確定申告と納税を完了しているにもかかわらず、税務署から「予定納税」という通知書が送付されてきた経験はないでしょうか。予定納税とは、前事業年度の確定税額が一定額を超えたときに発生する制度のことです。今回の記事では、法人税の予定納税をテーマに解説します。納付方法や罰則の有無などについても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
予定納税とは
予定納税とは、今期の確定申告で納める税金の一部を前払いする制度のことです。国税では法人税、消費税、そして所得税の3つが対象です。これらの税金は、前事業年度の確定税額が一定額を超えた場合に、確定申告よりも前に税金の一部を納めることを義務付けています。
確定申告の際に税金を一括で納めることは、会社の資金面に大きな負担がかかります。分割による納税はその緩和措置として設けられました。
各税金は、対象者や納付期間が異なります。
税目 | 前事業年度の確定税額・予定納税基準額 | 納付期間 |
法人税 | 20万円を超えている | 年1回 |
消費税 | 48万円を超えている | 納税額によって回数が異なる(年間で1~11回) |
所得税 | 15万円を超えている | 1期(7月1日~7月31日) 2期(11月1日~1月30日) |
確定申告の際には、予定納税によってあらかじめ納付した税金を引いてから納めます。また、仮に税金を払いすぎてしまった場合は、確定申告の後で還付を受けることも可能です。そのため、1年間に納める最終的な税額に違いはありません。
参考:所得税及び復興特別所得税の予定納税(第2期分)の納税をお忘れなく|国税庁
予定納税の対象外となる法人
下記2つの法人は、予定納税の対象外です。
- 設立初年度の法人
- NPO法人(消費税以外)
予定納税の対象になるかどうかは、前事業年度の確定税額によって決まります。そのため、事業初年度は予定納税の対象にはなりません。
ただし、吸収合併によって設立された法人で、事業年度から6ヵ月を超過している場合は対象になります。
法人税の予定納税の納付期間
法人税の予定納税は、法律によって納付期間が定められています。予定納税の納付期間は、事業年度開始以後6ヵ月を経過した日から2ヵ月以内です。
例えば12月末決算の会社の場合、予定納税は下記の期間に納付する必要があります。
- 事業年度開始:1月1日
- 事業年度開始から半年を経過した日:7月1日
- 納付期間:7月1日~9月30日
予定納税で納める税額は、税務署から送付される紙の通知書で確認できます。
ただし、国税庁は今後キャッシュレス納付の普及を目指していることもあり、じきに通知書が送付されなくなるケースも十分考えられます。
また、余裕を持って資金繰りを行うためにも、予定納税額は前事業年度の確定申告の納税額がわかった段階で算出することをおすすめします。
参考:国税・地方税キャッシュレス納付推進全国宣言式」について|国税庁
法人税の予定納税の納付方法
法人税の予定納税する際は、予定申告と仮決算のどちらか1つの方法を選択します。予定申告と仮決算はそれぞれメリット・デメリットが異なるため、会社の経営状況によって使い分けるケースが一般的です。
ここでは、各納付方法の概要や算出方法などについて解説します。
予定申告
予定申告とは、前事業年度の確定申告の税額をもとにして今期の予定納税額を算出する方法です。
予定申告の算出方法は、下記の通りです。
前事業年度の確定法人税額÷前事業年度の月数×6=今期の予定納税額 |
例)1,000,000円÷12ヵ月×6=499,900円(499,988円)
※100円未満切捨て
よく予定申告の例として1,000,000円÷2=500,000円という計算式を見かけますが、これは誤りです。正確な納税額を把握したい場合は、必ず最初から順番に計算しましょう。
予定申告のメリットは、前事業年度の確定法人税額だけで今期の予定納税額を算出できることです。そのため、様々な書類を作成しなければならない仮決算に比べてかなり手順を簡略化できます。
