業に用いていれば、経費に計上できます。
参考:「消費税のしくみ」国税庁
法人経営の場合
法人経営の飲食店の場合、利益に関係する税金は「法人税」「法人事業税」「法人住民税」「役員報酬にかかる個人の所得税と住民税」「消費税」「印紙税」「固定資産税」があります。
- 法人税
個人事業主の所得税にあたる税金で、法人の収益から経費を差し引いた課税所得に対し課される国税の一種で、確定申告が必要です。 - 法人事業税
法人が事業を行う際に提供される行政サービスの費用を、資本金や業種に応じた分担方法で負担するというもので、地方税の一種です。 - 法人住民税
法人も地域社会の一員として、個人と同様に費用を分担する税金です。道府県民税(法人都民税)と市町村民税の2つからなり、事務所や事業所が所在する都道府県や市町村に納税します。 - 役員報酬にかかる個人の所得税と住民税
法人として事業を運営していると、法人にかかる税金(法人税・法人事業税・法人住民税)とは別に、個人の収入に対しても税金を払わなければなりません。役員報酬は、源泉徴収にて所得税と住民税を支払います。法人が年末調整を行うため、他に収入がある場合や控除したいものが個別にある場合を除いて、確定申告の必要はありません。 - 消費税
法人の場合、前々事業年度の課税売上高が1,000万円を超える場合、課税事業者となり消費税の納税義務が発生します。法人税の申告とは別に、消費税の確定申告が必要です。
- 印紙税(課税文書を作成した場合)
個人事業主の場合と同様、5万円以上の領収書を発行した場合に貼付・納税します。
- 固定資産税
法人が所有している不動産などの固定資産にかかる税金です。
適切な節税のためにも、法人経営に関わる税金について理解を深めておきましょう。
飲食店におすすめの節税対策一覧
近年の物価高の影響もあり、飲食店の利益を増やすことは簡単ではありません。しかし、漏れのない節税対策が行えれば、支払う税金を減らし手元にお金を残すことができます。どのような節税対策があるのか、具体的に説明します。
青色申告をする
「長年白色申告を選んできたから」「白色申告の方が簡単だと聞いたから」という理由から、白色申告を選択していませんか?
白色申告では、所得が少額の場合には記帳義務が免除されていましたが、2014年1月以降に帳簿付けが義務化されました。単式簿記でよいため青色申告の複式簿記より簡単ですが、「帳簿をつけなくてよい」という大きなメリットはなくなりました。
青色申告は事前届出が必要ですが、個人事業主の場合は複式簿記での帳簿付けや要件を満たせば最大65万円の青色申告特別控除を受けられるメリットがあります。控除を受けることで課税所得を抑え、所得税額を少なくすることができます。
また、青色申告の場合、事業に従事する家族に支払った給与を「青色事業専従者給与」として全額経費にできます。白色申告の場合、同様に「事業専従者控除」が適用できますが、経費計上できる範囲は細かく定められています。
事業で損失(赤字)が出た場合にも、青色申告であれば3年間の繰り越しが可能です。
複式簿記の帳簿など、多少手間は増えますが、白色申告のままでいる事業者は、青色申告に切り替えることをおすすめします。
経営セーフティ共済に加入する
経営セーフティ共済とは、取引先が倒産した際に事業者が経営難や連鎖倒産に陥ることを防ぐための制度です。毎月の掛金は5,000円〜20万円の範囲で設定でき、掛金総額が800万円になるまで積み立て可能です。万が一、取引先が倒産した際には掛金の最高10倍(8,000万円まで)を借り入れることができます。
経営セーフティ制度の掛金は、全額経費に計上できるため所得税等の節税に繋がるほか、掛金を12か月以上納めていれば解約返戻金は8割、40か月以上納めていれば全額返戻されるというメリットがあります。
解約返戻金は雑収入となるので、赤字が出ているときに解約するか、設備投資や退職金などで経費がかさんだ年に解約するとよいでしょう。
節税をしながらリスクに備えられ長期加入していれば掛金が全額戻る、事業者にとって大変有利な制度です。いざというときのために、加入を検討することもよいでしょう。
事業に関する交際費を経費として計上する
取引先へのおもてなしなど事業に関わる人との飲食費は、接待交際費として経費に計上できます。食事代金だけでなく、お中元や移転祝いなども含まれます。
個人事業主の場合は費用に上限はありませんが、法人の場合制限があり、資本金1億円以下の法人で800万円まで算入できます。いずれも業務上必要な支出でなければならないことに注意しましょう。
所得を分散させる
日本の所得税は「累進課税」を採用しており、所得が高い人ほど高い税率がかかる仕組みです。税率は5%〜45%と大きく異なるため、所得が個人に集中すると、税負担が大きくなってしまいます。
そのため、給与を支払うことが節税対策となります。たとえば、個人事業主の場合は妻に青色専従者給与として支払ったり、法人の場合は妻だけでなくアルバイトの子にも支払うことができます。所得が減れば適用される税率が低くなり、結果家庭内で支払った税額の合計を抑えることが可能です。
