事業が好調で収入が増えてくると、気になるのが税金面ではないでしょうか。特に個人事業主にかかる税金は高い傾向にあるため積極的な節税対策は必要です。とくに、事業が安定しているのであれば、法人化をし節税につなげる方法もあります。法人にもさまざまな種類が存在しますが、ここでは個人資産のための会社であるプライベートカンパニーについて説明します。
目次
プライベートカンパニーとは?
そもそもプライベートカンパニーとは、法律により定義されているものでもありません。では、プライベートカンパニーとは具体的にどのような会社なのでしょうか。事業の目的や個人事業主との違いについて説明します。
資産運用や資産管理を目的とした会社
プライベートカンパニーとは個人の資産運用や資産管理を行い、主に節税を目的とした会社です。自分と家族が保有する不動産・株式・債券といった個人資産を運用・管理します。
「会社」と聞くと独立して設立するイメージがあるかもしれません。しかし、プライベートカンパニーは給与所得者が作ることもでき、副業で得た財産も管理可能です。
このような特徴から一般的な会社とは異なり、事業拡大や社会貢献などは行われません。
個人事業主とは異なる
個人事業主は税務署に開業届を提出し、会社設立をすることなく個人で事業を行います。一方の、プライベートカンパニーは会社(法人)であり、法務局への登記や定款の作成が必要です。
つまり、プライベートカンパニーと個人事業主では成り立ちから異なり、全くの別物です。しかし、個人事業主が資産の管理や運用のためにプライベートカンパニーを設立することも可能です。その場合、個人事業主は会社経営者でもあるという立場です。
英語と日本語ではプライベートカンパニーの意味が異なる
英語の「private company」という言葉は、日本語のプライベートカンパニーとは異なる意味を持っています。
英語の場合、「private company」は民間会社や私企業、非上場会社や非公開会社を表します。
日本語の場合よりも広義に用いられているため、海外で「private company」という言葉を使う際には注意しましょう。
プライベート カンパニーの設立の目安
プライベートカンパニーを設立する主な目的は個人の資産運用や資産管理、さらには節税です。プライベートカンパニーの設立が節税につながる背景には、所得税と法人税の税率の差があります。
同じ収入金額で法人税よりも所得税が高くなる目安が、所得800万円を超えたときからです。そのため、プライベートカンパニーを設立する目安となるタイミングは、所得800万円といえます。
プライベートカンパニーの作り方
プライベートカンパニーを作るためには、まず実際に設立する前の準備が必要です。また、株式会社と合同会社では会社設立の流れに異なる箇所があります。株式会社と合同会社に分け、どのような流れで会社を設立するのかを説明します。
会社の形態を選ぶ
プライベートカンパニーを設立する前の準備として、まず会社の形態を選ぶ必要があります。プライベートカンパニーが選べる会社の形態としては、株式会社と合同会社が考えられます。
株式会社は広く知られている会社形態で、名称の通り、株式の発行により資金を募り、それを元手に事業を行います。
一方の合同会社はまだ認知度こそ高くありませんが、経営者による出資で事業を展開するなど、少人数での会社設立に向いています。
個人資産の管理や運用を目的とするプライベートカンパニーの特質を考慮すると、会社の形態を選ぶ際には、株式会社よりも合同会社のほうがより適していると言えるでしょう。
また、株式会社と比べ、合同会社の設立費用は安く、手続きもシンプルです。株式会社の場合は公証役場で定款認証が必要ですが、合同会社はこの手続きが不要なために手数料もかかりません。
作り方の流れ
プライベートカンパニーの作り方は、株式会社と合同会社では一部違いがあります。ここでは、株式会社と合同会社、それぞれの設立の流れを分けて説明します。
【株式会社の作り方の流れ】
- 発起人を決定する
- 会社の概要を決定する
- 会社の印鑑を作る
- 定款を作る
- 定款を公証役場に提出し公証人の認証を受ける
- 資本金を振り込む
- 株式の発行数や1株当たりの額を決める
- 法務局で登記申請する
【合同会社の作り方の流れ】
- 会社の概要を決定する
- 会社の印鑑を作る
- 定款を作る
