転換社債とは、一定の条件下で株式に転換できる権利が付いた社債のことです。英語では「Convertible Bond(コンバーチブル・ボンド)」と言い、略して「CB(シービー)」とも呼ばれます。転換社債は、企業の資金調達の手段として利用され、投資家にとっては株式と債券の中間的な特性を持つ魅力的な金融商品です。この記事では、転換社債の仕組みやメリット・リスクについて、発行会社側と投資家側のそれぞれの視点から分かりやすく解説します。
目次
転換社債の仕組み
転換社債とは、発行会社の株式に転換できる権利が付いた社債のことです。発行時に決められた条件に従って発行会社の株式に転換でき、株式と債券の特徴を併せ持つ金融商品です。
株式としての特徴は、株価の上昇に伴って値上がり益を得られることや、株主としての権利を享受できることです。債券としての特徴は、株価の下落によって価格が大きく下がらないことや、利息の支払いを受けられることです。
転換社債の発行時に決められる主な条件
転換社債の発行時に決められる主な条件は、以下の4つです。
- 利率:
利率とは、発行会社が投資家に支払う利息の割合のことです。転換社債の利率は、通常の社債よりも低く設定されます。これは、投資家にとって転換権を行使することで株式に転換できるというメリットがあるからです。
- 償還期限:
償還期限とは、発行会社が投資家に元本を返済する期日のことです。転換社債の償還期限は、通常の社債よりも長く設定されます。これは、発行会社にとって、転換権が行使されることで資金の流出を防げるというメリットがあるからです。
- 転換価格:
転換価格とは、転換社債を株式に転換する際に適用される株価のことです。転換社債の転換価格は、発行時の株価よりも高く設定されます。これは、発行会社にとって、株式の希薄化を抑えられるためです。
- 転換期間:
転換期間とは、転換社債を株式に転換できる期間のことです。通常は発行日から償還期限までの間ですが、一部の転換社債は発行日から一定期間経過するまで転換できないという制限があります。これは、発行会社にとって、株価の変動による転換のタイミングをコントロールできるからです。
転換社債の転換の仕組みと手続き
転換社債を株式に転換する際には、転換価格を株式の単位数に換算します。たとえば、転換価格が1,000円で、株式の単位数が100株の場合、1枚の転換社債は100株の株式に転換できます。
通常、転換社債の額面は100万円です。したがって、100万円分の転換社債は、1,000株の株式に転換できます。転換社債を株式に転換することを「転換権の行使」と呼びます。
転換社債を株式に転換するためには、投資家は発行会社に転換権の行使を申し込む必要があります。転換権の行使を申し込んだ後、発行会社は投資家に株式を発行します。株式の発行は「新株予約権(発行会社の株式を一定の価格で購入できる権利)の行使」と同じ手続きで行われます。転換社債の転換は、実質的には、新株予約権の行使と同じことです。
転換社債の価格の決定要因と値動きの特徴
転換社債の価格は、3つの要因によって決まります。それぞれの要因について理解を深めていきましょう。
株価
株価が上昇すると、転換社債の価格も上昇します。これは、転換社債を株式に転換することで、株価上昇に伴う値上がり益を得られるからです。逆に、株価が下落すると、転換社債の価格も下落します。
しかし、株価が下落しても、転換社債の価格は、債券としての価値によって下支えされます。つまり、転換社債の価格は、株価の上昇に連動して上昇しやすく、株価の下落に連動して下落しにくいという特徴があるのです。
利率
利率が上昇すると、債券の価値が下落するため、転換社債の価格は下落します。債券の価値は、利率と逆の方向に動くのです。
逆に、利率が下落すると、転換社債の価格は上昇します。しかし、利率が下落しても、転換社債の価格は株式としての価値によって上限があるため、無限に上昇するわけではありません。つまり、転換社債の価格は、利率の上昇に連動して下落しやすく、利率の下落に連動して上昇しにくいという特徴があります。
転換価格
