出向者給与の税務について正しく理解していますか?この記事では、出向者給与の原則や税務上の扱いについて詳細を解説します。従業員の能力開発や技術指導など、さまざまな目的で関連会社を超えた幅広い企業間で出向するケースが見られます。そこで、正しい会計、税務処理をするためにも、出向者給与の税務上の扱いと適切な対応について理解しましょう。
目次
出向とは
出向とは、企業の社員が本来の勤務先(出向元)から、出向者を受け入れる企業(出向先)に一定期間移り、出向先の業務を行う雇用形態です。出向は、社員のスキルアップや他社との協力関係の強化、経営資源の有効活用など、さまざまな目的で行われます。
グループ会社や子会社などがある企業であれば、自社の社員を出向させる、出向者を迎える機会が出てきます。そのため、正しく会計と税務処理をするためにも、まずは出向の主要形態について理解する必要があります。
一つ目の形態である在籍出向は、元の会社に籍を残した状態で、所定の期間、出向先で勤務した後に出向元の企業に戻ることです。
もう一つが転籍出向で、出向者が出向先に籍を移し、出向先の企業の一員として勤務する形態です。出向は企業間の関係強化や社員の成長に寄与するなど、さまざまなメリットが期待できます。しかし、出向者の給与や社会保険などの取り扱いが複雑になるケースもあるため注意が必要です。
出向者の給与の基本原則と税務上の扱い
出向者の給与について、正しく会計処理をするためには出向者給与への理解が必要です。ここでは、出向者の給与に関する基本原則と税務上の扱いについて解説します。
出向者給与の原則
従業員が他企業へ出向する場合、出向者の給与は原則として出向先の企業が全額受持つのが税務上の考え方です。出向先が出向者による労務の提供を受けており、どこで労務を提供したかで給与支払いの負担が決まるからです。
原則、出向先が支払うはずである出向者の給与を、正当な理由もなく出向元が支払っている場合は、寄付としてみなされて課税対象と認定されます。
給与支給元の法律上の扱い
出向者の給与を負担するのは原則、出向先の企業です。しかし、法律上の決まりはないため、出向者に直接給与を支払うのは、出向元、出向先どちらでも問題ありません。どちらが出向者に対して直接給与を支払うかは、出向先の企業と出向元の企業で話し合って決めます。
出向者は出向元の企業と雇用関係を結んでいることから、出向元の企業から出向者に給与を支給する事例が多いです。
出向者の給与の支給形態と会計処理
出向者の給与は、出向先である企業が実質請け負うのが決まりだとしても、支給形態がいくつかあるのが現状です。そこで、支給形態の内容と適切な会計処理について解説します。
出向先が出向者の給与を負担する場合
出向者に対して給与を支払う場合、出向元の企業が間接的に給与を支給するケースが大半です。出向者が出向元の企業に籍を置いた状態で出向しているなら、これまで通り出向元の企業が出向者の給与を支払います。
そして、出向先の企業は、出向元の企業に対して出向者の給与の相当額を支払うのが一般的です。
出向者が所属している企業に籍を置いた状態で出向する場合、出向先と出向元、共に雇用契約を締結しているためどちらが給与を支給しても差し支えありません。
出向先から出向者に対して直接支給も可能であるため、出向先と出向元の企業とで事前に話し合って決めましょう。
出向者が出向先で役員として勤務している場合
出向者が、出向先で役員として業務に従事している場合、その給与は役員給与に該当します。ただし、出向役員の給与を費用として扱うためには、適切な手続きが必要です。
まず、役員として出向者を迎える場合は、出向先の企業の株主総会もしくはそれに準ずる決議が必須です。そして、契約書類には出向期間や給与の負担額について明記しなくてはいけません。
参考:国税庁 出向先法人が支出する給与負担金に係る役員給与の取扱い
出向元が出向者の給与を負担する場合
出向先である企業が課せられるべき出向者の給与を、本来は負担義務のない出向元の企業が請け負う場合、出向元の企業には寄付金としての課税が適用されます。
それは、出向元の企業から出向先の企業に対して、経済的な利益の供与があったとみなされるからです。
親会社と子会社のように、出向元の企業と出向先の企業に完全支配関係があるケースでは、グループ法人税制が適用されます。そのため、寄付金は全額費用として算入できません。また、相場よりも低価格、無償で受け取った資産である受贈益についても、全額益金として扱えません。
出向者給与の会計処理
