自宅と仕事場を兼用している場合、家事按分で経費を計上できる可能性があります。しかし、どんなものでも経費計上を行えるとは限りません。経費にできるものとそうでないものをきちんと把握し、家事按分の目安や計算方法を知ることが大切です。また、確定申告では、白色・青色申告とでは家事按分の要件が異なります。正しい知識を身に付け、適切な家事按分を行いましょう。
目次
家事按分とは?
個人事業主やフリーランスには、法人とは異なり、専用のオフィスを持たずに自宅と仕事場を兼ねているケースがあります。
家事按分とは、自宅兼仕事場にかかる家賃・水道光熱費などを、プライベートの分と事業の分とに区別することを指します。
按分は分割や配分を意味する言葉です。家事按分を行うためには帳簿をしっかりと付けておかなくてはなりません。
帳簿上でプライベート用と事業用と区別していれば、事業のための経費として計上可能です。収入から経費を差し引いた所得には所得税などが課せられるため、適切な家事按分を行うことで確定申告の際に節税へとつなげられます。
家事按分できる具体的な経費
事業分とプライベート分に支出を分ける際、どのような経費を家事按分できるのでしょうか。具体的に何を家事按分できるのか紹介します。
家賃
賃貸物件の家賃は、事業用であれば家事按分による経費計上を行えます。住宅の1室を仕事部屋にしているケースや、ワンルームの一部を作業場としているケースなどが該当します。
持ち家も、建物の減価償却費や固定資産税、住宅ローンの金利を家事按分の対象にできます。ただし、自宅を購入した際の元本などは経費にできないため注意が必要です。
また、事業用部分が50%を住宅ローン控除が適用できなくなるため注意しましょう。賃貸物件であっても持ち家であっても、家事按分の際には事業分とプライベート分のスペースをそれぞれ明確に区別する必要があります。
水道光熱費
電気料金・ガス料金・上下水道料金などの水道光熱費は、個人事業主やフリーランスの事業内容や事業形態で経費計上できるかどうかが変わってきます。
自宅において事業で使用する光熱費は、家事按分で経費にできます。例えば、パソコンや照明、室内の気温を調整するエアコンに使った費用は、事業部分を経費計上可能です。
しかし、ガス料金や上下水道料金は、明確な理由がなければ経費計上は難しくなるでしょう。
食品や料理に関する仕事などは、ガス・水道料金の一部を経費にできる可能性がありますが、事務作業野場合、家事按分の対象に認められない場合もあります。
通信費
電話やインターネットなど通信に関するアイテムやツールは、連絡手段でもあるため、事業にとって欠かせません。通信費も、事業に用いているのであれば、自宅でプライベートと兼用している通信費の一部を経費として計上できます。
仮に電話やネットをプライベート用とは区別し、事業専用で所有・契約しているのであれば事業用は全額を経費計上可能です。通信費は電話やネットだけに限らず、郵便代や宅配便の料金も含まれます。
自動車関連費
車をプライベートだけでなく事業にも使用している場合は、その費用の一部を経費計上できます。例えば、事業の一貫として取材現場へ訪問したときの移動や、品物を運んだ際に自家用車を使った場合のガソリン代などです。
自動車関連費を家事按分するつもりであれば、根拠を残す意味でも、日付・乗車降車時刻・行き先・乗車距離などを記した運転日報の作成をおすすめします。また、自動車関連費には自動車税も含まれるので忘れず経費計上しましょう。
減価償却費
事業に用いているのであれば、車やパソコンなどの1台10万円以上の固定資産も、減価償却費を算出した上で家事按分が可能です。
減価償却費とは、固定資産の費用をそれぞれの品物の耐用年数で分け、数年間に渡って経費計上する方法です。
例えば、普通自動車は耐用年数6年、軽自動車は4年、パソコンはサーバー用を除いて4年と定められています。
家事按分の割合は何パーセントが目安?
