分社化とは会社の持つ組織や事業の一部を切り離して、独立した別の会社を作ることです。分社化によって業務効率化やリスク分散などさまざまなメリットを得られます。一方で、複雑な工程を経たりコストがかかる点などに注意が必要です。今回は分社化の流れやメリット・デメリットについて詳しく解説します。
目次
分社化とは
分社化とは会社の持つ組織や事業を切り離して別の会社を作ることです。
分社化の方法は、大きくは会社分割と事業譲渡の2つに分けられます。会社分割にはさらに新設分割と吸収分割の2種類が存在します。
以下より新設分割と吸収分割それぞれの概要や違いについて解説します。
新設分割とは
新設分割は、既存の会社(分割会社)がその一部の事業を切り離し、新たに設立した会社に移す方法です。切り離した事業に関する資産や負債を、新設会社に引き継がせる形で分社化を行います。
分割会社は新設会社の株式を100%保有するため、新設会社の完全親会社となります。
吸収分割とは
吸収分割は、分割会社が切り離した組織や事業を既存の別会社に承継させる方法です。
例えば、分割会社A社の事業の一部をB社に移した場合、B社はA社に対して対価として株式を交付します。株式の割合によってB社はA社の子会社や関連会社になります。
分社化の手続きと流れ
分社化の流れは大きく10の工程に分けられます。以下より各工程について詳しく解説します。
事前準備・交渉
分社化で最初に行うのは事前準備および交渉です。
まずは事前準備として、分社化の目的や狙いを明確に定める必要があります。この工程が、本当に分社化をするべきか、分社化を進める際に課題となる要素は何か等を具体的に把握する助けとなります。
分社化の手続きを本格的に進める前に、分社化について全員が同意することも重要です。特に吸収分割の場合は相手方の別会社が存在するため、対外的な交渉が必要になります。
分社化の交渉で特に重要なトピックとして以下の例が挙げられます。
- 分社化によるメリット・デメリットの把握
- 現在の労務状況の確認
- 従業員との協議
【新設分割の場合】分割計画書の作成
分割計画書の作成は、新設分割の場合に必要な手続きです。
新設分割の分割計画書に記載する事項は、会社法763条1項に定められています。記載事項の一例を紹介します。
- 新設会社の商号や事業目的などの基本事項
- 新設会社の発行可能株式総数
- 新設会社の定款に定める事項
- 役員の氏名または名称
- 分社化対象となる事業
- 新設会社へ承継する権利義務関連の事項
【吸収分割の場合】分割契約書の締結
吸収分割の場合は分割契約書の締結が必要です。
分割契約書に記載するべき事項も会社法で定められています。主な記載事項は以下の通りです。
- 効力発生日
- 効力発生日に行う事項
- 分割元・承継会社それぞれの商号および住所
- 分割対象となる資産や権利義務
- 対価に関する事項
事前通知・開示
新設分割・吸収分割どちらの場合も、会社分割について事前開示書類の備置が必要です。新設分割の場合は分割会社の本店に、吸収分割の場合は分割会社と承継会社の両方に備置する必要があります。
書類を備置する期間は、以下のうち最も早い日から効力発生後6ヵ月を経過するまでです。
- 株主総会実施の2週間前
- 株主への通知・公告を行う日のうち早い方
- 債権者への通知・公告を行う日のうち早い方
株主総会の承認
分割計画書・分割契約書どちらの場合も、会社分割の効力発生日の前日までに株主総会の特別決議で承認を受けなければなりません。特別決議は以下2つの要件を満たす必要があります。
- 議決権がある株主の過半数が出席する
- 出席した株主の議決権のうち3分の2以上が承認する
反対株主の株式買取請求通知
分社化に反対する株主は、保有する株式を公正な価格で買い取るよう会社に請求できる権利を有します。そして会社側は、反対株主が株式の買取請求権を行使できるよう、反対株主に対して株式買取請求通知を行う必要があります。
反対株主の株式買取請求通知・公告の期限は、効力発生日の20日前です。通知は原則として書面で行います。株主総会招集通知や事前通知と合わせて手配をするのが効率的でしょう。
労働者への事前通知
会社分割について労働者への事前通知も必要です。事前通知の期日は「会社の分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」に定められています。
労働者への事前通知で書面に記載するべき事項の例は以下の通りです。
- 分割対象の事業の概要
- 分割手続きが行われる日程
- 分割会社および承継会社(新設分割の場合は新設会社)の名称や事業内容
- 分割後の労働条件(就業場所や業務内容)
- 転籍拒絶等に対する異議申出の期限
債権者保護手続き
債権者は会社分割へ異議申し立てを行う権利を有します。分割会社は債権者が異議申し立ての権利を行使できるよう所定の手続きを行う必要があります。この手続きが債権者保護手続きです。
債権者保護手続きは原則として、官報公告と債権者への個別催告の両方を行う必要があります。ただし、以下2つの要件を満たしている場合は個別催告は不要です。
- 官報公告を行う
- 定款に定めている日刊新聞または電子公告を実施する
分割登記手続き
新設分割・吸収分割どちらの場合も分割登記の手続きが必要です。
