社会保険料の負担は事業主にとって大きなコストです。本記事では、社会保険料を抑えるための7つの具体策とそれに伴う3つのデメリットについて解説します。適切な方法を用いることで、会社のコストを削減しつつ、従業員の福利厚生にも配慮した経営が実現できます。事業主として健全な労働環境を維持しつつ、社会保険料を抑えたい方は参考にしてください。
目次
社会保険料の仕組み
まずは社会保険料の仕組みについて理解しましょう。
加入する保険組合は2つ
社会保険の加入先として、以下の2つの組合があります。
種類 | 公的な保険組織 | 企業や業界ごとの保険組合 |
加入者 | 全国民 | 特定の企業や業種の従業員 |
保険料率 | 協会けんぽが設定 | 各組合が独自に設定 |
組合 | 全国健康保険協会 | 健康保険組合 |
「全国健康保険協会(協会けんぽ)」は全国民を対象として広く利用されている公的な組合である一方、「健康保険組合」は企業や業界ごとに設立されている組合で、業種固有の健康保険制度を提供しています。
全国健康保険協会(協会けんぽ)は、主に中小企業の従業員が加入しており、全国規模で運営しているため、制度が安定しており広範なカバー範囲を提供しているのが特徴ですが、全国一律の運営方針のため、特定の細かいニーズに対応しにくい側面があります。
一方の健康保険組合は、大企業や特定の業界団体が独自に設立することが多く、組合ごとに給付内容や保険料の設定が異なります。企業独自の福利厚生制度が反映されやすく、充実したサービスが特徴ですが、保険料が他の組合より高くなるケースが多いです。
このように、組合によって社会保険料の負担や制度の内容が異なるので、会社の業種や従業員の状況に応じて、最適な組合を選びましょう。
保険料は「標準報酬月額」によって決まる
次に社会保険料ですが、これは「標準報酬月額」というものによって決まります。
標準報酬月額とは、算定基礎期間と呼ばれる4月〜6月の3ヶ月間に支給する給与の平均額のことで、こちらに各組合で定められた保険料率を乗じて保険料が算出されます。
標準報酬月額を算出するための給与には、残業手当、役職手当や家族手当など報酬に該当するものはすべて含まれますが、出産または育児祝い金や賞与(年3回以下)などの一時的な報酬は含まれません。
またイレギュラーケースとして、算定基礎期間の4月〜6月に入社した従業員は、入社後に受け取る予定の給与額を元に標準報酬月額を決定します。
保険料の負担は労使折半
決定した社会保険料は、基本的に労使折半(労働者と事業主で50%ずつ折半)のため、従業員だけでなく事業主も保険料の負担を分担することになります。
ただし、特定の健康保険組合では事業主が負担する割合が多く設定されているなど、加入する組合によって、労使折半の負担割合が異なる場合があるので、事前に確認しておきましょう。
社会保険料を抑える7つの方法
社会保険料を抑えるための具体的な7つの方法を紹介します。
- 残業時間の管理
- 昇進のタイミング調整
- 給与と賞与の調整
- 非課税手当や福利厚生の導入
- 確定拠出年金の導入
- 時短勤務や在宅勤務の導入
- 退職日の調整
それぞれ詳しく解説していきます。
1. 残業時間の管理
従業員の4月〜6月(算定基礎期間中)の残業を削減することで、支給する給与を抑えられるので、結果として社会保険料を軽減できます。特に残業代が大きな割合を占める従業員がいる場合、この方法は効果的でしょう。
2. 昇進のタイミング調整
従業員の昇進や昇給の時期を7月以降に調整することで、4月〜6月の算定基礎期間に影響を与えず、標準報酬月額を低く抑えられるため、社会保険料を軽減できます。
また昇進や昇給のタイミングを年度の後半にずらすことで、翌年度の社会保険料負担を減らすことも可能です。
3. 給与と賞与の調整
従業員の給与や賞与を調整することで標準報酬月額を下げ、社会保険料を軽減できます。退職金には社会保険料がかからないため、抑えた月額給与分を退職金として還元する方法もあるでしょう。
4. 非課税手当や福利厚生の導入
給与の一部を非課税の手当や福利厚生費に置き換えることで、標準報酬月額を抑え、社会保険料を軽減できます。
非課税の手当としては出張手当、結婚または出産祝い金など、福利厚生としては健康診断費用、社内イベント費用、社宅提供や社員食堂の補助などがあります。これにより、従業員の手取り収入を維持しつつ、企業側の負担も軽減できるでしょう。
5. 確定拠出年金の導入
企業型確定拠出年金を導入することで、社会保険料を軽減できます。事業主側が拠出する掛金は、給与として支給されるのではなく、従業員の年金口座に直接拠出されるので、給与所得に見なされないためです。
また社会保険料を抑えるだけでなく、従業員の将来の資産形成も支援できます。
6. 時短勤務や在宅勤務の導入
時短勤務や在宅勤務制度を導入し、従業員の労働時間を短縮することで、標準報酬月額を抑え、社会保険料を軽減できます。
働き方改革の一環として、フレキシブルな勤務形態を採用することで、従業員のワークライフバランスを向上させることができます。また労働時間の短縮により、結果として過労防止や健康維持の効果も期待できるでしょう。
7. 退職日の調整
従業員の退職日を調整することで社会保険料を軽減できます。社会保険料は、月末時点で在籍している従業員に対して、その月の保険料が発生するため、退職日を月末以前に調整することで、その月の社会保険料は発生しません。
短期的なコスト削減としては有効ですが、従業員の合意を得ることが重要です。
社会保険料を抑えることによる3つのデメリット
一方、社会保険料を抑えることで、以下3つのデメリットが生じる可能性があります。
- 将来の年金額への影響
- 傷病手当金や出産手当金への影響
- 失業保険への影響
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 将来の年金額への影響
社会保険料を抑えると、標準報酬月額が低く設定されるため、将来受け取る年金額が減少します。
年金額は生涯の平均給与に基づいて計算されるため、給与が低い期間が長いほど年金受給額が少なくなります。結果として、老後の生活資金が不足し、生活の質を維持することが難しくなるリスクが高まるでしょう。
2. 傷病手当金や出産手当金への影響
傷病手当金や出産手当金も、標準報酬月額を基に計算されるため、社会保険料を抑えることでこれらの金額が減少する可能性があります。
長期的な病気や出産後の休業期間中に受け取る手当が少なくなると、経済的な負担が増加し、回復や育児に専念しづらくなる可能性もあるでしょう。
3. 失業保険への影響
失業保険の給付額も、標準報酬月額を基に計算されるため、社会保険料を抑えることで、退職後に受け取る失業保険の金額が少なくなるリスクがあります。
特に再就職が難しい場合、生活費の確保が困難になり、経済的な不安が増すため、社会保険料を抑えることは短期的にはコスト削減となる一方で、長期的にはセーフティーネットが弱まる可能性があるでしょう。
社会保険料についての相談は専門家へ
社会保険料を抑える方法にはさまざまな選択肢がありますが、適切に運用しないと従業員の将来の利益に影響を及ぼす可能性があります。また、失業保険や各種手当の給付額にも影響が出るため、慎重な対応が求められます。
社会保険料の節約方法について詳しく知りたい場合や、具体的な対策を検討したい場合は、専門家への相談が不可欠です。社会保険料の節約方法についての疑問やご相談は、小谷野税理士法人にお任せください。