個人事業税は基本的に個人事業主が納める税金ですが、すべての業種が該当するというわけではなく、納税の対象ではない職業も存在します。また、課税対象の業種であったとしても、経営状況などによっては個人事業税が免除されます。どの業種であれば個人事業税がかからないのか、また、個人事業税が発生しない状況など、それぞれの職業とケースごとに説明します。
目次
個人事業税について
企業に勤務したり会社を設立したりせず、個人で事業を行う人を個人事業主と呼びます。営む業種によっては、その事業に個人事業税が課せられます。
個人事業主が納付する個人事業税は地方税
個人事業主になるためには、税務署に開業届を提出し、事業を開始したことを申請しなくてはなりません。
申請により、個人事業を開業したことが税務署に通知され、事業に所得税・消費税・住民税・事業税の4つの税が課せられます。「事業税」は個人事業主の場合、個人事業税と呼ばれています。
4つのうち所得税と消費税は国に納める税金であり、住民税と事業税は地方税です。これは、住居と同様に、個人事業の事業所を設置すると、その地域の自治体によるさまざまな行政サービスを受けることになるためです。
住民税が個人事業主の住居のある市区町村に納める税金である一方、個人事業税は都道府県に納める税です。
70種の法定業種のほとんどが個人事業税の対象
ひと口に個人事業と言っても、その業種はさまざまです。個人事業税は数多くの業種のうち、法定業種という法律で定められた70種類に課税されます。
また、その法定業種は、第1種(37業種)・第2種(3業種)・第3種(30業種)の3つに区分されています。
それぞれの区分ごとに、個人事業税の税率は3~5%と異なっているため、個人事業主は自分の事業がどの区分に該当しているかを把握しておく必要があります。
もしも、どの法定業種に当てはまるのか分からない場合には、都道府県に確認してみましょう。
注意すべきは、税率を求める際に調べる法定業種の区分は、過去に開業届に書いた事業ではなく、現在実際に行っている事業の業種であるということです。
開業届を提出したときと、現在の事業とが異なる業種である場合は気をつけましょう。
個人事業税がかからない非課税業種
個人事業税はすべての事業に課せられるのではなく、該当しない業種も存在します。ここでは、個人事業税がかからない非課税業種を具体的に説明します。
農業・林業
自然を利用し事業を行っている農業・林業(農林業)は個人事業税の課税対象外です。
ただし、林業の場合、土地を使って養苗・造林・伐採までを行っている場合が非課税業種に該当します。伐採のみを行っている事業は非課税業種に含まれないため注意が必要です。
また、林業にはシイタケ栽培や漆採取といった林産業は含まれないことにも気をつけましょう。
芸能人・スポーツ選手
芸能人やスポーツ選手は自身の技術や経験を活かす業種であり、個人事業税は非課税です。
ちなみに、芸能事務所に所属している場合、契約形態がマネジメント契約かエージェント契約であれば個人事業主です。給与の支給を受ける雇用契約は、会社の従業員であって個人事業主ではありません。
プログラマー・エンジニアなどのIT関連
プログラマーやエンジニアなどIT関連の仕事をしている個人事業主には個人事業税がかからない場合があります。商品やサービスではなく、自らの知識や情報を提供しているため、法定業種の対象外とされています。
契約形態は業務委託契約、もしくは準委任契約ならば、個人事業税は非課税であると判断されます。
作家・脚本家
作家・脚本家など、自身の想像力や知識・経験・技術などを活かす仕事である文筆業は、その印税・原稿料は個人事業税の対象外です。
ただし、同人作家を本業とし個人事業主として開業している場合、同人誌の自主制作は物品販売業に該当し、個人事業税がかかる可能性があります。
画家・彫刻家・漫画家
画家・彫刻家などの芸術家、漫画家など、絵や彫刻への技術力や表現力、想像力やセンスを活かした仕事をしている場合には個人事業税がかかりません。
注意すべき点として、その仕事内容がデザインであった場合には、法定業種であるデザイン業に該当するため、課税対象とされるケースもあります。
作詞家・作曲家
自らの音楽に関する技術や表現力、センスを活かしている作詞家・作曲家、さらには編曲家、歌手・ミュージシャンなど音楽関係の仕事については個人事業税が発生しません。
例外的に、自ら作詞作曲した楽曲によるコンサートなどを主催した場合、演劇興行業に該当するため個人事業税がかかります。
通訳・翻訳家
言語の知識や情報を使い仕事を行っている通訳・翻訳家、また、声の演技力や会話の技術力を駆使して活躍する声優や司会業など、言語に関する業種は個人事業税の対象外とされています。
芸能人やスポーツ選手同様に、仕事の契約形態がマネジメント契約かエージェント契約ならば個人事業主、雇用契約ならば会社の従業員であって個人事業主ではありません。
そのほか法定業種に含まれない業種
上記以外の法定業種に含まれていない業種としては、動画配信者やアフィリエイターなどが挙げられます。
