会社員からの転職や、個人事業の今後のために、起業を選択肢として考える場合もあるでしょう。しかし、一口に起業と言ってもその事業形態はさまざまなため、事前に適切な知識を身に着けることが大切です。この記事では個人事業主と起業の違いについて、事業形態の種類やそれぞれのメリット、手続きや課せられる税金を解説します。
目次
そもそも起業とは?事業の形態や言葉に関する違いについて
そもそも起業とは、どのような状況に対して使う言葉なのでしょう。また、事業形態の違いにより、使い方は異なっているのでしょうか。
創業や開業など、起業と似た言葉と異なる点なども説明します。
起業は個人事業主・フリーランス・法人などの形態に制限はない
起業とは文字通り、事業を起こすことを意味します。一般的には、独立し新たな事業を立ち上げる際に用いられます。
ただし、その際に立ち上げる事業は会社などの法人に制限されているわけではありません。個人事業主・フリーランスとして事業を立ち上げる場合にも起業という言葉が使われています。
起業と創業の違いはほとんどない
起業と似た言葉に「創業」があります。創業は事業を創る、始めるといった意味合いですが、起業との違いはほとんどありません。
ただし、「会社を創業する」と用いられる一方で、個人事業主やフリーランスが独立する際などには創業ではなく「起業する」という言葉を使う傾向があります。
また、創業年や創業日はよく耳にしますが、起業年や起業日は一般的に使われていません。
このように、起業と創業の使い分けは曖昧で、どちらを使用するかは慣習に影響されています。
開業は個人が新しく事業を始めること
起業や創業と似た言葉には、「開業」もあります。
開業も新たに事業を開設することを言いますが、一般的に個人が独立した際に用いられ、会社など法人の事業立ち上げには使われていません。
例えば、医師が個人でクリニックや病院を経営し始めた場合には、開業医と呼ばれます。
このように、個人事業主が新しい事業を開設した際には、一般的に開業という言葉が用いられています。
年収や売上がラインを超えたら起業のタイミング
業種にもよりますが、フリーランスや個人事業主が法人として会社を設立するのであれば、その目安は売上1,000万円だと言われています。
課税売上高が1,000万円を超えると、1,000万円を超えた2年後は消費税の課税義務が発生します。しかし、起業することで、この消費税の課税義務が一時的に適用されなくなります。
これは、法人として起業すると、最初の事業年度と翌年の2年間は消費税が免除されるためです。基準期間のない法人の、納税義務の免除特例により定められています。
ただし、事業年度の前半6か月の期間に売上が1,000万円を超え、給与支払金額等も1,000万円を超えた場合は、会社を起業してから2年が経過していなくても消費税を支払わなくてはならないため注意が必要です。
消費税の納税義務は、他にも資本金の判定があります。個人事業主が法人として起業する場合は、事前に税理士などへの相談をおすすめします。
参考:No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例|国税庁
個人事業主・フリーランス・法人のメリットの違い
起業する場合、そのメリットは事業形態ごとに異なります。個人事業主・フリーランス・法人として起業した際にそれぞれ得られるメリットを説明します。
個人事業主のメリット
個人事業主は、税務署に開業届を提出するだけで起業できます。法人とは異なり、登記が不要であるために登記費用もかかりません。手間や時間をかけることなく、比較的容易に起業できることが個人事業主のメリットです。さらには、働く時間や仕事を自由に選べるのも個人事業主の魅力と言えるでしょう。
また、個人事業主として起業し青色申告を行うことで、所得から最大65万円の青色申告特別控除を受けられます。これにより税の対象となる所得額を低くし、所得税を軽減できるほか、住民税や国民健康保険料も抑えられます。
加えて青色申告では、繰越損失により最長3年間、赤字を翌年以降へと繰り越せます。
フリーランスのメリット
フリーランスと個人事業主との違いは、開業届を税務署に出しているか否かです。フリーランスが開業届を出すと、個人事業主として起業できます。
開業届を提出することなく、フリーランスのままでも起業はできますが、その場合は青色申告を選べません。青色申告のためには、事前に青色申告承認申請書と開業届の提出が必要です。そのため、フリーランスで起業する場合は、白色申告で確定申告を行います。
法人のメリット
会社設立など法人として起業をすると、社会的信頼や資金調達、決算月の決め方などでメリットを得られます。法人として起業するためには法務局にて登記を行い、会社の概要を一般に向けて明らかにしなくてはなりません。そのため、法人は、個人事業主に比べて社会的な信頼を得やすい傾向があります。
さらには、補助金や助成金の申請、金融機関からの借入も法人は審査が通りやすく、個人事業主と比較して幅広い資金調達が可能です。また、事業年度の最終月に本決算を行う決算月は、法人であれば経営状況や売上のピークに合わせて自由に決められます。
