未成年でも、個人事業による所得に応じて所得税や住民税が課されます。所得税は、年間所得が48万円を超えたら確定申告して支払わなければいけません。また、年間収入が130万円以上だと、親の健康保険の扶養から外れる可能性もあります。この記事では、未成年が支払うべき税金や、税額を安くする方法などを解説します。
目次
個人事業をする未成年が支払う主な税金は「所得税」
未成年であっても、個人の事業で得た所得に応じて所得税などが課されます。ここでは、未成年の個人事業主が支払う主な税金を4つ解説します。なお、税率や控除額は令和6年度のものです。
★用語解説
- 収入:個人事業で稼いだ総額(売上など)
- 経費:収入を得るために必要な支出(仕入れ費用など)
- 所得:収入から経費を差し引いた純利益(収入-経費)
所得税 | 年間の合計所得が48万円超だと支払う。 支払う税額: 課税所得(=所得 – 基礎控除)×5〜45% (税率は所得に応じて上がる) 参考:基礎控除|国税庁 参考:所得税の税率|国税庁 |
住民税 (東京都23区の場合) | 年間の合計所得が135万円超だと支払う。 支払う税額: 課税所得(=所得 – 基礎控除43万円)×10%+5,000円 参考:個人住民税|東京都主税局 |
個人事業税 (東京都の場合) | 年間の合計所得が290万円超だと支払う。 支払う税額: 課税所得(=所得 – 事業主控除290万円)×0〜5% (税率は業種による) 参考:個人事業税|東京都主税局 |
消費税 | ・年間の課税売上が1,000万円を超えたら2年後は納税。 ・年間の課税売上が1,000万円以下でもインボイス登録していれば納税が必要。 |
※青色申告をしない場合。税金が安くなる青色申告制度については記事後半で解説します。
例えば、年間の事業の収入が50万円で経費0円の場合、納税額は1,000円です。計算は以下の通りです。
- 事業所得:50万円
- 基礎控除:48万円(合計所得金額が2,400万円以下の基礎控除)
- 課税所得 = 事業所得 – 基礎控除 = 50万円 – 48万円 = 2万円
- 所得税 = 課税所得 × 所得税率 = 2万円 × 5% = 1,000円(課税所得が195万円以下の場合、所得税率は5%)
- 住民税:年間所得が135万円以下だから不要
- 個人事業税:年間所得が290万円以下だから不要
- 消費税:2年前の年間売上が1,000万円以下だから不要
- したがって納税額は、所得税1,000円
つまり、年間の合計所得が48万円を超えた場合、所得税の確定申告が必要です。次の章では、未成年者の確定申告について説明します。
なお、税金の詳しいシミュレーションなどは以下の記事も参考にしてください。
個人事業主の税金はいくら?税理士はいらない?税金の種類やシミュレーションなども含めて解説!
未成年でも年間所得が48万円超なら確定申告が必要
確定申告に年齢は関係ありません。未成年でも、個人事業の年間所得が48万円を超えたら所得税の確定申告が必要です。所得税は、48万円を超えた部分の所得額に掛かるためです。
確定申告しないと未成年でもペナルティが科される
確定申告を怠ると、無申告加算税と延滞税の両方がペナルティとして科せられます。
無申告加算税は、申告をしなかったことに対する罰です。延滞税は、期限内に税金を納めなかったことに対する罰で、納付が遅れるほど高額になります。
つまり、確定申告していないと発覚すると、本来支払うべき税金に加えてさらに多くの税金を支払うことになります。これに年齢は関係ありません。
参考:加算税の概要|財務省
参考:延滞税について|国税庁
【税理士監修】無申告加算税とは?税率やその他の加算税について
未成年の親は代理で確定申告できるが、代理で納税はできない
納税すべき人が未成年の場合、その親なら代理で確定申告の手続きができます。親権者は、子供の財産を管理する義務があるためです(民法第824条)。
手続きするのが親だとしても、税金は子供の財産から支払わなければなりません。親が代わりに税金を支払うと、金額によっては贈与税が掛かってしまいます。
参考:民法(明治二十九年法律第八十九号)|e-Gov法令検索
【税理士監修】確定申告のやり方ガイド!いつからいつまでの収入?郵送のケースや必要書類・マイナンバーカードについて
未成年でも年130万円稼ぐと親の健康保険の扶養から外れる
扶養とひとくちに言っても、「税法上の扶養」と「健康保険の扶養」の2種類があります。健康保険の方が、扶養から外れたときの出費が大きくなるでしょう。
「税法上の扶養」から外れるのは、年間所得48万円超
未成年が税法上の扶養から外れることで負担が増えるのは、親の方です。親が扶養控除を受けられなくなるためです。
16歳以上の未成年の年間所得が48万円を超えると、親の所得によって異なりますが税金(所得税+住民税)は約5〜12万円増えるでしょう。親の年収が高いほど、支払う税金額も高くなります。
また、個人事業とアルバイトの合計所得が48万円を超えた場合も、親の扶養控除は利用できません。
なお、アルバイトの所得とは、通常は給与収入から55万円(給与所得控除)を差し引いた額です。
参考:扶養控除|国税庁
参考:給与所得控除|国税庁
「健康保険の扶養」から外れるのは、年間収入130万円以上が一般的
