銀行などの金融機関が企業をランク付けする「格付け」。この格付けをもとにして、融資を行うかどうかの判断や融資条件が決定します。今回の記事では、格付けの種類やその定義などをテーマに解説します。また、格付けをアップするための方法についても併せて解説します。金融機関からの融資を視野に入れている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
格付けとは
格付けとは、銀行などの金融機関が企業をランク付けすることです。決算書を中心にして企業に点数をつけ企業の格付けを行います。
金融機関は、この格付けを参考にして融資を行うかどうか判断します。格付けが高いほど融資を受けやすく、融資限度額や金利なども好条件になります。
一方、格付けが低い場合は高金利なだけではなく、融資を受けられないケースも多々あります。そのため、自社の格付けを上げることは経営上とても重要なのです。
債務者区分
銀行などの金融機関は、まずは企業の決算書等を参考にして債務者区分を行います。主に5つに区分し、それからさらに細かく格付けします。
債務者区分の主な定義は下記の通りです。ただし、区分の基準は金融機関ごとに異なり非公開であることが一般的です。その点に留意した上で参考にしてください。
【債務者区分】
債務者区分 | 定義 |
正常先 | 経営状況が良好で財務内容にも問題がなく、債務履行の確実性が非常に高い。 |
要注意先 | 経営状況が低調で不安定。延滞など履行状況に問題があるため、注意を要する企業。 |
破綻懸念先 | 経営難で、3カ月以上の延滞などがある。今後経営破綻に陥る可能性が高い。 |
実質破綻先 | 長期的な経営難状態で、今後再建の見通しもない。 |
破綻先 | 法的・形式的な経営破綻状態にある企業。 |
金融機関からの融資を受けられるのは、正常先の区分であることが一般的です。
格付けによって融資の有無や融資条件などが異なってしまうため、申し込む際にはしっかりとした準備が必要です。
参考:金融庁「債務者区分」
格付けを判断する内容とは
格付けは、定量評価と定性評価という2つの評価によって行われます。これらを分析した上で総合的に判断します。
一般的には定量評価が80%、定性評価が20%と言われていますが、金融機関によってその割合は異なります。
そのため、「定量評価のほうが比重が多い」という程度の参考にしておくことをおすすめします。
定量評価と定性評価の違い
定量評価とは、数値化できるデータをもとにして評価を行うことです。主に、決算書にある売上高経常利益率や総資産経常利益率(ROA)などを分析して行います。
定性評価とは、数値化できない内容をもとに評価を行うことです。
主な内容には、市場の動向、市場規模、商品の優位性、経営者の資質、経営方針などがあります。
定量評価
定量評価では、決算書をもとに企業を数値化します。その際、「収益性」「安全性」「成長性」「返済能力」の4つに分けた上で計算をします。
収益性
収益性とは、企業が利益を獲得する能力のことです。少ない資本から大きな利益を作り出せる力があるかどうかを確認します。
格付けでは、主に売上高経常利益率や総資産経常利益率(ROA)などをもとに評価を行います。
売上高経常利益率とは、売上高に対して経常利益が占める割合のことです。それによって、企業の総合的な力を確認します。
【計算式】
売上高経常利益率=経常利益÷売上高
総資産経常利益率(ROA)とは、企業の総資産に対して売上高が占める割合のことです。借入金を含めたすべての資本を利用し、どれだけの利益を得られるのかを数値化します。
【計算式】
総資産経常利益率(ROA)=経常利益÷総資産
安全性
安全性とは、企業の資産において負債が占める割合のことです。その際には、下記の指標を用います。
自己資本比率とは、資産全体に対して、返済不要の自己資本(純資産)が占める割合のことです。高いほど返済能力があると見なされます。
自己資本比率の目安は、業種によって大きく異なります。
【計算式】
自己資本比率=自己資本(純資産)÷総資本
流動比率とは、1年以内に現金化できる資産(流動資産)が、1年以内に返済すべき負債(流動負債)をどれだけ上回っているかを表わす指標のことです。
比率が高いほど、短期的な支払い能力が高いと見なされます。
【計算式】
流動比率=流動資産÷流動負債
固定長期適合率とは、固定負債と自己資本の合計額に対して、固定資産が占める割合のことです。長期的な返済能力を分析するための指標です。
この数値が100%以上の場合は、返済能力に問題があると見なされます。
【計算式】
固定長期適合率=固定資産÷(固定負債+自己資本)
ギアリング比率とは、自己資本に対する負債の割合のことです。低いほど借金が少なく、財務の安定した企業と見なされます。
【計算式】
ギアリング比率=有利子負債÷自己資本
参考:自己資本比率|財務省
参考:流動比率|財務省
成長性
