経営セーフティ共済とは、取引先が倒産した際、その影響で中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。無担保・無保証人で借入れできるなど、様々なメリットがあります。本記事では、経営セーフティ共済の内容やメリット・デメリットなどについて詳しく解説します。
目次
経営セーフティ共済とは
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)とは、取引先事業者が倒産した際に、中小企業がその影響で連鎖倒産したり経営難に陥ったりすることを防ぐための制度です。これは独立行政法人中小企業基盤整備機構 (中小機構)が運営する国の共済制度です。
中小企業に多い倒産理由の1つにこの連鎖倒産があります。取引先事業者が倒産すると、中小企業や個人事業主はその状況に耐えられるだけの資金力がないことが一般的です。また、代わりの取引先を見つけられずに倒産するケースもあります。
経営セーフティ共済は、このような連鎖倒産や経営難を防ぐために設けられました。そのため他の融資よりも対応が早く、取引先事業者との取引が認められるとすぐに借入れできることが大きなメリットです。
参考:制度の概要|中小機構
経営セーフティ共済の加入条件
経営セーフティ共済には、いくつか加入条件があります。条件は業態や業種などによって異なります。
【業態】
加入できるのは、継続して1年以上事業を行っている中小企業です。具体的には、会社、個人事業主、組合を指します。
【会社の要件】
下記の表の業種において、「資本金の額または出資の総額」もしくは「常時使用する従業員数」のどちらかに該当している必要があります。
業種
資本金の額または
出資の総額
常時使用する従業員数
製造業、建設業、運輸業
その他の業種
3億円以下
300人以下
卸売業
1億円以下
100人以下
サービス業
5,000万円以下
100人以下
小売業
5,000万円以下
50人以下
ゴム製品製造業
(自動車または航空機用タイヤおよびチューブ製造業と工業用ベルト製造業を除く)
3億円以下
900人以下
ソフトウェア業または
情報処理サービス業
3億円以下
300人以下
旅館業
5,000万円以下
200人以下
【組合】
経営セーフティ共済には、下記の5つの組合が加入できます。
- 企業組合
- 協業組合
- 事業協同組合(共同生産、共同販売等の事業を行っている場合)
- 事業協同小組合
- 商工組合
組合の従業員数や目的など、具体的な加入要件については中小機構の加入資格を参考にしてください。
加入できない要件
経営セーフティ共済に加入できない事業形態は下記の4通りです。
- 医療法人
- 農事組合法人
- NPO法人
- 外国法人等
それ以外にも下記の要件に当てはまる場合も加入を断られます。
- 住所や事業の変更を何度も行ったため、継続的な取引状況を把握できない場合。
- 事業の経理内容が不明瞭な場合。
- 法人税を滞納している場合。
- 既に共済契約者となっている場合(重複加入はできません)
本当に事業を行っているかどうか疑われると、加入を断られることが一般的です。また、一般消費者を取引先とする事業者や、売掛金債権等が生じない業種は貸付けの対象にならないケースがあります。
経営セーフティ共済の利用を考えている方は、創業前からしっかりとした事業計画やお金の管理をしておきましょう。
借入が可能な倒産
経営セーフティ共済の借入れは、取引先業者が倒産したと判断できる場合に受けられます。具体的には下記の状況が該当します。
- 法的整理
- 取引停止処分
- でんさいネットの取引停止処分
- 私的整理
- 災害による不渡り
- 災害によるでんさいの支払不能
- 特定非常災害による支払不能
引用:制度の概要|中小機構
借入れを受けられるのは、法的な根拠があるものや災害のようにはっきりと倒産した状態を確認できる場合です。そのため、夜逃げや内整理を行った場合は、倒産かどうか判断できないため借入れはできません。
参考:制度の概要|中小機構
経営セーフティ共済の掛金
経営セーフティ共済の掛金は、月額5,000円から200,000円まであります。5,000円単位で自由に選ぶことができ、増額や減額も可能です。なお、掛金総額の積立限度額は800万円です。
経営セーフティ共済のメリット