転換価格が下がると、転換社債の株式転換時に得られる株式数が増えるため、転換社債の価格は上昇します。たとえば、転換価格が1000円から800円に下降した場合、1枚の転換社債は100株から125株に転換できるようになります。逆に、転換価格が上昇すると、転換社債の価格は下落します。
しかし、転換価格が上昇しても、債券としての価値によって下限があるため、転換社債の価格が下落し続けるわけではありません。つまり、転換社債の価格は、転換価格の下降に連動して上昇しやすく、転換価格の上昇に連動して下落しにくいという特徴があることが分かります。
以上のように、転換社債の価格は、株価、利率、転換価格の3つの要因によって決まります。これらの要因の影響を数式で表すと、以下のようになります。
転換社債の価格=債券価値+転換権価値
債券価値とは、転換社債が債券としての価値を表します。債券価値は利率によって決まり、利率が上昇すると債券価値は下落し、利率が下落すると債券価値は上昇します。
転換権価値とは、転換社債が株式に転換できる権利の価値を表します。転換権価値は、株価と転換価格によって決まります。株価が上昇すると転換権価値も上昇し、株価が下落すると転換権価値も下落します。一方、転換価格が下降すると転換権価値は上昇し、転換価格が上昇すると転換権価値は下落します。
転換社債の価格を評価する指標
転換社債の価格は、株価・利率・転換価格の3つの要因によって決まります。転換社債の価格は、株価の上昇に連動して上昇しやすく、株価の下落に連動して下落しにくいという株価連動性と下方硬直性という特徴があります。
転換社債の価格を評価する指標として、パリティ・乖離率・直接利回り・最終利回りの4つがあります。これらの指標を用いて「転換社債の価格が株価に対して割高か割安か」「債券価値に近いか転換権価値に近いか」「収益性が高いか低いか」などを判断できます。
以下では、転換社債の価格を評価する4つの指標について説明します。
パリティ
パリティとは、転換社債を株式に転換した場合の株式の価値のことで、転換社債の価格を転換価格で割った値で求めます。
パリティ = 転換社債価格 / 転換価格
たとえば、転換社債の価格が120万円で、転換価格が1,000円の場合、パリティは1,200円になります。パリティは、転換社債の価格が株価に対して割高か割安かを判断するのに役立ちます。パリティが株価よりも高い場合は「転換社債は割高」となり、パリティが株価よりも低い場合は「転換社債は割安」となります。
乖離率
乖離率とは、転換社債の価格とパリティの差のことで、以下の計算で求められます。
乖離率 = (転換社債価格 - パリティ価格) / パリティ価格 × 100
乖離率は、転換社債の価格が債券価値に近いか転換権価値に近いかを判断するのに役立ちます。乖離率が高い場合、転換社債の価格は転換権価値に近く、株価の変動に敏感です。乖離率が低い場合、転換社債の価格は債券価値に近く、利率の変動に敏感です。
直接利回り
直接利回りとは、転換社債の利息収入を転換社債の価格で割った値を表します。
直接利回り = 転換社債の利息収入 / 転換社債価格
直接利回りは、転換社債の現在の収益性を示します。直接利回りが高い場合、転換社債は収益性が高いと言えます。直接利回りが低い場合、転換社債は収益性が低いと言えます。
最終利回り
最終利回りとは、転換社債の将来の収益性を考慮した利回りを表します。最終利回りは、転換社債の利息収入と償還時の元本収入、および転換権の行使による株式収入を現在価値に換算して、転換社債の価格で割った値で、以下の式で計算できます。
最終利回り = 転換社債の価格利息収入の現在価値 / 償還時の元本収入の現在価値 + 転換権の行使による株式収入の現在価値
最終利回りは、転換社債の価格が妥当かどうかを判断するのに役立ちます。最終利回りが高い場合、転換社債は割安と言えます。最終利回りが低い場合、転換社債は割高と言えます。
転換社債のメリット
転換社債には、発行会社と投資家の双方にメリットがあります。以下に、それぞれのメリットを紹介します。
発行会社にとってのメリット
