法人には法人税以外にもさまざまな税金が課されます。なかでも法人税と法人事業税、法人住民税はいずれも名前に「法人」と入っていますが、性質や構造はまったく異なります。しかし「名前が似ているせいでややこしくて違いが把握しにくい」「それぞれの違いをしっかり把握したい」とお悩みの人もいるでしょう。今回は法人税と法人事業税・法人住民税の違いについて詳しく解説します。
目次
法人税と法人事業税・法人住民税の違い
法人税は法人の所得に対して課される国税です。課税標準(税金計算時に用いる算定基準)は所得で、所得に一定の税率を乗じて計算します。
法人事業税と法人住民税はいずれも地方税で、事業所を置く自治体に納めます。複数の課税標準を用いて計算し、各税割の金額を合計した結果が納付額となる仕組みです。
それぞれの税金の構造と特徴
法人税・法人事業税・法人住民税それぞれの構造と特徴をまとめた内容は以下の通りです。
税金 | 納付先 | 課税標準 | 計算方法 |
法人税 | 国 | 課税所得 | 課税所得×法人税率-控除額 |
法人事業税 | 事業所を置く都道府県 | 付加価値割:付加価値額 資本割:資本金等の額 所得割:各事業年度の所得額 収入割:各事業年度の収入金額 | 付加価値割+資本割+所得割 もしくは 付加価値割+資本割+収入割 ※税割や業種によって適用税率が異なる ※資本金1億円以下の普通法人は所得割または収入割のみ |
法人住民税 | 事業所を置く都道府県および市町村のそれぞれに納付 ※東京23区の場合は都税事務所に対してのみ納付 | 均等割:資本金等の額・従業員数 法人税割:法人税額 | 均等割+法人税割 ※均等割は資本金等の額・従業者数によって定められた額、法人税割は法人税額に一定税率を乗じた額 |
法人税とは
法人税とは法人の所得に対して課される国税です。所得とは売上などの益金(収入)から、仕入や経費等の損金を差し引いて計算します。
資本金1億円以下の法人の場合、以下の税率が適用されます。
税額
税率
年800万円以下の部分
15%
(適用除外事業者は19%)
年800万円超の部分
23.2%
法人の所得に対して課される税金のため、損失の場合は納付がありません。
法人税については以下の記事で詳しく解説しております。
関連記事:【税理士監修】法人税とは?税率や計算方法、申告などをわかりやすく解説
法人事業税とは
法人事業税は事業所が所在する都道府県によって課される地方税です。「法人が事業活動を行うにあたってさまざまな行政サービスを受けるため、法人は行政サービスの経費を負担するべき」という考えに基づいて課されます。
法人事業税は4種類の税割から構成されています。
種別 | 税割の標準 |
付加価値割 | 各事業年度の付加価値を課税標準とする |
資本割 | 法人の資本金等の額を課税標準とする |
所得割 | 法人の各事業年度の所得を課税標準とする |
収入割 | 電気供給業者やガス供給会社など、所得額を課税標準とするのが不適当な法人に対して適用される。収入金額を課税標準とする |
ただし、資本金等の額が1億円以下の普通法人等に課されるのは所得割または収入割のみです。中小企業の場合、法人事業税は基本的に法人の所得(または収入)に対して課される地方税というイメージになります。
なお、法人事業税は支払った事業年度の損金に算入できるという特長を持ちます。法人税や法人住民税と比較した際に特に目立つ要素といえるでしょう。
納税義務者
法人事業税の納税義務者は、各都道府県に事業所を置き事業活動を行なっている法人です。株式会社や合同会社のような会社のほか、協同組合や医療法人などの特別法人、収益事業を行う人格のない社団や財団にも課されます。
納税と申告の手続き
法人事業税の納税と申告手続きの期限は、原則として事業年度終了の日から2ヵ月以内です。ただし定款等で定時株主総会を事業年度終了から3ヵ月以内に行う旨を定めている場合、事業年度終了の日から3ヵ月以内が期限となります。納付期限の延長とは異なるため、注意しましょう。
法人事業税の申告に使うのは「第6号様式」という書類です。法人事業税だけでなく、法人住民税も同じ第6号様式で一緒に申告します。
納付方法は以下のように複数の選択肢があります。ただし、自治体によっては一部の納付方法に対応していないケースもあるため、必ず自治体の案内をご確認ください。
- 金融機関等の窓口での現金納付
- コンビニエンスストア納付
- eLTAX電子納税
- 口座振替
- クレジットカード
- Pay-easy(ペイジー)
- スマートフォン決済
法人住民税とは
法人住民税とは法人都道府県民税と法人市町村税をまとめたもので、法人が都道府県と市町村それぞれに納める地方税です。
※事業所が東京23区に所在する場合の納付先は東京都のみ。
法人住民税は、均等割と法人税割という2つの要素によって構成されています。
均等割は所得の有無や金額に関係なく、すべての法人に納付義務がある部分です。納付金額は法人の規模によって決定されます。都道府県民税の均等割の金額は資本金等の額によって、市町村民税は資本金等の額・従業者数によって金額が定められています。
法人税割は法人税額に一定税率を乗じて計算する部分で、計算方法は以下の通りです。税率は所得金額や、自治体などによって異なります。
| 税額の計算式 |
法人都道府県民税 | 法人税額×1.0% |
法人市町村税 | 法人税額×6.0% |
法人住民税と法人事業税の違い
法人住民税と法人事業税の主な違いは以下の3点です。
課税標準 | 納付先 | 損金算入の可否 | |
法人住民税 | 法人税額 (均等割は資本金等の額・従業者数) | 都道府県と市町村 | 損金算入不可 |
法人事業税 | 付加価値額・資本金等の額・所得額または収入額 | 都道府県のみ | 支払った事業年度の損金に算入可能 |
法人税と法人事業税・法人住民税は全く異なる税金
法人税は法人の所得に対して課される国税です。一方で法人事業税と法人住民税は事業所が所在する自治体に納付する地方税であり、税額の算定に所得以外の要素も用います。
名称に「法人」と入っていても、性質や計算方法、納付先は異なります。税務申告や計算、納付を正しく行うためには、それぞれの税金について正しい知識をつけることが大切です。
ただし、税金はルールが複雑で専門知識が必要な部分も多いため、疑問や不安に思うこともあるでしょう。法人税と法人事業税・法人住民税の違いをはじめ、税金についてわからないことがあれば、専門家である税理士に相談しましょう。