経営セーフティ共済には5つのメリットがあります。取引先業者の倒産時以外にも使えるため、ぜひ押さえておきましょう。
無担保・無保証人で借入れ可
経営セーフティ共済は、6カ月以上掛金を払い込んでいれば、無担保・無保証人で借入れできます。
貸付額の上限は、下記のうちのいずれか少ない金額の範囲で借りられます。
- 回収困難となった売掛金債権等の額
- 掛金総額の10倍に相当する額(最高8,000万円)
連鎖倒産や経営難を防ぐことが主な目的のため、スピーディーに借入れできることは大きなメリットです。
参考:制度の概要|中小機構
取引先の倒産後すぐに借入れ可
経営セーフティ共済は、取引先事業者との取引やその事業者の倒産が確認でき次第すぐに借入れできます。
参考:制度の概要|中小機構
損金・経費に算入できる
経営セーフティ共済の掛金は、法人の場合は損金に個人事業主の場合は必要経費に全額算入できます。
加入後に掛金を変更できる
経営セーフティ共済の掛金は、加入後に自由に変更できます。月額5,000円~20万円までの範囲で5,000円単位から選べます。ただし、減額する際には条件があります。加入前によく確認しておきましょう。
【増額したい場合】
増額を希望する場合は、希望月の5日までに中小機構へ変更手続き書類を提出する必要があります。
【減額したい場合】
減額するためには下記の理由が必要です。経済産業省令によって定められています。
- 事業規模縮小。
- 事業経営の著しい悪化や病気など、危急な費用が必要になったため。
- 共済金の貸付残高と、掛金総額が一定額に達したため。
なお、掛金に関する手続き書類の締切日は、毎月5日(土・日・祝日の場合は翌営業日)に中小機構へ必着です。書類は登録取扱機関を介して中小機構に届けられるので、余裕を持って提出しましょう。
参考:制度の概要|中小機構
解約手当金がある
経営セーフティ共済は、12カ月以上の掛金を納付すると解約手当金を受け取れるようになります。40カ月以上納めている場合は全額返還も可能です。
なお、解約の理由によって解約手当金の支給率は少しずつ異なります。
【任意解約】
契約者の自己都合によって解約すること。
【機構解約】
契約者に12カ月以上の滞納や不正行為があった場合などに、中小機構から解約すること。
【みなし解約】
個人事業主の死亡、法人の分割・解散などがあった場合。
解約手当金の支給率は、みなし解約>任意解約>機構解約の順番で高くなります。
参考:制度の概要|中小機構
経営セーフティ共済のデメリット
経営セーフティ共済には、デメリットや注意点もあります。一つ一つ確認し、リスクに備えておきましょう。
起業1年目以下は加入できない
加入条件は、継続して1年以上事業を行っている中小企業者のみです。
12カ月未満は掛け捨て
解約手当金は、掛金を12カ月以上納付すると受け取れます。つまり、12カ月未満の掛金は掛け捨てになってしまうため注意しましょう。
解約手当金は課税対象
上述の通り、経営セーフティ共済の解約手当金は、12カ月以上の掛金を納付することで受け取れるようになります。この解約手当金は課税対象のため、注意が必要です。
解約手当金は、法人の場合は益金、個人事業主の場合は事業所得として計上します。受け取った事業年度に課税されるため、収益が少ないときや赤字のときなどがよいでしょう。
解約は、タイミングによっては損になることもあります。そのため、税理士などの専門家とよく相談しておくことをおすすめします。
改正内容にも注意
経営セーフティ共済は、令和6年度税制改正大綱の改正案によって、掛金算入に関する制限が設けられました。解約後にすぐ再加入は可能ですが、解除の日から2年経過するまでは掛金を損金算入できません。
この改正案は、2024年(令和6年)10月1日から適用されます。
参考:中小企業倒産防止共済制度の 不適切な利用への対応について|経済産業省
税理士への相談もおすすめ
経営セーフティ共済は節税効果を期待するよりも、いざという時の備えとして有効活用したい制度の1つです。
しかし、本記事でも触れたように、税制改正などによって制度が一部変更になることがあります。専門家以外がそれを知るのは難しいのではないでしょうか。
そのため、もし加入を検討している方や既に加入されている方は、ぜひ税理士に相談しながら活用することをおすすめします。