法人に課せられる税金は12種類ありますが、赤字決算になった場合には、免除される税金もあります。今回の記事では、赤字の場合に納めるべき税金や確定申告、対処法や融資などについて幅広く解説します。会社設立や法人成りを視野に入れている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
法人の税金12種類とは?
法人には、主に12種類の税金が課せられます。とはいえ、どんな財政状況でもすべての税金を納めなければならないわけではありません。
会社が赤字決算の場合、「全額免除になる税金」「納税額を一部納付する税金」「全額納付する必要がある税金」の3つに分かれます。
全額免除 | 一部免除 | 全額納付 |
|
|
|
本記事は、上記の表に沿って解説します。赤字になったときに慌てすぎないよう、あらかじめ知っておきましょう。
全額免除
法人に課せられる税金の中には、赤字の場合は全額免除となるものが4つあります。ここでは、その税金の概要や全額免除になる理由について解説します。
法人税
法人税とは、会社の課税所得に対してかかる税金のことです。法人税の納税額は、課税所得に税率をかけて算出します。そのため、課税対象である所得がない場合には法人税は発生しません。
法人事業税
法人事業税とは、法人が都道府県に対して納める地方税のことです。
法人事業税も、課税所得をベースにして納税額を算出します。資本金が1億円を超えている、もしくは電気やガスなどの供給会社を除き、赤字の場合は全額免除されます。
法人事業税の税率は、事業の種類や都道府県などによって異なります。また、税制改正によって税率が変更されることもあるため、必ず毎年税理士に確認しましょう。
地方法人税
地方法人税は、国が自治体に配布する地方交付税の財源です。法人税をもとにして算出するため、赤字の場合には発生しません。
参考:地 方 法 人 税 が 創 設 さ れ ま し た|国税庁
参考:地方法人税法|e-GOV
特別法人事業税
特別法人事業税とは、法人事業税に対して課せられる税金です。法人事業税がべースになるため、赤字で利益がない場合には発生しません。
一部納付
法人に課せられる税金の中で、赤字の場合でも一部納める必要があるのは法人住民税です。
前述の通り、法人税と法人事業税は課税所得に対して課せられます。そして、地方法人税と特別法人事業税は、法人税と法人事業税に対して課せられます。そのため、この4つの税金は、赤字で所得が出ていない場合はそもそも発生しません。
それに対して、法人住民税は所得以外の部分にも課せられます。そのため、赤字でも均等割を一部納税しなければならないのです。
法人住民税の詳しい計算方法を知りたい方は、下記の記事を参考にしてください。
【税理士監修】法人税は最低いくらから必要?法人にかかる5つの税金について解説
全額納付
ここでは、赤字の場合でも全額納付する必要がある7つの税金について解説します。
消費税
消費税は、商品やサービスなどにかかる税金のことです。購入等を行った段階で発生するため、赤字でも納めなければなりません。
法人の場合、消費税は事業年度終了日の翌日から2カ月以内に納めます。法人税や法人事業税と同じ期間です。
源泉所得税
源泉所得税とは、会社が給与や報酬などから所得税を天引きし、本人に代わって国に納める税金のことです。従業員の給与や賞与、退職金などがその対象になるため、赤字でも発生します。
参考:No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは|国税庁
参考:No.2110 事業主がしなければならない源泉徴収|国税庁
参考:No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例|国税庁
住民税(特別徴収)
法人の場合、従業員の住民税は会社が天引きし、本人に代わって市町村へ納めます。この納付方法を特別徴収と言います。住民税は企業の所得とは関係ないため、赤字でも納める必要があります。
参考:個人住民税の特別徴収(給与天引き)を徹底しています。|千葉県
登録免許税
登録免許税とは、会社の登記手続きにかかる税金のことです。会社設立や役員変更の際など、1件につき約3~6万円ほどかかります。
登録免許税は、定期的に納める税金とは異なり、その手続きがあったときのみ必要になります。詳しい解説については、下記の記事を参考にしてください。
印紙税
印紙税とは、契約書や領収書などの書類に課せられる税金のことです。課税対象は各種の書類のため赤字の場合でも発生します。
参考:印紙税の手引|国税庁
参考:No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで
固定資産税
固定資産税とは、会社が所有している土地や家屋、事業用の機械などに課せられる税金のことです。固定資産税も所有資産に対してかかるため赤字でも発生します。
詳しい内容は、ぜひ下記の記事を参考にしてください。
自動車税・軽自動車税
自動車税や軽自動車税は、事業で使用している自動車に対してかかる税金のことです。そのため、赤字の場合にも納税する必要があります。
赤字でも確定申告は必要?
