飲食店を個人経営で始めようとする場合も確定申告が必要です。特に飲食店では仕入費用や人件費など様々な費用がかかるため、帳簿にてきちんと記録をしておく必要があります。また、飲食店は仕入れの材料費などに個人の食費が混在してしまったりと注意すべき点が多いのも特徴です。この記事では、飲食店が確定申告をするときのポイントを解説します。
目次
飲食店の開業後は確定申告が必要になる
飲食店の確定申告も通常と同じで、毎年2月16日から3月15日の間に行われます。
基本的には年間所得額が48万円以下の場合、所得税の納付が発生しないため確定申告は不要となります。しかし、個人で飲食店を始めた場合は確定申告を行うことで所得の証明が得られたり、住民税の申告ができたりと様々なメリットがあります。そのため、年間所得額が48万円以下の場合でも確定申告を行った方がよいでしょう。
また、本業のほかに副業として飲食店を始める場合は、飲食店や他の副業を含め、副業の年間所得が20万円を超える場合は確定申告が必要となります。
飲食店などの個人事業主の場合、所得税の確定申告には、白色申告と青色申告の2種類があります。
白色申告と青色申告の違い
白色申告と青色申告は、日頃の取引きなどを記録しておく記帳の方法に大きな違いがあります。
白色申告の場合は、簡易的に売上や経費の金額と日付のみを記帳していく「単式簿記」の使用が認められています。そのため、確定申告が初めての方でも簡単に帳簿を作成することができます。
一方で、青色申告は一般的には正規の「複式簿記」しか認められないほか、損益計算書や貸借対照表なども作成する必要があります。ただし、売掛帳、経費帳、買掛帳、現金出納帳、固定資産台帳などの帳簿を備え付ける場合は、簡易的な記帳のみでも可とされています。
青色申告をする場合、青色申告をする年の3月15日までに、所得税の青色申告承認申請書を税務署へ提出しなくてはなりません。事業を始めた時期が青色申告をする年の1月16日以降だった場合は、事業開始日から2ヵ月以内に提出する必要があります。
飲食店が青色申告をするメリット
確定申告には白色申告と青色申告がありますが、飲食店などを経営する個人事業主の場合、青色申告をした方が様々なメリットが得られるといえます。
まず、青色申告の場合は、最大65万円の青色申告特別控除を適用できます。複式簿記による記帳など、様々な要件を満たすことで65万円の控除を受けることができるようになります。それ以外の場合は、55万円や10万円の控除があります。
この青色申告特別控除は、所得額から差し引いて税金を計算するため、節税に大きく繋がります。
また、青色申告では最長で3年間、赤字の繰越しと繰戻しができるというメリットがあります。今年は赤字だとしても、翌年は黒字だった場合、翌年の利益から前年分の赤字を差し引くことができるので、税金の額を抑えることができます。
そのほかにも、青色申告は一定の要件を満たしている場合に、親族に支払う給与を経費として計上できたり(青色事業専従者給与)、少額減価償却資産の特例が利用できたりと、飲食店にとってメリットがたくさんあります。
飲食店が確定申告を行う方法
青色申告を選択した場合、必要な書類を作成したりこれまでの帳簿を整理したりなど、事前準備がたくさんあります。段取り良く進めていくために、ここでは確定申告の流れや方法を解説します。ぜひ参考にしてみてください。
(1)確定申告に必要な書類を準備する
青色申告にあたり、まずは必要な書類を準備します。
青色申告に必要な書類は、必ず提出しなくてはならない確定申告書(第一表、第二表)や、青色申告決算書のほか、各種控除に必要となる証明書類があります。
確定申告書は、第一表および第二表を2枚1セットとして作成します。また、確定申告書は収入の証明にもなるため、収入の証明が必要であれば控えを余分に取っておくとよいでしょう。
一方で、青色申告決算書は、これまで記録してきた事業の帳簿を決算書形式でまとめた書類です。
控除に必要な書類には、住宅ローン控除の関連書類や、医療費控除の関連書類、生命保険料控除の関連書類などがありますので、必要に応じて準備しましょう。
(2)帳簿を整理する
書類の準備が整ったら帳簿を整理します。飲食店を経営する中で得られた収入や支出など、日々の取引のデータを記録した帳簿は確定申告では必ず必要となります。
青色申告の場合は、一般的には複式簿記による正規の簿記が必要になるうえ、損益計算書や貸借対照表の作成が求められます。
すべての取引の記録に対し、複数の科目に分類して収入や支出のお金の流れを記入する必要があるため、帳簿書類は日頃からきちんと整理しておくことをお勧めします。
また、簿記の知識に自信がない場合や、事業が忙しいなどで帳簿管理の手間を軽減させたい場合は、税理士に帳簿記帳の代行を依頼したり、会計ソフトを利用したりするとよいでしょう。
(3)所得税を計算する
確定申告書を作成する際には、売上や経費などの計算をして所得税を算出する必要があります。
所得税の計算は、まず売上から経費を差し引いて所得を算出し、所得から控除を差し引いて課税所得を算出します。
主な所得控除の項目には、青色申告特別控除(65万円)のほか、社会保険料控除や医療費控除などがあります。
最後に、課税所得に所得税率を掛け合わせることで所得税額を計算します。所得税額が算出されると税額控除額が確定します。