前述した通り、家事按分を用いて経費計上を行うためには、事業用とプライベート用を区別する必要があります。その割合とはいったい何%が適切なのでしょうか。目安を算出するための計算方法を紹介します。
スペースで割合を計算する方法
家事按分を行う上で使われる計算の1つが、坪数や面積などスペースによる割合を導き出す方法です。家賃の経費は、住居全体の面積から事業で使用している部屋やスペースの割合で求められます。
例として、賃料10万円で、住居全体の面積が50㎡、事業用に使っている部屋などの広さが10㎡の場合を考えてみましょう。
この場合、住居に占める事業スペースの按分率は20%です。つまり、本ケースの経費は20,000円です。
時間で割合を計算する方法
家事按分する上で、面積を始めとしたスペースを用いた計算は、家賃など一部にしか適用できません。水道光熱費・通信費・自動車関連費は、事業で使った時間や日数をもとに按分を行います。
水道光熱費や通信費の場合、月ごとに料金を支払っていることから、1か月の使用時間や日数で割合を算出すると良いでしょう。自動車関連費も、その都度、運転日報を残すことで使用時間や日数を割り出せます。
また、住宅の賃料の場合も、面積の割合だけでなく、自宅で月に何時間仕事をしているかなど、時間での家事按分が可能です。
その他で割合を計算する方法
電気料金と自動車関連費など、経費の中には使うスペースの広さや使用時間をもとにした計算以外の方法で家事按分を行えるものもあります。
まず電気料金の場合、自宅のコンセント差し込み口をすべて数え、事業で使用している個数の割合を計算して家事按分の対象にできます。
ただし、コンセント差し込み口の個数による家事按分は、時間によって割合を算出する方法ほど一般的ではありません。
自動車関連費も、使用時間に限らず、車の走行距離により事業で使った分だけ経費として計上可能です。家事按分をどの方法で行うかの選択は自由であるため、内容に適した方法で算出しましょう。
家事按分できない経費
家事按分は事業のために使われた支出のみが対象であるため、プライベートのために用いられた分は経費にできません。
また、生計を一にする家族や親族に住宅の賃料を支払っていても、経費として扱われません。
さらには、按分に合理的な理由が見当たらず、割合が高いと税務署に判断・指摘された場合には、経費として認められない可能性があります。
確定申告の際、経費に不審な点がある場合は、税務署の判断や指摘により調査が入る可能性もあります。
税務調査で修正を指示されると、所得税の納税に加え、延滞税や加算税など追徴課税のリスクが生じます。
家事按分の経費を計上するため満たすべき要件
個人事業主やフリーランスが自宅を仕事場にしている場合、経費を計上するためには事業用とプライベート用の支出をはっきりと区別する必要があります。
同時に、その支出が事業用であるという合理的かつ明確な根拠を示さなくはなりません。経費であるという証明には、帳簿を付け、記録を残すことが有効です。
税務調査が入った際も、しっかりと帳簿付けをしていれば、税務署の対応ができます。また、確定申告の際には、白色申告と青色申告とで家事按分の要件に違いが見られます。
白色申告の場合には制限があり、按分率が50%以上でなければ経費計上を行えません。一方、青色申告では按分率が50%以下であっても経費としての計上が可能です。
白色申告と青色申告における家事按分の違い
確定申告には白色申告と青色申告の2種類があります。白色申告と青色申告を比べると、青色申告のほうがより広い範囲を家事按分できます。
白色申告は割合50パーセント以上と経費計上に制限あり
白色申告では家事按分に一定の制限が設けられています。家事按分をした際、事業用の割合が50%を超えなければ原則的に経費計上できません。
白色申告は、青色申告よりも帳簿付けなどが簡略化できます。そのため、家事按分の合理性を証明できる要素が少く、経費計上に対し厳しい傾向があります。
節税効果を考えると青色申告が有利ですが、その一方で、白色申告は青色申告よりも手続きが少なく、シンプルに確定申告できるメリットがあります。
青色申告は割合50パーセント以下でも経費計上が可能
青色申告は白色申告と異なり、家事按分によって算出された事業分の割合が50%に届いていなくても経費として申告可能です。
また、青色申告では常時雇用している社員が1,000人以下の場合など、複数の要件を満たすことで少額減価償却資産の特例を活用できます。
少額減価償却資産の特例は、購入金額30万円未満の減価償却資産であれば、その費用を一括で経費にできる制度です。
ただし、白色申告と同様、家事按分を使って経費計上するためには、事業用であるという合理的な根拠が必要です。
参考::「中小企業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の 特例制度」を適用する場合の明細書の添付について |国税庁
家事按分の帳簿付け方法
事業の経費であるという明確な根拠を残す意味でも、家事按分する経費は正確に帳簿付けしましょう。家事按分の方法について、記帳をもとに年間分をまとめて行う方法と、月ごとに行う方法に分けて説明します。
年間の家事按分をまとめて記帳する場合
1年間の経費を家事按分する場合も、記帳はその都度行う必要があります。帳簿に記載することは仕訳とも呼ばれています。
家事按分は、年間分をまとめて行っても、そのたびごとに行っても、方法に制限は設けられていません。しかし、決算のとき仕訳を1年分まとめて計算することで、家事按分を毎月行う手間が省けます。
月ごとに家事按分を記帳する場合
月ごとに家事按分する場合、事業に使用した費用が発生するたびに、割合を計算して帳簿に記さなくてはなりません。記帳する際には、日付・借方・貸方・摘要などの順に書き込んでいきます。借方・貸方は必ず借方が左側で、貸方を右側にします。
日付は、実際に金銭が動いた日、クレジットカードであれば、銀行からの引き落としがあった日などを記入します。借方には資産や費用の増加分を記入し、貸方には資産の減少と収益の発生、負債の増加した分を記載しましょう。
摘要には、その取引の内容を記します。例えば、家賃を支払った際には、借方に賃料を、貸方に支払った預金金額を記入します。
また家賃全体の賃料の下などに、家事按分した事業分の金額も書き加えます。
家事按分の割合と確定申告で悩んだ際は税理士にお任せを
個人事業主やフリーランスが適切に経費計上を行うためには、家事按分の計算方法や帳簿付けの仕方などをしっかり把握しておく必要があります。
また、白色申告や青色申告では要件に違いがあり、少額減価償却資産の特例を活用できるなど、青色申告のほうが節税面では有利です。
しかし、家事按分や確定申告が事業にとって欠かせないことではあっても、割合の計算方法や青色申告などは複雑で、税の知識が求められる場面もあります。
本来の業務が多忙である場合など、十分な時間を割けないこともあるでしょう。
家事按分や確定申告を正確に行うためにも、税理士への依頼を考えてみてはいかがでしょうか。
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家事按分についてのお悩みがあれば、いつでも税金のプロにお任せください。