親が会社員か公務員で健康保険に加入している場合、被扶養者(=扶養される側)の年間収入が130万円以上だと、健康保険の扶養から外れてしまいます。
なお、130万円以上というのは一般的な数字で、被扶養者の条件は健康保険組合によって異なります。詳しくは、加入する健康保険組合にお問い合わせください。
扶養から外れると、未成年本人が国民健康保険料を支払う必要があり負担が増えます。東京都渋谷区在住の場合、年間所得が140万円あったら約18万円の健康保険料が発生します。
例として、3,900万人が加入する日本最大の健康保険組合「全国健康保険協会(協会けんぽ)」の条件を紹介します。
被扶養者の範囲 | 被保険者に生計を維持されている親族(直系尊属・配偶者・子・孫・兄弟姉妹) | |
被扶養者の年間収入の基準 | 130万円未満 | 【同居の場合】 被保険者の年間収入の半分未満 (半分以上あっても、被保険者の年間収入を上回らない場合は、被扶養者になれるケースもある) |
【別居の場合】 被保険者からの援助額より少ない |
※全国健康保険協会が定義する「自営業の方の年収」は「年間総収入から直接的経費を差し引いた額」です。直接的経費とは、その経費がなければ事業が成り立たない経費(小売業の仕入費など)で、それ以外の費用(宣伝費など)は差し引けません。
税法上でも健康保険でも、扶養から外れそうだと分かったらすぐに親に報告しましょう。親側でも手続きが必要です。
未成年でも開業届を出せば、正式な個人事業主になれる
未成年でも開業届を提出すれば、法的に認められた個人事業主として活動できます。開業届の正式名称は正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」で、管轄の税務署に提出します。
未成年の場合、親の同意書や未成年者登記簿の添付を求められるケースもあるのでご注意ください。提出前に管轄の税務署に必要書類の確認をしておくとスムーズです。
また、税務署の他に、自治体の税事務所にも「個人事業開始申告書」を提出しましょう。
【税理士監修】開業届とは?書き方や必要書類、提出方法までの完全ガイド
【税理士監修】個人事業開始申告書とは?手続きの書類と提出方法を紹介!出していないとどうなる?
開業届には、「青色申告承認申請書」の添付の有無を書く欄があります。青色申告とは、税金が安くなる制度です。青色申告しなくても開業できますが、年間所得が48万円を超えそうな場合は、開業と同時に青色申告を申請するのがおすすめです。
次の章では、青色申告について解説します。
未成年でも青色申告すれば税金を減らせる
青色申告とは、簡単に説明すると「分かりやすい記録を付けて正しく納税すれば、ご褒美として税金を安くするよ」という制度です。
青色申告を利用すると、課税される所得を最大65万円減らせるほか、赤字を3年間繰り越すことなどができます。もちろん未成年でも青色申告制度を利用できます。
青色申告すれば、年間所得113万円以下なら所得税不要
記事冒頭の章では、所得税を支払う必要があるのは「年間の合計所得が48万円超」と解説しました。ですが、青色申告をすれば、所得税を支払う必要があるのは「年間の合計所得が113万円超」に変わります。
合計所得 | 113万円 |
基礎控除 | – 48万円 |
青色申告特別控除 | – 65万円 |
課税所得 | 0円 |
次に、年間所得が150万円の場合の所得税額を比較してみましょう。
青色申告なし (=白色申告) | 青色申告 | |
事業所得 | 150万円 | 150万円 |
基礎控除 | – 48万円 | – 48万円 |
青色申告特別控除 | なし | – 65万円 |
課税所得 | 102万円 | 37万円 |
所得税 (課税所得 × 所得税率) ※課税所得が195万円以下なら所得税率は5% 復興特別所得税は含まない | 102万円 × 5% = 51,000円 | 37万円 × 5% = 18,000円 |
以上の比較から、青色申告は、白色申告よりも所得税が32,500円安くなると分かります。また、住民税についても同様に課税所得から控除できます。
税法上の扶養の判断も、基本的には青色申告特別控除を適用した後の所得金額に基づいて行われます。ただし個別の状況で異なるので、詳しくは税務署に確認してください。
参考:青色申告制度|国税庁
青色申告するには「青色申告承認申請書」の提出が必要
「青色申告をしたい」と思ったら、いち早く青色申告承認申請書を税務署に提出しましょう。提出期限は「開業日から2ヵ月以内、または青色申告を希望する年の3月15日まで」です。
詳しい申請手続きや、分かりやすい記録(=帳簿)の付け方は、以下の関連記事をご確認ください。
個人事業主の入門編!青色申告とは?メリットと手続き方法をわかりやすく解説
個人事業主の青色申告とは?いくらから必要?メリット・デメリットや帳簿の書き方などについて解説!
青色申告は複雑な帳簿付けが必要!税理士に相談して節税を
個人事業で所得がある場合、開業届や青色申告の有無に関わらず、帳簿を付けないといけません。特に青色申告は、特典を受ける代わりに複雑な「複式簿記」で帳簿を付ける必要があります。
帳簿の付け方や確定申告の仕方を親に聞いても分からない時は、申告ミスによるペナルティを避けるためにも、税理士に相談してください。
税理士が確定申告をすればミスする心配がありません。仮に税務署の職員から連絡が来ても、税理士に対応してもらえます。