成長性とは、企業の経常利益率がどの程度上昇しているのかを確認するための指標です。
【計算式】
経常利益増加率=(当期売上高-前期売上高)÷前期売上高
返済能力
返済能力とは、借入金を返済する能力を表した指標のことです。
債務償還年数とは、借入金を返済するために何年必要になるのかを判断するための指標です。
【計算式】
債務償還年数=(有利子負債-運転資金)÷キャッシュフロー額
インタレスト・カバレッジ・レシオとは、企業が通常の活動から生み出せる利益が、支払利息をどの程度上回っているのかを確認するための指標です。
【計算式】
インタレスト・カバレッジ・レシオ=(営業利益+受取利息配当金)÷支払利息
定性評価
定性評価は数値化できない部分のため、金融機関によって指標が異なります。一般的に指標になることが多いのは下記の8つです。
経営者の資質 | 経歴、事業経験、経営方針など。 |
---|---|
営業力 | 営業するための商品・サービスの完成度や、独自の営業ノウハウの有無など。 |
販売力 | 独自の営業ルートがあるかどうか。 |
技術力 | 新商品や新技術の開発力など。 |
市場の成長性 | 販売する商品・サービスの市場に需要があるか。 |
経営改善計画 | 経営上の悪い部分を発見し、改善するための具体的な計画があるか。 |
競合優位性 | 主にサービスやブランド、評判など、競合他社よりも有利な要素があるか。 |
従業員の能力 | 従業員のモラルや接客態度など。 |
多くの金融機関では、定性評価が占める割合は約2~3割程度です。格付けにおいては、補完的な役割と見なされることが一般的です。
格付けをアップする3つの方法
本記事でも解説したように、融資の有無や融資条件は格付けによって決められます。そのため、少しでも格付けを上げることがとても重要です。
格付けの判断に使われるのは、主に決算書です。そのため、不備のない決算書を作成し、することが必要です。
なお、格付けの有効期限は1年間です。仮に格付けが低かった場合でも、財務状況などを改善することで格付けを上げるチャンスはあります。
ここでは、格付けを上げるための方法について解説します。
運転資金を減らす
格付けを上げるための方法は企業によって異なります。ですが、すぐに効果が出やすいと言われているのは運転資金を減らすことです。
そのためのポイントは下記の3つです。
- 売上債権を減らす。
- 仕入債務を減らす。
- 在庫(棚卸資産)を減らす。
【売上債権を減らす】
- 売上債権をできる限り期日までに回収する。
- 売上代金の回収の前倒しを検討する。
- 請求漏れがないか確認する。
- 滞留債権を回収する。
- 新規の取引先から実行する。
【仕入債務を減らす】
- 支払期日の先延ばしを検討する。
【在庫(棚卸資産)を減らす】
- 在庫量を明確にする。
- 定期的に棚卸しを行う。
- 在庫を減らす。
運転資金を減らす方法には様々な内容があります。自分の企業に合うものから検討してみることをおすすめします。また、請求業務や在庫管理業務などを日頃から徹底しておくことも大切です。
事業計画書を添付する
決算書に事業計画書を添付することで、格付けをアップできるケースがあります。特に決算書の内容にあまり自信を持てない企業は、ぜひ事業計画書も作成することをおすすめします。
事業計画書によって、利益を実現するためにどのような計画を立てる企業なのかを、金融機関に知ってもらうことができます。そのため、収益計画や行動計画など、計画性をアピールできる部分のみでも構いません。
決算書作成を税理士に依頼する
格付けは、決算書の「数字」によって行われます。話術によって格付けの結果が変わることはありません。そのため、金融機関はその決算書が正確な内容かどうかを必ず確認します。
金融機関が信頼できる決算書は、税理士によって作成されたものです。専門家が作成していない場合は、金融機関から信頼されにくい傾向があります。
融資に詳しい税理士は、格付けを上げやすい決算書がどういうものか知っています。決算書の作成にあたって的確なアドバイスを受けられるため、融資の審査を通過する可能性も高くなります。また、数多くある金融機関の融資制度や条件に精通しているため、可能性のない融資は勧めません。そのため効率よく融資を受けられます。
決算書関連の業務を代行してもらうことで、自身は事業に集中できる点もメリットの一つです。依頼する場合は、融資や格付けなどに詳しい税理士を探すことをおすすめします。
税理士のアドバイスもぜひ視野に
本記事で解説したように、格付けは主に決算書によって行われます。格付けによって融資の有無や条件が決まってしまうため、決算書の内容は非常に重要です。そのため、金融機関に融資を申し込む際には税理士に依頼することもおすすめです。
金融機関側がどのような観点を重視しているのかといったアドバイスを聞けるため、効率よく高品質な決算書を作成できます。融資の申し込みから実際に融資を受けるまでには、ある程度の時間がかかることが一般的です。