納税者がさまざまな所得の合計額から納めるべき税金の金額を計算し、税務署に申告する作業を確定申告と言います。確定申告は所得税の計算・申告を行う作業ですが、確定申告が不要な人がいるのをご存じでしょうか。この記事では、確定申告不要制度の概要や対象者、確定申告不要制度の注意点、確定申告が必要なケース等について詳しく解説します。
目次
確定申告不要制度とは
確定申告不要制度とは、公的年金等の所得があり一定の要件を満たしている人などが所得税や復興特別所得税の確定申告をしなくてもいい制度です。該当する場合は煩雑な確定申告の作業をしなくて済むので、制度の対象となるかどうかチェックしておくことが大切です。
確定申告不要制度の対象者
毎年3月15日までに完了させなければいけない確定申告は負担が大きい作業です。それだけに、確定申告不要制度の対象なら、年度末の2~3月に確定申告作業で時間を取られることはありません。
確定申告不要制度の対象者について説明します。
公的年金等の収入が400万円以下かつその他の所得が20万円以下
公的年金の収入が400万円以下であり、かつ、その公的年金等の全部が源泉徴収の対象となる場合、加えて投資商品の利子や配当、副業などの一時所得といった公的年金以外の他の所得が20万円以下の場合は確定申告する必要はありません。
本来なら公的年金受給者も確定申告が必要ですが、一定額以上の公的年金を受給する際は所得税の源泉徴収が行われるため、一定額以下の収入の場合は確定申告が免除されます。
自分が受け取っている公的年金の総額を把握していない場合は、年金支給通知書などの公式な書類を確認し、確定申告不要制度の対象になるかどうか把握しておくとよいでしょう。
また、すでに所得税が源泉徴収されているかどうかも確認しておくことが大切です。源泉徴収されていると確認できれば、煩雑で時間も労力もかかる確定申告をせずに済みます。
1年間の所得が48万円以下の個人事業主やフリーランス
確定申告で所得税の計算をする場合に適用される所得控除のうち、どの人にも適用されるのが基礎控除です。基礎控除は、2,400万円以下の所得だと48万円が控除されます。
所得が48万円以下なら、基礎控除を差し引いた時点で課税対象の所得は0円です。つまり所得税が発生しないため、確定申告をする必要がないということになります。しかし、青色申告で損失が発生している場合などは、確定申告した方がいいでしょう。
1年間の副業の所得が20万円以下の給与所得者
会社員やアルバイト・パートなどの給与所得者は、勤務先で年末調整を受けるため自ら確定申告をする必要は基本的にありません。
しかし本業とは別に副業をしていて、その副業で20万円を超える所得を得ている場合は、本業の年末調整とは別に個人で確定申告をする必要があります。
また、副業の所得が20万円以下であっても、副業の発注先で源泉徴収を受けているなら所得税を払いすぎている可能性があるため、確定申告をした方がいいでしょう。
払いすぎた税金の還付を受けられる可能性があります。なお、住民税の申告は副業の所得額に関わらず必要です。
確定申告不要制度の注意点
年金受給者や所得が少ない個人事業主などは確定申告が原則不要です。しかし「年金を受給している」「フリーランスで所得が少ない」といった基本情報だけで、確定申告不要制度の対象だと判断しないようにしましょう。
年金受給者の場合は年金収入額や年金以外の所得額によっては確定申告が必要ですし、給与所得者の場合は副業をしていなくても給与収入が2,000万円を超えていれば確定申告が義務となります。
確定申告が必要なケース
確定申告不要制度が利用できるかを確認する時には、確定申告が必要かどうかもあわせてチェックしておくと安心です。各種控除を受けたい場合以外で自ら確定申告をする必要があるケースをまとめました。
公的年金の収入が400万円を超えている
受給している公的年金額が年間400万円を超えた場合は確定申告が必要です。公的年金とは厚生年金や国民年金、確定拠出企業年金などを指します。
公的年金以外の所得が20万円を超えている
先ほども触れたように、公的年金の収入が400万円以下の人は基本的に確定申告は不要です。しかし、家賃収入やアルバイトなど公的年金以の所得が20万円を越えていたら、その所得に対して所得税が課税されるため確定申告をしなければいけません。
個人事業主やフリーランスで事業所得がある
企業に雇用されるのではなく、自身で会社や店舗を経営している人や企業と業務委託契約を締結して収入を得ている個人事業主やフリーランスは、事業所得があるため確定申告が必要です。
総収入額から事業を営むための必要経費を引いた事業所得や所得控除をベースに所得税額を算出し、申告書を作成して税務署に提出する義務があります。