対して、個人事業主やフリーランスの場合、事業年度は1月1日から12月31日と定められ、決算月も12月に固定されています。このように法人にはメリットが多いですが、その一方で設立費用がかかったり、社会保険の加入義務があったりするため、起業する際にはデメリットも考慮し慎重に行いましょう。
個人事業主・フリーランス・法人の起業手続きの違い
個人事業主・フリーランス・法人として起業する際、その手続きにはどのような違いがあるのでしょうか。ここでは、現在の事業形態からほかの事業形態へと起業するモデルごとに説明します。
個人事業主が会社設立する場合
個人事業主が会社を設立し、事業を法人化させるためには、まず会社の基本情報をあらかじめ決めておく必要があります。社名や所在地、そして資本金や設立日、事業年度や事業目的がその基本情報に該当します。
次に、法人用の実印と定款と呼ばれる会社のルールをまとめた文書を作成します。資本金を銀行口座に払い込んだ上で、法務局に法人の登記申請を行います。
登記は基本的に会社の代表者が申請しますが、税理士や司法書士などの代理人への依頼も可能です。また、登記とは別に、個人事業主の場合は税務署に個人事業の開業・廃業等届出書の提出が必要です。この廃業届は開業届と同じフォーマットで、所轄の税務署窓口や国税庁のサイトからPDFをダウンロードして入手可能です。
その後、起業した法人へと資産や負債を移し、賃貸している店舗やオフィス、銀行口座などを個人から法人へと名義変更します。
フリーランスが個人事業主になる場合
フリーランスが個人事業主として起業するためには、所轄の税務署に記入済みの開業届を提出する必要があります。記入前の開業届は、その所轄の税務署で入手できるほか、国税庁のサイトからPDFをダウンロードします。
また、開業とともに青色申告を行うつもりであれば、青色申告承認申請書も同時に提出でき、こちらもフォーマットを国税庁のサイトから入手できます。
フリーランスが会社設立する場合
フリーランスが法人として起業する場合の手続きは、基本的に個人事業主が会社を設立する際の流れと同じです。ただし、フリーランスの場合、開業届を提出していないのであれば、廃業届は不要です。
また、フリーランスから法人化する際に注意したいのが、事務所など会社の所在地です。フリーランスは自宅を仕事場としていることも多いでしょう。自宅を会社の所在地として登記できますが、賃貸物件の中には登記不可の物件があります。また、自宅の住所を名刺やホームページなどで「所在地」として記載すると、不特定多数の人に住所を知られるリスクがあります。
プライバシーの観点からすると、自宅住所が不特定多数に知られてしまう状況は好ましくありません。そのため、フリーランスから会社設立する際には、新たに事務所を用意することをおすすめします。
フリーランス・個人事業主・法人の税の違い
フリーランス・個人事業主・法人では税金に違いが見られます。起業は節税のために行うこともあるため、収入や売上を考慮し、事業形態も適切なものを選びましょう。
フリーランスにかかる税金
フリーランスには所得税・復興特別所得税・住民税などの税金が課せられます。所得税は所得金額に応じ、所得税率によって算出される税金です。
復興特別所得税は、東日本大震災の復興を目的として設置された税金であり、2037年まで毎年所得税とともに納めます。住民税は、都道府県や市町村などの地方公共団体に納付する地方税です。
個人事業主にかかる税金
個人事業主に課せられる税金は、基本的にフリーランスと同じです。ただし、個人事業主の場合、事業所得が290万円以上であれば個人事業税が発生する可能性があります。
個人事業税は個人事業主が都道府県に納付する地方税の一種です。事業のためにさまざまな行政サービスを利用することから、その経費を一部負担する目的で設置されました。個人事業税は法定業種に該当していた場合に限り納付義務が生じます。それぞれの法定業種ごとに税率も3~5%の間で変動します。
個人事業を起業する場合には、どの法定業種に該当しているかを必ず確認しましょう。
会社にかかる税金
会社や企業などの法人は、フリーランスや個人事業主と税金が異なっています。課せられる税金は、フリーランスや個人事業の場合には所得税ですが、法人には法人税が課せられます。所得税は、所得が増えるほど税率の上がる「超過累進税率」が適用されており、控除は所得が増えれば少なくなる仕組みです。
法人税は一般的には23.2%ですが、中小企業者等に該当する場合、年800万円以下の所得金額の部分については、税率が15%に軽減されています。所得税では最大45%と、所得が多い場合には法人税を納めるほうが節税に有効です。
個人事業主の起業は税理士がサポートします!
起業のためにはさまざまな準備が必要です。また、その準備で多忙であっても、個人事業など本来の業務も同時に進めなければなりません。手が足りない中、手続きをミスなく適切に進めるためにも、起業を考えているのであればまずは税理士に相談をしてみてはいかがでしょうか。
税金の専門知識を持つ税理士からは、起業手続きはもちろん、節税など起業後の税金に対するアドバイスを受けられます。
私たち小谷野税理士法人では、会社設立サービスにおいて顧問税務・決算書作成・税務申告までワンストップで対応しています。
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