赤字決算の年でも確定申告は必要です。赤字の場合、確かに法人税などの納付はありませんが、法人税の申告義務はあります。法律で定められている義務のため、必ず申告しましょう。
また、消費税と法人住民税の一部は赤字でも発生する可能性があります。そのため、毎年必ず事業年度終了の日から2カ月以内に申告しましょう。
参考:C1-1 法人税及び地方法人税の申告(法人税申告書別表等)
赤字の場合の対処法
法人が赤字決算になった場合の対処法として、「繰越欠損金」と「繰戻し還付」という2つの制度があります。
ここでは、各制度の概要やメリット・デメリットについて解説します。
繰越欠損金
繰越欠損金とは、赤字が発生した翌年度以降に赤字(欠損)を繰り越せる制度のことです。
例えば、100万円の赤字が発生した場合、翌年度以降の所得から相殺することも可能です。そのため、来期以降黒字になる見通しがある場合に適しています。
ただし、繰越欠損金を利用するためには、下記の条件を満たしている必要があります。
- 青色申告書を事業年度開始の前日までに提出している(1期目は設立から3カ月以内)
- 欠損金が発生した年度以後も連続して確定申告書を提出している。
- 帳簿書類などを保存している。
2期以上赤字を繰越する場合、古い事業年度のものから順番に算入されます。
参考:No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除|国税庁
メリット
繰越欠損金は、翌年度以降の所得とによって繰り越した損失を相殺します。そのため、翌年以降の納税額を抑え、現金を残しておけることがメリットです。また、繰越期間が最長10年と長い点もメリットの一つです。
デメリット
赤字の場合は、金融機関から返済能力が低いと見なされやすくなります。そのため、融資の承認がおりにくくなるデメリットがあります。
将来融資の利用を視野に入れている場合は、その点に注意してください。
繰戻し還付
繰戻し還付とは、前期の所得と今期の赤字を相殺する制度のことです。繰越欠損金とは反対に、過去の黒字で相殺します。
繰戻し還付は、下記の条件をすべて満たしている場合に利用可能です。
- 前期も当期も青色申告により法人税の申告書を提出している。
- 当期の法人税の確定申告書を期限までに提出している。
- 2.と同時に「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出する。
繰戻し還付の対象になるのは、前期に納付した分のみです。また、法人の場合は法人税、地方法人税、個人事業主は所得税に限られます。
メリット
繰戻し還付は、早くキャッシュが手元に戻ってくることが大きなメリットです。
デメリット
繰戻し還付は、繰越欠損金よりも税務調査が行われやすい傾向があります。
参考:法人税の欠損金の繰戻し還付について教えてください。|J-net21
赤字でも融資は受けられる?
赤字の場合、金融機関から融資を受けるのがかなり難しくなることが大きなデメリットです。
金融機関は、融資の前に決算書によって企業の財務状況を細かく分析します。そのため、赤字決算が続いていると融資の審査に通らないことが一般的です。
多角的なアドバイス可能な税理士がおすすめ
本記事では、法人が赤字の場合に行うことについて包括的に解説しました。
実は、赤字決算は多くの会社が経験しています。そのため、万が一赤字に直面しても、あまり深刻になりすぎずないようにしてください。
赤字はうまく活かせば節税対策にもなります。自社の現状や今後の融資などを検討したうえで、対策を判断しましょう。