不動産や株取引で一定の所得を得ている
不動産を所有して不動産投資を行っている個人や、保有している株取引によって売却し利益を得た人、株式の配当を受けた人は条件によって確定申告が必要です。
株取引の場合、一般口座や源泉徴収がされない特定口座(簡易申告口座)を利用して取引をした場合が確定申告の対象となります。最近注目されているNISA口座は、非課税口座のため上限金額をオーバーしなければ確定申告は必要ありません。
給与収入が2,000万円を超えている
企業に雇用されている人は、会社で年末調整を受けているので確定申告は原則不要です。しかし企業経営者や取締役などは給与収入が2,000万年を超えることも珍しくありません。
給与収入が2,000万円を超えると年末調整の対象外となるため、自分で確定申告をする必要があります。
確定申告不要制度の対象者でも税金が還付されるケース
確定申告不要制度の対象者であっても、税金の還付を受けたい場合は確定申告を行うのがおすすめです。確定申告をした方がいいケースを説明します。
家族構成が変わった
家族構成の変化によって、確定申告不要制度の対象となる場合があります。例えば新たに扶養する家族が増えたりしたら、扶養控除が適用される可能性があります。
扶養控除が適用されると、年間所得が減少するため結果的に税金の還付を受けやすいため、該当する場合は早めに対象となるかどうかを確認しておきましょう。
高額の医療費を支払った
病気や怪我などの治療で高額な医療費を支払った場合は、医療費控除を受けられます。医療費控除の適用条件は、年間に支払った医療費の合計が年間総所得金額の5%を超えるか10万円以上のどちらか低い方です。
高額の医療費の支払いは家計には大きな負担になりやすいため、医療費の負担を軽減するためにも確定申告をしておくとよいでしょう。
社会保険料・生命保険料を支払っている
社会保険料や生命保険料を支払っているなら、確定申告で税金の還付を受けられます。社会保険料や生命保険料は所得控除の対象になっているためです。年末調整で控除されていない社会保険料控除や生命保険料控除は、確定申告で控除できます。
社会保険料控除は、公的年金から控除されている社会保険料や国民健康保険料、介護保険料が控除対象となります。
生命保険料控除は、加入している生命保険や介護医療保険の保険料や、加齢に伴う医療・介護のリスクに備えるための保険料も対象です。いずれも保険料が所得から控除され、税金の還付を受けることで家計への負担を軽減できるでしょう。
災害や盗難に遭った
地震や台風といった自然災害や火事などの人為的な災害、害虫などの異常な災害、盗難、横領によって住宅や衣類、家具など生活に必要な資産が被害に遭った場合は、雑損控除を受けられます。
損害を受けた資産の被害額が一定の基準を超えると税金の還付が受けられる可能性があります。
似たような制度で災害減免と混同されやすいですが、災害減免は雑損控除のように所得控除を受けるのではありません。所得税そのものを免除・軽減する制度で、対象は住宅や家財に限られます。
住宅ローン等で住宅の購入やリフォームをした
住宅ローンを利用してマイホームを購入したり、リフォームを行った場合、住宅ローン控除の対象となる可能性があります。住宅ローン控除は、ローン残高に基づいて一定額が控除される仕組みです。
住宅ローン控除を受けられると所得税額が抑えられ、大きな節税効果につながるため、住宅の購入やリフォームをした人は忘れずに活用しましょう。
ふるさと納税や寄付をした
国や自治体、認定NPOなどの団体に寄付をした場合に受けられるのが寄附金控除です。多くの人が利用しているふるさと納税も、確定申告をすることで寄附金控除を受けられます。所得税や相続税、住民税(一部地域のみ)などが寄附金控除の対象です。
所得税の場合、税額控除と所得控除のどちらかを選択できます。一般的には税額控除を選択しますが、所得額や寄付した金額によって所得税率が決まるため、所得控除の方が節税になる可能性もあります。
自分がどちらに該当するか分からない場合は、税務署や税理士に相談してください。
まとめ
確定申告は多くの人にとって煩雑で負担の大きい手続きです。それだけに、確定申告不要制度の対象になっているかを確認しておくことは時間や労力の節約になります。
本記事では確定申告不要制度の概要や確定申告不要制度の対象者、確定申告が必要なケースなどを解説しましたが、確定申告に慣れていない人にとっては理解しづらさもあるでしょう。
不明点を曖昧にせず、専門家に相談して何をすべきか、また何をしなくていいのかしっかりと把握しておくのがおすすめです。