- 資本金を振り込む
- 法務局で登記申請する
上記にある「定款」とは、法人を立ち上げる際に取り決める会社のルールを指します。株式会社のみ定款の認証を受ける必要があるため、必ず公証役場の予約を取りましょう。
また、発起人は株式会社には必要ですが、合同会社であれば不要です。ちなみに、株式会社の場合も合同会社の場合も、設立日から2ヵ月以内に税務署へ法人設立届出書を提出する必要があります。
プライベートカンパニーを作るメリット
プライベートカンパニーを作ることで具体的にはどのようなメリットがあるのでしょうか。経費や法人税など、プライベートカンパニーを作る際の主な目的である節税にスポットを当て、そのメリットを紹介します。
経費の範囲を拡大できる
プライベートカンパニーを作ると経費計上の範囲が拡大します。
個人事業主やフリーランスの場合には、家賃・光熱費・通信費、さらには広告宣伝費など、計上できる経費は限られています。
しかし、プライベートカンパニーは法人であるため、役員報酬・退職金・法人保険・福利厚生費を経費として計上できます。
ただし、福利厚生は従業員のために設けるため、自分以外の人を雇用していない場合には経費計上できません。また、経費として計上できるかどうかはその内容や種類、そして会社の規模や事業の区分で異なります。
節税を目的にプライベートカンパニーを作るのであれば、経費については税理士に相談することをおすすめします。
所得税より税率の低い法人税が適用される
個人事業を営んでいる場合や、副業などによる副収入がある場合、その所得には所得税が課せられます。所得税は累進課税制度が適用されているため、所得が高くなるばなるほど税率も上がるでしょう。
具体的な税率は、所得195万円以下で5%から、4,000万円超で45%です
【所得税の速算表(平成27年分以降)】
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 42万7,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 63万6,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円を超え 4,000万円以下 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以下 | 45% | 479万6,000円 |
一方の法人税は、法人の区分や開始事業年度により変動はあるものの、一般的な税率は15%〜23.2%と所得税よりも抑えられています。
法人保険や共済を利用できる
プライベートカンパニーを設立すると、法人保険に入れます。
法人保険とは、会社と契約し、会社がその保険料を支払う生命保険です。保険金・給付金を受け取るのも会社であることが一般的です。
法人保険は経費として扱えるほか、全額損金定期保険など法人税の節税に利用できるものもあります。
損金とは法人税を算出する際に益金から差し引く費用であり、つまり全額損金保険とは保険料の全額を損金として扱える保険ということです。
また、法人も個人事業主と同様に共済を利用できます。例えば、小規模企業共済は経営者にとっての退職金制度のような共済です。
さらには、経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)は、取引先が倒産した場合など、自社の経営を守るため無担保・無保証人で借り入れができるものです。
利益や損失の繰越期間を延ばせる
青色申告を行っている場合、個人事業主は利益や損失を翌年以後3年間にわたって繰り越せます。プライベートカンパニーなどの法人であれば、繰越期間はさらに長く10年適用されます。
繰越期間が延びることで、課税される利益分を損失で減額できる期間が長くなります。逆に、利益が増えた年度にも繰り越しを行い、節税につなげることが可能です。このように利益と損失を相殺することを損益通算と言います。
家族役員による所得の分散が可能
プライベートカンパニーを作ると、会社の業務に従事している家族を役員に就かせて役員報酬を支払えます。家族役員に報酬を支払えば、会社の利益を分配し、それぞれの所得として所得控除を利用できます。
ただし、所得金額が高くなるほど、所得控除は低くなります。そのため、1人当たりの所得を抑えることで、家族全体としてはより多くの額が手元に残るでしょう。