発行会社にとってのメリットは、以下の4つです。
発行時点で資金を調達できる
転換社債を発行することで、発行会社は発行額分の資金を調達できます。これは、企業の資金繰りや事業展開に役立ちます。転換社債は、株式市場でのIPO(新規株式公開)よりも手続きが簡単で、発行時期や発行価格を自由に決められるという利点があります。
通常の借入に比べて低い金利で資金調達できる
転換社債の利率は、通常の社債よりも低く設定されます。これは、投資家にとって、転換権を行使することで株式に転換できるというメリットがあるからです。発行会社は、低い金利で資金調達できるため、支払負担を軽減できます。
株式希薄化や大株主の発生の可能性が低い
転換社債の転換価格は、発行時の株価よりも高く設定されます。これは、発行会社にとって、株式の希薄化を抑えられるからです。
株式の希薄化とは、株式の発行によって、株主の一株当たりの所有割合や利益が減少することを指します。転換社債の転換価格が高いと転換権の行使が進まないため、株式の希薄化が抑制されます。また、転換社債の発行によって、大株主の発生の可能性も低くなります。
大株主とは、発行会社の株式の一定以上の割合を所有する株主のことで、発行会社の経営に影響を与えることがあります。転換社債の発行によって、発行会社の株式は多くの投資家に分散されるため、大株主の発生の可能性が低くなります。
新株予約権が行使された場合に資金の流失がない
転換社債の転換は、実質的には、新株予約権の行使と同じことです。新株予約権とは、発行会社の株式を一定の価格で購入できる権利のことです。新株予約権が行使された場合、発行会社は株式を発行することで、資金を調達できます。
しかし、転換社債の場合、発行会社はすでに発行時に資金を調達しているため、転換権の行使によって資金の流失はありません。つまり、発行会社は転換権の行使によって、株式の発行に伴う費用だけを支払うことになります。
投資家にとってのメリット
投資家にとってのメリットは、以下の3つです。
株価上昇に伴う値上がり益を期待できる
投資家は、転換社債を株式に転換することで、株価上昇に伴う値上がり益を期待できます。株価が転換価格よりも高くなると、投資家は転換権を行使することで株式を安く入手できるのです。
たとえば、転換価格が1,000円で、株価が1,500円になった場合、投資家は転換権を行使することで株式を1,000円で購入できます。このとき、投資家は株式を500円の値上がり益で売却できることになります。
株価下落時には債券としての利回りを得られる
株価下落時に転換社債を債券として保有することで、投資家は利回りを得られます。株価が転換価格よりも低いとき、投資家は転換権を行使しせずに債券としての利息収入を受け取ります。
たとえば、転換社債の利率が2%で株価が800円になった場合、投資家は転換権を行使せずに、年間2万円の利息収入を得られます。
株式と債券の中間的なリスク・リターンを享受できる
投資家は、転換社債を通じて、株式と債券の中間的なリスク・リターンを享受できます。株式は高いリターンを期待できますが、高いリスクも伴います。債券は、リスクも低いですが、あまり高いリターンは期待できません。
転換社債は、株式と債券の特徴を併せ持つため、リスクとリターンのバランスがとれた投資商品と言えます。投資家は、転換社債を購入することで、株式の値上がり益と債券の利回りの両方を得られるのです。
また、転換社債は、株価の変動によって価格が大きく下がらないという「下方硬直性」という特徴があります。これは、投資家にとって、株価下落時にも価格が保護されるというメリットがあると言えるでしょう。
転換社債のリスク
転換社債には、発行会社と投資家の双方にリスクがあります。以下に、それぞれのリスクを紹介します。
発行会社にとってのリスク
発行会社にとってのリスクは、以下の2つです。
転換が進まないと、支払負担が増加する
転換社債の利率は、通常の社債よりも低く設定されますが、それでも利息の支払いは発行会社にとって負担になります。転換社債は、転換権が行使されることで資金の流出を防げるというメリットがありますが、転換が進まないとそのメリットは享受できません。
