YouTubeチャンネルでの収益が増えてきたYouTuberにとって、法人化するかどうかは悩ましい問題のひとつです。法人にした場合のメリットとデメリットをあらかじめ知っておくと、法人化すべきか、それとも個人事業主のままでいるかの判断がしやすいでしょう。この記事では、YouTuberが法人化するメリットとデメリット、法人化する適切なタイミング、法人化の手順などについて解説します。
目次
YouTuberが法人化するメリット
YouTuberの活動が拡大し、YouTubeチャンネルの収入が増えてくると法人化を検討するYouTuberは増えてきます。まずは法人化するメリットについて理解し、自身の活動状況や収益と照らし合わせながら判断するのがおすすめです。
YouTuberが法人化する主なメリットを紹介します。
税金の負担を軽減できる
法人化すると税の負担が軽減できるのがメリットのひとつです。個人事業主の場合、所得税は累進課税で5~45%の税率が適用されるため、収入が増えるほど高い税率が課されます。
しかし、法人化すると法人税の税率は最高23.2%となるため、所得が多いYoutuberは法人化することで納税額を減らせる可能性が高くなるのです。
健康保険や年金が手厚くなる
法人化により、健康保険や年金についてもメリットがあります。個人事業主として国民健康保険や国民年金に加入するよりも、法人で社会保険に加入する方が手厚い医療保障や年金給付を受けられます。
さらに、役員報酬を支給することで将来の年金受給額を増やすことも可能です。社会保険料は法人の経費として計上できるため、節税対策にもなり一石二鳥と言えるでしょう。
外部からの社会的信用度が高くなる
法人化すると、個人事業主として活動しているよりも社会的信用度が高まり、取引先からの信頼を得やすくなります。会社情報や財務状況を第三者が確認できることで外部からの信用を得やすいからです。
YouTuberとして法人化している場合、動画配信業をビジネスとして成立させていることを示していることにつながります。そのため、大手企業とのコラボレーションやスポンサー契約を獲得できる可能性は高くなるでしょう。
YouTuberは特別な資格や専門知識がなくても始められるだけに、社会的な信用が高いとは言えません。だからこそ法人化はプラスのイメージを与え、仕事の規模を拡大させるきっかけにするのも選択肢のひとつです。
社会的信用度が高くなると、資金調達がしやすくなる点もメリットです。法人としての信用があるため、金融機関から融資を受けやすくなります。
より大きな規模のビジネスを手掛けたい、より質の高い動画を制作したいといった場合、個人事業主よりも法人の方がより多くの融資を受けて挑戦しやすいと言えます。
YouTuberが法人化するデメリット
YouTuberの法人化は、メリットがある一方で当然デメリットもあるため、慎重な判断が必要です。法人化を検討する段階で把握しておきたい法人化の主なデメリットについて説明します。
従業員の社会保険料を折半して支払う必要がある
法人化すると、代表となるYouTuberは国民健康保険、国民年金保険、雇用保険、介護保険、労災保険に加入しそれぞれの保険料を支払う義務を負います。従業員を雇う場合は、これらの社会保険料の半分を負担しなければいけません。
なお、個人事業主の場合は従業員が従業員が5人以上になったときに社会保険への加入義務が発生します。一方で、法人は役員報酬が0円であるケースを除き、従業員がおらず自分1人だけであっても社会保険に加入しなければなりません。
売上に応じて自身の報酬額を増減できない
個人事業主は、売上が多い月には報酬を増やし、少ない月には報酬を減らすという調整ができます。一方で法人化した場合は、報酬額は基本的に固定となり、一年間は変更できません。
売上が多い月は問題ありませんが、少ない月は資金繰りが難しくなるリスクがある点に注意しておきましょう。
YouTuberの収入はアルゴリズムの変更によって上下しやすい上に、運営するYouTubeチャンネルの内容によっては社会情勢や噂といった不確定な要素に影響されやすいため、報酬額が固定になる点を考慮して法人化するかどうかを検討してください。
赤字でも法人住民税を納める必要がある
法人化すると、赤字でも法人住民税の支払い義務がある点に注意が必要です。法人住民税は均等割と呼ばれ、利益がなくても法人の規模に応じて一定の金額が課せられます。
収益が出ていない活動初期のYouTuberや、経歴が長くても収益が安定しないYouTuberにとっては比較的負担の大きい支出となるでしょう。
法的手続きや会計処理が難しい
法人化すると、個人事業として事業を行っている時よりもさらに法的手続きや会計処理が複雑になります。法人化する際の法人登記に関する手続きだけでなく、決算報告や税務申告においても個人事業主の確定申告より複雑な作業が必要です。
収支を正しく会計帳簿に記載し、漏れがないよう慎重に行わなければならないため、一般的に法人化した後の会計処理は会計士や税理士に依頼します。
自分で会計処理や申告手続きをする必要がないため、YouTuberとしての活動時間を確保しやすい代わりに、会計士や税理士への報酬の支払いが必要です。
YouTuberにおけるベストな法人化のタイミング
法人化を検討しているYouTuberにとって、個人活動から法人化となる時期は重要な問題です。法人化のメリットとデメリットの双方をしっかり確認して、メリットの方が大きいと判断した時が法人化のベストタイミングと言えます。
YouTuberが法人化するベストタイミングは、主に2つです。
1つめは利益が800万円を超えた時です。個人事業主の場合、累進課税である所得税は収益が高いほど課税率も高くなってきますが、中小法人の場合は利益が800万円以下だと15%、800万円を超えると23%程度とそれぞれ一律に課税されます。