相続への対策が可能
仮に経営者が亡くなった場合、個人資産を家族が相続するとなると、相続税がかかります。相続税の税率は資産が多ければ多いほど高くなり、最も高い税率は55%です。
しかし、プライベートカンパニーを作っておくことで、個人資産を法人名義として管理・運営を行えます。法人名義の資産は分配がしやすく、相続の手続きもスムーズです。
プライベートカンパニーを作る際の注意点
プライベートカンパニーを作る際は、メリットばかりでなくデメリットにも目を向けましょう。ここではプライベートカンパニーを設立するために、特に注意したい点をピックアップします。
会社設立の手間や費用がかかる
プライベートカンパニーを作るためには、定款の作成や認証などの手間と、それらにかかる手数料などの費用を要します。
株式会社と合同会社、それぞれに発生する費用を確認してみましょう。
【株式会社の設立費用】
- 登録免許税150,000円、もしくは資本金×0.7%の金額が高いほう
- 定款の認証手数料:30,000円~50,000円
- 定款の謄本手数料:1枚250円
- 定款の収入印紙代:40,000円(電子定款の場合は不要)
【合同会社の設立費用】
- 登録免許税60,000円、もしくは資本金×0.7%の金額が高いほう
- 定款の収入印紙代:40,000円(電子定款の場合は不要)
定款の認証手数料は、詳しくは資本金100万円未満は30,000円、資本金100万以上300万円未満は40,000円、資本金300万円以上は50,000円です。
合同会社の場合も定款は必要ですが、認証手続きは不要なため手数料は発生しません。
決算手続きが複雑化する
プライベートカンパニーなどの法人を設立すると、会社の決算書を作成するために、より複雑な複式簿記を用いることが義務づけられています。
複式簿記では左側を借方、右側を貸方と言い、取引ごとに借方と貸方に分けて帳簿づけを行います。複式簿記で帳簿をつけるためには、簿記などの専門的な知識が求められます。
赤字の場合も法人住民税が課される
所得によって変動する法人税や法人事業税とは異なり、法人住民税は均等割で資本金の額額と従業員数で税額が一律に定められています。そのため、たとえ赤字でも法人住民税は毎年発生します。
例えば、資本金1,000万円以下の場合であれば法人住民税は70,000円です。一方、法人住民税は法人に課せられる税金のため、これが個人事業主やフリーランスであれば支払う義務はありません。
資産を自由に使えない
プライベートカンパニーを作ると、会社の経営者と言えど役員報酬として支給されたあとでなければ資産を自由に使えません。
加えて、役員報酬を変更できるのは通常は年に1回、事業年度がスタートした日から数えて3ヵ月までと決められています。
ちなみに、個人事業主やフリーランスであれば、事業の収益を自由に使用しても何ら問題ありません。
個人情報が一部開示される
会社を設立すると、その所在地や代表取締役の氏名・住所を法人登記します。登記の内容は登記事項証明書にて一般公開されており、どんな人でも閲覧請求が可能です。
そのため、プライベートカンパニーを作る際に、自宅と事務所を兼ねていたり、代表取締役の住所を登記したりすると、場所を第三者に特定されてしまいます。
プライバシーを守るためにも、プライベートカンパニーを作る際にはレンタルオフィスやバーチャルオフィスなどを借りるのがおすすめです。コストはかかりますが、レンタルオフィスの住所に登記すれば、個人情報が第三者に知られてしまうことがありません。
税理士がプライベートカンパニーの作り方を適切にアドバイス
節税を行うためには、所得税と法人税の税率の差から、プライベートカンパニーの設立が有効です。
しかし、会社を設立するためにはさまざまな準備や手続きを行わなくてはならず、ときにはなかなか進まないこともあるかもしれません。特に経費や帳簿、税金対策には専門的な知識を備えていたほうがスムーズに進められます。
そのため、プライベートカンパニーの設立を考えている場合には、税理士に1度相談してみることをおすすめします。
私ども小谷野税理士法人では、会社設立から税務、決算書の作成、税務申告までをワンストップで請け負っています。
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