さらに、予定納税の申告書は提出しなくても罰則がありません。申告書を提出していなくても、しているものと見なしたうえで処理されます。この制度をみなし申告と言います。
ただし、省略しても罰則がないのは申告書のみです。納税そのものは定められた期間内に行う必要があるため注意してください。
仮決算
仮決算とは、事業年度開始から6ヵ月間を1つの事業年度と見なして決算を行う方法です。そのため、通常の決算とそれほど変わらない内容の書類を作成・提出する必要があります。
仮決算に必要な書類は下記の4つです。
- 法人税申告書
- 財務諸表
- 勘定科目内訳明細書
- 社員資本等変動計算書(または、株主資本等変動計算書)
仮決算の提出期間は、事業年度開始から半年を経過した日から2ヵ月以内です。法人税の予定納税期間と同じと覚えておきましょう。
仮決算のメリットは、前事業年度に比べて大きく利益が落ち込んでいる場合、予定申告よりも予定納税額を減額できる可能性があることです。
デメリットは、コストや経理処理の手間がかかることです。前期と業績があまり変わらない法人は、仮決算を採用しない方がいいでしょう。
参考:13 3 申告の種類と内容 ⑴ 確定申告 ⑵ 中間申告|国税庁
予定納税の支払方法
予定納税の支払いには、下記5つの方法が利用できます。
- ダイレクト納付(e-Taxによる口座振替)
- クレジットカード納付
- コンビニ納付(QRコード、バーコード)
- 金融機関や税務署での直接納付
予定納税は、キャッシュレスから現金まで様々な支払方法を利用できます。そのため、支払方法に不便を感じることはほとんどないでしょう。
各支払方法の具体的な手順や注意点については、国税庁のホームページを参考にしてください。
参考:【税金の納付】|国税庁
納付期限を過ぎると罰則がある
法人税の予定納税は、納付期限を過ぎると罰則があります。その場合、本来の納税額に延滞税という税金を上乗せして納付しなければなりません。
延滞税とは、納付期限を過ぎてから完納されるまでの間かかり続ける税金のことです。レンタルショップの延滞料金と変わらないシステムが予定納税にも適用されるため、注意が必要です。
延滞税は延滞日数に比例して税額が増えるので、必ず期限内に納めましょう。
予定納税の納付が難しい場合
予定納税額は前事業年度の納税額をベースにして算出されます。そのため、今期の売上が急激に低迷した場合や災害・疾病の場合など、予定納税を納めることが難しいケースもあります。
ここでは、万が一予定納税額が納められないときの対策について解説します。
仮決算
法人税の予定納税額は、仮決算によって減額できるケースがあります。
特に、上半期終了時点で今期の売上が前事業年度をかなり下回っている場合、仮決算のほうが予定納税額を減額できることもあります。
ただし、本記事でも解説したように、様々な書類を提出するという煩雑な手続きも必要になるため、仮決算を行う場合は税理士とよく相談したうえで判断しましょう。
換価の猶予申請書
仮決算によって予定納税額が減額されない場合、申請することで予定納税額を1年間に限り分割納付できます。この制度を「換価の猶予申請」と言います。
換価の猶予申請手続きには、下記の3つの書類が必要です。
- 換価の猶予申請書
- 財産収支状況書 1部
- 担保提供書 1部
申請書は、予定納税の納付期限の6ヵ月以内に所轄の税務署へ提出してください。
予定納税の業務はぜひ税理士へ
法人税で予定納税した発生した場合、確定申告を入れて年2回納付しなければなりません。確かに1回ごとの納付額の負担は減らせます。しかし、数多くの納税義務を抱えている法人にとってはむしろ事務負担がデメリットになるケースもあります。
そのため、法人の方や将来会社の法人化を視野に入れている方は、税務全般を税理士に委託することも検討してみてください。年に何度も国税を納付しなければならない場合は、特に大きなメリットがあり、さらには節税対策のアドバイスも受けられます。
また、税理士は利益が安定している年だけではなく、突然売上が落ち込んだ場合の税務サポートも可能です。中小企業の実績が豊富な小谷野税理士法人にぜひご相談ください。