利益が800万円を超えた時、税率が個人事業主の所得税よりも法人税のほうが安くなることが多いため、法人化を検討するとよいでしょう。
2つめは売上高が年間1,000万円を超えた時です。個人事業主として2年前の課税売上高が1,000万円を超えると消費税の課税事業者となり、消費税を納める義務が生じます。
このタイミングで法人化すると、会社を設立してから2期分は消費税の納税が免除される可能性があるため、免除された消費税額分だけ節税できるというわけです。
所得控除や事業以外の所得がどれほどあるか、YouTuberとしての収益がどれくらい安定的に見込めるかなどの問題もあるため、この2つのタイミングがベストとは言い切れない場合もあります。判断が難しい場合は、会計士や税理士に相談することをおすすめします。
YouTuberの法人化に伴う手続きの流れ
YouTuberとして法人化することを決めたら、法人化のための手続きに入りましょう。手続きの流れを事前に把握しておくとスムーズに進められます。
STEP1. 設立する会社の必要事項を決める
法人として会社を設立するので、まずは会社の基本事項を決めます。会社の基本事項とは次の項目のことです。
会社の名称:他社と重複しない社名を決めます。ブランディングにも影響するため、運営するYouTubeチャンネルの特徴や魅力が伝わりやすい名称がよいでしょう。
会社の所在地:自宅での設立も可能ですが、安定した経営基盤を築くにはオフィスを契約するのが理想です。最近は法人登記ができるコワーキングオフィスやレンタルオフィスが増えているので、オフィス賃料を抑えたい場合はこれらを利用するのもおすすめです。
事業内容:YouTube関連のコンテンツ制作や配信を行う旨を明記します。法人の正式な事業として認識される内容にしましょう。
資本金:1円から設立可能ですが、初期投資の状況に応じて適切な金額を設定するのが一般的です。
決算期:一般的には年1回の決算期を決定します。法人登記から決算月までが短いと、第1期の決算にすぐ対応しなければならないため、適した時期を考慮してください。
取締役:ビジネスパートナーなど信頼できる人物を選びます。外部の専門家に依頼するケースも少なくありません。
STEP2. 法人用の印鑑を作成する
法人化には正式な印鑑を準備する必要があります。以下の3つの印鑑を準備しましょう。
- 代表印:会社を代表する重要な印鑑、設立登記や重要な契約書に使用する。
- 銀行印:会社名義の銀行口座を開設・管理するための印鑑。取引の安全性を確保する意味がある。
- 角印:請求書や領収書などの公式文書に使う印鑑。会社の信頼性を示す。
印鑑は法人化した後長期にわたって使用する大切なものなので、信頼できる印鑑専門店に依頼して、品質にある程度こだわりながらつくるのがおすすめです。
STEP3. 定款を作成する
次に会社の運営ルールである定款を作成します。定款には、以下の項目を具体的に記載して作成してください。
- 会社の目的:YouTube関連の業務内容を明確に記述する。
- 本店の所在地:法人としての会社の所在地を記載する。
- 設立する株式:発行可能株式総数と発行済株式総数を明示する。
- 役員の任期:取締役や監査役の任期を記載する。
正確な定款を作成しておくことは、法人化した後の事業運営において極めて重要です。専門書籍やインターネットでも定款の作成方法の情報は集められますが、会社によって定款の内容は少しずつ異なります。
そのため、できれば行政書士などの専門家と相談しながら作成するとよいでしょう。
STEP4. 株式会社の場合は公証役場にて定款の認証を受ける
株式会社を設立するなら、作成した定款を公証役場で認証してもらう必要があります。公証役場での定款認証に必要な書類は以下の通りです。
- 定款の原本とそのコピー
- 発起人の印鑑証明書
資本金の額に応じて認証手数料が3~5万円、謄本の請求手数料が1枚につき250円、収入印紙代が4万円かかります。電子定款を利用すると収入印紙代は不要となり、電磁的記録の保存手数料が1回につき300円、同一情報の交付費用が1回につき700円必要です。
STEP5. 資本金を代表社員の口座に払い込む
会社設立の際、資本金は代表社員の個人口座に振り込みます。この振込手続きが完了すると、銀行から振込証明書が発行されます。
証明書は法人設立手続きで非常に重要で、その後の登記申請や税務署への届出にも必要となるため、必ず取得し、大切に保管してください。
STEP6. 会社設立登記申請書を作成する
次に、法務局に提出するための会社設立登記申請書を作成します。この申請書には、以下の情報を記載します。
- 会社名および所在地
- 資本金の額
- 取締役および監査役の氏名
- 発起人の氏名および住所
会社設立登記申請書の作成方法については、法務局のホームページからダウンロードできるテンプレートを活用しましょう。
STEP7. 法務局で登記申請を行う
最後に、所在地を管轄する法務局で登記申請を行います。申請時には以下の必要書類をすべて揃えてください。
- 会社設立登記申請書
- 定款
- 印鑑証明書
- 資本金の振込証明書
- 発起人の同意書
書類が揃っていることを確認したら、法務局に提出します。法人登記の手続きが完了すると、晴れて正式に法人としての活動を開始できます。
まとめ
YouTuberの活動が広がり収益が上がり始めたら、法人化を検討するタイミングです。法人化によるメリットとデメリットをよく確認して、自身の収入状況や長期的なビジネスプランも考慮してメリットが大きいと感じたら、法人化を前向きに考えましょう。
法人化すると、個人事業主よりも決算報告や税務申告が複雑になる可能性が高いです。経営者として事業の拡大に集中するためにも、決算報告や税務申告は税理士に依頼することをおすすめします。