転換が進まない理由としては、株価が転換価格に達しない場合や、転換社債の価格がパリティよりも高い場合があります。このような場合、発行会社は、償還期限まで利息の支払いを続ける必要があります。また、償還期限になったら元本を返済しなければなりません。これらの支払負担は、発行会社の資金繰りや利益に影響を与える可能性があります。
株式希薄化や大株主の発生の可能性がある
転換社債の転換価格は、発行時の株価よりも高く設定されますが、それでも株式の希薄化や大株主の発生の可能性はゼロではありません。株価が転換価格を上回ると、転換権の行使が進む可能性があります。転換権の行使が進むと、発行会社の株式の発行数が増えるため、株主の一株当たりの所有割合や利益が減少します。このことを「株式の希薄化」と呼びます。
株式の希薄化は、発行会社の株主価値を低下させる可能性があります。また、転換社債の発行によって、大株主の発生の可能性もあります。
転換社債の発行によって、発行会社の株式は多くの投資家に分散されるというメリットがありますが、一方で、転換社債を大量に保有する投資家が転換権を行使することで、発行会社の大株主になる可能性があります。これにより、発行会社の経営の自由度が制限される場合があるでしょう。
投資家にとってのリスク
投資家にとってのリスクは、以下の3つです。
株価下落による値下がりリスクがある
投資家は、転換社債を株式に転換することで、株価上昇に伴う値上がり益を期待できますが、一方で、株価下落による値下がりリスクもあります。
株価が転換価格よりも低くなると、投資家は転換権を行使せずに債券としての利回りを得られますが、転換社債の価格も下落します。転換社債の価格は、債券としての価値によって下支えされますが、それでも株価の下落に連動して下落する可能性があります。
たとえば、転換社債の価格が120万円で、パリティが1,200円で、株価が800円になった場合、転換社債の価格は債券価値に近づくため、120万円よりも低くなります。このとき、投資家は転換社債の値下がりによる損失を被る可能性があるのです。
発行会社のデフォルトリスクがある
投資家は、株価下落時に転換社債を債券として保有することで利回りを得られますが、発行会社のデフォルトリスクもあります。デフォルトとは、発行会社が利息や元本の支払いを滞納することを指します。デフォルトが発生すると、投資家は転換社債の利息や元本の回収ができなくなる可能性があります。
デフォルトのリスクは、発行会社の信用力や業績によって変わります。発行会社の信用力や業績が低い場合、デフォルトのリスクは高くなります。デフォルトのリスクは、転換社債の価格にも反映され、デフォルトリスクが高い場合、転換社債の価格は低くなります。
市場流動性の低下による売却困難リスクがある
投資家は、転換社債を通じて、株式と債券の中間的なリスク・リターンを享受できますが、市場流動性の低下による売却困難リスクもあります。市場流動性とは、市場で取引される商品の売買が容易に行われる度合いを表します。
市場流動性が高い場合、投資家は自分の意思に沿って商品を売買できます。市場流動性が低い場合、投資家は自分の意思に沿わない価格やタイミングで、商品を売買しなければならない可能性があります。
転換社債は、株式や債券に比べて市場規模が小さく取引が活発でないため、市場流動性が低いと言えます。市場流動性が低いと、転換社債を売却する際に、希望する価格やタイミングで売却できない可能性があるのです。また、転換社債の価格が市場の状況に反映されにくい点もデメリットとなり得るでしょう。
転換社債にもメリットとリスクの両方がある
この記事では、転換社債の仕組みやどのようなメリット・リスクがあるかをわかりやすく解説しました。転換社債は、企業の資金調達や投資判断において重要な金融商品であるとともに、発行会社と投資家の双方にリスクもあります。
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