中小企業退職共済に加入する
中小企業退職共済は、従業員の退職金や年金を準備するための制度で、条件を満たせば掛金の一部に国の補助が受けられ掛金は全額費用に計上できます。掛金は2,000円から30,000円まで設定できるので、事業の状況に合わせて節税しながら従業員の福利厚生に備えられるメリットがあります。
法人化する
個人事業主の飲食店の場合、法人化による節税もひとつの案です。法人化する際には、設立に手間とお金がかかってしまいますが、下記のようなメリットが得られます。
所得に対する税率が低い
個人事業主の場合、所得税は5%~45%の範囲で、所得が多ければ多いほど税率が高くなる累進課税が適用されます。一方法人税の場合、税率は現在23.2%(資本金1億円以下の法人で所得800万円以下の部分については15%)です。
一般的に所得800万円を超えると法人化にメリットがあると言われているので、所得金額800万円を超える個人事業主は、法人化を検討するとよいでしょう。
経費に認められる範囲が広い
法人化すると、個人事業主よりも経費にできる対象の範囲が広がります。例えば、事業主本人の給与(役員報酬)や退職金、福利厚生の費用、健康診断の費用などです。
特に飲食店の場合、研究開発費として1人での外食費も経費に計上できるメリットがあります。個人事業主では、取引先や関係者との食事のみが対象ですが、法人化している飲食店であれば研究開発目的の場合、1人の食事でも取引先が相手でなくても経費の対象にできます。
経費を漏れなく計上することが節税に繋がるため、法人化した際に何が経費計上できるのかシミュレーションをしてみるとよいでしょう。
消費税の免税期間を伸ばせる
個人事業主が消費税の課税事象者となるタイミングは、課税売上高1,000万円を超える場合や、インボイス対応のために適格請求書発行事業者に登録し課税事業者となった場合です。
一方、新たに設立された法人には、設立1期目および2期目の基準期間がなく、原則として納税が免除されます。
そのため、消費税を算出する際の基準期間(個人事業主の場合は前々年)の課税売上高が1,000万円を超え、消費税の申告・納税義務が発生するタイミングで法人化すれば、設立2期までは免税期間を伸ばすことができます。
ただしこの場合、資本金や資本関係などに条件があるため、あらかじめ確認しておきましょう。
事業主へ退職金を支払える
個人事業主は、事業主本人へ退職金を払うことは認められていません。退職金に備えるには小規模企業共済に加入し、自費で積み立てる必要があります。
一方で法人の場合、事業主への退職金は会社から支給できるため個人の収入から払う必要がなく、経費計上が可能なため節税効果も期待できます。
小規模企業共済に加入する
上述のように、個人事業主が退職金を備えるには小規模企業共済に加入し、積み立てる必要があります。掛金を経費にすることはできませんが、「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の対象になります。
掛金支払い時に所得控除が受けられるだけでなく、共済金を受け取る際にも税制上のメリットがあります。共済金を一括で受け取れば「退職所得」として退職所得控除ができ、分割で受け取る場合も「公的年金等の雑所得」として公的年金等控除額を差し引くことができるのです。
一方で、加入期間が12か月未満で任意解約すると掛け捨てになることや、240か月以下で任意解約をすると元本割れする場合があることにも注意が必要です。この場合、掛金を減額して継続すれば防ぐことができます。
中小企業退職金共済は従業員の退職金に備えるもの、小規模企業共済は経営者や役員、個人事業主の退職金に備えるものです。
簡易課税を選択する(消費税のみ対象)
課税事業者で消費税の納税義務がある場合、納税額の計算方法は「一般課税(原則課税)」と「簡易課税」の2種類から選べます。一般的に、納税者にとっては簡易課税が有利と言われています。
簡易課税では、業種ごとに決められた「みなし仕入れ率」にて消費税を計算します。飲食店の場合、基本的には第4種事業に該当し、みなし仕入率は60%です。
例えば、売上にかかった消費税が合計100万円、仕入や経費にかかった消費税の合計が30万円の場合それぞれの納税額は、下記のようになります。
<一般課税(原則課税)>
100万円-30万円=70万円
<簡易課税>
100万円-(100万円×60%)=40万円
上記のように、仕入れにかかる消費税や経費が60%以下の場合、簡易課税を選択すれば納税額を抑えることができます。多くの飲食店で、簡易課税の方が有利になることが多いですが、事前にシミュレーションをするとよいでしょう。
簡易課税を選択するには、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であることや、事前に消費税簡易課税制度選択届出書の提出が必要であることや、一度簡易課税を選択すると原則2年間は変更できない点などに注意が必要です。