動画配信者は動画を用いてライブ配信やゲーム実況などを行うことで広告や投げ銭による収入を得ています。
アフィリエイターは自身のブログやSNSに広告を掲載し、収入としています。
こうした動画配信者やアフィリエイターの場合、個人事業税が発生するどうかはケースバイケースであり、都道府県の判断に任されています。
このほかにも法定業種に含まれない職業は複数あるため、自分の業種が該当しているかどうかを確定申告の前に把握しておく必要があります。
自分の職業が法定業種に該当するかどうか判断できないときは、各都道府県の税務署に問い合わせしてみましょう。
個人事業税がかからないケース
職業が法定業種に該当していても、状況によっては個人事業税がかからないケースもあります。
ここでは、事業所得の金額による課税の有無と、赤字があった場合について説明します。
事業所得290万円以下は課税の対象外
個人事業税は、事業主控除により一律290万円が控除されます。そのため、収入から必要経費を差し引いた事業所得が290万円に満たなければ、そもそも個人事業税は課されません。
また、個人事業の営業期間が1年に満たない場合、月額での控除が行われます。例えば事業開始から半年であれば145万円が、3か月であれば72万5千円が事業所得から差し引かれます。
青色申告をした上で過去3年の赤字を繰り越している場合
確定申告には白色申告と青色申告の2つがあります。
白色申告は簡易簿記での記帳ができ、確定申告の手続きもシンプルですが、税制上の優遇措置は少ないです。
一方の青色申告は、事前に申請書を提出する必要があり、経費などは複式簿記での帳簿が義務づけられているなど、白色申告よりも手続きに負担がかかります。
しかし、青色申告は白色申告と比べて税制が優遇されているため、たとえ赤字が出た場合でも、3年間の繰り越しが可能です。これを繰越控除と言います。
赤字を繰り越すことで、その分を翌年以降の黒字と相殺できるのがメリットです。
また、繰越控除を活用し、赤字の翌年以降の事業所得を290万円以下にできれば、その年の個人事業税が発生しないため節税できます。
個人事業税に関する注意点
法定業種の中には対象外の業種との線引きがあいまいであったり、紛らわしい職業も存在します。
また、複数の業種を兼業している個人事業主の場合、確定申告の際にどう判断すべきなのかわかりにくいものです。ここからは、個人事業税に関する注意点を解説します。
異なる業種を兼業している場合
個人事業主が業種を複数兼業したとしても、個人事業税はその業種ごとに異なる税率で税額を計算しなくてはなりません。
確定申告の際は申告書を1部のみ作成し、それらの税額を記載します。また、事業所得のほかに給与所得や雑所得があった場合も、やはり1部の確定申告書に内容をまとめ、提出します。
法定業種以外でも個人事業税がかかることがある
現在の職業が法定業種に該当していなかったとしても、業務の内容次第で個人事業税がかかります。
例えば、職業がIT関連の場合でも、主な仕事内容がWebデザインだった場合は、法定業種のデザイン業に該当します。
また、職業が画家や漫画家でも、仕事の内容次第でデザイン業に該当する場合があります。
個人事業税の対象かどうかの判断が難しいときは、各都道府県の税務署に問い合わせしてみましょう。
イラストレーターやライターは請負業に該当するケースがある
イラストレーターは絵を描く職業ではありますが、画家と異なり、その仕事はデザイン業に分類され、個人事業税が課されます。
また、ライターの業務は文筆業に該当します。業務には個人事業税がかかりませんが、例外もあります。
イラストレーターもライターも、請負契約により仕事を受けた場合は請負業に分類され、個人事業税が発生します。
その際、個人事業主の業務委託と、請負業の業務請負とは異なっているため注意が必要です。
委託は実際に行った業務に対し報酬が出ることから、個人事業税の対象でありません。一方の請負は、成果物に対する対価として支払いが行われ、個人事業税の対象となります。
大工・左官・とびなど建設業は一般的に請負業
法定業種の中に建設業が含まれていませんが、大工・左官・とびなど建築に関わる職人には個人事業税がかかります。
これは、建設業が一般的に請負業に含まれるためです。建設業の場合、請負による成果物が建築物にあたります。
個人事業税に関する疑問に税理士がお答えします!
個人事業税は、法定業種に自分の職業が該当しているのかどうか、判断しにくい場合があります。また、業種が分かっていたとしても、仕事内容で見るとあてはまらないなど、線引きが難しい面もあります。
業種ごとに税率が異なっていることも、個人事業税の計算を複雑なものにしています。そのため青色申告などの確定申告を行うとき、記載に不安を感じる場面もあるのではないでしょうか。
そのような場合は、確定申告を始めとした税の専門家である税理士に相談してみてはいかがでしょう。
小谷野税理士法人では、個人事業主向けの確定申告代行サービスに対応しています。
さまざまな税の悩みに対し、お気軽にお問い合わせください。