(4)確定申告の書類を作成する
課税所得の計算が完了したら確定申告書に必要事項を記入していきます。
確定申告書の第一表には、住所や氏名、収入額、所得金額、各種の控除の金額、所得税額を、第二表には住所や屋号、所得内訳、雑所得、一時所得、事業所得以外の所得に関する事項、事業専従者に関する事項、住民税・事業税に関する事項などを記載します。
確定申告書の作成も税理士に依頼することで負担を軽減することができます。
日々の帳簿のつけ方や確定申告でお困りの場合は、ぜひ「小谷野税理士法人」にお気軽にご相談下さい。
(5)確定申告の書類を税務署に提出する
必要書類が揃ったら税務署に提出します。不備があると再提出などに時間を要してしまうため、確定申告書や青色申告決算書のほか、控除に必要な各種書類がきちんと揃っているか、確認をしてから提出しましょう。
確定申告書類の提出方法は、税務署へ直接出向いて提出する以外にも、郵便で所轄の税務署に送付する方法やインターネットのe-Taxで電子申告をする方法があります。
また、提出するだけであったら税務署の開庁時間に関係なく、土日や祝日、夜間など、24時間いつでも時間外収集箱にて投函することで提出が可能です。
飲食店が確定申告で計上できる経費
飲食店が確定申告をする際に計上可能な必要経費は「事業の収入を得るため直接必要とした売上の原価や販売の費用、管理費など」と国税庁より提示されています。
飲食店が経費計上をするにあたって大切なことは、その事業に関わる支出かどうかということです。
飲食店のメニューとして提供する料理を作る場合の材料費や、新しいメニューを開発するための試作を作る場合の材料費は必要経費となります。
しかし、食材は同じものを使用しても、個人的に食べる料理を作る場合の材料費は、必要経費として認められません。そのため、特に飲食店を経営する個人事業主は、必要経費を公私混同しないようにすることが重要です。
ここでは、飲食店が確定申告の際に計上できる必要経費の勘定科目を一部ご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
参考:No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)|国税庁
仕入高
飲食店での料理や飲み物を提供するために使用した食材や飲料などの費用が仕入高にあたります。店頭での販売を目的として仕入れた飲料なども仕入高に入ります。
給与賃金
パートやアルバイトを含む従業員に支払う給与が給与賃金に該当します。賃金だけでなく、退職金などもこれに該当します。
水道光熱費
水道光熱費とは、飲食店で実際に使用する水道料金や電気料金、ガス代、灯油やプロパンガスなどの購入費などのことです。
必要経費として計上できるのは、事業で使用したもののみになるため、自宅の一角を飲食店として構えている場合などは、家事按分を適切に行わなければなりません。
通信費
飲食店で使用している固定電話や携帯電話の使用料、インターネットの料金、はがき・切手代などが通信費にあたります。ただし、お店の宣伝として送るダイレクトメールなどは広告宣伝費に含まれるので注意しましょう。
荷造運賃
荷造運賃は事業で扱う商品を発送する際にかかる費用です。飲食店では使用しないこともありますが、インターネットで食品や商品の通販などを行っている場合などは使用することがあります。
接待交際費
飲食店の場合、取引先などの事業に関わる相手が存在します。それらの事業に関わる人たちに対して使用する費用が接待交際費になります。
相手を接待する際の飲食代や手土産代だけでなく、お歳暮やお中元などの贈答品や慶弔金、お車代などが接待交際費に該当します。
旅費交通費
飲食店の事業に必要となる事柄のための電車代やタクシー代、バス代、出張先での宿泊費などは旅費交通費として計上します。車で移動した際の高速料金や、駐車場料金なども旅費交通費に含まれます。
広告宣伝費
飲食店の宣伝を目的として使用した費用は広告宣伝費になります。飲食店でよく見られるのは、ショップカードや名刺、チラシなどの印刷料金やポータルサイトへの掲載料金、ダイレクトメールなどの作成料・送料、メニューサンプル作成料などがあります。
損害保険料勘定
飲食店の店舗やオフィスの火災保険料、事業に使用する車の自動車保険料などが損害保険料勘定に該当します。
福利厚生費
従業員の雇用保険料や健康保険料、健康診断料、労働災害保険など、従業員に使用した給与以外の費用は福利厚生費に該当します。
ただし、青色事業専従者として家族を雇用しており家族以外の従業員がいない場合、その家族には福利厚生費を経費として計上することは認められていません。
また、事業主本人にも福利厚生費は使用できないので注意しましょう。
有料のまかないは福利厚生費にできる
飲食店で従業員に提供するまかないが有料である場合は、まかないの費用を福利厚生費として計上することが可能です。
ただし、従業員が食事代の50%以上を負担していることや、企業側の補助金額が従業員一人につき、税抜で3,500円/月を上回らないことなどが条件となります。
無料で従業員に提供しているまかないの場合は、原則的に従業員への現物給与として扱われ、課税対象になるので注意しましょう。
飲食店が確定申告をしないとどうなる?