飲食店が節税する際の注意点
飲食店の経営者が節税を検討する際、注意するポイントがいくつかあります。節税効果を上げるためにも、しっかり理解しておきましょう。
何に課税されるのかを把握する
節税対策をしようと思ったら、まずは自身の飲食業にどのような税金がかかっているのかを把握することが重要です。
所得に関する部分だけでなく、住民税を含め何が課税されているのかを把握することで、節税できる部分とそうでない部分を明確にし、節税の第一歩に繋げられるでしょう。
漏れのないように経費に計上する
経費に含まれるものは、仕入にかかる費用や光熱費や備品などだけではありません。細かな物まで計上していても、見落としていることも多くあります。
例えば、新聞や書籍代、打ち合わせの交通費やカフェの代金、インターネット料金なども、事業に使用していれば経費に計上できます。細かな見落としを防ぐため、お店に関わる出費をまとめて、一度税理士とともに確認するとよいでしょう。
また、上記で紹介した小規模企業共済の掛金など、確定申告で自身で適用させなければ控除されませんので漏れなく申請するように注意しましょう。
優先順位を考慮したうえで節税対策を行う
上述の通り、節税方法は多岐に渡りますが、大きく分けると4つのタイプがあります。
- 出費のない基本的な節税(王道的節税)
- 出費はあるが、将来への投資となる節税(投資型節税)
- 出費はあるが、会社を守るための節税(保守的節税)
- 出費があり、将来にも繋がらない節税(消費型節税)
利益が残った場合基本的には、王道的節税→投資型節税・保守的節税→消費型節税もしくはそのまま納税の順に検討するとよいでしょう。
王道的節税とは、役員報酬の調整、旅費規程を作り出張日当を経費にするなど、支出不要で取り組みやすい節税対策です。
王道的節税に取り組んだ後にも利益が残っている場合、投資型節税や保守的節税を検討します。投資型節税と保守的節税は、どちらが優先というものではないため、会社の状況を鑑みて選択すると良いでしょう。投資型節税には雇用促進税制や中古資産の減価償却など、保守的節税には小規模企業共済や中小企業倒産防止共済に加入する、などがあります。
それでも利益が残った場合には、そのまま納税するか消費型節税で経費として支出するという選択肢があります。消費型節税は将来に繋がる出費ではなく、過剰に行えば手元に残る資金が減ってしまうという点に注意が必要です。
このように節税といっても、それぞれ性質と効果が異なります。特徴をよく理解し優先順位をつけて取り組みましょう。
過度な節税行為のデメリットを理解する
飲食店では、接待交際費や研究開発費として外食費として計上できます。他の事業では認められにくい外食や、メニューの開発に使用した材料費など、幅広く経費計上できることは飲食業ならではのメリットといえるでしょう。
しかし、経費に計上できるのは事業に関係するもののみです。プライベートと混在させることはご法度ですので、必ず分けておきましょう。全く関係のないジャンルの外食であったり、頻度や代金が高すぎる場合など、経費として認められないこともあります。経費と認められなかった場合、納税額が増えるだけでなく加算税や延滞税が発生するので注意が必要です。
また、前項の消費的節税のように、節税のために経費を増やしたことで手元に資金が残らず、赤字を招くケースもあります。経費が多すぎる場合や赤字が続く場合は、金融機関からの印象に影響し融資の審査で不利になることも考えられます。過度の節税行為はリスクに繋がることを理解しておきましょう。
青色申告に切り替えると手間や労力が増えることを理解しておく
青色申告は、最大65万円の青色申告特別控除を受けられることや、青色事業専従者給与を経費として経費にできることがメリットです。しかし、青色申告では複式簿記での記帳が必要なことや、65万円の控除を受けるにはe-Tax申請であることなどの条件があります。
今まで白色申告をしていた人や、開業したばかりの人にとっては、複式簿記での記帳はハードルが高いかもしれません。また、青色申告を選択した場合にも届出が必要であるほか、e-Taxでの申請にも事前に電子申告等開始届出書の提出が必要など、労力や手間は確実に増えるでしょう。
確定申告の時期に慌てなくて済むように、事前に勉強して日ごろから準備しておきましょう。
飲食店の節税対策には「税理士への依頼」も効果的
飲食店は経費に認められる範囲も広いですが、節税対策のための過剰な計上は好ましくありません。
節税対策には、気軽に取り組めるものから、将来を見据えた投資的な節税まで多種多様です。全ての節税方法を把握することは難しく、間違った取扱いをしていると加算税や延滞税が課せられるリスクもあります。
「どの節税方法が適用できるのか」「節税方法が合っているか不安」など、わからないことは税理士に相談するとよいでしょう。税理士は税の専門家として網羅した知識を持ち、多くの節税方法の中から、個別の状況にあわせて最適な方法を具体的にアドバイスしてくれます。