出向者の給与支払いについて、適切な会計処理を行うことが正しい申告、納税につながります。出向者給与の支払いで最も多いケースである間接支給による会計処理では、使用する勘定科目の決まりはありません。
出向元が出向者に対して支払った給与については「給与」、出向元に対して出向先が払う出向者の給与は「支払手数料」などの勘定科目を使うケースが多いです。
出向者の給与については、出向先の企業が全額を請け負うのが原則ですが、実際に給与を支給するのは出向者が在籍している企業です。併せて、出向者の源泉徴収や社会保険料に関連する各種手続きも、出向者の在籍先である企業が引き受けます。
そのため、出向先の企業が出向者に支払う給料に「給与」という勘定科目を使うと、分かりにくくなるため、「給与」以外の勘定科目を使うのが適しています。
また、出向元が出向先の企業から出向者の給与相当額を受け取ったときの勘定科目は、「受取手数料」もしくは「雑収入」が妥当です。給与相当額受領時に、従業員に対する給与支払い総額からマイナスで処理するという方法も選べますが、適切ではありません。
給与として支給した金額をマイナスしてしまうと、出向者の源泉所得税や社会保険料との関連性が分かりづらくなるからです。
出向元に対して出向先が支払う給与に相当する額である「支払手数料」、出向元が給与相当額を受け取った「雑収入」や「受取手数料」は税務上給与扱いです。そのため、消費税の課税対象とはなりません。
また、出向者の給与は、前年度よりも給与等が増加した場合に税金を減少できる、賃上げ促進税制にも影響するため注意しましょう。
出向者の給与や税務に関する相談は、「小谷野税理士法人」にお気軽にお問い合わせください。
出向者に支払う給与が不足していた場合
出向先が支給する出向者への給与額が、出向元在籍時よりも低い金額だった場合、その差額分を出向元が補填することを「較差補填金」と言います。
出向者への給与は、出向元の企業の出向規定において給与の水準を補償しているケースがほとんどです。
出向先の企業の水準に合わせて出向者にも給与を支給する場合、出向元の企業から支給される給与額と差が出ることがあります。とはいえ、出向先が給与の差額を支払う義務はありません。
出向元の企業で受け取っていた給与と出向先から支給される給与額に差額が発生した場合、出向元の企業が埋め合わせするのが基本です。出向先と出向元の給与の差額分を増補した場合、費用として計上できます。
給与負担の差額が生じる場合は、労働者供給事業に該当する恐れがあるため、注意が必要です。
出向者給与の社会保険
出向者に対して直接給与を支払う企業に、所得税の源泉徴収と社会保険料、雇用保険料の負担義務が生じます。
出向者の給与は、出向元の企業が支払っているケースがほとんどであるため、出向元の企業が源泉徴収や社会保険料、雇用保険の徴収や手続きを行います。
ただし、労災保険については給与の支払い元に関係なく、出向者が労務を提供している企業に納付義務があることに注意してください。
出向者給与の社会保険や源泉徴収について、出向者に給与を支払った企業が各種手続きをしますが、実際に保険料を負担する企業と異なる場合があります。
出向者に対して給与を支払ったのは出向元の企業でも、実際に社会保険料などを含めた給与総額は出向先が負担しているケースがほとんどだからです。
出向者の社会保険や源泉徴収の手続きは、保険料の負担の有無に関係ないため、出向先と出向元、どちらの企業が行っても問題ありません。原則、給与を直接支給する企業が、手続きを行います。
出向の注意点
本来は、企業や従業員の成長のために行われる出向ですが、出向が利益目的となる労働者供給事業に該当する場合は、法律違反となるため注意が必要です。
出向先が出向者に対して支払う給与を、出向元である企業が利益として横領するリスクがあるからです。
利益を得るため、複数の社員を出向させているといったケースが、法律違反に該当します。偽装出向とみなされないようにするためにも、厚生労働省が定める在籍出向型の目的に沿う出向を行うことです。
まとめ|出向者給与の税務について理解し適切な会計処理を実現
今回は、出向者給与の税務について詳しく解説しました。企業間の交流や人材育成など、さまざまな目的で行われる出向者に支払う給与は、出向先が実質請け負うのが原則です。
しかし、出向者は出向元の企業に在籍しているため、出向元の企業が直接給与を支払うケースがほとんどです。出向者給与の税務上の扱い、出向先と出向元の企業における適切な会計処理について理解し、正しい申告につなげましょう。