個人事業主の屋号は、法務局へ登記できます。この制度を商号登記と言います。しかし、この商号登記が義務なのか、どのような手続きを行うのかなど、詳細がわからない方もいるのではないでしょうか。本記事では、商号登記のメリット・デメリット、手続き方法などについて解説します。また、屋号や商標登録との違いも併せて紹介します。
目次
商号登記とは?
事業を始める際に、個人事業主はビジネスで使用する名称をつけることが一般的です。この名称を屋号と言います。商号登記とは、その屋号を法務局へ登記する制度のことです。登記された屋号は商号と呼ばれます。
商号登記を行うことで、他の法人・個人は同じ屋号を同一所在地で使えなくなります。それによって自身の屋号を守ることができるのです。
なお、法人の場合は商号登記が義務付けられていますが、個人事業主の場合は自由です。
参考:商法第11条le-GOV
商号と屋号の違い
上述の通り、屋号は個人事業主が事業を行う際に使用する名称のことです。商号と同じようにつけるかどうかは本人の自由です。
商号と大きく異なるのは、屋号には法的拘束力がないことです。そのため、もし他者が後から同じ屋号を商号登記してしまうと権利を主張できません。その場合は、自分の屋号が変更しなくてはならないのです。
一方、商号登記の場合は少なくとも同一所在地では同じ屋号を使えません。同一所在地で他者と同じ屋号になることを避けたい場合は、商号登記をおすすめします。
商号登記と商標登録の違い
商号登記に似た申請に商標登録というものががあります。両者の違いは法的拘束力の範囲です。上述の通り、商号登記の法的拘束力は同一所在地にある法人・個人のみです。そのため、それ以外の場所で同じ屋号を使われることは十分あり得ます。
一方、商標登録の法的拘束力は全国まで及びます。国内で唯一の屋号にできるため、将来的に法人化したりビジネスを拡大したりする計画がある場合は商標登録もおすすめです。
商号登記のメリット
商号登記のメリットは、個人事業主の信頼性を高められることです。個人事業主は法人よりも社会的信用が低いことが一般的です。そのため、商号登記によって取引先からの信頼性を高められることは大きなメリットです。
また、商号登記によって他の法人・個人が同じ屋号を同一所在地で利用することを防げます。長年同じ屋号で事業を行うと、その屋号には一定のブランド力が備わります。それを利用して不正を行う者がいるため、商号登記によって防ぐ必要があるのです。
上述の通り、屋号にはそのような法的拘束力がありません。そのため、これからも同じ屋号を使い続けたい方は、個人事業主の段階で商号登記しておくことをおすすめします。
商号登記のデメリット
商号登記のデメリットは費用がかかることです。申請費用である登録免許税には3万円がかかります。また、商号や代表者氏名などの変更を行う際にも費用はかかります。
さらに申請書類を作成する必要があるため、多少時間がかかることもデメリットです。
商号登記の注意点
個人事業主の中には、創業時にあまり深く考えずに屋号をつける方もいます。屋号の場合はそれでも問題はありません。
しかし商号の場合はそうではありません。登記する関係上、法的に様々な制約があります。使えない文字や業種によっては文字数の制限などもあります。その場合は、商号登記の際にその屋号を変更しなければなりません。
そのため、今後法人化も視野に入れている場合は、屋号をつける段階から慎重に行うようにしましょう。
商号登記の申請方法
商号登記の申請方法は必要書類が少なく簡単です。そのため、専門知識がなくても1人で行うことができるでしょう。
ここでは申請の具体的な流れや注意点などについて解説します。
商号登記の必要書類
商号登記に必要な書類は、下記の通りです。
- 個人の実印
- 個人の実印の印鑑証明
- 商号登記申請書
- 登録免許税 3万円
- あれば、屋号または商号印
申請の際には、個人の実印とその印鑑証明が必須です。そのため、登録していない場合はあらかじめ市役所や区役所で済ませておきましょう。
商号登記申請書は法務局のホームページにあります。注意点も載っているので、それを参考に作成すればそれほど時間はかかりません。
参考:商号登記申請書l法務局
法務局の窓口
商号登記の申請は、法務局の窓口かもしくはオンラインで行うことができます。法務局で申請する場合の流れは下記の通りです。
- 必要書類を揃え、法務局へ行く。
- 窓口で書類を確認してもらう。
- 不備がない場合は、3万円の収入印紙を貼り付けて提出する。
- 申請から1週間程度で完了する。
法務局の場合は、登録免許税3万円は収入印紙で支払います。
商号登記申請書の内容にわからない部分がある場合は、法務局でアドバイスを受けながら作成しましょう。
申請から完了までは1週間程度であることが一般的です。
ですが、時期によってはそれ以上かかる場合もあります。申請時におおよその目安を聞いてみるのもよいでしょう。
オンライン申請
現在はオンラインでも申請を行えます。具体的な手順は下記の通りです。
- 商号登記申請書をデータで作成する。
- 1.に印鑑証明書などの添付書面情報を添付する。
- 上記のデータを、登記・供託オンライン申請システムに送信する。
- 申請データ受付のお知らせが届く。
- 登録免許税を納付する。
- 不備がある場合は補正または取下げ、不備がなければ完了となる。
オンライン申請の場合は、登録免許税を電子納付、領収証書または印紙納付のいずれかで支払います。
参考:オンライン登記情報検索サービスを利用した商号調査についてl法務局
住所以外でも登記可能
商号登記に記載する住所は、自宅の住所以外でも可能です。登記された住所は公開情報に指定されています。そのため、自宅で事業を行う場合はその住所が不特定多数の人間に知られることになります。
これはプライバシー保護の観点から大半の方は不安に感じていることです。
そのための対策として、登記の際にはバーチャルオフィスやコワーキングスペースの住所を記載することも可能です。ただし、どの施設でも可能というわけではないため必ず確認はしておきましょう。
なお、2024年(令和6年)10月1日に施行される「商業登記規則」の改正によって、登記の際に代表者の住所を一部非公開にできるようになりました。
この制度を、代表取締役等住所非表示措置と言います。ただし、現時点ではその対象は「株式会社の代表者」のみです。個人事業主は含まれていないため注意が必要です。
専門家への依頼もおすすめ
商号登記の手続きは、他の手続きに比べるとそれほど難易度は高くありませんが、多少の手間や時間は取られてしまいます。
創業時は特に忙しいこともあり、事業のみに集中したいという方もいるでしょう。その場合には、専門家へ相談したり代行を依頼したりすることも一案です。
また、設立登記や許認可など、行政での手続きはそれ以外にも様々なものがあります。その場合は会社の設立に詳しい専門家や税理士を探しておくのもおすすめです。