飲食店が確定申告を怠った場合、本来の納税金額に加え、様々な罰則が課せられる可能性があります。期限までにきちんと確定申告および納税が完了するように、準備は余裕を持って進めましょう。
ここでは、万が一確定申告を怠った場合のペナルティをご紹介します。
延滞税がかかる
確定申告はしていても、所得税を期限までに支払わなかった場合は、最高で10%近くの延滞税が加算されてしまいます。
もし赤字などが続いて納税が厳しくなってしまった場合は、早めに税務署に相談しましょう。
無申告加算税がかかる
確定申告をしなかった罰則として、無申告加算税が課せられることもあります。
税額が50万円以上の場合は20%、50万円以下の場合は15%の追徴課税を納めることになるので、飲食店としてはかなりの痛手となります。
過少申告加算税がかかる
本来の税額よりも少額で申告し、納税していた場合、過少申告加算税が課せられます。
過少申告加算税は、新たに追加で納税する金額の10%相当の金額が加算されます。ただし、新たに納税する金額が、はじめに申告した納税額と50万円を比べて多い方の金額を超えている場合、その超過分は15%相当になります。ただし、早い段階で誤りに気付き、きちんと修正申告を行った場合は対象外となります。
飲食店の確定申告をスムーズに行うためのポイント
確定申告は1年間の売上や経費をすべてまとめる総括であるため、かなりの時間と労力を要します。
また、帳簿の作成は素人にとっては漏れや記帳ミスが起こりやすいものです。申告漏れや誤りなどを防ぐためにも日頃から念入りに準備を進めておく必要があります。
経費の仕分けをしておく
日頃から使用した経費を仕分ける習慣をつけておくと、確定申告の際に慌てなくて済みます。現金出納帳などを作成し、勘定科目まで記載しておくと、確定申告時に費用項目を仕分けする時間を短縮することができます。
領収書やレシートはきちんと保管しておく
現金出納帳を作成するのと同時に、領収書やレシートもあわせて保管しておきましょう。領収書やレシートは取引を証明する書類となります。
また、領収書やレシートは日頃から日付順に保管しておくことで、並べ替えの作業や紛失を防ぐことができます。
日頃から売上や支出を帳簿に記録しておく
飲食店を経営するにあたり、税務関係で最も重要なのは日頃の帳簿管理です。売上はどの程度なのか、支出はいくらあったのかなどをきちんと把握するためにも、現金出納帳に毎日記録しておきましょう。
日々記録した現金出納帳があれば、税務調査が入った場合でも問題なく対応できるでしょう。
飲食店の確定申告は税理士に依頼してスムーズに
飲食店の確定申告は事業主が自ら行うこともできますが、青色申告の場合は複式簿記による正規の帳簿が求められるため、思っている以上に時間と労力を要してしまいます。
手間をかけて帳簿や書類を作成したにも関わらず、不備があった場合には再提出や納付額が増えてしまうことも考えられます。
そのため、帳簿の作成や各種書類の作成に自信のない場合は、はじめから税理士に依頼することをおすすめします。
税理士への依頼は多少の費用も嵩みますが、本業の業務に加え、さらに確定申告の準備に膨大な時間を割かなくてはならないことを考えると、十分な費用対効果を得られるでしょう。