新設分割の場合、以下の基準日から2週間以内に分割会社の変更登記、および新設会社の設立登記を行う必要があります。
- 株主総会による特別決議が行われた日
- 株式買取請求通知・公告日から20日を経過した日
- 債権者異議手続きの完了日
- その他分割会社が定めた日
吸収分割の場合は分割会社・承継会社の両方で変更登記が必要です。登記手続きの期限は効力発生日(分割契約書に記された日)から2週間となります。
会社分割の効力発生
会社設立の効力が発生するタイミングは、新設分割と吸収分割で以下のように異なります。
新設分割の場合 | 新設会社の設立登記をした日 |
---|---|
吸収分割の場合 | 分割契約書に記された日 |
事後開示と書類の備置
分割手続きを完了させるためには、事後開示および書類の備置が必要です。新設分割の場合は分割会社と新設会社に、吸収分割の場合は分割会社と承継会社に事後開示書類を備置します。備置するべき期間は効力発生日から6ヵ月間です。
分社化の目的は?具体的なメリットについて
分社化を行う目的として、以下のようなメリットを得ることが挙げられます。
- 事業の効率化
- リスク分散
- 経営の柔軟性向上
以下よりそれぞれ詳しく解説します。
事業の効率化
分社化の大きなメリットの1つが、事業の効率化につながる可能性が高い点です。分社化が事業の効率化につながる理由として以下の3つが挙げられます。
- 社内の構造がシンプルになるため、意思決定までのスピードが早くなる
- 作成する財務諸表が完全に別になるため、事業ごとの成果やコストを明確にできる
- 子会社として独自に資金調達や他社との取引ができるようになる
独立した会社になることで、自由度と効率の両方がアップします。
リスク分散
分社化によってリスク分散ができる可能性も高いです。分社化がリスク分散につながる理由として以下の2つが挙げられます。
- 業績が芳しくない事業を切り離すことで財務状況や経営成績が回復する
※財務諸表の内容が改善されるため、資金調達をしやすくなる効果が期待できます - 他の事業の赤字による影響を受けにくくなり、共倒れや倒産のリスクが低くなる
現在すでに起きている倒産リスクを下げるだけではなく、将来の倒産リスクの発生を抑える上でも効果的です。
経営の柔軟性向上
分社化により、事業は社内の一部門ではなく独立した会社となります。独自の経営戦略や方針を設定できるようになるため、経営の柔軟性が向上します。
分社化のデメリット
分社化にはさまざまなメリットが存在する一方で、以下のようなデメリットに注意が必要です。
- 手続きの複雑さ
- コスト負担
- リスクの共有
デメリットについてそれぞれ詳しく解説します。
手続きの複雑さ
分社化を実行するには複雑な手続きが必要です。
「分社化の手続きと流れ」で紹介したように、分社化の手続きは大きく10の工程に分けられます。どの工程も煩雑な手続きが必要な上、専門知識が求められる場面も多く存在します。自社ですべて対応するのは非常に困難なため、専門家のサポートを受けるのが一般的です。
コスト負担
分社化によってコスト負担が重くなる点もデメリットです。分社化によって増大するコストとして以下が挙げられます。
- 会社設立費用(新設分割の場合)
- 管理部門の採用費や人件費
- バックオフィスシステムの初期費用や月額費用
- 新オフィスの賃料
- 新オフィスの設備投資
- 税理士や弁護士への専門家報酬
ケースによっては、分社化によって得られるメリットよりも、増大するコストの方が大きい恐れもあります。
なお、分社化によるコストとは少し違いますが、会社分割において発生する税金にも注意が必要です。M&Aによって発生する税金については以下の記事をご覧ください。
関連記事:M&Aによって発生する税金はなに?税率についても解説
分社化の手続きや分社化によるコスト削減に関するご相談は、ぜひ「小谷野税理士法人」にご相談ください。
コミュニケーション面で問題が生じる恐れ
分社化によって独立した会社になると、同じ会社であった頃に比べてコミュニケーション面での問題が生じやすくなります。発生し得る問題の具体例は以下の通りです。
- 異なる組織間で十分な情報共有が行われなくなる
- 別会社になることで企業文化が異なるものになり、軋轢が生じやすくなる
- 組織を跨いだ意思決定が必要な場合、分社化前よりも時間がかかりやすくなる
特に注意するべきなのがリスクの共有です。分社化によって複数の法人が独立して経営を行えば、各会社が独自のリスクを抱えるようになります。別会社とはいえグループ会社である以上、互いが抱えるリスクについての認知が必要です。
しかし、前述のように分社化によってコミュニケーション面での問題が生じやすくなります。コミュニケーション不足によるリスクの共有が不十分な場合、大きなトラブルにつながる恐れもあるため注意が必要です。
分社化は専門家の助言も参考に最終的な判断を
分社化には業務の効率化をはじめさまざまなメリットがある一方で、手続きの複雑さやコスト負担の増大といった注意するべきデメリットも存在します。すべての会社にとって分社化が最適な手法とは限りません。
分社化を成功させるためには自社だけで対応しようとせず、外部の専門家の助言も参考にしながら最終的な判断をしましょう。
また、分社化に関する必要手続きや税務処理については、会社設立に強い税理士に相談することをおすすめします。